なぜ『全東信』は「いきなり」破産したのか? 「全東信破産」に関する「5つの疑問」
疑問1:なぜ全東信の破産が飲食店に影響を与えるのか
飲食店を中心としてクレジット決済代行サービスを展開してきた『株式会社 全東信』が、7月6日に大阪地裁へ自己破産を申請し、同日破産手続開始決定を受けた。破産申請時の負債は1151億6491万円で、今年最大規模の倒産となる。全東信を利用してきた多くの飲食店の中では不安と混乱が広がっている。
全東信は2006年に設立。飲食店を中心としたクレジットカード加盟店が回収するクレジットカード売上代金を、クレジットカード会社に先行して入金するサービス「全東信決済システム」を提供し、多くの飲食店が利用していた。
キャッシュレス決済比率も上がり、決済手段も増えていく中で、手数料や管理の複雑さなど、飲食店にとって負担が増している。また、決済から入金までにタイムラグのあるキャッシュレス決済は、飲食店にとってキャッシュフローが悪化するリスクがある。
全東信はカード会社が加盟店に支払う売上代金を立て替え、店舗側に早期に入金するサービスや、複雑なカード会社の決済を一本化するサービスで手数料収入を得ていた。決済代行サービスを利用していた店では、今回の破産によってカード決済ができなくなり、カード決済済みの売上金が未回収のままとなるなど、経営にも影響が出ている。
疑問2:なぜ飲食店は全東信を利用していたのか
なぜ飲食店はカード会社と直接契約せず、決済代行会社を挟むのか。手数料や信頼性を考えれば直接契約の方が有利にも思えるが、多くの飲食店は全東信をはじめとする決済代行会社のサービスを利用している。中でも全東信は長い歴史を持つため、加盟している店も多かった。
飲食店がカード会社と直接契約しない最大の理由は、手続きや管理の負担を大幅に減らせるからだ。VISA、Mastercard、JCBなど複数ブランドに対応しようとすると、本来は各社と個別に加盟店契約を結ぶ必要があるが、全東信のような決済代行会社を利用すれば1つの契約でまとめて対応でき、事務負担も軽くなるのだ。
また、決済から入金までのスピードがカード会社よりも早いことが多いため、日々の支払いが発生する飲食店にとって、重要な資金繰り支援となっている。さらに開業間もない店や夜間業種など、直接契約では審査が厳しいケースでも、決済代行会社によっては加盟しやすい場合がある。
カード会社にとっても、本来であれば数百万店もの加盟店を個別に審査し、契約し、管理する必要があるが、決済代行会社が窓口となることで、営業や加盟店管理のコストを大幅に削減できる。小規模店舗や個人店にも効率よくカード決済を広げられることから、カード会社にとっても決済代行会社を挟むことは合理的なのだ。
疑問3:なぜ全東信はいきなり倒産したのか
全東信が倒産した背景にはいくつもの要因が見え隠れする。まずコロナ禍において加盟している飲食店の売り上げが激減し、さらに加盟店も減少したことが大きいだろう。20年近くにわたり資産を水増しし、実際には600億円超の債務超過だった可能性があるとも報じられている。
そして、2024年1月には、ぼったくり営業を行っていた店など、本来であれば加盟店審査を通過しにくい悪質な店舗や一部の夜間接客業態に対し、他人名義を使った不正な加盟店契約を結ぼうとした疑いで全東信の関係者が逮捕された。またその後の捜査では、こうした不正が組織的に行われていた疑いが強まり、法人としても組織犯罪処罰法違反容疑で書類送検されている。
VisaやMastercardなどの国際カードブランドは、マネーロンダリング対策の観点から、高リスクと判断される業態の加盟店管理を厳格に求めている。不正加盟店問題の発覚によって、全東信の加盟店管理体制への信頼が大きく揺らいだ。この信用失墜が、カード会社や金融機関との取引関係にも大きな影響を与えたと思われる。
報道によれば、この一連の不祥事によって融資を行っていた金融機関が資金供給を停止し、資金繰りが急速に悪化したとされている。コロナ禍による加盟店売上の減少や、スマホ決済の普及による競争激化など、厳しい状況の中でコンプライアンスを軽視した経営判断が行われた結果、信用そのものを失ったことが破産を決定づけたと言えるだろう。
疑問4:なぜ飲食店が連鎖倒産する可能性があるのか
全東信の破産によって、資金繰りの厳しい飲食店の中には「連鎖倒産」の不安も広がっている。飲食店が連鎖倒産に追い込まれる最大の理由は、飲食店に支払われるはずの「未入金売上」の焦げ付きだ。店によって状況は異なるが、1週間から数週間分のクレジットカード決済分の売上が未回収になっている。
全東信が破産手続きに入ったことで、クレジットカード会社から全東信に支払われた売上金は飲食店に渡らず、破産債権として破産管財人の管理下に置かれることとなる。飲食店に全額が支払われる保証はなく、未入金分の売上の一部または全部を回収できない可能性がある。
その中でもとりわけ深刻な打撃を受けるとみられるのが、クラブやキャバクラ、ラウンジなど「夜間業種」の店舗だ。一般の飲食店以上にクレジットカード決済の比率が高く、未入金となる売上金が多額になりやすいばかりか、代替となる決済会社への乗り換えも簡単ではないからだ。
全東信はこれまで独自の審査基準で加盟店を受け入れてきたとされており、飲食店のみならず、夜間業種の店にとっても「駆け込み寺」的な存在だった。そのため、クレジット決済比率が高い店舗ほど未収金の規模も膨らみ、連鎖倒産のリスクが指摘されているのだ。
疑問5:なぜ政府は事業者の救済に乗り出したのか
政府は資金繰りに影響が出ている飲食店など、小規模事業者や中小企業の支援に乗り出した。日本政策金融公庫や商工中金など国内378カ所に特別相談窓口を設けるほか、日本政策金融公庫のセーフティーネット貸付については要件を緩和。さらに、中小企業の連鎖倒産を防ぐための「セーフティネット保証1号」の適用に向けた手続きを開始した。
「セーフティネット保証1号(連鎖倒産防止)」とは、破産手続などの法的整理を申し立てた「大型倒産事業者(指定事業者)」に対して、売掛金債権などを持っている中小企業が、連鎖倒産を回避するために一般保証とは別枠で融資保証(100%保証)を受けられる国の支援制度だ。
しかし、セーフティネット保証は、あくまでも飲食店などが融資を受けやすくする制度であり、失われた売上金を補償、補填するものではない。金融機関から資金を借りやすくなるため、キャッシュフローの悪化を最小限に抑える効果は期待できるが、借りた資金は返済する必要があり、根本的な損失が埋め合わせられるわけではない。
今回のセーフティネットの適用は、あくまで資金ショートを防ぐための緊急措置でしかない。飲食店は早急に相談窓口などで制度の利用可否を確認し、決済手段を速やかに他社へ切り替え、複数の決済方法を確保しておくことも重要だ。未回収の売上金の回収見通しや、今後の破産手続きの行方を注視しながら早期の資金繰り対策を講じることが、飲食店の連鎖倒産を防ぐために重要な鍵となるだろう。
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