TURN6【バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に突入する】(同人先行版)



 僕は竦んでいた。

 圧倒的。

 圧倒的としかいいようがない狂える龍のステータスに。


「……4オド8/8? 随分軽いが」


 オレンジバイザーマンは動揺の一つもしていなかった。

 どうなってるのか。

 僕なんてとても信じられないペースで出たそれに混乱しているのに。


「いや、それより永夜? たしか……夜の王、そうか」


 ぶつぶつと呟いて、そいつは見た。

 目の前の人をようやくちゃんと見た。


「”ヴァニシング・ブロックか”」


「――ふむ」


「……なっつ。だが随分と軽いデメだな、相手の敗北封じ程度で8/8かよ」


 は??

 程度って、え。


「カスレア……いや、まあ神格レアか? 効果は覚えちゃいねえが、説明してみろよ」


「知らないのか?」


「知るかよ。ぶっ壊れでもない中古カードなんざ一々覚えてられねえぜ、なあ? おい」


 シュカッと。

 指を鳴らすのに失敗しながら、バイザーマンは愉しげに肩を震わせた。



「カマせナイトレイダー使いがよ」



 そう嗤った。


「思い出した、ああ、思い出した。てめえの顔は覚えちゃいねえが、データはあったぜ。モブ野郎、確かナイトレイダー使いの背景「説明をしよう」キャラが、あ?」


「<永夜・崩れゆく狂界クラット>には二つデメリットがある。一つは俺のアップキープごとに-1/-1カウンターを3個乗せられていく」


 え、説明しちゃうの?!


「名前通りだな。文字通り3ターンで死ぬのか、500円か」




「そして、



 え。


「あ゛っ?」


「以上が、クラットの効果だ。【孤絶】と【飛行】の説明もしてやろうか」


「いらねえよ。【絶界ぜっかい】の劣化品だろ」


 ぜっかい?


「は、いいのかよ。ろくに覚えちゃいねえマイナーカードの能力なんざ説明して、数少ない勝利の芽がなくなったぞ?」


「構わないさ」


 そういって彼は、右手の手袋を嵌め直して。


「場に出ているカードの効果ぐらい熟知していて、俺たちは当たり前だろ」


「敗北の言い訳タイムはそこまでか! さあ、かかってこいよ!!」


「色彩をセット。2コスト、秘宝<幻想少女の御伽噺>をプレイ。通りますか?」


 ! あれは! 


「御伽噺? ”メルヘランナー”のじゃねえな、違うブロックか」


「通りますか?」


「……説明は?」


「通ったら言いますね」


「てめえ……さっきと言ってること違うだろうが!?」


「まだ場にも出てないしぃ? というか知らないのか、結構有名な奴なのに」


「名前も聞いたことねえよ。勝手に通れ!」


「では、場に出る。同時にこの御伽噺の上に【栞カウンター】が1つ乗せられて、効果を発動する!」


 

 ということは彼のデッキは、御伽噺使い……童話死神グリムリーパー


「俺は手札を1枚裏向きにして場に出す。これは2/2の如何なる種族でもないクリーチャーとして扱う。ターンエンド」


「壁を並べただけかよ。オレのターン!」


 あっさりとターンが移る。

 あんなに強いクリーチャーなのに、速攻を持っていないから攻撃出来なかった。

 次のターンには弱体化した状態で攻撃するしかない。


「ドロー……魔石<燃え盛る星々の記録>をセット! 場に出たことで上に【記録】カウンター2つ乗る!」


「どっちに射つ? 俺か、お前か」


「今時切腹加速するわけねえだろ! ”スタロ”から記録カウンターを2つ取り除き、この魔石を起動するぜ!」


 星描く翼スター・ロードからカウンターを?!


「<燃え盛る星々の記録>は記録カウンターを2つ取り除いで起動することでクリーチャーか”プレイヤー”にダメージを与える! そこの裏向きクリーチャーに2点だ、どうせ踏み倒しだろ!」


「1コストで瞬間魔法<思考>。デッキトップを確認し……戻してから、1枚ドローする!」


「コモンかよ!」


「使えれば何でも使うさ。ドローした瞬間、幻想少女の上に栞カウンターが1つ追加され、2P目が発動する! 【俺はクリーチャー1体をエンドフェイズまで除外する!】 ”テキストは古いが、このクリーチャーは俺のクリーチャーを指す”」


 たしか<幻想少女の御伽噺>の効果は4つ。

 1P目は、手札のカードをクリーチャーにして出す。

 2P目は、クリーチャーを1つエンドフェイズまで除外する。

 3P目で、さらにクリーチャーを1体|強化(バンプアップ)。

 最後は墓地から”御伽噺”を回収だった……はず。


「だから、2/2の裏向きクリーチャーを除外する」


「魔石の効果対象ターゲットは消失。ちっ、躱されたか」


「さあ、次はなんだ?」


「――ターンエンドだ。<星描く翼>に記録カウンターはない、3つ外せないため生贄に捧げるぜ」


 そういって唯一残っていた鳥型のクリーチャーが儚く光の粒になって消失する。

 ……魔石だけ出して終わり?

