piyolog

piyokangoの備忘録です。セキュリティの出来事を中心にまとめています。このサイトはGoogle Analyticsを利用しています。

陸上自衛隊が使用したマルウェア入りUSBメモリについてまとめてみた

防衛省・陸上自衛隊は、中部方面総監部(兵庫県伊丹市)が使用していたUSBメモリについて、2025年2月にマルウェアが含まれていることを検知した事例があったと公表しました。確認されたマルウェアによる情報の窃取や外部への通信、システムへの拡散は確認されておらず、陸自システムへの影響や外部への情報流出もなかったとしています。ここでは関連する情報をまとめます。

問題のUSBメモリ、2024年4月から使っていた

陸上自衛隊中部方面総監部は、能登半島地震への災害派遣対応に際して物品登録し利用していたUSBメモリを2024年4月以降使用していた。陸上幕僚長は6月30日の定例記者会見で「陸上自衛隊中部方面総監部において、令和6年4月以降使用していたUSBメモリに、マルウェアが含まれていることを、令和7年2月に検知した事例がありました」と言及。つまり使用開始から検知までは約10か月を要したことになる。*1

防衛大臣は2026年6月26日の記者会見で、検知されたマルウェアについて「自己増殖の動作にとどまる古典的なものであり、情報窃取や外部への通信を行うものではなかった」「USBメモリを接続したシステムへのマルウェアの拡散は見られなかった」と説明。「陸上自衛隊のシステムへの影響はなかったと報告を受けております」と述べた。陸上幕僚長も6月30日の会見で同様の説明を改めて行っている。陸上幕僚監部の公式発表(6月26日21時30分、Jディフェンスニュースの転載記事による)でも、マルウェアは「当該マルウェアを起動させない限り、自己増殖は行われない」ものであり、外部からの情報窃取や感染パソコンから外部への情報送信は行われないと説明されている(出典: 1, 2, 3)。

規則不遵守と不明瞭な取得経緯

防衛大臣は、防衛省・自衛隊の各種規則ではUSBメモリの調達時に安全性を確認すること、使用時にも例外なくウイルスチェックを実施することが定められているとした上で、「USBメモリの使用に際し、例外なくウイルスチェックを実施し、安全性を確認するという規則が遵守されていなかったことは問題だったと考えています」と述べた。陸上幕僚長も同様に規則不遵守を問題と認め、現在はウイルスチェックの実施を徹底していると説明した(出典: 1, 2)。

USBメモリの取得経緯については、防衛大臣が6月26日の会見で「その取得までの経緯については、現在、改めて調査を行っているものと報告を受けております」と述べたのに続き、陸上幕僚長も6月30日の会見で「その取得までの経緯については、現在改めてですね、念のため細部にわたり調査を行っているところで、現時点で、新しい情報というのを開示することは今のところできません」と回答。感染が確認されたUSBメモリの品名・数量・メーカー・製造国については、記者から質問を受けた陸上幕僚長が「そのUSBの品名、数量等についてはですね、自衛隊の運用等に最終的に関わってくるものでありますので、お答えは現時点では差し控えをさせていただきたい」と述べ、単なる未公表ではなく非公表の方針であることを明言した(出典: 1, 2)。

USBメモリの問題、報道で明らかに

今回の問題が最初に明らかになったのは、6月25日の日本経済新聞の記事である。同記事は陸自の内部文書を独自入手し、検知の事実やマルウェアの詳細を報じた(出典: 7)。

同日、官房副長官は記者会見で、USBメモリからマルウェアが検知された事実を明らかにし、防衛省・陸自同様の説明を行っているが、加えて能動的サイバー防御関連法に基づき、政府として迅速な情報の集約・分析に努める考えも示した(出典: 4)。また同日、防衛大臣は参院外交防衛委員会で、報道内容をしっかり確認し必要な対応をとると答弁している(出典: 9)。

