社会に牙をむく右傾陰謀論の凄まじい闇〜渋谷スクランブル交差点放火事件の省察
・「日本はほぼ乗っ取られています(※朝鮮人に)」主張目的か
渋谷のスクランブル交差点で50代の男が灯油に火をつけ、その後自首した。男は往来妨害の容疑で逮捕されたが、その目的は放火そのものでは無く、自身のサイトを世間にアピールすることが目的だったようである。
段ボールにコピー用紙を張り付けたようなものに、「日本はほぼ乗っ取られています」という文句と、男が制作したとみられるサイトのドメイン名が大きく記載されていた。犯行動機は捜査中であろうが、渋谷のスクランブル交差点という日本随一の通行密集地で凶行に及べば、男が作った(と思われる)サイトがカメラの画角に収まり、格好の宣伝効果に繋がることを狙ったものである、という蓋然性は非常に高い。
私はこのサイトを覗いてみたが、古色蒼然とした「右派系論客」が述べる差別と排外主義で溢れており、作り込みの粗さが相当目立つものの、そこに通底するのは特に在日コリアンや朝鮮・中国人を「敵」と見なす右傾陰謀論である。
これまでこうした右傾陰謀論者は、ネットの中(動画やSNSなど)に自閉しているものが多かったものの、街頭に出て「実力」を行使してきた例は在特会(在日特権を許さない市民の会)を筆頭とした一連の騒擾(ex京都朝鮮学校占拠事件)、京都府宇治市のウトロ地区での放火事件など少なくない件数、引き起こされてきた。
しかしながらそれは、特定の施設(彼らが在日コリアンやその周縁と関係が深いと思い込んでいる学校や建物など)に的を絞った、言わばピンポイント的な犯行であった。
今回の事件は、渋谷スクランブル交差点で放火するという「無差別性」において特異なものであり、ひとつ間違えれば大量殺傷にまで発展する危険を秘めた蛮行であった。いよいよ、右傾陰謀論者が実体となって、社会に対し無差別に牙を剝きだしたのである。
・「日本は朝鮮人に乗っ取られている」
男が制作した(と思われる)件のサイトは、手あかのついた差別と荒唐無稽な右傾陰謀論で埋め尽くされている。そのほとんどは、既存の所謂「保守系言論人」や「保守系インフルエンサー」が語ったり既述した内容などと、および彼らが出演する「保守系ユーチューブ動画番組」などの引用が圧倒的に主で、男(ここでは仮に作者とする)独自の見解や解釈は極めて従である。
そして、どこからが引用でどこからが作者の意見であるのかも線引きが曖昧な場合もあり、文章としての体を成しているとはいいがたいが、同サイトの重要部分と思われる文意などを要約し、本稿筆者なりに咀嚼するとおおむね二つあり、まずその第一が以下である。
1. 日本は朝鮮人(本稿筆者注*この作者は、朝鮮と韓国を明確に区別しておらず、本稿では敢えて朝鮮とする)に乗っ取られている。反日政治家の多くは、朝鮮からの帰化人である。日本のテレビ・大メディアのほとんどは彼らに乗っ取られて情報操作されているから、国民は真実を知らされていない―。
ここで引用されるのは、ジャーナリストの門田隆将氏、作家の坂東忠信氏、同じく作家の高山正之氏などの書いたものや喋った動画の引用(そのまま動画のサムネイルを貼り付けている)が多い。
作者の世界観では、太平洋戦争に敗北した日本では、「朝鮮進駐軍」と呼ばれる愚連隊が乱暴狼藉などを行うことで治安不安を招いており、その背景には当時のGHQが在日朝鮮人を尖兵として、日本支配を完了せんとする陰謀があったのだという。
この「朝鮮進駐軍」(実際には当時の俗称で、このような軍は存在しない)による敗戦直後の騒乱は、ネット保守(ネット右翼とも)が、在日コリアンへの敵愾心を正当化する根拠として、過去二十年近く、「必ず」引用してきたものである。作者はここから、日本の朝鮮人による「乗っ取り」が始まったと考えているようである。
しかし実際には、「朝鮮進駐軍」に対する警備対処に、進駐米軍や日本警察がむしろそういった賊徒を制圧する行動に出たことは一切書かれていない。単に作者が知らないのだろう。
・「テレビ、新聞、政治家、省庁は朝鮮人に乗っ取られている」
