「“愛がなければ視えない”、有志翻訳もまったく同じ」武侠RPG『活俠傳』Alpaca氏&殿氏インタビュー【有志日本語化の現場から】

韓国人、台湾人、香港人。日本人はゼロ。それでも日本語で会話し、日本語に翻訳し続ける 「日本人が1人もいない日本語翻訳チーム」が挑む超大規模翻訳は、日本人に武侠の風をもたらすか。

連載・特集 インタビュー
武侠RPG『活俠傳』Alpaca氏&殿氏インタビュー【有志日本語化の現場から】 全 14 枚 拡大写真

海外のPCゲームをプレイする際にお世話になる方も多い有志日本語化。今回は台湾の武侠RPG『活俠傳』の有志翻訳者に話を訊きました。

日本語化とは海外のゲームを日本語で遊べるようにすることです。その中でも、デベロッパーやパブリッシャーによる公式の日本語化ではない、ユーザーによる非公式な日本語化を有志日本語化(有志翻訳)と呼びます。一般的にボランティアで行われ、成果物は無償で配布されます。

有志日本語化には、デベロッパーやパブリッシャーが許可する範囲内で行われるものと、無許可のものがあります。最近はインディーゲームを中心に有志日本語化が公式日本語版として採用される例も出てきています。


「有志日本語化の現場から」過去回はこちら!

連載第28回は、武侠RPG『活俠傳』の有志翻訳者Alpaca氏と殿氏に話を訊きました。

「日本人のいない有志日本語化」チーム

オタクなら、日本を狙わないと

――本日は翻訳の改善作業でお忙しい中、インタビューへのご協力ありがとうございます。まず最初に自己紹介をお願いします。

Alpaca氏(以下、敬称略)雪山派の跡地の番人です……というのは冗談で、『活俠傳』日本語MODのチームリーダーを務めるAlpaca(アルパカ)です。非公式韓国語MODの制作者として活動を始め、現在は日本語MODの他に公式韓国語翻訳チームのリーダーを務めています。

殿氏(以下、敬称略)『活俠傳』日本語MODの翻訳者をしている殿と申します。日本で活動する時の名前は「殿村あきら」と決めていますが、長いので略して「殿」になりました。特に偉いわけではありません。

――さっそくですが、本作『活俠傳』の魅力とは何ですか?

Alpaca『活俠傳』は台湾で制作された武侠RPGです。唐門という門派で「唐門雑魚」という綽名(あだ名)を持つ最下層の主人公・趙活が、もがきながら自分だけの道を切り開いていく物語です。数多くの選択の中で、趙活は侠客にも、悪人にもなり得ます。そして高い文章力と魅力的なキャラクターたち、選択次第で大きく変わる展開が、この作品ならではの没入感を生み出しています。一度どん底まで落ちた人間が這い上がっていく姿に、多くのプレイヤーが心を打たれるはずです。

殿武侠という珍しいジャンルで、『パワプロクンポケット(パワポケ)』シリーズに類似する育成システムが組み込まれており、キャラクターや世界観をアドベンチャー形式で表現するRPGです。

Alpacaただ、私たちのMODではその文章力をまだ活かしきれていません。今のところ原作の30%のパワーしか出せていない状態です。

――本作はSNSを中心に日本のゲーマーの間で人気が急上昇していますが、これだけ注目されていても原作の30%ということは、日本語MODにはまだ伸びしろがあるということでしょうか。

Alpacaその通りです。そもそも翻訳というものは、原文の感覚を100%伝えること自体が不可能だと思っていますが、『活俠傳』の場合はその壁にぶつかる頻度がはるかに高いのです。時々絶望を感じることもあります。1つの文章を10回以上直すこともありますし、それでも翌日にはまた変えてしまうこともあります。このインタビューのちょうど1時間前にも改善作業を進めていたところで、少しでも原作の影を追いかけられるよう努力し続けています。

殿中国語の一番難しい部分を日本語で表現するにはどうしても無理があります。今後我々ができるのは違和感をできるだけ少なくすることですね。このゲームには日本由来のネタも多く含まれています。「やる夫」のことは最近知りました。

Alpacaこれは制作者本人が公式に答えていた内容ですが、『活俠傳』は「やる夫」AAスレの「ディエゴ・ブランドーがグランドオーダーを終わらせるようです」に強いインスピレーションを受けたと聞いています。

(編注:「やる夫」AAスレというのは、2ちゃんねる[現・5ちゃんねる]および派生の匿名掲示板文化で作られたキャラクターと、様々な既存版権作品のキャラクターを含む膨大なAAライブラリのキャラクターたちを配役して、1次・2次を問わず独自の創作を作り上げる、匿名掲示板文化のこと。とりわけ「やる夫」やその派生キャラを主役級にしたものが主流であったことからそのような呼ばれ方をするようです。

