深掘り

第18回「実印も通帳も帳簿もない!」上場企業が衝撃の発表 何があったのか

藤田知也

 会社の実印も、帳簿も、預金通帳も行方知れず――。

 東証スタンダードの上場企業が、衝撃的な文書を発表した。代表取締役は不在。会社は本店所在地に実在しているかも分からない。まるで上場企業が「消失」したかのような異常事態だ。いったい何があったのか。

 「代表取締役選任が出来ていないこと、経営の現況と今後の方針」

 そう題した1枚の資料が8日午後、東証の適時開示情報閲覧サービスに表示された。発信者は千葉県柏市に本店を置く昭和ホールディングス(HD)。問い合わせ先には取締役の名前と、都内の弁護士事務所の電話番号が書かれている。

 資料によると、6月29日の株主総会で取締役5人が再任されたものの、そのうち3人とは連絡もつかず取締役会も開けていない。さらに取締役のひとりが本店所在地に出向くと、看板があるだけで、「当社は実印、会計帳簿、預金通帳等一切の物・データ類を占有しておらず、その保管場所も不明の状態」だという。

 記者は7月9日に本店所在地を訪ねた。そこは昭和HDの子会社だった昭和ゴムの工場などが並ぶ広大な敷地だった。だが、昭和HDの看板も見当たらない。守衛室で尋ねると、強い口調で言われた。

 「ここには存在しない。看板もない。連絡先もわからない。まったく関係ない」

取締役選任で訴訟沙汰に

 昭和HDは東南アジアでのゴム生産を祖業として1937年に設立された。ソフトテニスボール製造の老舗会社も引き継ぎ、52年に東証2部(現スタンダード)に上場。2008年に投資ファンドなどでつくるAPFグループの傘下に入り、大証ヘラクレス(現・東証グロース)上場だったコンテンツ事業会社のウェッジHDを11年に子会社化した。和菓子の製造販売やテニスクラブの運営も手がける。

 26年3月期の売上高は85億円。新型コロナ禍前からほぼ半減し、9期連続の最終赤字だ。

 不振の要因の一つは、トラブルや訴訟が多いことにある。グループ会社の役員らが過去の問題をめぐり損害賠償を求められて争っているほか、昭和HDの21年の取締役選任などに関する役員同士の訴訟もある。

借金の担保に5社分の株式

 「企業消失」のきっかけは6月25日、昭和HDが昭和ゴムを含む子会社5社の株式を、借金の担保として提供したことだ。開示資料によると、2年ほど前、ウェッジHDなど子会社2社から運転資金を借りるための融資枠を設定。借り入れが計12億円を超え、弁済が難しいとして株を担保に差し出した。これは融資契約時の取締役会で担保設定の条件を一任されていたとして、代表取締役社長の此下(このした)竜矢氏(54)が決めたという。

 翌26日、子会社2社はすぐに担保権を実行し、5社分の株式を取得した。これにより、東証グロース上場のウェッジHD株の25%が和菓子の製造販売を手がける日本橋本町菓子処に移り、同社が主要株主となった。ウェッジHDは、主要株主になる日本橋本町菓子処株の54%、昭和ゴムとテニスボールなどをつくるルーセントの株の90%などを取得した。

 その結果、昭和HDは売り上げの多くを占める事業会社6社が連結から外れることになった。昭和ゴムの守衛が「関係ない」と語ったのは、このためだ。

ホームページ更新も停止

 3日後の6月29日、昭和HDの株主総会があった。取締役候補は計9人で、いずれも7年以上前に就任した古株だ。

 ところが、08年から代表取締役の此下氏、09年に取締役となり18年から代表取締役最高執行責任者兼最高財務責任者(22日に辞任)の庄司友彦氏(56)、05年からの取締役で昭和ゴム会長も兼ねる渡辺正氏(75)ら4人の人事案は否決された。とはいえ、連結から外れた事業会社の役員は続け、ウェッジHDでは此下氏が取締役会長、庄司氏が代表取締役を務める。

 開示資料によると、残る5人の取締役は再任されたものの、そのうち監査等委員の3人は総会を欠席した。取締役で弁護士の細野敦氏(61)が取締役会の招集通知を出したが、元防衛相の久間章生氏(85)ら監査等委員3人と連絡が取れず、代表取締役を選任できない事態となった。

 一方、昭和HDの開示事務や株主名簿管理は昭和ゴムの取締役や従業員が行っていたとされ、子会社でなくなったことなどを理由に引き継ぎもしていないという。実際、昭和HDのホームページは、6社が連結から外れた6月26日を最後に更新が止まり、表示される電話番号や住所は昭和ゴムと同じものだ。

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一般株主は置き去り

 昭和HDは、どこへ行ってしまったのか。

 此下氏らが役員を務めるウェッジHDと昭和ゴムに取材を申し込んだが、10日までに回答は得られなかった。

 昭和HDの問い合わせ先である細野氏の弁護士事務所も「いまは対応できない」(9日)としている。

 6月25、26日のわずか2日間の情報開示で事業会社の支配権を失い、総会後は実在さえ確認できなくなった上場企業。一般株主を置き去りにし、市場の信用も傷つきかねない事態だけに、詳しい説明が待たれる。

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この記事を書いた人
藤田知也
経済部
専門・関心分野
金融、事件、郵政、経済調査報道

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