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自殺統計から読み解く――「通信制高校」生徒への支援強化の必要性と、背景に見えた課題

一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター」広報官
文部科学省作成『通信制高校における教育の質の向上に向けて』(2025年11月10日 全国私立通信制高等学校協会 第4回学校運営研究会講演資料)より抜粋

国内の高校生の自殺者数は増加傾向にあり、2025年は過去最多の356人となるなど、対策が喫緊の課題となっています。

そうした中、筆者が所属する一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)」の研究グループが2022年~2024年の警察庁の自殺統計原票データを基に分析した結果、「定時制・通信制」(※)の生徒の自殺死亡率(生徒10万人あたりの自殺死亡者数)は、「全日制」の約4倍に上り、統計的に有意に高いことが分かりました。また、この傾向は特に女子生徒において顕著でした。(2022年の自殺統計原票の改訂により、教育課程別の詳細な集計が可能になりました)

近年、通信制高校の学校数・生徒数が、とりわけ私学で、大幅に増加しています。生徒それぞれのペースに応じて柔軟に学ぶことができる通信制高校は、多様なニーズを持つ生徒の受け皿として、非常に重要な役割を担っています。その一方で、本調査結果が示唆するのは、通信制高校を取り巻く環境が急激に変化する中で、生徒を支える体制の整備が十分に追いついていない可能性です。

データから見えてきた実態を、生徒の命を守るための建設的な議論へと繋げていくために、本記事ではJSCPの分析結果と「背景に見えてきた課題」について、関連する調査結果を交えながらお伝えします。

(※)警察庁の自殺統計では、「定時制」と「通信制」を合わせて集計しており、その内訳は不明です。しかし近年、「通信制」の学校数・生徒数の増加が著しい一方で「定時制」は減少傾向にあることから、本記事では主に「通信制」について考察します。

本分析結果は2026年5月27日、米国医学雑誌「JAMA Network Open」にて、論文「Suicides and High School Program Types in Japan」(「日本における自殺と高校の教育課程」)として公表されました。

JSCPのWebサイト(https://jscp.or.jp/research/report/Publish-the-paper-260528.html)より
JSCPのWebサイト(https://jscp.or.jp/research/report/Publish-the-paper-260528.html)より

自殺で亡くなった生徒の特徴――「個人の問題」と片付けるのは早計

今回の分析で、「定時制・通信制」で亡くなった生徒の特徴について調べたところ、「19歳以上」「精神科への通院歴がある」「過去に自殺未遂の経験がある」や、自殺の原因・動機が「健康問題」に該当する生徒の割合が有意に高いことが分かりました。

このデータを見て、「もともと困難を抱えた生徒が多く集まっているのだから、仕方ないのではないか」と思われる方もいるかもしれません。しかし、「個人の問題」だけで片付け、状況を改善するための議論を止めてしまうのは、早計です。このデータをもって「定時制・通信制の生徒は脆弱性が高い」と属性を決めつけたり、特定の教育課程や学校現場に責任を帰したりすることは、本研究の意図するところとは異なります。

なぜなら、さらに深く分析を進めた結果、そうした「生徒個人の特徴」だけでは説明のつかない可能性が浮かび上がってきたからです。

統計分析が示唆する、「構造的な課題」

分析チームは、自殺で亡くなった生徒について、性別や年齢、「精神科への通院歴がある」「過去に自殺未遂の経験がある」といった「生徒個人の特徴」を統計的に考慮(調整)したうえで、「全日制」と「定時制・通信制」の違いを改めて確認しました。

もしこの違いが、「困難を抱えた生徒が多いから」という「生徒個人の特徴」によって説明できるのであれば、これらの特徴を考慮した後には、課程間の差は小さくなることが考えられます。

ところが分析の結果、「生徒個人の特徴」を考慮してもなお、自殺者に占める「定時制・通信制」の生徒の割合が年々増加傾向にあることが示されました。(※ただし今回考慮できた「生徒個人の特徴」は、警察統計にある項目に限られ、すべてを網羅できたわけではない点には、注意が必要)

つまり、「定時制・通信制」に偏って見られるこうした傾向は、「困難を抱えた生徒が多いから仕方ない」という「個人の問題」だけで片付けられるものではなく、社会的な仕組みや環境、支援のあり方など、今回のデータ分析だけでは直接見えてこない「構造的な課題」が影響している可能性が示唆されたのです。ここが、研究グループが最も伝えたかったポイントです。

本研究では、「構造的な課題」が具体的にどんなものであるのかまでは明らかになっていませんが、研究グループでは「定時制・通信制高校における登校日数や教職員・他生徒との接触機会が限られるといった構造的な性質が、生徒の孤立や問題の早期発見の困難さに関わっている可能性などが考えられます」と考察しています。そして、「さらなる実態把握のため、今後も研究を続けていきたい」としています。

背景には、通信制高校の「役割の大きな変化」

JSCPの分析により、背景に「構造的課題」が存在する可能性が示唆された「定時制・通信制」高校。このうち通信制高校を取り巻く環境は、近年どのように変化し、どのような課題があるのでしょうか? 文部科学省の報告書や調査結果などから、背景にある通信制高校の「役割の大きな変化」が見えてきます。

2022年にまとめられた文科省の「『令和の日本型学校教育』の実現に向けた通信制高等学校の在り方に関する調査研究協力者会議」の報告(審議まとめ)にも明記されているように、通信制高校はもともと、戦後に「勤労青年」に対して広く教育の機会を提供するために制度化されました。しかし近年は不登校経験など多様な背景を持つ生徒が増え、学びを支える役割のみならず、福祉的な「セーフティネット」としての役割が求められるようになっています。

