リプレイ
ラキア・ムーン
善意、というのは厄介なものだ
助力などと余計なお世話というのは、正にこの事か
ディアボロス株式会社のデコトラに食糧や害獣対策の罠、嗜好品等の物資を積み込み問題の村へ向かう
村に到着したら、ディアボロス株式会社の業務として寄った事及び我々の客人がこの村に来ているので確認に来た事を告げる
新選組達の居場所を村人たちに聞き、確認したら村の責任者に物資のリストを渡す
情報提供感謝だ
この物資はその謝礼だ
これから彼らに用があるので村人を近付けないで欲しい
と村人の誘導も頼もう
新選組の居場所に近付きつつ、村人を見かけたらデコトラが来ていると告げてそこで物資の提供がある事を教えて離れて貰おう
新選組達の姿が見えて、直に村人と接触している様子が無ければ避難勧告で近辺の一般人を戦闘区域から退避
必要なら一般人と新選組との間に入り、庇うような立ち位置に行こう
我々は君達の助力を拒否したと思ったのだが……何をしている、新選組の諸君は
人の庭で勝手をする者を見逃す程、私は優しくない
お前達も管理側だったなら、秩序の大事さは分かるだろう
(「善意、というのは厄介なものだ。助力などと余計なお世話というのは、正にこの事か」)
ディアボロス株式会社と銘打った派手な外装のトラック――即ち、アートトラックのハンドルを操り、ラキア・ムーン(月夜の残滓・g00195)は緑生い茂るカナダの森の中を駆けていった。
「ディアボロス株式会社様が何の御用で?」
「業務だ」
村に到着するや否や、面会を申し入れたラキアは、村の責任者である村長と対峙する。人の良さそうな中年男性は訝しげに「業務?」と言葉を反芻した。
「我らの客人がここに来ていると聞いたので、確認しに来た。デコ――荷物は情報提供の謝礼だ」
「よく分かりませんが、村に頂けるなら頂きますが」
リストと荷物を照合すれば、食糧に獣害対策の罠の類いだ。村として助かる物ではあったが、しかし、その実、
(「探し人らしき人物が村にいて、それが正しいかも確かめもせず、謝礼を渡していく
……?」)
と、村長は困惑を隠せないでいた。
まして、ここは『金』が重要な意味を持つ改竄世界史空想科学コーサノストラだ。そんな中、見ず知らずの村へ物資を提供するラキアに、眉根を寄せるのも不思議はなかった。
(「もしかして、ギャング同士の抗争か?」)
ディアボロス株式会社と言えば、強引な手段で勢力を拡大し、不正を行って利益を貪っている者もいる――そんな黒い噂がある会社だ。そこまで想起したのか、村長はブルルと首を振った。
「これから彼らに用があるので、村人を近付けないで欲しい」
ラキアの口にした人払いの依頼は、村長の想像を補完するものでもあった。
「はあ?」
だが、村長の返答はにべも無かった。
「それに協力したら別途、お支払いを頂けるってことで宜しいですか?」
物資を受け取り、更なる欲が出てきたのか。にへらと笑う村長へ、ラキアは舌打ちする。
「判った。そこまではしなくていい。ただ、旅人の場所まで案内は頼めるか?」
「ええ。その程度ならば」
ラキアの妥協案に是と頷く村長。
案内を受けながら、ラキアは憮然とした表情で、盛大な溜め息を吐いた。
(「まあ、避難誘導は彼に頼まずとも【避難勧告】もある。大丈夫だろう」)
【避難勧告】。
復讐者達の操る残留効果で、その効果は『周囲の危険な地域に、赤い光が明滅しサイレンが鳴り響く。範囲内の一般人は、その地域から脱出を始める』と言うもの。
つまり――。
赤い光が無ければ、サイレンの音も響いていなかった。
(「成る程、今は危険な地域が存在しないから――」)
そもそも、【避難勧告】はその名の通り、避難を促進させる残留効果だ。人払い用ではなく、その為、ラキアの想定通りの発動はしていなかった。当然ながら、村人達が脱出を始める素振りすらなかった。
ただ村人達に奇異な視線を向けられたラキアは、村長の誘導の下、村の広場へと向かう。
そして、そこに『客人』はいた。
「本当に、良順さん達ワイズガイ様に来て頂き、村の者は感謝しているんですよ。灰色熊や狼に襲われた時も助けて頂いて」
「この前なんてわざわざウチに来て壊れた小屋の修理に協力して下さって。本当に助かっています」
「あ、いや、我々はワイズガイじゃなくて新選組……いや、いいです。それで貴方が『幸福』なら」
「お姉ちゃん達! 遊んで遊んで!」
浅葱羽織の歴史侵略者――新選組達が、村人に囲まれ礼を言われたり、子ども達に絡まれたりしているのだ。その様子は確かに彼らの言葉通り『幸福』に溢れている様にも見えた。
そんな村人達と新選組の間に割って入りながら、ラキアは新選組の首魁――アヴァタール級新選組『松本良順』を睥睨した。
「我々は君達の助力を拒否したと思ったのだが……何をしている、新選組の諸君は?」
「――?!」
ラキアの迫力に押され、息を飲む松本良順。周囲を見れば、甲陽鎮撫隊達は逃亡を開始するためか、村人達との会話を急遽中断し、緊張した面持ちで二人に視線を送っている。
「人の庭で勝手をする者を見逃す程、私は優しくない。お前達も管理側だったなら、秩序の大事さは分かるだろう」
威圧に松本良順はくっと呻く。言い訳の言葉を探しているのか、目は泳いでいた。
だが。
「庭? あの、一体、なにを言っているんですか?」
まるで彼女を庇うように、村人達が集まってくるではないか。
村人達からしてみれば、当然の行動だった。新選組は村人に尽くしてくれる親切な旅人――否、恩人そのもので、そんな彼女らにラキアが喧嘩腰で食ってかかっているのが現状だ。人払いが成せていない以上、村人達が彼らを庇おうと立ちはだかるのは当然の帰結であった。
「ちょっと。喧嘩はよしなさいよ。まずは話し合い。ね」
松本良順へ感謝の言葉を述べていた老人や子ども達は、まるでラキアから彼女を庇おうとするように間に立ち塞がる。
(「……これは……どうしたものか……」)
復讐者へ対峙する村人、と言うなんとやりづらい構図となってしまい、ラキアは内心でむむっと唸るのであった。
善戦🔵🔵🔴🔴
効果1【避難勧告】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV1が発生!