特別な例ではありますが、TVアニメやビデオゲームにもなった人気ファンタジー小説『ゴブリンスレイヤー』の原案がこの文化の中で制作されていたりもします。

なお『活俠傳』の場合、「やる夫」AAスレのなかでも、「あんこスレ」と呼ばれるような、キャラクター設定や物語の展開の選択肢の決定をダイスロールにまかせたものの影響が強いようです)

――『活俠傳』の深いところには日本で生まれた「やる夫」が息づいているのですね。

Alpaca主人公の見た目も「やる夫」にちょっと似ています。

殿「やる夫」って、どんな顔だっけ……。

『活俠傳』の主人公・趙活(左)と「やる夫」(右)。一部のAAでは特に雰囲気が似てる?

――お二人が有志翻訳に携わるようになったきっかけは何ですか?

Alpaca私はもともと武侠ゲームを楽しんでいた人間で、『活俠傳』以外にも『河洛群俠傳』、『金庸群俠傳』、『俠之道』など、武侠ゲームなら何でも遊んでみる筋金入りの武侠ユーザーでした。そして、『活俠傳』が最初に世に出た時、世間の第一印象は決して良いものではありませんでした。あの顔のせいです。でも、私は何か強いものを感じたのです。

そこで、自分がプレイしたい一心で、AIを使って丸ごと韓国語に翻訳してみました。翻訳したついでに、軽い気持ちでコミュニティにも配布してみたのです。そうして何日か寝て起きたら、とんでもない勢いでコメントが増えていました。

殿その話は初耳です。

Alpaca「うわ、これは大変なことになった」と思い、慌てて韓国語ユーザーを集めて手作業での再翻訳を始めました。それが韓国語MODのチームリーダーになった経緯です。そして日本語MODについては、実は殿さんの影響がかなり大きかったのです。

殿私はゲーム発売直後にはプレイしておらず、発売から約1年後、葉雲裳のルートが更新されたタイミングで始めました。プレイしているうちに、そのストーリーに深く感動し、この作品を日本語に翻訳したいという気持ちが芽生えました。

そして、翻訳の準備をしていた頃、掲示板で韓国語翻訳チームのAlpacaさんが日本語MODの制作にも意欲的であるという書き込みを見かけました。しかし、私は韓国語がまったく分かりません。そこで、『活俠傳』公式Discordの韓国語チャンネルにて、Google翻訳で作成した拙い韓国語を投稿し、韓国のユーザーにAlpacaさんへの橋渡しをお願いしました。その後すぐにAlpacaさんから招待を受け、共同で日本語MODの制作を始めることになりました。

Alpaca私は日本語ネイティブではないので、正直日本語MODを手掛けるかどうか悩んでいました。そうした中、ありがたいことに殿さんの方から先にコンタクトを取ってくれて、しかもメインの翻訳を担ってくれることになりました。2人で初めて組んだのが、日本語MOD発足のきっかけです。

――日本語ネイティブでないお二人が、なぜ日本語MODを作成しようと思ったのですか?

Alpacaオタクなら、日本を狙わないと。それに、『活俠傳』が日本でも通用するのか、真剣に気になっていました。

殿私の唯一の目的は、1人でも多くの日本のプレイヤーにこのゲームを楽しんでもらうことですね。翻訳チームに日本語のネイティブスピーカーがいなかったため、少し心配しましたが。

Alpaca翻訳には日本語ネイティブが必要なのに、肝心の日本人は『活俠傳』をプレイしていない。皮肉な状況でしたね。でも、今では少し状況が変わってきました。

――翻訳チームには日本人が1人もいないのですか? 私も長く有志翻訳に関わっていますが、そのようなプロジェクトは初めて耳にします。

Alpaca台湾人と香港人が1人ずつ。それ以外は全員韓国人です。台湾人、香港人、韓国人が集まって、日本人が1人もいないのに日本語で会話しています。

――こうして話を訊いていても、日本語ネイティブでないのが不思議なくらい自然に聞こえます。

Alpaca実は私、内心ガクガク震えています。トーンやニュアンスが自分の伝えたいものとズレていないか心配なのです。会話の中で失礼な点がありましたら申し訳ありません。

――お二人はなぜボランティアで活動しているのですか?

Alpaca本当に、私はどうして活動しているのでしょうね? 殿さん、ご存知ですか?

殿Alpacaさんはお金まで出して、本当にすごい情熱です。

――現在は公式韓国語翻訳チームのリーダーを務めているとのことですが、それまでは自分のお金で活動していたのですか?