 僕の時はもっと色々展開してたのに。


「エンドフェイズに除外していたカードが場に戻ってくる、これは表向きになって出る」


 なんだろう。”意識ギアが変わった”?


「不幸は予兆と共に現れるものだ――秘宝<残酷な御伽噺>」


「クリーチャーじゃねえ、場に出ていれば効果がある秘宝か!」


「エンドフェイズに戻ってきたこのカードは場に出たため、【栞カウンター】が1つ乗って効果発動! ファイター1人に2点ダメージを与える」


 パチンと青年が指を鳴らした。


「クラットの効果によりダメージは倍加する! ”天が堕ちろフォールダウン”!」


「ガッ!?」


 その瞬間、オレンジ男の肩が弾けた。

 同時にライフデッキの上から4枚のカードが、蒸気と共に飛び出す。


「ほぼライフドレインのが倍加かよ……切腹御用達がよ」


「4点ダメージだ。そして、俺は2点回復する」


「チッ……だが色彩は増えた」


 飛び出したライフカードを掴んで、ボードに叩きつけるようにセットされる。

 僕は見ていた。

 基本色彩だが、魔石混じりで全部はセットされていない。


「これで本当にエンドだが……最低限の打ち消しコストは握ってるか」


「ああん? ピッチかもしれねえぜ」


「なら突破するだけだよ。俺のターン、レディ、アップ」


「そこのトカゲが弱体化する」


「――<永夜・崩れゆく狂界クラット>は-3/-3の修整を受けて、5/5になる」


 咆哮。

 白い雲めいた体液をこぼしながら、その黒い龍がジュクジュクと音を立てて身を捩る。

 ……腐っている。

 今にも腐臭が漂ってきそうな雰囲気、空気が重く感じるのに。


「ドローフェイズ。ライフ、メインドロー」


 青年は一切に躊躇なく、ボードからドローした。


「ライフカード、メインカードを1枚ずつ引いてるが、処理としては同時に行っているため――”カードを引く行為”は一度だけになる」


 セットされた二つの|御伽噺(秘宝)が、音を立てて捲られる。


「<幻想少女の御伽噺>・<残酷な御伽噺>に【栞カウンター】が1つずつ追加される!」


 爪先で床を叩く。


「惨劇は立て続けに続く、まだ終わらない道筋となるように――<残酷な御伽噺>の2P、ファイター1人に2点ダメージ、俺に2点回復!」


 タタンと音を立てて、踵で音を鳴る。


「もう一度だ! フォールダウン!」


「チィ!」


 振動。

 オレンジ男の片足から真っ黒な煙が噴き出して、七色下品に輝くデッキが音を立ててライフカードを射出した。

 ――1枚だけ。


「呪言<間一髪>だ。オレのダメージはこれだけだ」


 飛び出したカードが墓地に送られる。


「備えてたか。あと何枚だ?」


「自分で数えろ、モブ野郎が。もう一枚の効果は?」


「幻想少女の御伽噺の3ページ目。クリーチャー1体に+3/+3の修整を与える――クラックは魔法・能力の対象にならない。そのため<幻想少女の御伽噺>の3P目に選べない」


「旧式は不便だな」


 せせら笑うオレンジ男。

 けれど、僕は見ていた。

 その指先が、左手の手札を撫でていたことを。

 コスト2を残しているということは動けるということだ。

 それがブラフか本当かわからないけれど。


 ――こいつは備えている。


「メインフェイズ! <滾る溶岩流>をセットする」


「赤黒のダメカラーかよ」


「5コスト<夜疾猟団ナイトレイダー 巨岩の快男児>を召喚する」


 現れたのは勇ましい大斧を担いだ偉丈夫。

 岩のごとき鎧を纏った戦士。

 そのスペックは4/5の”やや弱いステータス”。


「快男児は場に出た時、その上に【楔カウンター】を2つ乗せる」


「ようやくまともに出てきやがったな、ナイトレイダー」


「さらに夜侵――楔カウンターが2つごとに1コスト軽減し、2コストで<|夜疾猟団(ナイトレイダー) 血塊の魔女>を召喚」


 続けて現れたのは魔女。

 鮮やかな紅の装束を纏い、とんがりの帽子を被った顔も見えない艶やかな女性。

 異端の証である折れ曲がった帽子の縁から、血を塗ったような唇が笑っていた。


「通りますか?」


「典型のバーンか、烙印コストは? だせねえよなぁ!」


 烙印?