防衛大臣は事前公表しなかった理由について、6月26日の会見で「本件のUSBメモリの同型製品に同様にマルウェアが含まれているかといった点について、防衛省・自衛隊として判断し、公表することは困難であると考えております」と説明(出典: 1)。また「報道がなければ公表していたか」については言及しておらず、この点は明らかになっていない。USBメモリの取得経緯について陸幕は6月27日、日経の取材に「改めて調査している」と回答、調査結果は判明次第公表する方針を示したという(出典: 10)。

感染USBメモリ 総監部PC50台以上に接続

陸自の内部文書によれば、感染したUSBメモリは計6本見つかり、調査対象とした中部方面総監部のパソコン約480台のうち50台以上に接続されていたと報じた。さらにそのうち半数近くは、部隊の指揮命令など極秘情報を扱う「クローズ系」システムに接続されていたとしている。陸自のシステムはインターネットに接続する「オープン系」と秘匿性の高い「クローズ系」に分かれ、システム同士は遮断されているが、業務上システムをまたぐデータのやり取りが頻繁に発生するため、日常的にUSBメモリでデータを移行しているという(出典: 7)。

一方、陸上幕僚監部は6月26日の公式発表においてこれらの本数・接続台数・クローズ系接続の規模を公表しておらず、陸上幕僚長も6月30日の会見でUSBメモリの数量について回答を差し控えている。感染USBメモリの具体的な個体数・使用端末台数は、公式には非公表のままである(出典: 2)。

USBメモリは中国製偽装品

日経は、自衛隊をサイバー攻撃から守る陸自サイバー防護隊が回収したUSBメモリを分析した結果として、中国製の偽装品だと分かったと報じた。記憶媒体には本来のメモリーチップではなく、安価で処理速度の遅いマイクロSDカードが使われており、そこにウイルスが仕込まれていたという。容量もパソコン上は1テラバイトと認識されたが、実際には4分の1の240ギガバイトしかなかったとしている(出典: 7)。

さらに日経は、米セキュリティ企業の報告書で中国系ハッカー集団が過去に今回確認されたマルウェアを使ったと指摘されていると報じた。同集団は過去にベトナムなどアジアの国やオーストラリアの政府機関、教育機関、通信企業を標的としてきたとされ、日本にも標的を広げていた可能性があるという(出典: 7)。

隊員の違和感がキッカケ

日経は、陸自内部文書や関係者への取材をもとに、事案発覚時の詳しい経緯を報じている。それによると、2025年2月5日午後3時30分ごろ、陸上自衛隊システム通信団にあるサイバー攻撃の監視部隊で、マルウェア検知のアラートが発生。当時、中部方面総監部所属の男性隊員がインターネットに接続する「オープン系」のパソコンにUSBメモリを挿し、別部隊から届いたメールの添付ファイルをダウンロードしてUSBメモリにコピー、極秘情報を扱う「クローズ系」のパソコンへデータを移そうとしていた。その際、パソコンの動作がいつもより遅く感じたことから「USBが悪さをしているのではないか」と違和感を覚え、念のためセキュリティーソフトにUSBメモリ内ファイルの全量チェックを指示したところ、マルウェアが検知されたという。動作の遅さは、USBメモリが正規品に比べデータのやり取りに10倍以上の時間がかかる粗悪品だったためとみられるとしている。隊員はLANケーブルを引き抜き、パソコン内部のウイルスチェックを実施(完了まで6時間近くかかった)し、感染の拡大はなかったという(出典: 11)。

また日経は、陸自幹部が2026年5月の取材に対し「複数のチェック体制が機能しなかった。パソコンのウイルスチェックからUSBメモリをなぜ外していたのか、詳細な経緯はわかっていない」と認めたと報じている(出典: 7)。

日経が指摘する「残る3つの謎」

日経は、本事案について解明されていない点を「残る3つの謎」として報じている(出典: 11)。

1つ目は、納品時にマルウェア感染がないことを確認する検品手続きがあるにもかかわらず、なぜこの段階でマルウェアを駆除できなかったのかという点。発見されたマルウェアは自衛隊による暗号化処理がなされておらず、新品の段階ですでにウイルスが潜んでいたとみられるという(出典: 11)。

