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「病院」と名乗って大反響、開業時は2年待ち…月100体・年商3600万円を稼ぐ「持ち主にやさしい」ぬいぐるみビジネスの舞台裏

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ぬいぐるみ病院
杜の都なつみクリニック院長の箱崎さん。ぬいぐるみがカメラ目線になるように撮ってもらうのがこだわりだという(写真:筆者撮影)

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ぬいぐるみを連れ歩いて一緒に写真を撮ったり、同じ景色を見たりする「ぬい活」。その人気はすさまじく、東京商工リサーチの調査によると、ぬいぐるみの販売・サービスなどを主な事業とする34社の業績は大きく拡大しているそうだ。実際、2025年の売上高は849億円、最終利益は54億円。2021年の売上高が504億円、最終利益が28億円だったことからも、その成長具合がわかるだろう。

そんなぬい活を牽引するひとつの要因となっているのが、ぬいぐるみの「擬人化」だ。ぬいぐるみを単なる「物」でなく、「家族」だと考える人が増えたことにより、クリーニングや修理、ぬいぐるみ用の服、連れ歩き用ポーチなど、ぬいぐるみの周辺事業も拡大している。

そのひとつに「ぬいぐるみ専門病院」がある。壊れたり汚れたりしたぬいぐるみ専門で修理を受け付け、丁寧に修復・クリーニングする工房だ。前編では、ぬいぐるみ専門病院「杜の都なつみクリニック」での、筆者の家族とも言えるぬいぐるみ「ドラ・ザ・キッド」の診察と入院について紹介した。後編となる本編では、院長の箱崎さんに、どうしてぬいぐるみの病院を始めたのか、どのように経営されているのか、ビジネス面を取材する。

「ぬいぐるみは家族」わらにもすがる気持ちで修理を依頼する

「私はぬいぐるみが好きなんです」

そう話してくれたのは、杜の都なつみクリニック院長の箱崎さん。服飾の専門学校を卒業後、東北のオーダーメイドサロンで勤務していたそうだ。その後転職し、洋服の修理を受け付ける洋裁店で働いたことが、ぬいぐるみの専門病院を開設したきっかけだったという。

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「私が働いていたお店では、布に関するアイテムならどんなものでも修理を受け付けていました。そのなかにぬいぐるみもあったんです」

杜の都なつみクリニックのような、ぬいぐるみの修理を専門とした企業が登場し始めたのは、2016年ごろ。それ以前はぬいぐるみを修理してくれる店は希少で、あらゆる手段で検索した人が、わずかな可能性にかけて「わらにもすがる思いで」修理を依頼しにくるのが常だったという。

「ぬいぐるみの修理をご依頼されるお客様はみんな一様に『どうしても直してあげたい』とおっしゃるんです。洋服の修理では見られない姿を見て、『ああ、ぬいぐるみはお客様にとって家族のような存在なんだな』と感じました」

修理の専門業者がないということは、ぬいぐるみ修理の手法が体系化されていないことを意味する。そのため、当時の箱崎さんは1体ずつ手探りで修理を行っていたそうだ。

「ひと口にぬいぐるみといっても、使われている素材やパーツはさまざまですし、一体ごとに壊れ方も違います。別のぬいぐるみを直したやり方が次のぬいぐるみには通用しない。だからこそ、ぬいぐるみの修理は試行錯誤の連続でした」

確かに、筆者が持っているぬいぐるみひとつとっても、布の素材はファーやデニム、ベロアとさまざまだ。布が違えば汚れ方や劣化具合、縫い方だって違うのだろう。たとえマニュアルがあったとしても、一元対応できるわけがない。

「布アイテムの修理を通して、一番やりがいを感じたのがぬいぐるみの修理だったんです。洋服のお直しでは受け取りの際『ありがとね』と言われることが多かったのですが、ぬいぐるみの修理では『本当にありがとうございました!』と熱量いっぱいで感謝されることが多くて。ああ、ぬいぐるみを大切にする人がたくさんいるなら、私が持っている技術を使って修理してあげたいなと感じるようになりました」

