生活保護で処方の薬を若者へ譲渡「ボランティア精神から」…グリ下「薬屋」の身勝手言い分

医薬品医療機器法違反の疑いで逮捕された「薬屋さん」こと今川祐希容疑者=大阪市中央区

「ボランティア精神だった」。少女2人に計60錠の薬を違法に譲渡したとして、大阪府警に逮捕された無職の男は動機をこう供述したという。大阪・ミナミのグリコ看板下「グリ下」周辺で「薬屋さん」と呼ばれていた男は、生活保護を受け、自己負担なく処方された大量の薬の一部を配っていたとみられる。事件からは、若年層に広がる「オーバードーズ」(医薬品の過剰摂取)の深刻な現状も浮かぶ。

医薬品医療機器法違反容疑などで逮捕されたのは無職の今川祐希容疑者(40)。捜査関係者によると、薬をどんな相手に渡していたかについて「人生に悩んでいる子や、依存症を自覚していない子」と説明した。

逮捕容疑は1月下旬、女子中高生2人に睡眠導入剤や向精神薬など計60錠の医薬品を譲り渡したなどとしている。2人は20錠以上を服用したとみられ、電車内で昏睡(こんすい)状態に陥っているところを保護された。

府警は容疑者の自宅などから約5800錠の薬を押収。生活保護の受給者は診察や薬の処方を自己負担なしで受けられ、容疑者は令和6年2月以降、1つの医療機関で約2万錠の薬を処方されていた。「薬に詳しいので(女子中高生2人に)適切な薬を渡す自信があった」と供述したという。

グリ下周辺は、家庭などに居場所がないと感じる若者が集まることで知られ、違法薬物の取引といった犯罪の入り口となる危険性が以前から指摘されてきた。容疑者と女子中高生2人はそこで知り合った。

ただ近年は違法薬物に限らず、市販薬を大量に摂取するオーバードーズが若者の間で蔓延(まんえん)し、社会問題化している。

高校生70人に1人がオーバードーズ経験

厚生労働省研究班の6年度調査によると、過去1年以内に市販薬の乱用経験がある高校生は1.4%(約70人に1人)と推計された。経験者のうち「週に数回」が6.3%、「ほとんど毎日」が4.6%で、常習性が高いケースも珍しくなかった。

入手先は薬局やドラッグストアなどの実店舗が54.1%で最多。だが、インターネット(5.8%)や「友人・恋人・知人」(4.2%)も目立った。同年度の中学生対象の調査では乱用経験者は1.8%(約55人に1人)と推定されており、高校生よりも深刻化している可能性がある。

国も対策に乗り出している。5月には改正医薬品医療機器法が施行。指定成分を含むせき止めや風邪薬などの市販薬について、未成年者への販売制限が設けられ、大容量の製品や複数購入が原則禁止された。また、店側は販売の際、客の年齢や氏名に加え、他店での購入状況などの確認が必要となった。

「若者の居場所づくり進めるべきだ」

大阪経済大の藤澤宏樹教授(憲法学)は「販売制限だけでは抜け道ができる。孤立を防ぐ居場所づくりも進める必要がある」と強調する。「薬屋さん」の事件や調査結果が示す通り、薬の入手先は実店舗に限らないため「店で薬が買えず、不適正な手段で入手した結果、違法薬物を摂取してしまう危険性もある」と懸念。根本的な解決に向けて「行政と地域が連携して若者の居場所づくりを早急に進めるべきだ」と話した。

過剰処方の問題、過去にも度々

およそ2年間で、1つの医療機関から約2万錠もの薬を処方されていた容疑者。生活保護受給者の医療費が「医療扶助費」から全額公費負担されることを背景に、過剰処方はこれまでも度々問題になってきた。

今川祐希容疑者の自宅から押収された処方薬=大阪府警本部

容疑者の自宅などから実際に押収された薬は31種類、5796錠。大阪府警はうち5070錠が自己使用の目的ではなかったとみているが、容疑者は「売る目的とか、薬をあげる目的で家に置いていたわけではない」と否定しているという。

生活保護の受給者数は平成27年の約216万人をピークに減少傾向にあり、令和8年3月時点では約198万人。ただ、高齢者の割合が増加していることもあって医療扶助費は横ばいの状態が続く。7年度当初予算における生活保護費の負担金は3.7兆円で、約半分を医療扶助費が占める。

こうした状況を踏まえ、国は不適切な投薬を防ぐ対策を強化。向精神薬などの重複投薬を防ぐため、疑いがある場合はケースワーカーが主治医と協議して適切な処方か確認しているほか、薬局に「お薬手帳」を持参するよう指導しており、患者が持参しない場合は、薬局が福祉事務所に連絡する取り組みも始まっている。(堀口明里)

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