大阪地検元トップによる性暴力、組織による二次加害の末に辞表…被害女性検事が語った事件の全貌「もう犠牲者を出したくない」【前編】
大阪地検トップだった北川健太郎元検事正が部下の女性検事・ひかりさん(仮名)に性的暴行を加えたとして、2024年に逮捕された。北川被告は初公判で起訴内容を認めて謝罪したが、その後、無罪を主張。事件後、ひかりさんはPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症。同僚や組織による二次加害の苦しみを訴え、今年4月に辞表を提出した(退職手続きが完了していないため、現在も検事)。
6月9日、この問題について検察に第三者委員会による検証を求める院内勉強会が、森まさこ元法務大臣や稲田朋美元防衛大臣など有力議員らの参加のもと、ひかりさんも出席して開催された。その後、議員会館で開かれた記者会見ではひかりさんが、事件の詳細やその後に受けた二次加害、家族への思いなどを声を詰まらせながら約30分にわたって語った。その内容を2回にわたって、できるだけ詳細に紹介する。
構成:伊藤亜衣(ジャーナリスト)
大阪地検800人のトップの検事正による性加害
「本日、私が生きてこの場にいられるのは、家族、支援をする会のみなさん、集まったメディアのみなさん、(弁護士、政治家)先生方、たくさんの市民、国民のみなさんが『ひとりじゃない』、『そばにいる』と声をあげ続けているおかげです」
会見冒頭、ひかりさんは、涙混じりに声を振り絞るようにあいさつすると、そこからは感情を抑えるようにゆっくりと話し始めた。
もうこれ以上、検察による犠牲者を出したくありません。何卒私たちの声に耳を傾けていただき、私たちを助けていただきますよう切に願います。本日は精一杯お話しさせていただきます。
今回の事件は、単に北川の、検事正による性加害ということだけでなく、検察組織としての犯罪・不正になります。検事正による職員への性的暴行のほか、副検事による捜査妨害、名誉毀損が起き、そして検察庁がこれらを隠蔽するために私に対する職員への安全配慮義務違反、人事院規則違反、公益通報者保護法違反、被害者参加人の権利侵害などと組織的に連鎖的な犯罪・不正が行われています。
まず検事正とはどういうものなのかということを簡単にご説明します。大阪地検の検事正は大阪府内の犯罪を捜査、起訴・不起訴の処分を決定し、裁判所に裁判を求める責任者です。大阪地検の職員は約800名いて、指揮監督し、人事、事件の決裁、すべての監督権限、決定権限を持ちます。
最上位の責任者として部下職員に対し、安全配慮義務を負います。自らも犯罪行為だけでなく、ハラスメントを行わない義務を負います。これに反すれば懲戒処分、刑事罰を受けます。ハラスメント防止のため、異性の部下職員と2人きりでの酒席は厳禁とされていました。また、部下職員に対し、犯罪やハラスメントをしてはならないという防止・排除のトップにありました。
セクハラを指導する立場にいた北川元検事正
私たち国家公務員は人事院規則で縛られています。こちらにはセクハラの定義が書かれています。
セクハラに当たるか否かは相手の判断が重要であること。セクハラに当たるかどうかは相手からいつも意思表示があるとは限らないこと。職場の人間関係がそのまま持続する歓迎会の酒席のような場において、職員が他の職員にセクハラを行うことは、職場の人間関係を損ない、勤務環境を害するおそれがあるから、やってはならない。セクハラを受けた者が、職場の人間関係等を考え、拒否することができないなど相手からいつも明確な意思表示があるとは限らないことを十分認識する必要がある。このように定められており、北川はこれを指導する立場にありました。
国家公務員は、国家公務員倫理規程で倫理行動規準が定められています。職務や地位を私的利益のために用いてはならない。国民の疑惑や不信を招くような行為をしてはならない。勤務時間外でも公務の信用への影響を認識して行動すること、などが定められております。
