【正気】劇場版ケロロ軍曹は佳作である
「何を言っているか馬鹿野郎」と思われるかもしれないが、(今回に限っては)私は大真面目である。実際、私はこの映画をかなり楽しんだし、来月もう一度観ろと言われれば喜んで1,300円を支払って観る自信がある。
なお、この記事ではネタバレへの配慮は行っていないが、映画を観ていない層にも理解しやすいように書いているつもりだ。佳作と信じるなら観に行けばいいし、どうせ観る気がないならこのまま読んでほしい。
結論から言うと、この作品は巷で言われる明確な欠点を抱えつつも、それらの欠点を綺麗さっぱり無視することができるように上手に作られているのだ。下でもう少し説明しよう。
前提の共有
その前に前提を話しておきたい。まず、私はケロロ軍曹を通ってこなかった人間だ。幼かった私は、『でんぢゃらすじーさん』や『ケロロ軍曹』よりもシルバニアファミリーに惹かれていたらしい。また、問題の監督・福田雄一氏の作品も何一つ観たことがない。よって、こう理解してほしい。
・筆者は古参ファンの悲鳴を否定する気は微塵もない
・筆者は福田組の身内ノリに歓喜したわけでもない
加えて本題に入る前に、視聴していない方に向けて、本作が炎上した最もわかりよい原因を簡単に説明したい。それは、本作のメガホンを取った福田雄一氏が、自身が過去に携わった作品のキャラクターを複数登場させたことだ。ケロロ軍曹という既存の作品の中で、あろうことか作品とは全く関係のないキャラを参戦させてしまったのだ。炎上して当然だ。
のみならず、監督お気に入りの芸人によるクソ寒いナレーション、情報伝達の不手際によってパロディ元からのNG要請を失念したまま制作&放映、出演声優のおちゃらけたコメント(現在は非公開)…等々、よりによって16年ぶりかつ声優陣一新前最後の劇場作品で、数多の問題を噴出させてしまったわけだ。製作委員会の責任も大きいだろう。やはり炎上して当然だ。
それでも、私はこの作品に秀逸さを見出している。
本題
改めて、本作最大の問題点は何か。これはきっと、『他人の作品で監督自身の作品のアベンジャーズをやってしまったこと』だろう。本記事では主にこの点にフォーカスしたい。
当たり前に、やっていることは言語道断である。監督は以前から自分が携わったキャラをアッセンブルさせたいということを話していたそうで、「そういうのはケロロ軍曹じゃなくてオリジナルで撮れよ」というのが大方の総意であろうし、私も同意だ。それでもこの作品を私が楽しめると断言するのは、そういった邪魔な監督の自我を完璧に排除できるように作られているからだ。
映画を思い返しながら、パロディ(本記事ではオマージュ、インスパイア、リスペクト等も含めざっくりこの一語で表す)を以下のように分類してみたい。
(本筋か否かは、その場面を抜いて話が成り立つか否かと考えてもらいたい)
①『人気作品のパロディで、物語の本筋に関わる』
・妖怪ウォッチの妖怪のような敵
・進撃の巨人の巨人のような敵
・エヴァンゲリオンの使徒のような敵 など
②『人気作品のパロディで、物語の本筋に関わらない』
・ちいかわになってしまう御一行
・鬼滅の刃らしい必殺技 など
③『福田監督作品のパロディで、物語の本筋に関わる』
④『福田監督作品のパロディで、物語の本筋に関わらない』
・勇者ヨシヒコメンバーの参戦
・変態仮面の参戦
・銀魂メンバーが影響を受ける様子 など
⑤上記以外
ひこにゃんを匂わせるナレーション など
思い返しながら当てはめてみるとこんな感じだろうか。
展開を引っ張っていたパロディは①に分類され、これらの多くが「黒幕の地球への愛」であったと回収される。②と⑤はおまけ要素である。
さて、見てわかる通り、③『福田監督作品のパロディで、物語の本筋に関わる』パロディというのは全くと言っていいほど存在していなかったのだ。物語上不可欠な要素として存在していたのは監督とは無縁の人気作に絞られていた。これは本作でなされたパロディの数から考えるに偶然ではないだろう。今日日Twitter(現X)で監督の名を検索すれば、「福田監督 私物化」などとサジェストされる始末だが、彼は私物化ギリギリ一歩手前で踏みとどまっていたと解釈することも不可能ではないはずだ。