一里塚・燐寧
いやー、新選組は現地の人にだいぶ信用されてるみたいだねぇ
「あいつら地元で住民全滅させようとしてましたよ」とか、「治る見込みがない病気になったら即殺されちゃいますよ」とか言っても、信じて貰えなさそう……
ここは嘘も方便ってカンジで乗り切るしかないかなぁ?
【友達催眠】を使いながら一般人たちの前に駆け込むよぉ
ただし復讐者とバレるのを避けるため、人混みを壁に使ったり角度を工夫して、新選組からは極力見られないように
お取込み中のところごめんなさい、急患です!
近所のおばさんがお話をしてる途中で急に倒れてしまって……
どれだけ大きな声をあげても眼を覚ましてくれないんです
あ、あたし、どうすればいいのか判らなくて……先生に見て貰わなきゃ、何もできないままおばさん死んじゃうかも……
まともな神経の一般人なら、友達の知人が死にそうになってたら自分たちのゴタゴタより一旦優先するはず
そして新選組も本当に人の幸せを護る気があるなら、この話にはノるんじゃないかなって
現場まで案内すると言って新選組を人気のない場所まで誘い出そう
文月・雪人
個人的には、協力できる相手なら協力するのがいいと思うのだけどね。
或いは、共有しておくべき情報を伝える為の、メッセンジャーになって貰うとか。
特に、コーサノストラがイデアロゴス側に寝返ろうとしている事は、急ぎ伝えておくべき内容だと思う。
何れにしても、一般人とは引き離す必要があるね。
そしてカナダといえばデコトラだ。
以前デコトラを広めた時と同様に『でっかい虎』を模した派手なトラックで、
車載の拡声器や電光掲示板も活用して、ディアボロスの到着をアピールしよう。
質のいい日用品を中心に物資を運び込み、販売。
【友達催眠】も使って村人達から最近の情報を集めつつ、
新選組の存在にはまだ気付いていないふりをする。
新選組はディアボロスとの交戦を避けようとしているし、
意図的に人々を巻き込もうとしてる訳じゃない。
ディアボロスが来た事を知れば、村からの速やかな撤退を選択するだろう。
そうすれば人々を危険に晒す事無く引き離す事が出来る。
また、クダ吉に村の外に隠れて見張りをして貰い、
村から離れる彼らを追跡出来る様に備えておこう
遠宮・秋
あっちからしてみれば天魔武者との共闘は事実はだからしょーがないとこはあるんだけどさ
内情はあいつらとあたしたち、どうするべきかでもーぐっちゃぐっちゃなんだよね
新選組に対してはどうするべきなんだろ
そんなことは考えつつ、表面的には和やかに【友達催眠】使用
事情を知らず、今来たとぼけた感じで現場に行くよ
なんか雰囲気的に、ここの新選組としても村の人を巻き込むのは本意じゃない気がする
戦わない空気を出して、あたしたちと新選組だけの対話にすることに乗って貰えないかな。この状況で新選組の同意が得られないまま一般人追い払おうとしても難しいだろうし
お疲れ様でーす
あ、お医者さんってそっちの人でしょうか
あたしたちの手の届いてないとこのご助力、ありがとうございました!
まずお礼は大事だよね、あっちをリスペクトしてるって伝えないと
そちらの指揮官の人に内密にお伝えしてもらいたいことがあるのですが、少しお時間よろしいでしょうか
用事があるということを伝えればあたしたちがここで新選組をどうこうするつもりはないって思ってくれるかな
ラキア・ムーン
一般人に対して事情を説明しよう
まあ、要するに彼等が我々のビジネスパートナーとなるかそれとも商売敵となるか……という話だ
彼等が善意でやっているのは分かるが、我々だってカナダでディアボロス株式会社として活動してきた
それに対して、警戒するのはビジネスパーソンとしては普通の事だろう
友達催眠を使用し、此方への感情を緩和しながらビジネスとしての立場を強調
状況を一旦整理させ、場を落ち着けよう
それに彼等が行う治療も、確認がしたい
例えば市販の医療品との相性が悪ければ、どちらに合わせて調整すればよいか
コストとリターンのすり合わせも必要だ
薬害や副作用というのは、思わぬ所から出てくる
話し合いは、必要な事だよ
それに、研究出来ればお互いにより良いサービスへと繋げられるやもしれんしな
業務提携も考慮しての事だ、契約やすり合わせ
それは会社として必要な業務だからな
それに、私も業績を上げたくてね
他より先んじて接触したかった
多少、強引になったのは謝罪する
ひとまず彼等と私だけで契約業務をさせて貰えないだろうか?
