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詩|ご本人はこちらへ

Original language: Japanese
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ご本人はこちらへ


ご本人の方はこちらへ、と書いてあったので、こちらとやらへ行った

こちら には、それぞれのご本人たちがいた
みんな異なる番号札を持っていて、すごい
大枠として大差のない 外見と経歴を持ちながらにして
ご本人としての姿勢がいい

椅子に浅く座り、呼ばれる前から少し呼ばれている そのなかに
わたしも加わる

書類の 記入例の山田太郎に フリガナがある
住所もある 捺印もある
山田太郎は、寝起きでも本人確認を通るだろう
山田花子もすごいと思うけど、ここでは太郎が勝る


となりの窓口では、採血された血液が提出されていた
何のための提出か知らないが、取り出された血液は黙っていて えらい
暴れたりしないし、お別れもいわないし
なにしろ脈を打たない


わたしの待っている窓口は、何の窓口か よくわからない
説明は途中で煙のように幅を広げ、文節を伸ばし、カニのように深海を歩く
とにかく待っている間、わたしは窓の外を見ていた

港では、外国からのコンテナが
クレーンで吊り上げられては、降ろされていた
Helloいい風だね、といった挨拶をして、誰も中身を見せない
誰かに必要なものは、いちいち中身を見せない
ご本人さま
というラベルのわたしたちは皆、全部記入した紙を手に座っている

いま、町外れのコインランドリーでは、春服に混じって、靴下が片方乾いていく頃だろうな
片割れをなくしたまま、春を終えようっていう、その
捨てられないでいる、その
片割れのまま乾いていこうっていう、それを
誰かが、── いや

誰も誰かを 責めないでいける世界がいい
記憶より ずっと人生ができている

忘れ物棚に、タオル、帽子、子どもの上着、用途不明の袋があって、
みんな自分の落とし主について悪く言わない世界は──


窓口が近い
大枠としては大差のない 外見と経歴を持ちながら
ご本人としての姿勢でいる列が、着実に進んでいく

椅子に浅く座り、呼ばれる前から少し呼ばれていく列のなかで
わたしも席を移しながら、何らかの窓口を目指す


帰りに、なにか買っていかなきゃいけないって思う
内祝い(違うな)
お詫び か
粗品で、ご挨拶もしくは、お土産
どれも該当しないのにって思いながら、それでも考えてしまうんだ

図書館の書庫に、読まれなかった本が並んでいたのを
急に思い出すよ
蔵書点検のチェックを受ける時にしか
触れられない本たちの部屋
膨大な量の、広大なエリアの、光の入らない部屋

過去は、過去で泣かない
いつも過去のまま現在で、泣く
時々リクエストで出される、本の一冊があった

夜、それを詩にしたら、手が痛んだ
痛む手を、反対の手で持っていたら
ここへ呼び出されたってことを 思い出した

ああ窓口が近くなってくる
本人確認の列は進んで、そこには
── 本人だったことがある人、本人の代理の本人、本人見習い、本人を忘れた人、本人ではないが本人に近いとしかいえない人
みんな、それぞれの本人欄に、なるべくまるい○をつけてある


わたしの番が来て
窓口の人は親切で、本人らしさが少し薄いようです、と
存在申請書を出してくれた
薄い場合用があって
濃い場合用もあって
使うペンのインクが中で分離している場合は、しっかり振ってからお書きくださいといわれた

わたしはわたしに、よく振られて、
すこし泡立って、そしてこぼれなかった


帰りは自動ドアから帰るだけだった
なにも確認されない
なにも持って出るわけではない

ふと山田太郎のことを思い出す
寝起きでも本人確認を通るであろう それを
思っているとき
書庫の、防火扉のような重さの扉が背後で閉まった



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コメント

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猛ふぶき

大変よい作品を拝読させて頂き、ありがとうございます。「ご本人様」という言葉が喚起する、こんにちの私たちの「本人度」が全ての場面の細部でスキャンされていく、このおもむきは得難い貴重さと読めました。その中で Helloいい風だね、といった挨拶をして、誰も中身を見せない この,、Helloい…

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森口未刊|Mikan Moriguchi いいね
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コメントありがとうございました コンテナの形状の頑健さと運ばれている異国から風は続くことなどを思い、中身のわからないもの同士の接点は、このくらいの挨拶の質だろうと感じた覚えが…… あと、本当は推敲して全体をギュッとしたいんですが、書き上げるとついついすぐに出してしまうところがあ…

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詩と雑感 / 現実が ひどく毎日 降りつづく 詩のなかに 軒下を見つける Poems and notes / Reality falls, relentlessly, day after day Inside a poem, I find borrowed eaves 𓂃✍︎
詩|ご本人はこちらへ|森口未刊|Mikan Moriguchi
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