そうして「ぬいぐるみ専門病院」を設立し、独立を果たした箱崎さん。「修理屋」ではなく、「病院」としたのは、できるだけ人間のようにぬいぐるみを扱いたかったからだという。

ぬいぐるみはみな、とても快適そう…

「ぬいぐるみといえど、ただの物でなく、ご依頼者様の家族の一員なんですよね。みなさんの大切な家族だからこそ、まるで病院に入院するかのようにお預かりしたい。そして、入院中はできるだけ快適に過ごしてほしいと考えています」

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杜の都なつみクリニックのHPではぬいぐるみの入院中の様子を掲載している。彼らが非常に快適そうに過ごしている姿が印象的だ。

入院していたヤドンのぬいぐるみ。エステを受けて体の汚れを落としている。良いトレーナーに恵まれたようだ(画像:杜の都なつみクリニック公式サイト)
エステを受ける前のヤドン(画像:杜の都なつみクリニック公式サイト)
エステを受けた後のヤドンと付き添い入院のヤブクロン(画像:杜の都なつみクリニック公式サイト)

エステからホワイトニングまで充実の「入院・治療プラン」

ぬいぐるみたちはいずれも、とても快適そうな環境で、しっかりきれいにしてもらっている。「ぬいぐるみは、依頼者にとって家族のような存在だ」と認識したうえで、愛を持ってぬいぐるみを治療してくれているからこそ、これほど入院生活を満喫しているように映るのだろう。

では、そんなぬいぐるみ専門の入院費はどのようになっているのだろうか。料金表を見てみよう。

全長

入院費用

~25cm

7700円

~40cm

9900円

~70cm

1万4300円

~100cm

1万7600円

~140cm

2万5300円

~170cm

3万800円

~200cm

3万6300円

~230cm

4万1800円

(杜の都なつみクリニック公式サイト料金表より作成)

なるほど、ぬいぐるみが大きければ大きいほど料金がかかるというわけだ。ちなみに、230cm以上のぬいぐるみに関しては、それ以降30cmごとに追加で1万1000円が加算される。

また、上記の金額は、あくまで基本サービスの料金となっている。基本サービスの内容はかなり充実しているため、基本料金内のみで治療を依頼しても満足のいく仕上がりになるだろう。具体的には、以下の内容が基本サービスに含まれる。

・入院時の病室設置
・診察費用(対面の場合は3300円)
・検査費用
・お風呂エステ
・美白ホワイトニング
・毛並みさらさらストレートピーリング
・中綿交換or古綿再利用
・お顔の調整リフト使い放題
・完治後の体形・表情確認チェック2回分

それに加えて杜の都なつみクリニックでは、ボロボロになってしまったパーツの交換や修理など、豊富なオプションも提供している。

目のパーツの治療に関する説明資料。くすんでいた目を研磨することで、反射で背景が映り込むほどぴかぴかになる(画像:杜の都なつみクリニック公式サイト)
ぬいぐるみの中にワイヤーを入れて動けるようにする治療もある(画像:杜の都なつみクリニック公式サイト)
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入院費用がわかったところで、気になるビジネス面についても踏み込んだ疑問をぶつけてみた。前編で紹介したとおり、筆者のぬいぐるみの入院費は合計1万8370円だった。治療の過程で追加作業が発生すればプラス料金がかかるとはいえ、2万円程度に収まっている。

当然ぬいぐるみの状態によって価格は変動するが、平均入院費用は約3万円だという。月100体を受け入れているため、単純計算で月商300万円、年商3600万円となる。ちなみに、歴代最高入院額はなんと80万円にも及んだそうだ。大金を払ってでも「直してほしい」と依頼する人がいるのだから、ぬいぐるみの治療ビジネスは現代において必要な事業と言える。

