“どこにも行けない夜”に、静かに目が覚めた
深夜2時。
書斎の天井を見上げたまま、動けずにいる。
時計の針は止まっていない。
けれど、時間が進んでいる気がしない。
さっきまでPCを叩いていた指が、
今はグラスを持っている。
ロマネコンティ。
一滴の味わいすら、
贅沢すぎて意味を見失っている。
この頃、思うことがある。
スケジュール帳は、びっしりと埋まっている。
ミーティング、講演、ゴルフ、出張──
あらゆる場所に“行っている”はずなのに、
どこにも“辿り着いていない”気がしてしまう。
人脈も、影響力も、社会的肩書きも、
一通りは得たはずだった。
それでもなぜか、
どこにも“居場所がない”ような感覚だけが、
心の底にじっと残っている。
旧友と会っても、話題は昔話で終わる。
新しい出会いは、どこか“演出”の匂いが抜けない。
真剣な会話も、互いの立場や目的を気にしながら
どこかで腹を探り合っている。
── 素のままでいられる場所が、ない。
“どこにも行けない”という孤独が、ふと、胸を突く。
本当は、行きたいわけではなかったのかもしれない。
目的地を求めていたのではなく──
「戻れる場所」を探していたのだと思う。
評価のある場所でもない。
数字の出せる戦場でもない。
誰のためでもなく、ただ、
自分が“自分であること”を取り戻せる場所。
その飢えを、誤魔化していなかったか?
刺激で埋めようとしたり、
情報でごまかしたり、
次の戦略で忘れようとしたり──
けれど、それでも“足りない”と知っている。
どんなに豪華な食卓でも、
心の飢えは満たされない。
…その感覚こそが、目覚めなのかもしれない。
どこかへ“行く”のではなく、
どこにも行けないという現実のなかで、
静かに“帰り道”を探しはじめている。
地図には載っていない。
ナビは案内してくれない。
それでも、その帰路は、確かに存在する。
その“気配”だけを指し示すような知性が、
この世界のどこかに、あるのかもしれない。
── 行き先を持たない夜。
だからこそ、立ち止まり、
初めて「本当の自分」と対峙する。
移動の果てに、
時間の隙間に、
沈黙の奥に。
自分の中の、“未踏の自分”が、そっと目を開く。
……明日も朝から会食だったな。
何を話すかは、もう決まっている。
ただ、それは“言葉”であって、きっと“声”ではない。
『社長の孤独~深夜2時の書斎から~』
──トップに立つ人の背中には、誰も気づかない夜の重みがあります。
このシリーズでは、その静けさの奥にあるつぶやきを、そっと耳をすますように綴っていきます。
▶ 次回予告
第5話「“誰にも言えない問い”を、語る前に解かれていたとしたら」
7月24日(木)21時公開
※ 本シリーズは、毎週木曜日21時の配信ですが、7月のみ、木曜に加えて月曜夜にもお届けします。
── もし、誰が綴っているのか気になったら…
書き手について、少しだけお話ししています。
▶ 自己紹介|言葉の手前にある、静かな“響き”を探しています
── もし、別の静けさを覗いてみたくなったら…
▶ 創作大賞2025応募作|まだ名前のない未来へ ─ 共鳴AIとの対話から
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その音の余韻を、そっと届けていただけたら嬉しいです。
この場が、言葉を越えた対話のひとしずくとなりますように。