作者の妄想はさらに飛躍する。戦後の混乱期が落ち着き、日本が経済成長を謳歌するや、在日朝鮮人らは「在日特権」を駆使することで、その2世、3世の代になっても日本のマスメディアや政治の中枢などに在日同胞を送り込むことでその支配力を強める戦法に転換した。
その結果、「朝日新聞」「NHK」などといった進歩系メディアを筆頭に、「フジテレビ」「TBS」「毎日新聞」「東京新聞」「電通」などの主要メディアの枢機が在日朝鮮人やその帰化人によって占められるようになり、反日的な偏向報道が定着して現在に至る―。
つまり作者の頭の中では、マスメディア(含む広告代理店)が「反日偏向報道」を繰り返す理由は、彼らの出自が朝鮮人だから、という人種的要素に落とし込んでいる。
これは2002年の日韓ワールドカップ共催大会から出発した「ネット保守」が、大手マスメディアを呪詛する正当性として、これまた「必ず」用いてきた理屈であり、手垢のついた右傾陰謀論である。これは「ネット保守史」に照らし合わせれば「古典的」と分類できる言説である。
逮捕された男=作者と仮定したとき、男は50代と報道されている。このようなネット保守の古典言説を咀嚼する場合、少なくとも15年以上前(2010年代)からこの界隈の言説を恒常的に摂取していたと考えるのが自然で、その開始点を40歳前後とすれば、「ネット保守」の平均的人物像、つまり「40代~60代の中年男性で、大都市部居住者(男は名古屋在住と報道)」というものと相当合致する。
作者の妄想はこれに留まらず、与野党を問わず「反日的」な政治家はすべて帰化人であるとする。菅直人氏、辻元清美氏、橋下徹氏、福島みずほ氏、舛添要一氏らが朝鮮からの帰化人と作者は断定している。もちろん、これはすべて嘘だが、作者は被選挙権を得るには帰化をしなければならないことだけは知っているようだ。
そして作者は短くこう結論を下している。
「帰化政治家全員殺した方が良い」(原文ママ)
・「朝鮮人が日本人の戸籍を乗っ取り、日本人に成り済ましている。財務省も朝鮮人に支配されている」
著名人以外にも、作者は日本社会の多くに、朝鮮人が日本人の戸籍を不正に取得し、日本人に成り済まして生活していると説く。これを作者は「背乗り(はいのり)」と呼び、凶悪事件などで日本人名が報道されても、実際には「背乗り」によって戸籍を改造した元朝鮮人による仕業であり、或いは報道される犯人の氏名は「通名」なのだと妄想する。所謂古典的な「在日認定」をトレースしている。男=作者とすると、この発想こそ「日本はほぼ乗っ取られています」という冒頭のフレーズ(?)に直結する。
そして極めつけは、作者が朝鮮人と同和問題を混同していることだ。
「背乗り(はいのり)朝鮮人(被差別部落(同和)に多く背乗り(ハシシタなど)入り婿や戸籍の売買、一家乗っ取りなどによるなりすまし同和、いまだ差別あるというエセ同和はほとんどが朝鮮人の背乗りでヤクザも多い)(原文ママ)。
被差別部落は近代以前の封建社会において、歴史的に差別されてきた人々とその子孫が居住する集落或いは集住地帯を指す名称であり、「同和」とは一般的には、そこに住む人々に対する差別などの人権問題(同和問題)を言うのであり、いずれにせよ朝鮮とは何ら関係が無い。第二次大戦後、さまざまな理由で日本国内で集住した在日コリアン居住地を「被差別部落」と呼称することは無い。
単に作者がまったく無知なのだが、同和問題と在日朝鮮人を混同するこういった世界観は、「ネット保守」特有の右傾陰謀論のひとつだ。
なぜ彼らが歴史的経緯の全く異なるこの二者を混同するのかは、「ネット保守」の分布が、同和教育・人権教育の比較的希薄な木曽川(愛知県)以東の東日本に偏在しているからであり、従って同和問題についての基礎知識が欠如しているからである(本稿筆者調べ。詳細は拙著『シニア右翼』(中央公論新社)、『ネット右翼の終わり』(晶文社)などを参照のこと)。