映画終盤にかけて、完全な私物化に至らなかったのは意図的な采配であるという上記の発想を補強する展開があった。黒幕が仕掛けた最終兵器は巨大なヒーターで、日本中が急激な気温上昇に見舞われた。結果的に映画冒頭に紹介された雨雲発生装置を活用することとなったが、違った結末を予想した人もいただろう。何を隠そう、過ぎったのは、本作において忌まわしき勇者ヨシヒコ御一行が意味深に使っていた、体感温度を下げる術の存在だ。黒幕との戦闘中・その後始末ともに、あの術を日本中に使用して円満解決エンドが何度も頭を過ぎった。現実になれば③『福田監督作品のパロディで、物語の本筋に関わる』という最悪の事態であった。
さしずめ、「完全私物化の危機であります!」といったところだ。
先述の通りこの最悪は回避され、これまで以上の鬱陶しさもなく物語は無事終幕した。邪推であるが、この奇跡は福田監督最後の良心である以上に、製作陣の誰かの尽力ではないと思う。福田監督は本来、勇者ヨシヒコの力で解決する筋書きを持っていたが、ケロロ軍曹を愛する何者かの抵抗によってしぶしぶ作品冒頭に伏線を張るかたちにしたのではないか。「ヨシヒコらが解決」と書きかけた福田の手を懸命に押さえつけ、「雨雲発生装置で解決」と軌道修正させたケロロを愛する名もなきスタッフがいる。そんなことを妄想すると、この映画のいびつな構造すら愛おしく思えてくる。
…ま、実際のところは当事者のみぞ知るところである。
長々と語ってきたが、要するに、監督の自我はおそらく意図的にケロロ軍曹の物語から離れたところで暴走していたおかげで、その欠点を綺麗さっぱり無視することができたわけだ。これに加えてナレーションも同様、クソ寒いのは大体ツッコミであるから、シャットアウトして何ら差し支えない。残ったのは、表記よりやや短く感じる尺と、可愛らしいケロン人たちと個性的なメンバーのひと夏の愉快な冒険譚だけである。一部ではキャラ崩壊なども叫ばれているようだが、完全初見の観客としては特に気にならなかった。
映画そのものについて
最後に簡単に、作為的に不愉快を除外した場合の映画の評価を簡単に述べておきたい。
まず音周り。
あのちゃんと粗品のOPは個人的に素晴らしかった。映像と相まって愉快で快活な開幕を飾っていた。ケロロ軍曹初見の私でもすぐにその雰囲気に馴染むことができた。
キャラクターの声優陣も極めて上出来で、メインメンバーは当然ながら、モブキャラたちも声に違和感を覚えることはなく、丁寧な人選だったと思う。ギロロ伍長のお声が特にお気に入り。ありがとう。
また、作品の都合上、登場キャラクターはケロン人も人間も盛り沢山だ。彼らは種族それぞれ二人一組で順番に出てくることが多かったが、登場のタイミングが絶妙だったように思う。強撃が有効な敵には相応のペア、斬撃が有効な敵にはこれまた相応のペア、というように、展開に連動した登場の仕方がよかった。それに伴ったざっくり説明も手伝って、一見さんにとても優しい作りになっていた。
さらに、ラスボスの行動原理も秀逸だった。他者からの些細な干渉が原因で夢を絶たれたのみならず、自分が立つはずだったポジションにその元凶が立ち、あろうことか見るに堪えない怠惰を極めている...。あまりにも悲惨であると同時に、観客が笑って楽しんでいる平和侵略ギャグの裏側にきっといたであろう被害者を上手く描いている。
総じて、私物化ギリギリパート以外は懇切丁寧な作りで、自信を持って面白いと言える。
終わりに
こうして、旅行の帰りの電車内で叫んでいる人がいてもスルーし旅の記憶は汚されないように、ケーキを地面に落としてもその面だけ切り取って頬張るように、私は『新劇場版☆ケロロ軍曹 復活して速攻地球滅亡の危機であります!』を楽しんだし、なによりそう楽しむ土壌が整えられていたのである。だから、傑作には及ばずとも私は本作を佳作と称したい。
遠くないうちにサブスク配信された際には、騙されたと思って一度観てみてほしい。多くの人にとって、空を眺めるよりは楽しみ甲斐があるだろう。
ここまで読んでくれた人がいれば嬉しい。次は、そんな福田雄一が監督を務める『ドラえもん』あるいは『クレヨンしんちゃん』の劇場新作の炎上でお会いできるのを楽しみにしている。
おまけ
本当の本当に終わり


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