出典:文部科学省作成「通信制高校における教育の質の向上に向けて」(2025年11月10日 全国私立通信制高等学校協会 第4回学校運営研究会講演資料)より
出典:文部科学省作成「通信制高校における教育の質の向上に向けて」(2025年11月10日 全国私立通信制高等学校協会 第4回学校運営研究会講演資料)より

文科省の学校基本調査(確定値)によると、通信制高校は2015年には学校数237、生徒数は約18万人でしたが、2025年度には333校に拡大し、生徒数は初めて30万人を超え約1.7倍に増えました。特に私学の増加が顕著で、この10年で生徒数は2倍以上に増えています。

出典:文部科学省作成「通信制高校における教育の質の向上に向けて」(2025年11月10日 全国私立通信制高等学校協会 第4回学校運営研究会講演資料)より
出典:文部科学省作成「通信制高校における教育の質の向上に向けて」(2025年11月10日 全国私立通信制高等学校協会 第4回学校運営研究会講演資料)より

通信制高校の生徒たちが置かれた状況

さらに、文科省の最新の調査データに目を向けると、通信制高校を選ぶ子どもたちの置かれた状況が、浮き彫りになります。

これらは、「定時制・通信制の生徒は脆弱だ」という属性の決めつけ(スティグマ)の根拠ではなく、むしろ、「それほどまでに多様な背景や困難を抱えた子どもたちが、最後の砦(セーフティネット)として通信制高校を頼っている」という、実態を示しているといえます。

出典:文部科学省「令和7年度通信制高等学校実態調査に関する調査結果(速報版)について」より
出典:文部科学省「令和7年度通信制高等学校実態調査に関する調査結果(速報版)について」より

「役割」と「支援体制・資源」のミスマッチ

このように通信制高校が担う役割が激変する中で見えてくるのは、その役割の大きさと、多様な困難を抱える生徒を支える支援体制・資源のミスマッチです。

今回のJSCPによる自殺統計原票データに基づく分析結果について、研究グループは、「定時制・通信制高校が、多様な背景や困難を抱える生徒のセーフティネットとして重要な役割を果たしている一方で、セーフティネットとしての役割に見合った支援体制や資源が十分に追いついていない可能性が示唆されます」と考察しています。

こうした実態の一端は、文科省の実態調査の結果からも垣間見えます。「令和7年度通信制高等学校実態調査に関する調査結果(速報版)」によると、スクールカウンセラー(SC)に相談できる体制を整えているのは公立が98.8%であるのに対し、私立では79.7%。スクールソーシャルワーカー(SSW)に至っては、公立が91.4%なのに対し、私立はわずか19.4%にとどまっています。

「セーフティネット」を強化し社会全体で支えるために

文科省でも、こうした通信制高校を取り巻く状況の急激な変化に対応し、教育の質を確保するため、教員配置の見直しやガイドラインの改訂等の取り組みが幅広く進められています。一方で、そうした制度の見直しとは別に、生徒たちの「命」を守るための対応について、JSCPの清水代表理事は次のように指摘します。

「今回の分析で浮かび上がってきたのは、通信制高校が多様な生徒を受け入れる重要な受け皿となっている一方で、サポート体制や社会の資源配分がそれに追いついていないという、「構造的な課題」が存在する可能性です。ただ、これが構造的な課題であるならば、その仕組み自体を強化・改善していくことで、有効な対策を打てるということでもあります。

デジタル端末を活用した心身の不調のスクリーニングや福祉的なアウトリーチなど、命を守るための仕組みを早急に整えることができれば、通信制高校は、子どもたちの『暮らしや命を守るための拠点』にもなれる可能性があります。やれることは、はっきりしています。こうしている今も、支援を必要としている生徒たちがいるわけで、一日も早く、状況を変えていかなければなりません。 」

<参考情報>

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◆記事を読んでつらい気持ちになったら。気持ちを落ち着ける方法や相談窓口などを紹介しています。

「こころのオンライン避難所」https://jscp.or.jp/lp/selfcare/

◆生きるのがしんどいと感じているこども・若者向けのWeb空間で、安心して存在できるオンライン上の居場所。絵本作家のヨシタケシンスケさんが全面協力。

「かくれてしまえばいいのです」https://kakurega.lifelink.or.jp/

◆つらい気持ちを相談できる場所があります。

<電話やSNSによる相談窓口>

・#いのちSOS(電話相談)https://www.lifelink.or.jp/inochisos/

・チャイルドライン(電話相談など)https://childline.or.jp/index.html

・生きづらびっと(SNS相談)https://yorisoi-chat.jp/

・あなたのいばしょ(SNS相談)https://talkme.jp/

・こころのほっとチャット(SNS相談)https://www.npo-tms.or.jp/service/sns.html

・10代20代の女の子専用LINE(SNS相談)https://page.line.me/ahl0608p?openQrModal=true

<相談窓口をまとめたページ>

・厚生労働省 まもろうよこころ https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/


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ありがとうございます。
一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター」広報官

厚生労働大臣指定法人・一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)」広報官として、自殺問題・自殺対策について広く知っていただくための情報発信に取り組む。元新聞記者。2003年に毎日新聞社入社、仙台支局、東京本社・夕刊編集部、同・生活報道部、さいたま支局、東京本社・くらし医療部にて自殺対策や子どもの貧困問題、児童虐待問題などを取材。2021年3月に退職し、同4月より現職。著書に、少年事件の背景にあった貧困・虐待問題に迫ったノンフィクション「誰もボクを見ていない~なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか~」(ポプラ文庫)。

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