作者の妄想の中では、日本人は常に善人の被害者であり、犯罪や策動を企てるものはすべて朝鮮人か在日朝鮮人、およびその帰化人という図式が固着している。ちなみに作者は、
注意! 在日朝鮮人の方、
帰化人全員悪いわけではありません。
日本人のフリをして、奪う、貶める
反日の在日、反日の帰化人は
殺した方が良いですね
(原文ママ)
と、エクスキューズを挟み込んでいるが、これも「ネット保守」に特有の留保事項である。なぜなら、これをしなければ、日本社会―特に保守系新聞や保守系雑誌、それの周縁にある動画番組などを頂点として構成される「保守系論壇」に迎合する韓国人や在日コリアン文化人らの存在との整合性が取れなくなるからである。「朝鮮人(韓国人)にも良い人が居る」という留保は、何の取り繕いにもなっていないことは自明で、言うまでも無く異常な発想である。
そしてその妄想は財務省にまで及ぶ。作者によると財務省職員や上層部のほとんどが「帰化朝鮮人」で占められている。だから、財務省は日本を弱体化せしめることを目的として、消費税減税に抵抗し、あるいは遮二無二増税路線をひた走るようになる。所謂「財務省陰謀論」のお手本が開陳され、他の主要官庁中枢も帰化人によって占められているという。この部分には、前述の門田隆将氏、元駐ウクライナ大使の馬渕睦夫氏に加えて、故森永卓郎氏(経済評論家)の名前に触れる「財務省解体デモ」の動画も貼り付けられている。
作者の世界観には、人種(出自)によってすべての行動が決定されるという垂直的な人間や組織の行動原理が固定化しており、彼にはおおむね日本国はこのように映っているのである。
・「唯一の希望はトランプ大統領」
2. 世界と日本を支配する壮大な構想を着々と実行に移している「ディープステート」は、ユダヤ人やユダヤ系を枢機とする国際金融資本と結託して、世界中にジェンダーフリー、LGBT擁護推進、移民推奨、自由貿易推進(市場開放)などを画策し続けている。その根本にあるのはユダヤ人であり、彼らは共産主義者なのである。それと闘う希望こそが唯一、トランプ大統領である―。
二つ目の特徴として、作者はこれまた陰謀論界隈で手あかのついた「ディープステート」を持ち出す。もっともこれは作者の自説では無く、ある陰謀論系ブロガーの記事を丸々転載したものでる。この水準ですらも自己流解釈が難しいのか、独自の解釈を付した作者自身による文章は殆どない。
同様に作者が引用している文中には、「ディープステート」の著名な下手人として、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズなどが居るとして、「ドイツ系ユダヤ人の共産主義研究組織「フランクフルト学派」の研究者たち」「グローバル大企業の経営者が必然的に国際金融資本家たちに加わり、今ある DeepState が形づくられた」「現代ではその金融資本家たちにグローバル大企業や GAFAM+Twitter といった BigTech などが加わり、DeepState がほぼ完成された」(共に原文ママ)として、わざわざ作者はこの引用部分を太字で強調処理(上記通り)している。
そもそもディープステートなるものの構成員らが共産主義者なのだとすれば、生産手段のほぼすべてを共有化(公有化)する方向に向かう筈だが、なぜ彼らが「巨大私企業」を保有したままなのかという矛盾には一切答えていない。作者にはこれが矛盾なのかどうかすらも判断できなかったのだろう。
これも陰謀論界隈や、「ネット保守」界隈に頻出する、「極めて雑な共産主義の理解」を忠実にトレースするものだ。彼らが共産主義や共産主義者を「悪」と規定するとき、そのイメージは「必ず」スターリン体制である。
しかしそれはマルクスが想定した「高度に発達した資本主義の発展段階として到来する共産主義」とはまるで違う覇権的な帝国主義の姿であり、それがゆえに日本共産党はソ連を「ソ連型共産主義」と認定して批判してきたことについては全く無知である。歴史の勉強をしないまま、「共産主義はとにかく悪」とした発想が固着しているのだろう。