Alpacaはい、自費で活動していました。少し真面目に答えると、『活俠傳』がそれほど素晴らしいゲームだからだと思います。実は、私の本業は小説家なのですが、これまでに出会ってきた文章の中でも間違いなくトップ3に入ります。

殿小説家!? またしても初耳です。

Alpaca正確にはWeb小説家です。昔はプロゲーマーで、その後Web小説家になり、今は翻訳をしています。

――Web小説家ですか! ぜひ、代表作をご紹介ください。

Alpaca「暴君が私を好きすぎる」(原題「폭군이 날 너무 좋아한다」)というタイトルの小説で、勘違い系のコメディ作品です。こちらのサイトでお読みいただけます。また、こちらのWikiに作品紹介が掲載されています。

殿韓国のプロゲーマーって、なんかガチ感ありますね……。

Alpacaいえいえ、遠い昔の話です(笑)。

――お二人が考える、有志翻訳に一番必要な能力とは何ですか?

殿能力というより情熱でしょうか。どんなことも、情熱が欠けてしまえば立ち止まってしまうものですから。特に、こういう途方もない作業量は能力だけではどうにもなりません。

Alpacaこれはもう決まっています。愛です。どの有志翻訳者に聞いても、ほぼ同じ答えが返ってくると思います。

――これまでにインタビューした有志翻訳者からも異口同音に同様の答えが返ってきました。

Alpacaやはりそうなのですね。国が違っても通じ合うということでしょうか。まるで『活俠傳』のように。

――逆に、途中で情熱や愛を失ってしまった有志翻訳プロジェクトも経験しているのでしょうか?

Alpaca実は、他の武侠ゲームも翻訳しているのですが、『活俠傳』にかかりきりになって翻訳のアップデートが止まってしまいました。情熱を失ったというよりも、『活俠傳』のせいで出来ていないことが多すぎるのです。

殿経験はありませんが、情熱を失った創作者も同じ感じかなと思います。長期に連載できる創作者の凄さを実感できます。

Alpaca本当にその通りです(笑)。連載も翻訳も、結局は「続けること」が一番難しいんですよね。

絶え間なく稼働し続ける翻訳工場

チームに必要なのは『活俠傳』を愛してくれる日本人翻訳者

――有志翻訳者同士の共同作業はどのように行われているのでしょうか?

Alpaca今この瞬間も翻訳工場が稼働中で、インタビューが終わったら私も工場労働者に戻らないといけません。「工場」と言っても、体系的に回っているという意味ではなく、絶え間なく労働が続いているという意味です。

まず殿さんが、キャラクターごとの口調や用語集などを作ります。それをベースに各翻訳者が下訳(一次翻訳)を進め、その翻訳に違和感がないかどうかを検収(レビュー)担当者がチェックします。

6万行、中国語で200万字を超える分量なので、現時点ではすべての翻訳がその検収を通ったわけではなく、一部には粗い翻訳も残っています。だからこそ、今も工場は絶え間なく稼働し続けているのです。

殿Alpacaさんがテキスト全文を翻訳しやすい形式に整理してくれたおかげで、翻訳者は共通のドキュメント上で作業ができるようになりました。私は最初から順を追って作業を進めつつ、自分の好きな段落をピックアップして翻訳することもありました。

Alpaca私がスプレッドシート上に原文とキーを翻訳しやすい形で用意し、翻訳者の皆さんが翻訳を進め、検収が終わったものを私が編集して、そのままMODの形に加工しています。

スプレッドシートに整理された翻訳用テキスト。一番左の列が「キー」と呼ばれるID。

――日本の有志翻訳ではレビューの工程を設けないことも多いのですが、品質改善のためにしっかり翻訳の最終チェックを行っているのですね。

Alpaca日本語翻訳のプロとしての経験を持つレビュアーがいます。

殿翻訳者のコンディションが良くない時もあるので、ちゃんと訳文をチェックしないと駄目ですね。この種のストーリーを読む作品においては、誤字や違和感がプレイヤーのイライラに直結します。

Alpacaただ、いくら実力のある人とはいえ、レビュアーは1人だけなので、200万字を超える翻訳をすべてチェックするのは現実的に難しいところがあります。ですから、プレイヤーの皆さんからの報告も大きな助けになっています。誤訳や違和感の指摘が、そのまま品質改善につながっているのです。

そのため、一度に翻訳の完成版をアップロードするのではなく、絶え間なくアップデートを重ねながら、少しずつ完成に近づいていく形を採っています。

――日本語MODの制作にあたり、デベロッパーからはどのように許諾を得ましたか?