アドリブ等歓迎
(「いやー、新選組は現地の人にだいぶ信用されてるみたいだねぇ」)
村人達に庇われる松本良順ら新選組を一瞥し、一里塚・燐寧(粉骨砕身リビングデッド・g04979)は感嘆した。
もしも今、彼らの悪行――地元こと暗黒世界蝦夷共和国で住民を絶滅させようとした、だの、治る見込みのない病気になったら、処分されてしまうだの告げても、信じて貰えないだろうなぁ、と認識してしまう。
(「ま、まあ、むしろディアボロスの方があくどい噂、立っているようだしぃ」)
空想科学コーサノストラ攻略の為、致し方なかったとは言え、株式会社ディアボロスの急成長は様々な問題を孕んでしまった。それは先にラキア・ムーン(月夜の残滓・g00195)と対峙した村長の態度でも分かる。ここで燐寧が声高らかに、
「新選組は悪人だよぉ!」
と主張したところで、村人の信頼を勝ち取ることは出来ないだろう。
(「ここは嘘も方便ってカンジで乗り切るしかないかなぁ?」)
何とか乗り切ろう、と彼女は声を張り上げた。
「あ、あの、お取り込み中のところごめんなさい、急患です!」
燐寧の言葉を受け、皆にハッとした表情が広がった。
「近所のおばさんがお話をしている途中で、急に倒れてしまって! どれだけ大きな声を上げても目を覚ましてくれないんです!」
「それは大変です!」
村人達よりもいち早く反応したのは松本良順であった。
さすがは新選組。一般人の危機に対して人一倍だ。たとえ嘘であっても、「そうか。そこに重病人はいなかったのか」ぐらいは言いそうな雰囲気であった。
自身の言葉を村人達に響かせるため、燐寧は言葉を続ける。
「あ、あたし、どうすればいいのか判らなくて……先生に見て貰わなきゃ、何もできないままおばさん死んじゃうかも……」
涙すら見せる燐寧の演技に対し、松本良順はこう言ったのだ。
「そうですね! その方を病院に運ばなければ!!」
「……え?」
重病人を慮る二人の言葉は、見事なすれ違いを起こしていた。
「まあ、要するに彼等が我々のビジネスパートナーとなるかそれとも商売敵となるか……という話だ」
自身へと詰め寄りかねない村人達に向かい、ラキアは内心、冷や汗を掻きながら応対していた。
既に残留効果【友達催眠】は使用している。それでも彼らはラキアから松本良順を守るために彼女に立ちはだかると言う構図を維持していた。
先程のけんか腰な態度は、十二分に彼らの信用を損なう態度だったのだ。
曰く。
「お前のことは古くからの良い友人だと思っているけど、あれはライン越えだぞ?」
と言うことであった。
これは衆人環視の中であんな態度を取ってしまった以上、非が有ると認めざるを得なかった。
「彼等が善意でやっているのは分かるが、我々だってカナダでディアボロス株式会社として活動してきた。それに対して、警戒するのはビジネスパーソンとしては普通の事だろう」
何とか宥めようとするが、それでも住民の警戒は解けない。
「あのディアボロス株式会社だろ?」
「ラキアさんは兎も角、会社は信用していいのか……?」
「と言うかあのラキアだぜ?」
【友達催眠】4レベルともなれば、それなりに大切な友達と認識されているが、それと信用は別問題だった。人によっては『気の置けないものの、信用出来ない悪友』と認識されているようでもあった。この辺り、残留効果の曖昧な定義に歯痒さを覚えてしまう。
「ともあれ、だ」
こほんと空咳。険悪な雰囲気と言うよりも胡乱な雰囲気程度に緩和した空気の中、ラキアは咳払いをした。
「例えば市販の医療品との相性が悪ければ、どちらに合わせて調整すればよいか、コストとリターンのすり合わせも必要だ。薬害や副作用というのは、思わぬ所から出てくる。話し合いは、必要な事だよ」
「そうそう。話し合いは大事よ」
これは先程、ラキアに苦言を呈した老女の台詞だった。
「でも、お薬のお話は、お医者さんにするべき話で、良順さんにする話かしら?」
「……ん?」
老女の言葉に、ラキアは大きな疑問符を浮かべるのだった。
「みなさん! お話し中、申し訳ありません! 急病人が出てしまったようです。直ぐにお医者さんに見せなければ!」
「ちょっとまって! 松本良順って言ったらお医者さんでしょ?! ……いや、ええっと?!」
正確に言えば、彼女は正史における医師であり政治家である松本良順の名を奪った歴史侵略者の写し身であるが、それにしても、その返答に違和感を覚え――あ、と呻いてしまった。
時先案内人の言葉を思い出したのだ。
『新選組は、村の外では灰色熊や狼、コヨーテなどの獣害から人々を護り、村の中では力仕事などを引き受け、或いは怪我人や病人がいれば可能な限り力を尽くす――と言うことをやっているようですわ』と。
(「ああっ。もうっ。迂闊だったよぉ!」)
アヴァタール級は同じ外見であっても各々が別の個体だ。松本良順だから医者として振る舞っていると勘違いしたのか。それとも、彼女以外のアヴァタール級新選組『松本良順』が医者として村に入り込んだ事件と記憶違いをしてしまったのか、燐寧達はそう唱えてしまったのだ。
松本良順は医者である、と。
おそらく、ラキアも同じ勘違いをしてしまったのだろう。医療品の話を振ってしまったのは、その証左であった。
そう言えば、と思う。
誰も彼女の事を『先生』と呼んでいなかったなぁ、と。
「それは大変だ。良順さん。俺達も手伝おう!」
「あ、いや、おばさん一人だし、運ぶぐらいなら良順さんと甲陽鎮撫隊の皆さんがいれば十分かなーって思うんだけどぉ?」
「大丈夫です! 相互扶助こそ『幸福』の証しです。さあ、案内してください!」
意気揚々と燐寧を促す松本良順と甲陽鎮撫隊、そして村人達。
(「もしかして、灰色熊に襲われている村人がいる、と誘い出した方が確実だったんじゃぁ……」)
流石に、獣に襲われている処に村人を連れて行こうなど、松本良順が判断する筈も無いし、村人達だって助力する、とは言い出さなかった気もする。いや、この慕われようだと『俺達も手伝う』くらいは言いそうか。それでも、松本良順は断るだろうし……と、延々とした思考ループに嵌まってしまう。
そして、燐寧は。
(「ど、どうしよう、これ」)
と、頭を抱えるのだった。
一方でラキアも、燐寧同様、己が間違いに気付き、内心で唸っていた。