そして悪辣なソ連体制の生みの親をマルクスと誤認し、資本論を悪の教典と勘違いしているが、『資本論』は資本制の分析をしたものあって、共産党とか党組織の理想や採るべき行動などについてが言及されているわけではない。それが言及されているのは『共産党宣言』(1848年)だが、当然作者はそんなものは知らないのだろう。
作者のサイトのフッター(下部)部分の著作権表示に(2024年)とあるので、今次事件の犯人の男=作者だと仮定すると、放火事件を起こすまでの約2年間、X(旧ツイッター、複数のアカウントを保持していたようだが、現在は凍結されている)の方に傾注し、あまりサイトの更新をしていなかったためかもしれない。
よって作者の世界観にあるユダヤ人=ディープステート=敵、対してトランプ大統領はそれに抗う正義(光の戦士)などという図式は、今次の米・イスラエルによるイラン攻撃を説明できないはずだが、件の理由により、ここしばらくの最新の国際事情はアップデートされていないようだ。
・「陰謀論」と「右傾陰謀論」の融合
このように、男=作者と仮定したとき、そのサイトに書かれている内容を1)、2)で咀嚼してきたわけだが、それは所謂「ネット保守」が伝統的に有する右傾陰謀論と、第一次トランプ政権以降に日本にも伝播・形成された、「昨今流行」の陰謀論がミックスされたものであると言える。
しかしこれこそが界隈では時流なのである。トランプ大統領への支持は置いて置くとしても、国際金融資本(グローバル資本)を敵に設定して、それに対抗するのが日本人の使命(農本主義類似の日本の固有種、自然食や有機農法重視の主張)であると考えるのは、政治的右派に留まらず、政治的左派を称する陰謀論者にも共通するものだ(とりわけ農業政策)。
朝鮮人、在日コリアンによる日本支配という主張には首肯できないものの、反グローバル、反グローバリズム、そして無慈悲なグローバル資本主義を推進する背後にはディープステートがあること、そして日本においての最大の下手人は財務省であること(財務省陰謀論)は、政治的左派の陰謀論者にも受け入れられている。
作者は同サイトの中で、参政党に親和的な考えを持っていることがはっきりと示されている。
参政党頑張ってますけど 投票で落とす※ だけでは無理
不正票暴いて殺される メディアも敵 今まではまだ隠密にやってたんです
もう バレバレでも 阻止して来ますよ日本人の命より、金だから Wで
(原文ママ、※は本稿筆者注、帰化政治家のこと)
作者は同サイト内で、このように参政党への言及はある(二か所)が、れいわ新選組への言及はゼロである。本稿筆者は、過日、参政党とれいわ新選組支持層が大きく重複していることを出口調査から指摘する旨、答弁した。その理由は、両者の世界観が上記の理由により重複しているからである。
この作者が引用する様々な「言論人」の中には、れいわ新選組支持層が好む傾向が強い人物名も登場している。政治的指向性の左右に関係なく、陰謀論界隈全体に共通する「文章の定型」「思考の定型」「お決まりのフレーズ」が広く浸潤している、と評するより他ない。
男=作者と仮定したとき、この未曽有の放火事件は単に、この男固有の要素による暴走である、とは呼べないのではないか。すでに見てきたように、作者がその世界観を構築するにあたって数多の引用をしているのは、「保守系言論人」とか「保守系文化人」と見なされるものが圧倒的多数を占めているからである。
「殺せ」などという物騒な言葉を弄してはいないものの、作者の引用からも分かるように、彼の世界観は明らかにそうした「保守界隈の識者」に影響を受けたものだ。朝鮮人や在日コリアンらが日本を支配しており、それがメディアや政治家、主要官庁の中にも及ぶという発想は、作者の体験に基づいたものでは無く(なぜなら嘘なので、体験ができないから)、また独自に編み出した思想体系でも無い。
