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性暴力をエンタメにしたくない…南ア人女性監督が語る「トラウマ・ポルノ」への危惧

アレサ・フランクリン伝記映画に込めた思い

10歳の頃からゴスペル歌手の天才少女としてその名を馳せたアレサ・フランクリン。19歳にしてレコードデビューするが、意外にもヒット曲に恵まれない数年が続いた。ゴスペル、ジャズ、ポップス、R&Bまで何でも歌いこなせるズバ抜けた歌唱力ともつ彼女がなぜ、長い間大成しなかったのかーー。そこには、アレサの壮絶な過去に原因があった。

11月5日に公開される伝記映画『リスペクト』は、アレサがひとりの女性アーティストとしてたどるトラウマ、成功、没落、そして復活の旅を通して彼女の強さと成功の秘密に迫る。アレサ・フランクリンを演じたのは、『ドリームガールズ』(2006)でアカデミー賞助演女優賞を受賞したジェニファー・ハドソン。「ナチュラル・ウーマン」「貴方だけを愛して」など、アレサの名曲を圧巻の力強さで歌い上げ、臨場感満載の音楽映画としても楽しめる作品だ。なんでも、生前のアレサ自身がジェニファー・ハドソンを直々に指名し、映画化にいたったという。

出典/ユニバーサル・ピクチャーズ公式YouTube 

本作の監督を務めたのは、演劇監督として、そして黒人女性として初めてトニー賞の演出賞にノミネートされた、南アフリカ生まれのリーズル・トミー氏。彼女に本作に込めた思いについて話を聞いた。

Photo by Eric Charbonneau (c) 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved
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「リスペクト」は世界の虐げられた者への讃歌

――映画のタイトルにもなった「リスペクト」という曲は、オーティス・レディングが1965年に男性の視点で作詞・作曲したものをアレサ・フランクリンが1967年にアレンジしました。アレサが歌詞を女性視点に変え歌ったことで、この曲は、当時盛り上がっていた公民権やフェミニズムのシンボルとなり、世界的な大ヒットを果たしました。なぜ、この曲を映画の中心にしたのでしょうか?

リーズル・トミー監督(以下、トミー監督): 2018年にこの映画の監督をしないかとスタジオに持ちかけられたときに、"世界で最も素晴らしい声を持つ女性が、自分の声を見つけるのに苦労している"というストーリーにしたいと提案したのですが、実はスタジオは当初乗り気ではありませんでした。本作は私の初めての長編監督作品になりますしね。でも、結局、スタジオはリスクを冒して私のアイディアに興味をもってくれたんです。

「リスペクト」はアレサ・フランクリンのキャリアが飛躍するきっかけとなった曲です。マネージャーでもあった、夫のテッド・ホワイトからのDVや支配から抜け出すために、黒人女性として"もっとリスペクト(尊敬)して"と歌う必要がありました。この曲に彼女自身の人生がかかっていたからこそ、世界中の黒人、女性、様々な差別を受ける人たちの心に響いた。"人生の葛藤に打ち勝ちたい"、そして、"女性の力を信じたい"という彼女の強い思いが「リスペクト」に込められているから、この曲を中心に物語を展開したんです。

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社会的弱者だという現実から目をそむけてはいけない

――"女性の力"とは何でしょう?

トミー監督: "女性として"主体的に主張するということです。自分の性別やジェンダーをどのように定義しようと、私たちは未だに家父長制的価値観に基づいた性差別的で人種差別的な社会で暮らしています。そんな現実のなかで、女性やマイノリティは社会的弱者であることから目をそむけてはいけない。女性として主体的に主張していかなければ、世界は変わらないと思います。

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――アレサ・フランクリンは子供の頃に亡くなった母の死、性暴力、DV、アルコール依存症と、様々な葛藤に打ち勝ちました。彼女の強さはどこから来たのでしょう?

トミー監督: 政治活動を音楽へ昇華したことと、神への信仰でしょうね。アレサの父親のC.L.フランクリン牧師は、全米の教会を回るほどのカリスマ牧師で、母親のバーバラは才能あるゴスペル歌手でした。映画でも描かれるように、フランクリン牧師はマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師と親交が深く、アレサは幼い頃から公民権運動の議論を聞いて育ち、有色人種や女性の権利を深く考える人間に成長しました。当時の平均的な黒人家庭と比べると非常に恵まれた経済的・文化的資産をもっていたんです。

そんな彼女が、自分の政治活動を音楽へと昇華した。ここに私は感銘を受けました。私自身、南アフリカ生まれで幼い頃から差別や人権に関する活動や議論に触れて育ってきましたから、政治活動とアートを結びつけて、より多くの人々を感動させたアレサ・フランクリンには本当にインスパイアされました。一方で、彼女は、自分のアートと信仰から、自分が受けたトラウマを癒やすこともできたんです。

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映画での暴力再現は新たなトラウマを引き起こす

――アレサ・フランクリンは父親の取り巻きのひとりに性暴力を受け、12歳で第一子を、14歳で第二子を出産しました。映画は性暴力に触れてはいるものの、レイプシーンなどはありません。

トミー監督: それには、3つ理由があります。1つ目に、映画人の責任として、女性のトラウマをエンタメとして搾取してはいけないと信じているから。近年、女性に対する暴力シーンがテレビ、映画やスマホの世界で繰り返し見られるようになりました。子供の頃に性暴力を受け、大人になってからも夫から虐待を受けたアレサに、既に亡くなっているとはいえ、新たに屈辱を与えたくなかったんです。