Alpaca実は韓国語MODの時は、デベロッパーの許諾を得ずに翻訳を始めました。当時は『活俠傳』がまだ有名ではなく、私も翻訳がそのまま埋もれるだろうと思っていて、「自分が楽しむついでに配布もしてみよう」くらいの感覚だったからです。

その後、翻訳が広がっていく中で、無断翻訳についてデベロッパーに丁重に謝罪したところ、ありがたいことに快く許していただき、翻訳を続けることができました。そういう前例があったので、日本語MODは事前にきちんと許可を取ってからスタートしました。

――デベロッパーから報酬が提示されたことはありましたか?

Alpaca翻訳への感謝の意味で、私のオリジナルキャラクターをゲーム内に登場させてもらえるという話がありました。ただ、異質なキャラクターが入って作品の統一感を損なうのは良くないので、代わりに「主人公が新しい綽名を得た際、会話ウィンドウ上の主人公の綽名表記にそのまま反映される」という改善をお願いして、実際にゲームに実装されました。

そもそも私が希望していたキャラクターが「水を噴くアルパカ」だったので、絶対に無理な設定でした。いくら武侠の世界に霊獣がいるとはいえ……画像をお見せしましょうか?

世が世なら『活俠傳』に登場していたかもしれない霊獣「水を噴くアルパカ」(AI生成画像)。

――これは……まさに霊獣ですね!

Alpacaこの画像はイメージを説明するために私がAIで生成した試案なんです。

殿なぜか水桶を持っているのがツボです。

Alpacaそうなんですよね、頼んでいないのに。そんなに火を消したかったんでしょうか……よほど切実だったのかな……。

――冗談はさておき、デベロッパーは公式日本語対応や日本語MODの正式採用を検討しているのでしょうか?

Alpacaそれについては、この程度でしたら話せると思います。日本市場は同じオタクのファンとしても、ゲーム制作者の視点から見ても、本当に魅力的で憧れる市場ですし、パブリッシャーもデベロッパーも日本を魅力的な場所だと考えています。ただ、公式の日本語対応については軽々しく話せる段階ではないと思っています。実際に確定していることが何もないからです。

私は開発陣と連絡が取れる立場ですが、私に分かるのは、彼らが日本進出に対して「前向き」であるということだけです。ただ、現実的な要件もあるので、それがどう結論づけられるかは分かりません。

そして、私の立場から申し上げると、現在の非公式日本語MODのクオリティはとても公式化できる水準ではありません。数ヶ月後になってようやく求められる品質の足元に届くか届かないかです。そこまで来て初めて、一息ついて次の段階を見据えられるようになると思っています。

――日本のファンは作品を盛り上げつつ、公式日本語対応を首を長くして待つことになりそうですね。日本人がこの有志翻訳プロジェクトに参加することは可能ですか?

Alpacaもちろんです。今は日本に『活俠傳』という毒を撒いて、十分に毒が回ったころ収穫する日を待っています……というのは冗談です。私たちのチームに必要なのは、日本語の知識があって『活俠傳』を愛してくださる日本語ネイティブの翻訳者なので、今後の勧誘第一候補は日本人になると思います。

――SNSに本作の漫画やイラストを投稿していますが、誰が描いた作品で、どのように翻訳しているのですか?

殿以前から中華圏の絵師さんが『活俠傳』の同人漫画を描いていたのですが、私がその人に直接連絡して許可を取りました。その後、翻訳と写植(セリフの消去、配置)の作業を進め、自分では修正が難しい一部の箇所については、Alpacaさんに手伝ってもらいました。

Alpacaまず、漫画で作品に入門してもらうのが一番効果的だと考えて、そういう形で宣伝を始めました。その後、親しくしている作家さんにお願いして、キャラクター紹介や漫画、宣伝用のイラストなどを作ってもらうようになりました。

――宣伝の効果はありましたか?

Alpaca夏侯蘭の漫画が人気でした。俺正讀さんの素晴らしい漫画で、殿さんが翻訳されたものです。

――漫画を翻訳する上で工夫していることはありますか?

Alpacaこの当時はまだ口調や呼称がきちんと確立されていなかったので、それが一番の課題でした。どれだけ表現力があっても、口調や呼称が定まっていなければ意味がないですから。それ以外の部分は、当事者である殿さんの方がよく知っていると思います。

殿中国語と日本語には字数差があるので、改行位置が難しいと感じました。

――確かに、中国語のスペースに漢字かな交じりの日本語を入れると窮屈になりますね。

殿この漫画の2コマ目が一番苦労しました。元からギチギチですので、どうしても字が小さくなります。

オリジナルの漫画(右)と日本語翻訳(左)。狭い吹き出しの中にセリフが収められている。

――文字サイズや行数は大きく変わっていないのに、しっかり意味のある場所で改行されていますね。一見すると簡単そうですが、相当苦労したのではないですか?

