日本国旗を傷つける行為を罰する国旗損壊罪法案が参院内閣委員会で可決された。今国会で成立の見通しだ。立法の根拠を欠き、戦前の不敬罪を想起させる違憲性の高い法律である。市民の自由を脅かす悪法を許してはならない。
国旗を大切に思う国民感情の保護を目的とする国旗損壊罪は日の丸を公然と損壊する行為を処罰対象とし、2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金を科す。公的機関や他人の国旗損壊は器物損壊罪が適用されるが、自身が持つ国旗の損壊も処罰対象とする。
法律には制定の根拠となる立法事実が必要だが、同法案提出者は具体的な事例を示さず「将来に向けての抑止」と説明。提出者側の議員の一人は同罪創設で「愛国心が醸成されていく」と述べた。
しかし、予防目的での立法は処罰対象を際限なく広げ、息苦しい社会を招く。国旗には批判的な人も無関心な人もいて、内心は前提なく尊重されねばならない。
刑罰を振りかざして愛国心を強要することは、憲法が保障する思想・良心の自由に著しく背き、国民の間で相互監視を招く。
日の丸には国家主義高揚の手段に使われた歴史的経緯があることも忘れてはなるまい。政治批判の表現として、国旗を題材にすることも許されるのが民主社会だ。国旗損壊罪は、表現の自由を保障する憲法に抵触する。
同罪では「著しく不快または嫌悪の情を催させ」る方法での国旗損壊を犯罪の構成要件とするが、感情は基準となりえず、憲法が定める罪刑法定主義にも反する。
国旗損壊への対応は主要国でも分かれる。米国では法律は存在するが「表現の自由」を定める合衆国憲法に違反するとして無効化された。一方、中国では法改正により処罰が強化された。批判する権威主義国の統治手法に、日本がならうことは理解に苦しむ。
愛着や信頼は個人の感情に委ねるべきもので、強制されれば逆に失われるのが世の常であり、刑罰で愛国心を育てる発想自体があまりに稚拙と言うほかない。
法案は自民党、日本維新の会、国民民主党、参政党が共同提出したが、衆院本会議では一部の自民議員が退席し、提出者の野党2党も欠席したまま可決された。議論が尽くされず、国民の理解を得たとは言い難い。強引な立法が、これ以上許されてはならない。
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