本来300円の書類に、5万円を請求するメンタルクリニックがあります。
精神科医・産業医として、職業倫理上さすがに看過できません。
メンタルクリニックは、つらい人にとっての駆け込み寺のような場所のはずです。その一部が、牙をむいてくる事態です。保健所にも相談しましたが、「法律に違反しているわけではなく、医師の裁量の範囲である以上、問題視はしているが対策は打てない」という趣旨の回答でした。
以下、詳細です。
一部のオンラインメンタルクリニックで、休職に必要な傷病手当金支給申請書(医師の意見書欄)の記載料を、中には5万円以上に設定しているケースがあります。
この書類は本来、保険診療の範囲です。傷病手当金意見書交付料は100点、3割負担なら300円です。診察を伴わず、記入だけでも算定できる建て付けになっています。
休職中の生活を支える、事実上の生命線となる書類です。それをきわめて高額に設定しています。かなり問題だと思います。
「そんなぼったくり価格に引っかかるほうが悪いのでは」と思う方もいるかもしれませんが、構造的に引っかかりやすいのです。
休職に入る前から傷病手当金の存在を知っている人はほとんどいません。まずは「しんどいから一刻も早く休職の診断書がほしい」わけです。
そうなると、予約が取りやすいオンラインクリニックに行きがちです。傷病手当金のことは知らないまま休みに入ります。
そして1か月ほど経ったころ、会社から「傷病手当金の申請書を出してください」と言われて、初めて5万円に驚くわけです。
ここにもう一つ、メンタルクリニック特有と言っていい構造が重なります。主治医や医療機関を変えることの、心理的ハードルの高さです。
しんどいときに病院を探し直すのは、それ自体がかなりの重労働ですし、「そもそも変えていいのか」と迷う方も非常に多いのです。動けないまま数か月が過ぎると、請求額は10万、15万と膨らんでいきます。申請書は労務不能を証明する期間ごと、実務上は月1回、記載が必要だからです。
もちろん、予約が取りづらい今の精神科医療の体制にも問題があります。手軽に医療につながれるようになったこと自体は大きなメリットですし、ニーズを満たしているとも言えます。これらのクリニックが法律を犯しているわけでもありません。
しかし、最後のセーフティネットに近い場所で、もう一段の罠を仕掛けるようなやり方は、倫理的に問題があるのではないでしょうか。
そう思って保健所に問い合わせましたが、冒頭のとおり、法律違反ではないので取り締まる権限はない、とのことでした。一方でその保健所によると、「30日分しか頼んでいないのに90日分の処方が届き、高額請求をされた」といった苦情も寄せられているそうです。通常の薬局であれば、処方日数の間違いは極めて深刻なミスです。
さらに調べていくと、こうしたクリニックの中には、会社の実態はあってないようなもので、所在地は郵便受けだけのレンタルオフィスというケースもありました。実際に診療しているのは別のクリニックの医師やアルバイトの医師で、その医師も精神科を専門としていないケースが少なくありません。
私が実際に経験した例でも、診断書の記載医は精神科を専門としない医師でした。そこから、うつ病という診断名が堂々と出されていたわけです。
問題は、患者個人の経済的損失だけではありません。ノーリスク・ノーエフォートで医師が稼げる道をつくってしまっていることです。努力せずとも楽に儲かる仕組みがあれば、医師は堕落しかねませんし、そういう動機で医師を目指す人間が増えかねない。
制度ハック的な医療ビジネスモデルが横行するなかでも、かなりエクストリームな例だと思います。
法律にも制度にも違反していないけれど倫理的にまずいこうしたケースは、皆さんの声や報道の力を借りて、注意喚起をしていくしかありません。危機意識をお持ちになってくださった方はリポストなどお願いします。