殿本当にそうです(泣)。

Alpaca写植まで直接手掛けてくれて、本当にお疲れ様でした。

翻訳の道具としての生成AI

作品を愛したプレイヤーは、必ずその先を求めます

――日本語に翻訳する上で特に苦労した言葉を教えてください。

Alpacaこれはやはり「戰你娘親」ではないでしょうか。

――「你」は「あなた」の意味ですね。

Alpacaはい。「你」は「あなた/お前」です。直訳すると「戦おう、お前の母ちゃんと」という挑発と罵倒が混じった台詞になります。これは主人公が所属する唐門のキャッチフレーズで、作中で繰り返し登場します。「死ぬまで戦ってやる」という意味と、「お前の母ちゃんまでぶん殴ってやる」あるいは「文句があるならお前の母ちゃんもぶちのめす」……といった意味が重なる感じでしょうか。

――味のある日本語に置き換えるのは難しそうですが、繰り返し登場するのでは翻訳しないわけにもいきませんね。

殿戦闘に入る時にその4文字が画面にドーンと出るのですが、日本語では「喧嘩上等」と翻訳しました。

――上手い! 原文の意味そのままではありませんが、漢字4文字でドーンと出るなら、確かにぴったりの言葉です。

Alpaca戦闘時はあの4文字ですが、他の文章と組み合わせて出てくる場合は、主に「戦いたければかかってこい!ぶちのめしてやる!」のような形で訳しています。

――同じ原文でも文脈によって翻訳する際の言葉を使い分けているのですね。

Alpaca「原文への忠実さ」と「日本語としての自然さ」、どちらを取るかを場面ごとに判断しています。実は、中国語圏のプレイヤーから「原文に込められた唐門の精神までは伝わっていないのでは」という意見をもらうこともあります。それでも私は「喧嘩上等」をこれ以上ないほど優れた翻訳だと考えています。

そもそも「戰你娘親」自体、最初から唐門の精神が込められていた器だったわけではありません。一見下品にしか見えないこの4文字にあの不屈の魂を注ぎ込んだのは、ほかならぬ『活俠傳』の物語そのものです。大事なのは、物語とプレイヤーの体験が積み重なることで満たされていく「器」の方であって、形を無理になぞることではないと考えています。

殿ダジャレや言葉遊びの翻訳も工夫が必要ですね。中国語の言葉遊びはそのまま日本語に直せないので、どうしても創作的な要素を加える必要がありました。

――日本語の翻訳では中国語の言葉遊びを日本語の言葉遊びに置き換えているのですか?

Alpaca言葉遊びは戦闘時のセリフに多いのですが、そこはほとんど殿さんの担当でした。『活俠傳』には相手を話術で挑発する「口功」というスキルがあって、その部分は言葉遊びが必須なのです。

殿今覚えているのは、趙活の口八丁で譚霸刀を怒らせるシーンです。原文のニュアンスを損なわない範囲で、譚霸刀のセリフを日本語として自然な形に調整しました。譚霸刀の「デタラメ言うな!」のセリフを「クソが!」に変えて、その後のセリフに繋げる形です。

相手を挑発するシーンのセリフ。中国語の言葉遊びが自然な形で日本語に置き換えられている。

――原文のセリフには「放屁」と書かれていますが、中国語の放屁には「デタラメ言うな」という意味があるのですか?

殿はい、普段ではその意味の方が使われています。もちろん普通に「屁が出る」の意味もあります。

Alpacaまた、殿さんが担当された中で印象深いのは、武侠の綽名(あだ名)の翻訳だと思います。実は、中国語から韓国語への翻訳はとても簡単なのです。漢字の読みをそのまま音読するだけで、ある程度意味が通じて、格好良さも伝わります。

しかし、日本語の場合は、まず日本で使われていない漢字を置き換える必要があります。さらに、どこまでが原文のニュアンスで、どこからが「綽名らしさ」として伝わるのか、そのバランスを取りながらローカライズしなければなりません。『真・三國無双』の武将の異名が近い例かもしれません。

一つ例を挙げましょう。「褪褲俠」という綽名は日本語では「全裸俠」と翻訳しています。

殿ギャンブルでズボンまでも負けたシーンですね。

――原文の「褪褲俠」は、どのような意味なのでしょうか?