「仕事上の恩師という関係だった」
北川と被害者である私の関係性について話します。北川は部下職員を監督する検事正であり、私は役職にも就いていない平の検事です。単なる上司と部下で、修習期は何十も下になります。直属の上司と部下の関係は随分前の半年間のみでした。
以降、上司と部下の関係であり、年に1回も会っておらず、複数の職員が参加する懇親会に参加する程度で、私は北川と検察庁の庁舎の外で2人きりで会ったこともありませんでした。
北川は事件当時60歳。妻子、そして孫もいました。妻は自宅、北川は単身で検事正官舎に居住していました。私は事件当時、夫と幼い子供があり、優しくてかっこよくて、頼りがいのある夫との関係は良好で、夫の全面的な支援を受けながら仕事、子育てに奔走しておりました。
それまで淡々と語っていたひかりさんだが、家族の話になると涙をこらえきれず、声を震わせながら話を続けた。
私は元々幼い頃に自分が性犯罪被害を受けたりしたことがきっかけで、「被害者を救いたい」という思いから検事に任官しました。ですから、「被害者と共に泣き闘い、犯罪者を適正に処罰し、再犯を防止し、被害者の回復の一助となり治安を守る」、この信念のもと私は懸命に仕事をし、上司から評価され、順調にキャリアアップしておりました。
私にとって北川は仕事上の恩師であり、しかし、仕事を離れたら全く好みでもない何の興味もない、ただのひとりの高齢者でした。私が北川との性交に同意することはなく、北川が私との性交を期待しうるような関係も全くありませんでした。
官舎に連れ込まれ3時間に及ぶ暴行
事件は2018年、北川の検事正就任を祝う懇親会が直前にありました。参加者は6名。北川、私、その他検察職員が3名、検察で研修を受けている警察官が1名でした。そのうちの1人が当時、北川の秘書も務めていた当時の検察事務官でした。現在は副検事になります。
私は普段から仕事や子育てに奔走していたため、お酒を飲んでおらず、酒の耐性がありませんでした。その日は、北川がボトルキープしていた焼酎をほとんど水も入れずにロックの状態で飲まされ、泥酔してしまいました。
1人で歩くこともできず、北川と副検事に支えられながらタクシーに乗せられました。私は何の記憶もありませんが、北川から二次会に誘われ、私は「1人で帰る」と言ってタクシーの中で眠っていたようです。
暴行時の話に及ぶと、ひかりさんは涙を浮かべ、何度も言葉を詰まらせながら当時の状況を語った。
北川が強引にタクシーの中に乗り込み、私を検事正官舎に連れ込みレイプしました。
私はレイプの最中に目が覚めました。この現実を受け止められませんでした。
検事正からレイプされているこの事態に驚いて怖くなって、抵抗したら殺されるんじゃないかと凍りついてしまい、強く抵抗もできなかった。泥酔していたので頭を上げることもできず、しかし「夫が心配しているので帰りたい」と何度も何度も訴えましたが無視され、「これでお前も俺の女だ。裸を見れて感動」などという言葉と共に3時間レイプされ続けました。
解放されたのは夜中の2時でした。私は帰って、幼い子供を抱きしめながら、泣きながら眠りました。
「公表すれば自死する」と口止め、PTSDで休職
私がそういうふうに酔っ払っていたということは、翌日参加者から聞いて知りました。北川を責めました。「なぜ部下で北川を慕っていた私をこんなにひどい目にあわせたのか」と責めました。
北川は謝罪し、「警察に突き出して」というふうに言いましたが、私は知られたくなくて、自分の職を失うのが怖くて誰にも言えませんでした。誰にもではないですね。1人言いましたけども、それ以外には言いませんでした。
北川はそのあと1年、罪を隠して検事正を務めるわけですが、私は自分が検事として、「犯罪者を検事正として人の処罰に関わらせることは許せない」と思い、北川を被害申告すると言い、北川にその旨を告げました。