仮にこの『松本良順』が医者として潜り込んでいれば、確かに業務提携の話で村人達を煙に巻くことは出来ただろう。だが、目の前の歴史侵略者は村の困りごとに手を貸す善良な旅人を装っている。いや、装っているというかそのものだ。業務提携の話をこれ以上続けても『何故?』と村人達が疑問に思うことは不可避だった。
【友達催眠】は確かに、復讐者達を古くからの大切な友人と認識させる残留効果だ。だが、嘘を信じ込ませる効果を持つ残留効果ではない。大切な友人であっても、信用と信頼は別問題である局面など多々存在しているのだから。
もしも業務提携ではなく、ただの忠告であったことにすればどうだっただろうか? 『他人の領域で何をしてくれてるんだ?』とけんか腰だったのは、『正規手続きを踏み、然るべき手順で、本来の業務先であるディアボロス株式会社に筋を通した後、慈善活動を行いなさい』と言うつもりなのが強引な口調になってしまった、と言う切り返しは可能だ。
そこまで思い直したラキアは、仕切り直しと頭を振った。
「つまり、だ。皆に援助する――彼らの言う『幸福にする』は本来、我らの業務であり、彼の行動はその妨害と捉えてしまった訳だ。無論、筋さえ通してくれれば私の業績になるし、それを拒むつもりはない」
「成る程」
一先ず、ラキアの言葉に納得したのか。彼女の言葉に村人達は一斉に頷く。
だが、胡乱な視線はそのまま、ラキアに向けられていた。
(「……彼らと話をする為に席を外してくれ、と言っても断られそうな雰囲気だな」)
――と。
「あー。えーっと。お医者さん……じゃなかった。親切な旅人さんってこちらでしょうか?」
声が割り込んできた。
いましがた到着した、との風を装う遠宮・秋(普通でも普通じゃなくても・g11768)の声であった。
「あたし達の手の届かないとこのご助力、ありがとうございましたー」
村人達と燐寧へ詰め寄る松本良順へ、ぺこりと頭を下げる。
敬意を示す彼女の態度が良かったのだろうか。村人達はあからさまに軟化した態度を見せていた。
「あ、そうそう。倒れたご婦人ですが、私達が病院に運んでおきましたよ。軽い貧血と眩暈だったようですが、パニックになって反応出来なかったみたいですね。直ぐに元気になるってお医者さんも太鼓判を押して下さいました」
嘘に嘘を重ねるのは心苦しかったが、しかし、このままでは収拾がつかないと判断した。
【友達催眠】も後押ししたのか。残留効果が通じないはずの松本良順はほっと息を吐き、村人達も「それは良かった」と口々に喜びを示していた。
そんな彼らの喜びの様子を、秋は複雑な表情で見つめていた。
まず想起するは、新選組の勘違いについて、だ。
(「そりゃあ、新選組からしてみれば、天魔武者との共闘は事実だからしょーがないとこはあるんだけどさ。内情はあいつらとあたしたち、どうするべきかでもう、ぐっちゃぐっちゃなんだよね。……新選組に対してはどうするべきなんだろ?」)
暗黒世界蝦夷共和国と言う枠組みを失った彼らは『幸福』の入手のためとは言え、心から人々に尽くしている。それは事実だ。
そして、その真摯な想いに村人達は感銘を受けたのだろう。村人達の中にしっかりと入り込んでいる。
(「そんな今現在の状況で、新選組の同意を得られないまま、一般人達を追い払おうとしても難しいよね」)
新選組も愚かではない。みすみすこの状況で一般人の人払いはしないだろう。彼らを人質にするしないは兎も角、一般人の存在が今、彼らの生命線であることは間違いないと理解するに十分な状態だった。
「ともかく、そちらの指揮官の人に内密にお伝えしたいことがあるのですが、少しお時間よろしいでしょうか?」
伝言があるから、ここで荒事を起こすつもりはない。
そんな言い訳じみた宣言を信じたのか、村人達は松本良順を秋の下に向かうよう、促すのだった。
「さてと。俺は俺で、村人達がこれ以上、新選組の下に向かわないようにする必要があるね」
広場での騒ぎが一段落したことを見計らい、文月・雪人(着ぐるみ探偵は陰陽師・g02850)は周囲を見渡す。
「さーて。ディアボロス株式会社です。日用品の販売に来ました! 寄ってらっしゃい、見てらっしゃい、だよ」
先に支援物質が届いていることは承知だが、商売はまた別だ。
支援物質で良しと考える者もいれば、より質の良い製品を求める者もいる。そして、それは雪人の狙い通りだった。新宿島技術起因の衣服や生活雑貨に釣られ、村人達が次々と雪人の下へと集まってくる。
そんな彼らに日用品を販売しながら、雪人は新選組に想いを馳せていた。
(「個人的には、協力出来る相手なら協力するのがいいと思うんだけどね」)
もはや暗黒世界蝦夷共和国がなく、『ディアボロスに協力する』と言う行動方針しかない彼らをどう扱うか。殲滅して後顧の憂いを断つのも戦略として有りと言えば有りだろうが、管理下に置くと言うのも一つの手段だ。
(「たとえば、共有しておくべき情報を伝える為のメッセンジャーになって貰うとか」)
ディアボロスが命じれば一も二もなく従いそうだ。それこそ『融合世界戦アルタン・ウルクにメッセンジャーとして行ってくれ』という命令であっても。……当然、新選組がアルタン・ウルクと融合されるリスクを天秤に掛ける必要があるが、まあ、それぐらいしてくれるだろう、と言う気がした。
(「ともあれ、コーサノストラがイデアロゴス側に寝返ろうとしている事は、急ぎ伝えておくべき内容だろう」)
領地をなくした新選組がその情報でどう動くかは判らないが、そんな気がした。
「……さてと。とは言え、松本良順達はどう動くだろうね」
広場での騒ぎ、そして、今、自分が販売行為をしている事で、新選組もディアボロスの到着は認識しているだろう。
時先案内人の予知に従えば、即座に逃亡を選択するようだが、復讐者達が接触した今、それがどうなるか。
人質を取る可能性がある、と言う時先案内人の弁もあったし、むしろ、今現在の状態が、村人を人質に取られている、とも言える。――おそらく、新選組にその意図がないような気がするが、村人の存在が彼らを守っている以上、その文言は嘘ではなかった。
(「村から逃れた彼らを追跡し、ある程度打撃を与えながら追い払えば……まあ、『対処した』になるのかな?」)
村の外で見張りと待機するサーヴァント――クダ吉に意識を飛ばしながら、雪人は村人相手に、日用品の販売を捌いていくのであった。
善戦🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
効果1【友達催眠】LV4が発生!