Alpaca「褪」が「脱ぐ」、「褲」が「ズボン」で、直訳すると「ズボンを脱いだ侠客」です。ただ、直訳しても日本語では面白さが伝わらないので、殿さんが「全裸俠」と訳しました。厳密には原文より脱いでいるのですが(笑)。この綽名の本質は「情けない可笑しさ」なので、そこを再現する方を選んだわけです。

――なるほど、これは翻訳が難しい作品ですね。最初に原作の30%のパワーしか出せていないと言っていた意味がよく分かりました。

Alpacaそれでも、絶えず努力し続けなければなりません。原文に一歩でも近づくために、そして一人でも多くの日本人ユーザーの心の琴線に触れるために。そのために今も私たちは工場を回し続けているのですから。

――キャラクターの口調や作品全体の文体はどのように決めているのでしょうか?

殿キャラクターの性格に合わせて一人称や口調を整理したリストがあります。例えば、四師兄(唐惟元)に「~っす」、小竹(郁竹)に「~のだ」など、特定のキャラクターには日本語特有の語尾も加えています。

また、中国語には敬語の概念がありません。登場人物が多いため、どのキャラクターが誰に対して敬語を使い、誰に対して使わないのか、その口調を調整するのは非常に困難でした。

Alpaca文体については、今もチーム内で常に気を配り、議論を続けている部分です。どこまで武侠原作の雰囲気を維持するか、どこまで日本語としてローカライズしてバランスを取るか。このバランスが何より重要だと考えています。原作を重視するあまり難しい漢字を乱発すると、多くのユーザーが楽しめなくなりますし、逆にカジュアルにしすぎると、原作の雰囲気がきちんと伝わらなくなりますから。

――日本語フォントについてはどうでしょうか?

Alpacaフォントは現在、原作のフォントをそのまま使っているのですが、句読点の位置が日本語と違うため、苦しんでいる人が多いです(笑) 。そのため、一日でも早く新しいアップデートでフォントを交換する予定です(注:本インタビューはアップデート前に実施したものです。新フォントはすでに日本語MODに搭載されています)

日本語MODのアップデートにより新フォントが搭載され、文章がさらに読みやすくなった。

――すっきりしていて綺麗な明朝体フォントですね。

Alpaca難しいのは、可読性とゲームの雰囲気を両立させる必要がある上に、漢字の収録数が足りないと文字が表示されなくなるので、そこまで考慮しなければならない点です(泣)。

――翻訳したテキストがゲームに正しく反映されているかどうかは、どのように検証しましたか?

殿実際にMODを導入してゲームを起動しました。UIの文字数制限の問題が一番厄介でした。

Alpaca香港のメンバーが1人、QA(品質保証)を担当しています。それ以外にも、Discordに報告用のタブがありますし、個人的にご厚意でお願いしている方もいます。こうして様々なルートで、できる限りLQA(言語品質保証)を確保しているところです。それでも、まだまだ足りていません。

――プレイヤーが翻訳上の問題を発見した時は、Discordで報告すれば良いのでしょうか?

Alpacaはい、そうです。DMで報告してくれる人もいます。あまりにも熱心にDMで報告してくれるので、その香港のプレイヤーはそのままチームメンバーとして拉致しました(笑)。

――お二人の周りでは本作はどのように楽しまれていますか?

Alpaca韓国側はアップデートを含めたゲームの全コンテンツをしゃぶり尽くして、今は新しく入ってきた日本の新規ユーザーの皆さんがレベルアップしていくのを満足げに見守っている状態です。そして、「早くこっち側に来い」と待ち構えています。全部遊び尽くして、もうすることがない側に、です(笑)。断言しますが、不穏な視線の数は台湾側の方がはるかに多いはずです。

また、韓国では武侠モノで「ティッシュ」や「コンビ」のような外来語を使うことがタブー視されているのですが、日本ではそうではないので、それを不思議がる意見がよく出ています。

殿『活俠傳』は台湾のゲームですから、関連コミュニティは活発でオフラインイベントもあります。物理的に作者さんに近い分、「早く出せ!」の意見がより強く感じます。解毒剤が欲しいです。

――どちらも新コンテンツに飢えているのですね。

Alpaca骨の髄までしゃぶり尽くしたファンだけが残って、絶えず苦しみ続ける構造でして……。Discordには叫び続ける亡霊たちが大勢いると聞いています。

――今回の有志翻訳で一番苦労したことは何ですか?

