第三の新情報、100万円以上の月収と160円の残高…司法の死角と1分間の生配信
高野は令和5年8月に佐藤に対して民事訴訟を提起し、同年12月19日に勝訴判決を得ている。だが、債務名義を手にした男が直面したのは、ただの無慈悲だった。最高位の「プラチナクラス」に君臨し、月収100万円以上を稼ぎ出しているはずの口座を差し押さえた結果、残高は、わずか160円余りであった。
男はさらに令和6年12月3日に第三者財産開示請求を申し立てる。令和7年1月31日、裁判所の厳粛な空気の中で開示手続が行われ、そこで佐藤が述べた弁解は、高野の淡い期待を粉砕する。
「配信での収入の7割は事務所に入り、残りも社長への借金返済で引かれるため、手元には数万円しか残らない」
この財産開示の後、高野が相談相手である友人Bさんに送ったLINEである。もはや初公判での反省の弁からは想像もつかない殺意がBさんへの文面に宿っていた。
「返ってこないならもうどうでもいいですね。だんだん腹立ってきた。もう俺の人生はどうでもいい。あいつには苦しんでほしい」
さらに高野を追いつめる。ある日、佐藤からの突然の着信があった。電話口に出たのは佐藤の婚約者を名乗る男。男は高野に対し、「ネットに貸金のことを書いたら違約金として300万円を請求する」と言い放った。高野は警察に駆け込んだが、民事不介入を理由に門前払いを食らう。月7万円の障害年金とわずかな労賃で暮らす男にとって、300万円という数字は命の剥奪だった。
そして事件の4日前、令和7年3月7日。佐藤はSNS上で別の男との婚約を発表した。BさんはLINEで「投げ銭した分もあるけど、150万貸してて、事務所の社長から100万円搾取されてたという話。恐ろしい女は怖すぎるね」と送り、高野は「死んでくれないかな。死んでほしい」と返した。
ここからの検察官が示した時間軸は、劇的なまでに殺意の軌道を描いている。
令和7年3月10日夜。佐藤は「高田馬場」というタイトルで動画を生配信し、翌日の予定を語る。自宅で画面を凝視していた高野は、その瞬間に上京を決意し、夜行の線路を突き進む。
翌3月11日午前9時30分。佐藤は新宿駅から再び生配信を開始し、高田馬場へと移動する。高野は自身のスマホでその生配信の映像をリアルタイムで視聴し、画面に映る背景と同軸の時計を確認しながら、現場の路上へと佐藤を追跡する。
午前9時51分。新宿区高田馬場4丁目の路上。防犯カメラの映像には、刃体の長さ約12.6cmのサバイバルナイフを手にした高野が、配信を続ける佐藤の背後から無言で接近する姿が記録されている。その路上には「止まれ」の文字があった。
鋭利な刃物が佐藤の肉体を向く。証拠によれば、うつ伏せに倒れ込み、鮮血に染まっていく被害者に対し、高野は狂ったように約1分間にわたって上からナイフを突き刺した。通行人が驚がくして逃げ惑い、声をかけるが、男の腕が止まることはない。
東京大学の司法解剖研究室が示した解剖データは、その執ような攻撃の凄惨さを物語る。遺体に刻まれた刺創は実に55箇所。頭部・顔面に8箇所、左腕から指にかけて11箇所、右腕から指にかけて14箇所。そして最も異様なのは、女性器の中央(膣部)に対しても明確に一突きが加えられていた事実である。
金銭を吸い上げ続けた「女」という”記号”に対する、憎悪の表れに他ならない。致命傷となったのは右首背面の刺し傷であり、深さは9㎝。動脈が完全に切断されたことによる失血死であった。