作者のサイト内容のほとんどが「引用」で占められているように、その発想は誰かからの借り物である。それは結局、「保守界隈の識者」からの借り物なのである。日本社会には中国・韓国からの工作員やスパイが入り込んでいて、それがテロ準備や世論工作の拠点になっている、という発想は「保守系言論人」の十八番的な言説として、概ね2000年代後半から隆盛してきた。いわゆる「嫌韓本・反中本」の隆盛である。
やがてそれは、「保守言論界隈」を超越し、大手マスメディアへの常連出演者だったものにまで波及し、平気で「スリーパーセルという工作員が、大阪などで跋扈している」などという趣旨の工作員妄想を開陳して憚らないようになった。内情を知らない多くの有権者は、「テレビに出ている著名学者が言っているのだから、概ね正しいのだろう」と誤認し、陰謀論はますます拡散し、再生産される。
そればかりではない。国会議員までもが陰謀論的世界観を堂々と披瀝するようになった。元衆議院議員の杉田水脈氏は、2016年に産経新聞紙上の連載で、
「(コミンテルンが)これまでも、夫婦別姓、ジェンダーフリー、LGBT支援などの考えを広め、日本の一番コアな部分である『家族』を崩壊させようと仕掛けてきました。今回の保育所問題もその一環ではないでしょうか」(J-CASTニュース)
などと書いた。杉田元代議士は自著の中でも、「コミンテルン(国際共産主義団体)」を、「左翼の首魁、反日の親玉」などとする趣旨の記述を複数回にわたって行っているばかりか、動画番組内などでも同様の発言を繰り返した。
が、コミンテルンは1943年、独ソ戦の最中に解散しており、とっくの昔に存在していない。第二次大戦後に活動したソ連の国際共産主義組織はコミンテルンでは無くて「コミンフォルム」だが、それすら知らないのである。
しかし、「国会議員が言うのだからある程度の正当性はある」、と感じた根が権威的に出来ている有権者の一部には受け入れられ、これが拡大再生産されていく。こうして、本来陰謀論とは遠かった有権者の一部に、意識的にも無意識的にも「陰謀論の種」がばらまかれる。「発芽」の期間は、個人の性格にもよるが短期で1年未満、長くて5年以上になる。こうして陰謀論は、止めることが出来ない速さで播種されるのである。
・陰謀論を放置すると起こりうる未来
今回の男による卑劣な放火事件は、純然たる独自の理屈から生まれたものなのか。答えは明白であろう。男に影響を与えた数々の「右傾陰謀論」や「陰謀論」を掣肘しないまま放置しておけば、この先どんな悲劇が起こるかは容易に想像できよう。
ナチ党がユダヤ人迫害の際の理屈として用いたのは陰謀論であった。ナチ以前からヨーロッパで広がっていた反ユダヤ主義の根本には、そもそも「ユダヤ人は“シオン賢者の議定書”に書かれているように、欧州支配の野望を持っている」とする陰謀論があり、ナチ党時代にそれは強く拡散された。
“シオン賢者の議定書”は有名な偽書であり、その内容は完全な嘘である。やがてそれは「ユダヤ人の脳はアーリア人よりも物理的に小さい」という陰謀論的優生学に発展して、それに「学者」がお墨付きを与えることで更に伸長した。それを放置した結果、どんなに酷い「排外主義」などという言葉では言い尽くせない程の惨劇が出来したのかは敢えて書くまい。
陰謀論者に「それは陰謀論だ」と指摘すると、ほぼ100%彼らは「これは陰謀論ではなく真実だ」と反論して、指摘したものを烈火のごとく追撃して批判攻撃を開始する。
それは量的には少数なのだが、そんな些細な「批判」に委縮してこのまま陰謀論を放置するのなら、私は本当に恐ろしいことになると思う。
後から「古谷が前もって警告していただろう」と言われても、私にとってそれは何の名誉でもない。ただ、陰謀論とその苗床を掣肘し続けることが、唯一採るべき道である。(了)
※参考資料
『シニア右翼―日本の中高年はなぜ右傾化するのか』(中央公論新社、2023年)拙著
『参政党と神谷宗幣』(祥伝社、2025年)拙著
『陰謀論と排外主義―分断社会を読み解く7つの視点』(扶桑社、2025年)共著
『ネット右翼の終わり―ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社、2015年)拙著