殿このゲームのテキスト量は本当に本当に膨大です。作業の過酷さはその量に比例するもので、これをやり遂げるには、やはり並外れた情熱が必要でした。

Alpaca私は総括なので、翻訳やコーディング以外にも費用や人員の管理をしなければなりません。冷静に翻訳者間の実力を見極めて、重要なパートと相対的にそうでないパートに配置したり、労働量に見合った待遇をしたりする必要があります。また、AIの費用が膨大に発生しないようプロンプトを徹底的に点検して、ガクガク震えながら利用しています。

私は文章へのこだわりが強い方なので、原文のニュアンスが少しでも欠落している翻訳を見ると本当に苦しいです。そして、韓国語と違って日本語はそれをカバーできるほど上手くないので、拷問を受けている気分です。

――それでは逆に、有志翻訳をしていて嬉しかった瞬間を教えてください。

殿X(旧Twitter)でプレイヤーが物語に感動している投稿を目にした時が一番嬉しく、私たちがその感動を共有できたのだと実感できる瞬間でもあります。

Alpaca目が覚めたら韓国語MODが突然バズっていた時。開発者から直接感謝のメールをいただいた時。公式翻訳としてリリースされ、ユーザーの好評を得た時。そして今、日本語MODへの爆発的な反応。

純粋な嬉しさというよりも、嬉しさと不安と興奮が入り混じった感情が訪れることが多かった気がします。この4つはどれも、それに見合う覚悟と責任を背負わなければならないものでしたから。振り返ってみると、すべてユーザーや相手の方が私の仕事を喜んでくれた瞬間でした。

――今回の有志翻訳で生成AIはどのような役割を果たしましたか?

AlpacaAIについて話す前に、前提として一つ伝えておきたいことがあります。「完全なAI翻訳」と、翻訳にAIを「道具として活用する」ことは、厳密に異なるものだと考えています。

――それはどのような意味でしょうか。

Alpaca前者はAIで翻訳を一括処理する方法ですが、後者はAIに参考意見を聞いたり、原文テキストの下訳を出したりして、その文章を見ながら再構成していく方法です。出てきた文章の質が悪くても、意外と役に立つのです。人間というものは、既に完成された文章を再構成するのと、ゼロから創作するのとでは、労力の差が桁違いだからです。そして、AIのモデルが優秀であればあるほど、より良い下訳が出てきます。

――あくまでも人間が翻訳するための道具としてAIを活用しているのですね。

Alpacaまた、AIを利用した翻訳について、世間が少しずつ納得していく過渡期にあるということも認識しています。その過程の中で、実務者は常に実際の世論より一歩先の空気を体感しているものだと思います。

私は現在の翻訳MODにAIは必ず必要だと考える立場です。なぜなら、翻訳以外の部分でも労働量を劇的に減らしてくれるからです。私はMODを作るコーディングでもAIを利用していますが、それがなければ、とても予定通りの配布は不可能だったはずです。

――MODの制作にもAIを利用しているとは思いませんでした。

殿私は元々AIに疎いのですが、Alpacaさんの指導のもとでAIを使ってみて、校正にとても便利だと気付きました。

Alpacaそして結局のところ、AIを参考用に利用するとしても、最終的に人の手で訳し直さなければ使い物にならないのです。特に、日本語は用語、人称、口調が合っていなければ、どれだけ表現が良くても使えません。

――先ほどの「喧嘩上等」や「全裸俠」のようなローカライズも、現在のAIには難しそうです。

Alpaca現在コーディングと翻訳の参考用に助けてもらっているモデルは、少し前に再リリースされたClaude Fable 5で、そのMAXプランを利用しています。他の翻訳者にもこのモデルを使ってもらうために、私の自費でサブスクリプション費用を負担しています。

――Claude Fable 5はアメリカ政府の命令で公開が一時停止されていた最新AIですね。

Alpaca結局、レストランに例えるなら、AIは一種の「高価な調理器具」のようなものです。料理人が調理できなければ、どれだけ火力の良いコンロやIHがあっても無意味です。ただ、良い調理器具を使えば使うほど、人とのシナジーが生まれるのも確かです。

そして、AIがなければ韓国で『活俠傳』が知られることもなかったでしょうし、こうして日本語MODを制作することもなかったはずです。ですから、私はAI翻訳について「道具としての活用」と「AIに全てを任せた翻訳」は、明確に区別されるべきだと考えています。

――AIがなければ、日本のプレイヤーは今でも『活俠傳』を日本語で遊べなかったわけですか。

Alpacaさらに付け加えると、AIにはとても不可能に見えたゲームのローカライズを実現させたという良い面がある一方で、無分別な使い方によってユーザーの体験を損なう悪影響も確かに存在します。結局のところ、AIは強力な道具だからこそ、使う人間が責任感を持って使うべきなのだと思います。

少し話が長くなってしまいましたね。まるで好きな話題を振られたオタクのように、一人で十番まで歌い切ってしまいました(笑)。質問があれば誠実にお答えします。

――それでは一つお尋ねします。

「AIを道具として活用した翻訳」と「AIにすべてを任せた翻訳」の違いを意識していないプレイヤーは少なくありません。そういったプレイヤーにとっては自分の言語でゲームが遊べるかどうかが一番重要で、翻訳の品質の優先度はそれよりは下がってしまうからです。

もし、そのようなプレイヤーが多数を占めるなら、費用対効果の面で「AIにすべてを任せた翻訳」が「AIを道具として活用した翻訳」や「完全に人手による翻訳」を駆逐してしまう恐れはないでしょうか?

