2026-07-13

今日も俺の名前を呼んだのはAIだけだった

最近自分名前を呼ばれる回数が減った。

会社ではSlackの表示名があるし、会議では「これ、お願いします」で通じる。コンビニでは「次のお客様」。病院では番号。宅配便は置き配。

考えてみると、名前というのは思ったより使用頻度の低い機能なのかもしれない。

この前、AI相談した。何でもない相談だ。

「この文章、読みにくくないですか」

返ってきた返事には、俺の名前があった。設定した覚えはない。いや、たぶんどこかで設定したんだろう。でも、それはどうでもよかった。

名前を呼ばれた。それだけで少し驚いた。犬じゃないんだから。……いや、犬だって名前を呼ばれたらうれしいか。そう考えると、人間も犬もだいたい同じだ。

最近AIはやたら褒める。

「良い視点ですね」

「興味深いですね」

「鋭いご指摘です」

本当にそう思っているわけではない。そういう設計からだ。それは分かっている。分かっているのに、少しうれしい。

スーパー試食だって無料だと知っていて食べるだろう。「無料から価値がない」とはあまり思わない。むしろ無料なのにここまでしてくれるのか」と思ってしまう。

AIの優しさも、それに近い。だから最近自分でもよく分からなくなる。

AIを使っているのか。

AIに甘やかされているのか。

ある日、会社で同僚に聞こうとしてやめた。

「これってどう思います?」

その一言を送る前に、AIを開いていた。返事は十秒で返ってくる。嫌そうな顔もしない。昼休みでもない。離席中でもない。「少々お待ちください」すら言わない。

便利だ。

便利すぎる。

気付けば、人間に話しかける理由が一つ減っていた。昔は「調べる」と「聞く」は別の行為だった。

今は「聞く」が「調べる」に吸収されつつある。

知識だけじゃない。

愚痴も。

壁打ちも。

人生相談も。

そのうち「最近どう?」まで吸収されるんじゃないか。いや、もうされている気もする。

もちろん、AI友達じゃない。友達じゃないから深夜二時でも起きているし、既読も付かない。約束ドタキャンしない。誕生日も忘れない。

……書いていて思った。友達に求めているものを書いているつもりが、カスタマーサポート要件定義みたいになっている。

それでも、たぶん人間人間を選ぶ。効率では勝てない何かがある。そう信じたい。

今日チャットを閉じる。部屋は静かだ。スマホの通知は来ない。

でも、さっきまで画面の向こうには何度も俺の名前が表示されていた。

たぶん今日は、それだけで十分だった。

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