開業時は驚異の「2年待ち」だった…全工程手作業の裏側

決して安くはない金額が発生するにもかかわらず、治療の依頼は後を絶たないという。クリニック開設時には、なんと最長2年待ちの状態だったそうだ。

当時はわずか4人で対応していたため、長い待ち時間が発生してしまったのだ。そこからスタッフを倍増し、8人体制となった2026年6月時点では、4カ月待ちにまで短縮。だが、それでも多くのぬいぐるみが治療を待っている状態だという。

「杜の都なつみクリニックでは、月に100体のぬいぐるみの治療を受け入れています。しかし、一人ひとり全工程を手作業で治療しているため、どうしても退院までに時間がかかっているのが現状です」

治療現場を覗かせてもらったが、ミシンで慎重に縫い合わせたり、設計図を引いて治療箇所を確認したりと、ぬいぐるみを1つずつ手作業で治療していた。

ぬいぐるみを治療する様子。病院のように白衣を身に着けて治療しているのが印象的だ(写真:筆者撮影)
入院するぬいぐるみを撮影し、その様子をHPに掲載するための撮影場所(写真:筆者撮影)
筆者が依頼したぬいぐるみの入院に向け、HP掲載用の写真を撮影する様子(写真:筆者撮影)
付き添いにドラえもんがいるので、ネズミのぬいぐるみには遠慮してもらった。こうした要望も聞いてくれるので、より安心して預けられる(写真:筆者撮影)
こうして1件ずつ治療過程を撮影してくれるので、入院に時間がかかるのも納得だ(写真:筆者撮影)

しかし、依頼(申し込み)から診察(見積もり)まで約4カ月はそれでも長い。どうして依頼が後を絶たないのか。そこには、ぬいぐるみを人間同様に入院患者扱いすることで、徹底的に依頼者の不安を解消する仕組みがあった。

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前編でも紹介したとおり、杜の都なつみクリニックでは、ぬいぐるみの入院中の様子をHPから確認できる。今どんな治療を受けているのか、どんな状態だったからどんな治療が必要なのかといったことを、細かく更新・お知らせしてくれるのだ。こうして本来デメリットである“治療の待ち時間”が一種のエンタメになっているため、待ち時間すらも楽しみに変わるシステムになっている。

だがこれにはかなり人件費がかかりそうだが、大丈夫なのだろうか。

ぬいぐるみ専門病院を支える「脱・ブラック」な職場づくり

「確かに経営のなかで最も多くの支出を占めるのは人件費です。ですが、これには当社なりのこだわりがあります。私が働いていた時代、服飾関連の仕事のほとんどが今で言うブラック企業でした。最低賃金以下で働く人も少なくありませんでした。だからこそ、こうしたブラックな労働環境を変えたいと強く思っていました」

そもそも、ぬいぐるみを治療してくれる人たちがブラックな環境で搾取されているなんて、想像もしたくない。依頼者の立場からすると、気持ちよく依頼するためにも、治療するスタッフが健全な環境で働いていてほしい。

「ご依頼者さまの大切なご家族をお預かりするからこそ、当社で働いてくれる人には、できるだけ幸せな気持ちで働いてほしいんです。実は当社のスタッフには、私が専門学校で一緒に学んだ同級生もいます。だからこそ、産休・育休・有給休暇と、スタッフが気持ちよく働ける福利厚生を充実させています」

さらに、今後は入院までの待ち時間を減らすため、人を増やして治療体制の強化を行っていくという。

「開業当初より待ち時間が短くなったとはいえ、今なお多くのぬいぐるみが治療を待っている状況なので、本社の近くに治療専用の店舗を構え、より多くのぬいぐるみを治療できるよう体制を整えていきます」

ぬいぐるみ市場が拡大している今、ぬいぐるみ専門病院はより多くの人に求められていくだろう。消耗品であるぬいぐるみが人間のパートナーとして大切にされ、定期的に病院に入院してきれいになって家に帰るのが、当たり前になる未来が近づいているのかもしれない。

《合わせて読む→→》前編:「できる限りのことをしてあげて」25年連れ添ったぬいぐるみの"入院代"1万8370円を、30歳女性が超納得して払えたワケ

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