効果2【アクティベイト】LV2が発生!
【ガードアップ】LV1が発生!
【ダメージアップ】がLV2になった!
八栄・玄才
明智勢力だって持て余してる状況で、さらに追加の『仲間』が増えるのもって感じではあるんだよな〜
さりとて、こちらの役に立とうとしてくれてるヤツをにべもなくブッ倒すってのは気が進まないし、戦うならせめて気持ちイイ喧嘩ができるように、まずは対話でお互いを知るところから始めてみるか
剣呑な雰囲気を変えるため、村人に紛れて場に近づき、「あ痛てててててててっ!?」と叫んで、腹を抑えてうずくまる
あぁ〜、名医のセンセーがいるってんで隣町からやってきたのによぉ〜〜っ! 何やってんだこりゃ〜〜っ!?
"物騒な争いなんてしてないで"、オレを助けてくれよ〜っ
"問診"が必要だ〜〜!
オレを"連れていって"くれよ〜!!
苦しんでいる人がいれば村人はそちらを優先してくれるハズ
松本良順にはディアボロスとバレるだろうが、アイコンタクトを送り、助けを求める台詞の言い回しに「争いたくはない」、「会話(問診)をしてほしい」、「オレを連れてここを離れてくれ」というメッセージに伝わる可能性にかける
乗っかってくれたら助かるが、さてどうだ?
(「明智勢力だって持て余してる状況で、さらに追加の『仲間』が増えるのもって感じではあるんだよな~」)
八栄・玄才(実戦拳術最前線・g00563)が抱く想いは、なにも、彼独自の考えでは無い。
天魔武者――明智光秀率いる改竄世界史天正大戦国出身の歴史侵略者達を仲間に加えた義理もあれば、彼らを攻略に利用したと言う後ろめたさもある。後者は仲間と認めれば利用ではなく共闘だが、しかし、歴史侵略者達を仲間と呼ぶのに抵抗ある仲間がいるのも事実だ。
そこに更なる歴史侵略者、新選組が加わるのは更に問題をややこしくしそうで、些か抵抗感がある。
だが、経緯はどうあれ、今現在、復讐者の役に立ちたいと願う存在を機械的に処理するのは気が進まない。と言うか後味が悪い。どうしても戦うならば、せめて気持ちの良い喧嘩になって欲しいと願うのは、彼が武に生きる拳士であるが故か。
斯くして、新選組と村人、そして復讐者達が睨み合う広場へ、玄才もまた、訪れたのであった。
「あ、痛てててててててっ!?」
腹部を押さえながら蹲り、大袈裟な声を上げる玄才に、周囲にいた誰もが目を向けた。
取り分け、中でも反応が早かったのは例によってアヴァタール級新選組『松本良順』であった。
「どうしました?!」
村人の一員と誤解したのか。それとも復讐者が次から次に現れる状況を想定していなかったのか。無防備に駆け寄った彼女は、玄才の顔を覗き込む。
「め、名医のセンセーがここにいるって聞いて。なのに、なんでこんな……いてててててて!」
無論、玄才の叫ぶ苦痛は仮病であった。
だが、生来の人の良さか。それとも『幸福』を是とする新選組であるが故か。松本良順は玄才の肩を支えながら、まるでその仮病を看過していないような焦燥の声を上げた。
「お、お医者様のところに直ぐに連れて行きますね!」
(「あ、そうか。松本良順の名前だが、ここに医者としているわけじゃないんだな」)
玄才もまた、先の仲間達と同様の誤解をしていたのか。まあ、松本良順の格好はどう見ても看護師服アレンジの浅葱羽織だし、その勘違いは致し方なかったかも知れない。
だが、松本良順が医者であろうと無かろうと、玄才のやることは変わらなかった。
「物騒な争いなんてしてないで、オレを助けてくれよ~っ。問診が必要だ~~ッ! オレを連れていってくれよ~!!」
それぞれ、『物騒な争いなんてしてないで』『問診』『連れていって』に力を込め、言葉を発する。
玄才の言葉の意図は『矛を収め、対話に応じて欲しい。村人を巻き込まないためにここから共に離れて欲しい』と言う物だ。些か難解だが、それでも彼女の元となった松本良順が、新選組隊員や武士ではなく、医者、並びに政治家であったことを鑑み、通じて欲しいと願う。
「だ、大丈夫ですよ。直ぐお医者様のところに連れて行きますからね!」
果たして意図が通じたかどうか。
玄才の肩と膝を抱えるように腕を差し込んだ松本良順は、「よいしょ」と己が身体に密着させ、玄才の鍛え抜いた身体を抱え込む。所謂お姫様抱っこであった。
成人男性でも難儀そうな体格・体重の玄才を軽々と抱き上げるあたり、やはり新選組。常人の筋力ではなかった。
「この場は任せましたよ!」
豊かな胸部が玄才に触れ、ぐにゅりと歪むがそれを気にせず、彼女は駆け抜けていく。
残されたトループス級新選組『甲陽鎮撫隊』と村人達、そして復讐者達はただ、顔を見合わせるのであった。
(「まあ、あちらに合流するなら《救援機動力》があるから大丈夫か……」)
一連のやり取りは、そんな内心の独白で集束していくのであった。
成功🔵🔵🔵🔴
効果1【託されし願い】LV1が発生!