2つ目は、部隊のパソコンに導入されたセキュリティーソフトの設定が、なぜUSBメモリだけ検査対象から外れていたかという点。日経によれば、ソフトの設定は外部の業者に委託されており、これが自衛隊側の指示によるものだったのかなど不明な点が残るとしている(出典: 11)。

3つ目は調達経路。陸自内部文書には「陸自から要望を出し石川県が支払う形で調達した」との記述があるが、石川県は日経の取材に「USBを調達した事実や購入費を支払った記録は確認できなかった」と回答し、関与を認めていない(出典: 11)。

これに関連して、内部文書には、24年1月の能登半島地震への災害派遣対応をめぐり、中部方面総監部が石川県から同年3月にUSBメモリ8本を受領したと記されているという。入手した8本のうち6本から同じマルウェアが検出され、調達時の記録は残っていないとしている(出典: 7, 11)。

さらに日経は、隊員の気づきについて陸自が内部文書で「ユーザーによるセキュリティー対策の成功例」とし、「サイバー攻撃などを未然に防止したとして(啓発活動に)推奨すべき」と記していたと報じた。しかし、この教訓が陸自内部で広く共有されることはなく、同種の偽装USBメモリがネット通販を通じ社会に出回っている実態を把握していたにもかかわらず、公表もされなかったという(出典: 11)。

同様に使用疑われる偽装USBメモリ問題

日経は、同種の中国製の偽装品が「国内外含む電子商取引(EC)サイトを通じて広く流通しているもよう」と内部文書で指摘したと報道。陸自が入手したブランドを含む多くの類似品が、米アマゾン・ドット・コムや楽天グループなどを通じ相場の半値近い価格で売られており、購入者から偽装被害の報告が多く見られるという(出典: 7)。

また日経は今回の事案と同種とみられる偽装USBメモリが、ネット通販・工場・研究所など自衛隊以外の社会にも拡散している疑いがあると報じている。ネット通販大手のレビューを調べたところ、ウイルス混入が疑われる報告が日米で少なくとも25件あったと日経は独自集計している(出典: 8)。*2

総務省による自治体 USBメモリ調査

総務省は6月26日付で地方自治体向けにUSBメモリの利用状況の確認・見直し等に関する注意喚起の通知を発出。官房長官は7月2日の記者会見で、この通知の発出とあわせて、全国の自治体を対象とした実態調査に向けて準備を進めていると説明した(出典: 5)。TBS NEWS DIGは7月1日時点で総務省が調査を「検討」していると報じていたが(出典: 12)、NHKニュースは7月2日、総務省が全自治体を対象にUSBメモリ使用実態調査を実施する方針を「決定」したと報じ、検討段階からの進展を伝えている(出典: 13)。木原官房長官は、情報システム機器の適切な利用とサプライチェーンリスク対策の強化が重要であるとし、国家サイバー統括室を中心にサイバーセキュリティ対策の強化に取り組む考えを示した(出典: 5)。

続いて林芳正総務相は7月3日の閣議後記者会見で、この自治体向けUSBメモリ利用実態調査について「7月中に実施する」と実施時期を明言した。目的はサイバー攻撃のリスクを把握することであるとし、「引き続き自治体のサイバーセキュリティー対策が万全に講じられるよう取り組んでいく」と述べた。ただし、調査の内容や方法、結果を公表するかどうかや公表時期については、この時点でも「検討中」としている(出典: 6)。

三重県、庁内調査で47本からマルウェア検知

総務省は6月26日、USBメモリを全量チェックするよう全自治体に非公開の通知で要請しており(出典: 14)、その最初の具体的な結果が三重県から公表された。三重県は7月8日、公安委員会を除く県関連の全所属を対象に6月26日から7月6日まで実施したUSBメモリの全数調査で、保有する約1万本(三重県公式の実数では10,757個)のうち47本(37所属)からマルウェアを検知したと公表した。いずれも活動しておらず、県のシステムへの感染・情報流出・被害はなかったとしている(出典: 14, 15)。