すると北川から「公表すれば検察組織や職員に迷惑がかかる。検事総長以下の辞職に追い込まれる。自死する」というふうに脅迫、口止めされ、怖くて被害申告できなくなりました。
北川は罪を隠して辞職し、退職金を全額支給され、弁護士になりました。本来は懲戒免職になっていたはずですが、罪を隠してその後も検察幹部らと交流を続け、検察への影響力を持ち続けました。私は痛みを抱えながら検事の仕事をやっておりましたが、PTSDが悪化し、休職に至りました。
そして2024年3月に「自分の尊厳を取り戻し、大好きな検事の仕事に戻りたい」と思い、被害申告しました。北川はその6月に逮捕され、7月に起訴され、私はほっとしました。
職場にちょっとずつ戻ろうと思い、出勤の練習をしていたところ、実は私の職場に北川の事件を潰そうとして様々な捜査妨害をし、秘匿されていた私の実名や誹謗中傷をあちこちに拡散していた副検事がいたということになります。
復帰した職場を襲った二次加害
職場に復帰しようと思っていたひかりさんをさらに苦しめたのが、この副検事や組織による二次加害だった。今回の会見でも、ひかりさんはこの副検事が北川元検事正と特別に親しい関係にあったと何度も強調。検察当局もそのことを認めていたという。
検察は当初からその関係などを把握していたにも関わらず、副検事を一切捜査もせず調査もせず処分もしませんでした。加害者・被害者を分離するのは安全配慮義務上当然のことですが、私の部署、私と同じ部屋、ほぼ同じ部屋から副検事を分離もせず、隠蔽していました。
私は、たまたま副検事から私の氏名や誹謗中傷を聞いた人から情報提供があり、副検事がそういう暗躍をしていたことを知りました。検察に「なぜ彼女を放置しているのか」「なぜ私の職場から異動すらさせないのか」と問いましたが、検察は一切説明をしません。
「副検事と同じ職場の何が怖いの」と言って副検事を異動すらさせませんでした。
そしてその後、捜査や調査を求めましたが、副検事の捜査や調査はされず、処分もされませんでした。
検察に何を言っても声が届かないため、報道機関に公益通報せざるを得ず、初公判のあとに初めて記者会見を行い、副検事のことについて、また検察がそれを隠蔽していたことについて、公益通報しました。
検事正としての地位や知識を悪用した
副検事は勝手にやっていることではなく、北川と通じて証拠を隠滅したり、私が虚偽申告した事件なんだという嘘の話をしたり、様々な捜査妨害をした上で、私の実名や誹謗中傷を拡散しました。
北川は自身の罪について第1回(公判)で認めていましたが、私がその後副検事を告訴したりしたことで、北川も否認に転じ、第1回公判以降、現在まで公判は再開されておらず、期日間整理手続きになっております。
この事件は、単なる酔いの席で被害を受けたのではなく、検事正としての地位にある影響力を悪用、性犯罪事件の捜査・公判、性犯罪被害者の心理や心的外傷に精通した経験・知識を悪用というところがポイントになります。
北川は性犯罪被害者が被害に直面した際、被害者は凍りつき抵抗困難になること、被害申告も困難であることを熟知してました。私が被害を受けても抵抗できない、被害申告できないことを熟知した上で事件を起こしていたのです。また、お酒を飲んだら脳や体に与える影響というのも当然熟知してます。これを悪用していました。
事件後、二次加害はさらに続いた。明日6月30日公開の後編では、ひかりさんが「不都合な情報は隠す」と訴える検察組織の対応や、副検事をめぐる問題、第三者委員会の設置を求め続ける理由、そして辞表提出をせざるをえなくなった経緯を詳しく伝える。
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誠実に、忠実に、取材内容をお伝えくださり、たいへん感謝します。本件の動向を注目していますが、ひかりさんの貴重な発言が、字数制限致し方なく、正しく知ることのできない記事も多いですが、こちらでしっかり取り上げてくださいました。 問題の後半も、期待しております。