Alpacaこれは翻訳だけでなく、あらゆる分野に当てはまる話だと思います。コーディング、絵、翻訳、小説……どれも今、この問いの渦中にありますから。ただ、私は翻訳者としてこの場に参加していますので、翻訳に限定して慎重にお答えします。

韓国語MODは「AIにすべてを任せた翻訳」から始まりました。確かに、それだけでも遊べましたし、人は集まりました。しかし、その先で起きたのは駆逐ではなく、正反対のことでした。「もっと良いものを作りたい」、「もっと愛情を注ぎたい」……そう思った人間が数十人集まって、再翻訳が始まったんです。

AI翻訳は今後、ますます多くの人間の翻訳を代替していくでしょうし、それは避けられない流れです。でも、作品を愛したプレイヤーは、必ずその先を求めます。結局、AIか人間かが重要なのではありません。より良い品質でゲームを楽しめること……そのために皆が真心を尽くし、必死に議論を重ねて、一つの答えを作り上げていくのだと思います。

私の回答と経験が、そうした議論の中の小さな一つの手がかりとして機能してくれれば……それが私の願いです。

――作品を愛したプレイヤーは、必ずその先を求める……良い言葉ですね。自分自身の経験にも当てはまります。

AlpacaAIは目を背けたり避けたりするものではなく、すでに日常の奥深くまで入り込んでいるものですから、結局は考え続けていくしかない課題だと思っています。

(後日談:インタビューの数日後、読みが難しい漢字の上に「ルビ」(ふりがな)を振る機能が追加されました。この新機能もまた、AI(Claude Fable 5)なしには実現できなかったそうです。)

読みが難しい漢字の上に「ルビ」を表示する新機能。本作には不可欠とも言える機能だ。

作品が正当な評価を受けるために

翻訳者は作品を一緒に届ける仲間

――これから有志翻訳を志す方へ一言アドバイスをお願いします。

Alpacaえ? 私のアドバイスなんて必要でしょうか?(笑)

有志翻訳というのは大抵、気づいた時にはもう自分がやってしまっているものだと思います。ですから、「そうなってしまった」方々のためになら、小さなアドバイスができるかもしれません。

とある作品の有名な言葉に、「愛がなければ視えない」というものがあります。有志翻訳もまったく同じです。原文の細かなニュアンス、訳文の粗、コーディングの解決策、コストの落としどころ、そして作品が本当に伝えたいこと。結局、この作業のすべては愛がなければ視えません。

ただし、愛は間違いなく消耗品です。どうか、大切に使ってください。

殿もし、十分な情熱があると感じるなら、ぜひ挑戦してみてください。もし、自分一人では力が足りないと感じるのなら、志を同じくする仲間を探して一緒に立ち向かってみるのも良いかもしれません。

――有志翻訳者としてゲーム開発者やゲーム業界に伝えたいことはありますか?

殿素晴らしいゲームを制作してくださり、本当にありがとうございます。

Alpaca一つだけ、現場から伝えたいことがあります。ローカライズの品質は、その言語圏でのゲームの評価そのものになります。プレイヤーは開発者の意図を、翻訳された文章「だけ」を通して受け取るからです。

だからこそ、わずかなコストを惜しんで品質の低い翻訳を選んだり、無理なスケジュールで翻訳を潰してしまったりして、素晴らしい作品が正当な評価を受けられずに終わるのを見ると本当に胸が痛みます。

逆に、ローカライズを「コスト」ではなく「作品の一部」として扱う開発者の作品は、言葉の壁を越えて必ず愛されます。『活俠傳』のデベロッパーおよびパブリッシャーは、まさにそういう方々でした。

翻訳者を、作品を一緒に届ける仲間として信頼していただけたら……それが現場からの、一番のお願いです。

――本日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。

ライター:FUN,編集:Akira Horie》



ライター/遊ぶより創る時間の方が長いかも FUN

元ゲームプログラマー。得意分野はストラテジーゲーム。ゲームライターとして活動する傍ら、Modの制作や有志日本語化に携わっています。代表作は『Crusader Kings III』の戦国Mod「Shogunate」。

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Akira Horie

編集/『ウィザードリィ外伝 五つの試練』Steam/Nintendo Switch好評発売中! Akira Horie

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