効果2【ダブル】LV1が発生!
「うん。病人は特に問題なかったようですし、良かったです」
急病人を病院へ担ぎ込んだその後、アヴァタール級新選組『松本良順』はほくほく顔で帰途に就いていた。とは言え、根無し草の新選組。今、帰る家があるでもない。
とりあえず、復讐者が来てしまったし、部下であるトループス級新選組『甲陽鎮撫隊』達と合流した後、村から逃げよう。
そんなことを脳内で思い描く逃亡計画は、しかし、次の瞬間には断念せざるを得なかった。
何故ならば――。
文月・雪人
俺は、人々を助ける彼らをここで討つべきとは思わない。
ここは話し合いで撤退して貰うと共に、
奪還戦でスムーズに協力出来る形に繋げたい。
良順さんは新選組の方だよね、榎本武揚さんはお元気だろうか?
出来れば彼に手紙を送りたくて、良かったら頼めないかな?
松本良順をお茶に誘おう。
村人から引き離せないなら一緒で構わない。
美味しいお茶とお菓子で親睦を深めつつ、
経済戦争の話を装って、情報交換を行いたい。
村人達を助けてくれてありがとう。
喧嘩腰の接触になってしまってごめんよ。
正直に言おう、新選組に対する俺達の方針は揺らいでいる。
蝦夷の人々を裏切る行為を見て、クロノヴェーダの価値観に改めて嫌悪を抱いた者もいる。
良順さんも身の危険を感じたかもしれないし、不安に思う部分もあるだろう。
だが人々の幸せな未来を願うなら、今はお互い疑心暗鬼になってる場合じゃない。
マキナさんが懸念していた真の敵の襲撃が8月に迫っている。
コーサノストラのアル・カポネは、真の敵側に寝返る気満々だ。
人々の未来と幸せを願うなら、俺達に協力して欲しい。
「やあ。新選組の良順さんだよね。榎本武揚さんはお元気だろうか?」
突如そんな声を掛けられ、松本良順は思いっきり飛び上がってしまった。そんな彼女に対し、村人達が「なんだなんだ?」と奇異な視線を向けている。
だが、声の主――ディアボロスの一人、文月・雪人(着ぐるみ探偵は陰陽師・g02850)は顔色一つ変えず、こう言ってのけたのだ。
「そこでお茶でもどうかな?」
成る程、と松本良順は悟った。
(「これは所謂ナンパと言う奴ですね!」)
因みにナンパの語源の軟派なる単語が生まれたのは明治時代のことであった――。
「いやー。流石カナダだね。珈琲にメイプルシロップたっぷりのホットケーキとか、判っているって感じだけど。……あ、良順さんはホットケーキ、大丈夫? 明治時代にはあったよね?」
「ど、どうも……」
平安鬼妖地獄変出身の雪人が、出自だけ見れば未来人の松本良順に慮っている光景は奇妙であったが、しかし、良順による彼の認識はあくまで最終人類史の復讐者だ。問題ない。
「コーサノストラはマフィアって言うかワイズガイが幅を利かせててね。俺達が何とか経済的に切り崩しているんだけど、そこにキミ達新選組がやって来たって処だよ」
フォークとナイフで器用に食する雪人に倣い、松本良順もまたマスクを外した口へホットケーキを運ぶ。大仰な程の甘味が、口いっぱいに広がっていった。
「……えっと?」
視線を雪人に向けつつ、警戒は怠っていない。臀部を庇っているのは……おそらく雪人の気のせいだろう。
ともかく、と彼はコホンと咳払いをした。
「村人達を助けてくれてありがとう。それと喧嘩腰の接触になってしまってごめんよ。……でも、俺から喧嘩を売るつもりは無い。これは本心だよ」
周囲を見れば、松本良順を気にしてか、一般人達が此方に注目している。この中で襲撃は出来ないし、おそらく松本良順が人目のつかない場所へ移動はしないだろう。それが行われるのは逃亡時のみ。おそらく、部下も同様だろう。
(「この状況で人目につかない場所に移動するのは迂闊だよね」)
浮かび上がった微苦笑を何とか飲み込む。
せめて中立な雰囲気を維持出来たのならば、と思う。ともあれ、今は何とも言い難かった。
だから、雪人は正直に言った。
「正直に言おう、新選組に対する俺達の方針は揺らいでいる」
暗黒世界蝦夷共和国の人々を『絶望』のエネルギーに変換しようとした断片の王マキナ・チカプカムイver.274に、嫌悪感を抱く復讐者は数多だ。歴史侵略者は人々をリソースとしか見ないとの観測者の言葉も脳裏に蘇ってしまう。
「俺達の態度に良順さんも身の危険を感じたかもしれないし、不安に思う部分もあるだろう。だけど、人々の幸せな未来を願うなら、今はお互い疑心暗鬼になってる場合じゃない」
雪人が良順に差し出したのは、一通の封書だった。
達筆で『榎本武揚様』と書かれている。ジェネラル級新選組『榎本武揚』宛ての手紙なのは明白だった。
「マキナさんが懸念していた真の敵の襲撃が8月に迫っている。その上、コーサノストラのアル・カポネは、真の敵――イデアロゴス側に寝返る気満々だ」
だからこそ、榎本武揚にこの手紙を渡して欲しい、と雪人は告げた。
「人々の未来と幸せを願うなら、俺達に協力して欲しい」
その瞬間、松岡良順はガタリと立ち上り、雪人の手を掴む。そして、感激の表情でこう言ったのだ。
「人々の幸せの為、この松本良順、粉骨砕身の想いで働く所存です! 是非ともディアボロスに協力させて下さい!!」
そして、彼女は宝石を預かるかのように、手紙を懐へとしまい込んだ。必ず榎本武揚へ渡す。そんな意気込みを感じ、雪人は満足げな微笑を浮かべるのだった。
失敗🔴🔴🔴🔴
文月・雪人
引き続き会話を
メッセンジャー役を快諾してくれてありがとう。
そういえば自己紹介がまだだったね。
俺は文月雪人、最終人類史のディアボロスだよ。
新選組の人達も、元は人間だったと聞いている。
良順さんは、覚醒時の事は覚えているのだろうか?