内訳は、外部の管理外端末に接続した際に混入したとみられる来歴不明のマルウェアが18本(うち12本は情報窃取型、県工業研究所の6本が最多)、過去にUSBメモリへ保存した迷惑メール添付データに由来するものが29本(うち8本は私用)だった。検知された47本のうち、無許可の私物USBメモリ4本で感染が発覚している(出典: 14)。三重県は私物USBメモリの全面禁止や、外部から受け取ったUSBメモリ専用のスキャン端末の設置などの対策を示した(出典: 15)。

ただし、三重県で検知されたこれらのマルウェアは来歴不明・迷惑メール由来のものであり、陸自事案で使われたとされる中国製偽装USBメモリ由来のマルウェアとの技術的な同一性・関連は確認されていない。総務省は7月中にも1788の都道府県・市区町村を対象にUSBメモリの利用実態を調査し、1か月後をめどにメーカーや使用本数を取りまとめる方針で、この過程で他の自治体でも感染USBメモリが見つかる可能性があると日本経済新聞は伝えている(出典: 14)。*3

関連タイムライン

日時 出来事
2024年1月 陸上自衛隊中部方面総監部が能登半島地震への災害派遣対応にあたる(報道ではこの対応の過程でUSBメモリを入手する経緯につながったとされる)
2024年3月 陸自内部文書によれば、中部方面総監部が石川県からUSBメモリ8本を受領。うち6本から同一ウイルスを検出。調達記録は残っておらず、石川県は関与を否定
2024年4月以降 中部方面総監部が物品登録し利用していたUSBメモリの使用を開始
2025年2月 中部方面総監部が保有するUSBメモリにマルウェアが含まれていることを検知
2025年2月5日15時30分ごろ システム通信団のサイバー攻撃監視部隊でアラートが鳴り、隊員の違和感をきっかけに手動チェックで検知
2026年5月 陸自幹部が日経の取材に「複数のチェック体制が機能しなかった」と認める
2026年6月25日 日本経済新聞が陸自内部文書に基づく報道第一報
同日 官房副長官が記者会見で本事案を公表
同日 防衛相が参院外交防衛委員会で報道内容を確認し対応すると答弁
2026年6月26日 陸上幕僚監部がマルウェア検知事案を公式発表
2026年6月27日15:00 日経が、陸幕発表は本数・製造元・使用期間・接続規模を明かしていないと報道。陸幕は取得経路を「改めて調査している」と回答
2026年6月30日 陸上幕僚長が取得経緯の非開示、USBメモリの品名・数量・メーカー・製造国の回答差し控えを表明
2026年7月1日 日経が発覚の詳細経緯(隊員の違和感)を報道
2026年7月3日 総務相が閣議後記者会見で、自治体USBメモリ利用実態調査を「7月中に実施する」と実施時期を明言
2026年7月8日 三重県が庁内USBメモリ全数調査結果を公表

関連公表

防衛省・陸上自衛隊

政府(官邸・総務省)

地方自治体

更新履歴

  • 2026年7月8日 追記: 総務省の自治体USBメモリ全量チェック要請を受けた三重県の全数調査結果(USBメモリ約1万本中47本でマルウェア検知、被害なし、無許可の私物4本)を追記。三重県で検知されたマルウェアは来歴不明・迷惑メール由来であり、陸自事案の中国製偽装USBメモリ由来との同一性・関連は確認されていない。
  • 2026年7月8日 AM 新規作成

*1:日本経済新聞や時事通信は「1年近く」「約1年近くにわたり使用」と表現しており、一次資料が示す期間よりやや長い表現になっている(出典: 7, 4)。

*2:これらの社会拡散についてはいずれも日経の独自取材・独自集計に基づくもの。

*3:三重県の公表日について、日本経済新聞・メ〜テレは7月7日、三重県公式ページの表記は7月8日となっている。発表(取材対応)と公式サイト掲載日の間にずれがある可能性がある。