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2つ目は、アレサのカラダが受けた暴力ではなく、その"暴力から彼女がどんなふうに立ち直ったか"という点にフォーカスしたかったから。アレサの人生を語る上で、彼女が受けたトラウマは観客に伝える必要がありましたが、彼女が肉体的に受けた傷をスクリーンで再現する必要はないと思いました。これは一般論ですが、男性が女性のトラウマをテーマにした物語を作ったり書いたりする場合、暴力描写に囚われてしまい、暴力から立ち直るために"女性がどれほど大変な思い"をするかということを描きません。私は"女性がどうやってトラウマを乗り越えるのか"という部分のほうを描きたかった。

3つ目に、観客にトラウマを与えたくないから。統計を見ると分かりますが、世界の至るところで多くの女性が暴力を経験しています。作品で暴力を再現することは、観客にきっといるであろうサバイバーたちに新たなトラウマを引き起こすことになります。性暴力や暴力を描写するとき、表現者は、サバイバーたちを思いやることの責任をもっともつべきではないでしょうか。

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「トラウマ・ポルノ」エンタメにして搾取する危うさ

――人種差別、性暴力や暴力を安易に描写することにより、トラウマをエンタメとして搾取する「トラウマ・ポルノ」は、特にアフリカ系アメリカ人の女性に起こっていると思いますか?

トミー監督: はい。特に黒人女性に起こっていると思いますね。私が生まれた南アフリカや現在住んでいるアメリカには、黒人に対する血みどろの暴力的な歴史があります。アーティストがそういったテーマに興味をもち、探求したくなるのは当たり前のことで許されるべきですが、白人のアーティストが黒人のトラウマを表現するとき、型通りの表面的な表現になっていないかどうか十分に気をつけなければいけないと思います。黒人に対する暴力はいまでも続いていることを忘れないでほしい。

黒人や女性のキャラクターを暴力の犠牲にしてエンタメとして楽しませたり、キャラクターの品格を落としたり、観客にトラウマを与えたりせずに、差別や暴力というテーマをどのように表現するかーー。それがアーティストに問われている課題だと思います。

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「セックス・サーカス」と呼ばれた父親の教会

――レイ・チャールズが、アレサの父親の教会コミュニティを「セックス・サーカス」と呼ぶほど、フランクリン牧師は性的に自由奔放で様々な女性と関係をもち、それが原因でアレサの母から離婚されました。一方で、フランクリン牧師の教会は、当時にしては珍しく、ゲイの人々をウェルカムするほどリベラルなコミュニティだったと聞いています。

トミー監督: フランクリン牧師のコミュニティには2つの対極的な側面がありました。彼は非常に人気のある牧師で、ゴスペル歌唱隊やミュージシャンを連れて全米の教会をツアーしていました。フランクリン牧師と彼のミュージシャンたちはロックバンドがツアーするような感じで旅をし、性的に奔放だったんです。日曜は教会で保守的な説教をし、ツアー中はロックスターのようなパーティーを楽しむ……。フランクリン牧師の教会文化がロックンロール文化も持ち合わせていた、そんなところも非常に興味深いと思いましたね。

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口パクのないライブレコーディングで収録した音楽

――トミー監督が演劇監督としても活躍されているせいか、この映画は音楽のライブを見ているようでした。

トミー監督: 多くの演劇やミュージカルを手掛けてきたので、"ライブ感"には個人的にこだわりがありました。この映画で聞く曲の殆どは、スタジオではなく、ライブでレコーディングしたんですよ。やっぱりライブが音楽のパワーを一番引き出すと思うんですよね。

だから、歌うキャストには全員本物の歌手を起用しました。この映画において口パクはなく全員が生歌を披露しています。ジェニファー・ハドソンはもちろん、アレサの母親を演じたオードラ・マクドナルドはこれまで7回もトニー賞を受賞していますし、アレサのバックコーラスの女性たちも全員がブロードウェイで活躍している素晴らしい歌手たち。
それから、1950年代から60年代のデトロイト出身者のアクセントでキャストが話せるように、スピーチのコーチについて特訓してもらいました。こういった細かな演出も映画に"ライブ感"を出すために大切でした。

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パンデミック後の今、この映画を観てほしい

――最後に、この映画のポストプロダクション(撮影後の作業)はコロナ禍がピークのNYで行われたそうですね。そのときの状況、また、コロナが監督に及ぼした影響について教えて下さい。

トミー監督: ポストプロダクションはロックダウン中だったので、私は自宅のアパートで電話やビデオミーティングでスタッフと一緒に編集作業をしなくてはいけなかったのですが、私が住んでいるハーレムでは、あの頃、24時間ずっと救急車やパトカーのサイレンが鳴り通し。映画の編集は多くの人の作業で成り立っているのに、サイレンが鳴り響くなかアパートでひとりで作業し、強烈な孤独を感じて不安でしかたありませんでした。

音楽で感じる生の雰囲気をスタッフと共有したかったのに、それも叶わなかった。でも、出来上がった映画を見て、ジェニファー・ハドソンの音楽パフォーマンスがあまりにも素晴らしく、この映画を作ってよかっと心から思いました。

なぜかと言うと「パンデミックの後に劇場に来てくれる観客のために、この映画は何ができるだろうか……」、そんなことをずっと考えながら編集していたんです。この映画から心の癒やしや勇気を受け取ってほしい。アレサ・フランクリンが音楽を通して実現したように、この映画もそんな力を皆さんに与えられたら、と強く望んでいます。

リスペクト
11月5日(金) TOHOシネマズ 日比谷他 全国ロードショー
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