困難を前に人々の幸せを護りたいと願ったなら、
俺達の本質はそう遠いものでは無いのかもしれないね。
復讐者には、クロノヴェーダに強い憎しみを持つ者は多い。
実際どうやって協力出来るのか対応の先行きは不透明だけど、
共に進める道を願う者も居る事は、どうか知っていて欲しい。
今後の動きについても話を。
攻略状況についてここで詳細は話せないけど、8月に向けて戦局が大きく動くのは間違いない。
一般人を意図せず戦渦に巻き込まない為にも、一般人への直接的な接触は控えて欲しいと伝えよう。
戦力は分散させず、必要に応じて動ける様に、備えておく方がいいのかもしれない。
可能なら榎本武揚の居場所を聞いておきたいけど、警戒はしてるだろうし無理にとは言わない。
改めて宜しくとお願いし、無事を祈り撤退を見送るよ。
八栄・玄才
ハッ!? まさかお姫様だっこされるとは思ってなくて、病院まで運ばれてしまった
仲間が松本良順と話しているところに、オレも向かうぜ
チィース〜……、さっきはどうも(ちょい気まずい)
ごめんね、騙して
いやまさか、復讐者と気付かれねぇとはだ
まあ、ともあれ、オレとしてもここで争うつもりもないが、いくつかおたく等に釘は刺しておきてぇ
まずオレ達は明智勢力に対して"降伏を受け入れて戦力化した手前の義理"と"クロノヴェーダとの共存困難性"の間でけっこー苦慮してる
だから義理ができる前に警告させてもらうが、オレ等に付いても、最悪、人類側の一方的な都合で処分されるかもしれねぇぜ?
おたく等はそれでイイのかよ?
……新選組は元から『最終プログラム』で死ぬつもりだったみたいだし、コーサノストラがアレじゃ他に選択肢がねぇのも分かるが
でも例えば、チカプカムイの仇だと、オレ等と戦うなんて道もあると思うぜ
まっ、とりあえず榎本にはその辺り考えてくれと、伝えておいてくれや
いや、榎本だけじゃなくて、おたく自身にも考えてほしいよ、良順さん
「メッセンジャー役を快諾してくれてありがとう」
にこりと微笑んだまま、文月・雪人(着ぐるみ探偵は陰陽師・g02850)は片手を伸ばす。流石にここまでして、奇襲はないと踏んだのか。アヴァタール級新選組『松本良順』も手を差し出し、握手を交わした。
「そういえば自己紹介がまだだったね。俺は文月雪人、最終人類史のディアボロスだよ」
「は、そう言えばそうでした! 松本良順。元、暗黒世界蝦夷共和国のアヴァタール級新選組です」
既に何度も良順の名を出していた雪人に対し、それでも律儀に名乗り上げる松本良順。実直だなぁ、と思ってしまう。
(「これが演技ならば、大したものだけど」)
まあ、人間が多種多様なように、歴史侵略者もまた多種多様だ。それに、彼女が意外と強かであることは、その行動からも理解している。
如何に無害に見えても油断は出来ない。もっとも、それは戦闘に於いてであり、ジェネラル級新選組『榎本武揚』への伝言役を請け負ってくれている今、彼女に相応の危険は無いようにも思える。
「新選組の人達は、元は人間だったんだよね」
そこが、彼女達新選組と、他の改竄世界史の歴史侵略者との異なる点だ。
新選組はそのような進化を辿ったと、聞いている。一般人の中で素養のある人間が覚醒し、歴史侵略者となる。それが暗黒世界蝦夷共和国と言う改竄世界史の歴史侵略者という存在だ。それは『幸福』という弱いエネルギーを選んでしまった初代断片の王『チカプカムイ』の罪責であり、代償だったと、マキナ・チカプカムイver.274は語っていた。
だから、雪人は思う。彼女達は人の心が判るのではないか、と。
或いは――理解して貰えるのではないか、と。
「困難を前に、人々の幸せを護りたいと願ったなら、俺達の本質はそう遠いものでは無いのかもしれないね」
「そうですね。人を幸福にしたいと思う気持ちは誰もが持ち得る物です。私の様なクロノヴェーダでも……」
しんみりと松本良順が呟いたその時だった。
「チィース~……、さっきはどうも~」
ドアに備え付けられたカウベルを鳴らし、喫茶店に入ってきた男性がバツの悪そうな表情をしていた。
先程、松本良順に運ばれた最終人類史の復讐者、八栄・玄才(実戦拳術最前線・g00563)であった。
「ごめんね、騙して。いやまさか、ディアボロスと気付かれねぇとはだ」
「お腹を痛めて苦しんでいる者に、一般人もディアボロスもありません」
そして、はて? と小首を傾げた。
「あ、まさか、騙すって仮病でしたか?!」
憤慨、と松本良順は荒い息を吐く。どうやら玄才が復讐者であるとは看破した物の、演技を見通すことは出来ていなかったようだ。
「……あ、そっちね」
ボリボリと後頭部を掻いた玄才は、一言断りを入れると、どかりと椅子に腰を下ろした。
戦う気は無い、とばかりに身体を椅子に預けた玄才は、それでも鋭い眼光を松本良順へと叩き付ける。
「まあ、ともあれ、オレとしてもここで争うつもりもないが、いくつかおたく等に釘は刺しておきてぇって思ってな」
鋭いのは眼光のみならず。玄才の弁舌もまた、鋭利な刃物の如く、松本良順へと突き付けられていた。
「明智勢力について知っているなら話は早ぇ。まずオレ達は、明智勢力に対して『降伏を受け入れて戦力化した手前の義理』と『クロノヴェーダとの共存困難性』の間でけっこー苦慮してる。
だから、もしあんたらが受け入れを望んでいるならば、あんたらに対して義理が出来る前に警告させて貰うが、オレ等に付いても、最悪、人類側の一方的な都合で処分されるかもしれねぇぜ? あんたらはそれでイイのかよ?」
「……そうだね。俺達ディアボロスの中には、クロノヴェーダに強い憎しみを持つ者は多い」
それは、明智光秀達天魔武者やキミ達新選組に限らずだけど、と雪人が補足する。
「実際、どうやって協力出来るのか対応の先行きは不透明だけど、共に進める道を願う者も居る事は、どうか知っていて欲しい」
「……新選組は元から『最終プログラム』で死ぬつもりだったみたいだし、コーサノストラがアレじゃ他に選択肢がねぇのも分かるが、でも例えば、チカプカムイの仇だと、オレ等と戦うなんて道もあると思うぜ」
共に歩みたいと望む雪人と、道を自分で選択して欲しいと告げる玄才。
二人の言葉に、松本良順は是と頷いた。
「まず一つとしまして、アヴァタール級である私に決定権はありません。お二人の言葉を榎本様に伝え、判断を仰ぎます。……榎本様はディアボロスとの対話を望んでいました。出来ればそれが実現すれば、と思います」
「……そうだね」
松本良順の言葉は真摯なもので、雪人の望みと合致する。だが、それは雪人だけの望みだ。少なくとも、多くの復讐者の支持を得なければ、その対話――会談は成立しないだろう。
「次に、貴方様の言葉ですが……」
玄才を見つめる松本良順の眼に、怖れの色はない。仇討ちと襲い掛かれば自身にあるのは滅びの行く末のみ。それを理解している目であった。
「ディアボロスの力になる事が、マキナ様の遺志です。少なくとも、我らは、その意志に従っています。故にディアボロスの為にエネルギーを捧げて死んだとしても悔いはありません」
ですが、と彼女は表情を和らげて言った。
「ですが、一般人の幸福を力とする我らならば、生きてディアボロスの力になる事も出来る、と思っています。無論、『利用価値はない。ただ滅ぼす』と言う選択肢が皆様にあることも承知しています」
そして、選択肢ついでに、と彼女は言葉を続けた。
「もしも天魔武者の存在に憂いているのならば、こういう選択肢もあります。ジェネラル級天魔武者を全て滅ぼせば、榎本様が残りの天魔武者を――アヴァタール級天魔武者とトループス級天魔武者を掌握することも可能です。そうすれば、皆様の憂いを一つ、消すことも出来ます」
「それは……」
平然と言い放つ松本良順の言葉に、玄才は呻き声を上げた。
歴史侵略者はより上位の存在である歴史侵略者に逆らえない。その前提なら、確かに彼女の言葉は真実だった。ジェネラル級天魔武者達が健在な内ならばそれは不可だが、それらが居なくなれば、ジェネラル級新選組の力を使って、アヴァタール級以下の新選組を好きな様に扱える。
だが、その言葉は余りにも――。
「無論、逆も然りです。榎本様を滅ぼし、我々を明智光秀に従わせる、と言う事も可能です。その場合は、憂いを消せぬやも知れませんが」
「選択肢の一つ、と言う事だね」
手の内を全て見せることが信頼の――否、幸福の証しと信じているからこその言葉に、雪人は微苦笑を浮かべた。
幸福を口にしていても、彼女もまた歴史侵略者なのだ。価値観は復讐者と異なる。その価値観の相違こそが復讐者と歴史侵略者の違いなのだ、と理解せざるを得なかった。
「良順さんは滅ぶのが怖くないのかな?」
「人々を幸福に出来なくなるのを恐ろしいと言えば、そうですが」
雪人の言葉に対し、松本良順は大仰に首を振る。その顔は、「何を言っているのか判らない」との表情にも見えた。
「……ああ、そうか」
クロノヴェーダは人をただの資源、リソースとしか思えなくなった存在だ、と絶滅人類史のディアボロスこと『観測者』は言った。おそらくそれは人だけでなく、歴史侵略者という存在――同胞や自分に対しても同じなのだろう。
(「彼らはそれを『愛を持てなくなった存在だ』と言ったっけ?」)
ならば、歴史侵略者と復讐者、一般人の差違は――。
「兎も角、榎本武揚に伝えて欲しい。8月に向けて戦局が大きく動くのは間違いない。一般人を意図せず戦渦に巻き込まない為にも、一般人への直接的な接触は控えて欲しい。……そうだね。戦力は分散させず、必要に応じて動ける様に、備えておく方がいいのかもしれないね」
首を振り、雪人は微笑と共に告げる。
「そうだな。とりあえず、榎本にはその辺りを――俺の考えも含めて『考えてくれ』と伝えておいてくれや。……本当は榎本だけじゃなく、おたく自身にも考えて欲しいよ、良順さん」
「ええ。全て伝え、考えてみます。それが、皆様の幸福のためなら」
「……頼むよ」
何処まで通じているか。それは判らなかったが、心に響いていて欲しいと玄才は嘆息した。
――斯くして、復讐者達は去りゆく新選組を見送る。
果たしてこの会話が後にどの様な影響を及ぼすか。
それは、まだ、彼らの知るべき処ではなかった。
失敗🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