「色彩が足りないねえからな」


「通るなら烙印コストは払わない。<滾る溶岩流>を起動、1ダメージと引き換えに(青)を生み出す」


 先ほどセットしたばかりの色彩を横向きに、発動させると同時に煙が上がった。

 彼の腕がくすぶるような煙を上げているが、まるで動揺しない。


「クラットの効果でダメージは2となる」


 青年のライフカードから飛び出したのは2枚。

 1枚は色彩で場にセットされ、もう1枚が浮かび上がる。


「呪言<藁の手>を当てたヒット。1枚ドロー、2つの御伽噺が進む」


「CC,CC、呪言に、藁の手……ダメージ全受けで引く前提か」


「<幻想少女の御伽噺>は最終章に至る。少女の夢は終わり、目が覚める、その手には新たな物語は……なかった。墓地に眠る他の御伽噺はないため最終章の効果は不発、これは生贄へと捧げられる」


 ……また効果が空振りだ。

 上手くカードを回せていない。


「<残酷な御伽噺>の3P目。ついに死神が姿を表す――4/4のホラー・トークンを生成。このパワー・タフネスは俺の墓地2を参考にする」


「CC2枚に、呪言2枚でそれか」


「そして、最後の1コストで通常魔法<始まりの表紙ページ>を発動します。通りますか」


「通る」


「では手札を1枚捨てて、<幻想少女の御伽噺>をデッキから加える」


 それは僕も知っているサーチ魔法。

 デッキに眠る御伽噺を1つ手札に加えるものだけど、代わりに1枚カードを捨てることになる。

 共鳴さえしていれば殆どいらないものだった。

 そして、僕は見ていた。

 ……捨てたのは、快男児?

 便


「さて」


 手袋を嵌めた手を翳して、青年は命じた。


「バトルだ! <永夜・崩れゆく狂界クラット>で攻撃!」


「ライフで受ける」


 クリーチャーのいない盤面を、ひしゃげた翼を羽ばたかせて龍が吼えた。

 腐りゆく龍の顎が開いて、黒い炎を吐き出した。


「ごがぁああ!?」


 ブレスに包まれた中から絶叫が上がった。


「5点の倍、10点ダメージだ」


「やった!」


 これで残りライフは0!

 あとはクラットが自壊するだけで勝てる。



「――とでも思ったか?」



 えっ。

 炎を引き裂いて、殆ど無傷のオレンジ男が現れた。


「呪言<間一髪> 2枚目だ」


 その手には、黒く煙を放つ――ライフカード。


「ダメージは1だ。めくれた9枚を戻して、ライフデッキをシャッフルする」


 音を立てて、ボードにセットされたライフデッキがシャッフルされる。


「だが、残機は削れた。血塊の魔女の効果発動。クリーチャーがダメージを与えた時、【楔カウンター】をそのクリーチャーの上に乗せるため、クラットの上にカウンターを1つ追加する。ターンエンド」


 目まぐるしい攻防。

 たった1回殴っただけなのに、クリーチャーの数は激減した。

 青年のほうには、行動済みのクラット、それ以外は岩のような戦士快男児、魔女、ホラートークン。

 そしてオレンジ男のほうは更地。


「お前の」


「オレのターンだ」


 だというのに、互いの顔にはまるで余裕はない。

 なんだろう、このファイトは。


「……カマセ野郎」


「俺のことか?」


「1つ褒めてやるよ。さすがは元中ボスだ、”前座でもいい引きをしてやがる”」


「あ゛?」


「だが――そのインチキドロー以外は、雑魚だろ。テメエらは」


 そう、叫びんで、七色に光るボードを構える。

      ザザ

 音が鳴った。

 ザザ      ザザ

 波のような、あるいは悲鳴のような。


「蹂躙するのがマナーだろ?」



【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】

         『――|MOD(モッド)ロー!』

【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】



 空間が軋みを上げて、デッキに添えられた手のカードが一瞬歪んだ。


「色彩をセットし……来いよ! 4オドで<星見の主スター・シーア>を召喚!」


 あれは最初のターンに捨てられた!?

 2枚目を今引いた?


「……通ります」


「打ち消さねえのか? なら出るぜ!」


 呼び出されたクリーチャーは、静かに佇む男性だった。

 その肩には小さな小鳥が乗っている、目を閉じた静かな男。

 ステータスは1/4。

 4コストも使って、こんなクリーチャー?


「3オドで、通常魔法<空文の予言>を発動! 2枚ドローする!」


 手札補充の魔法?


「この瞬間、<星見の主>の効果が発動する! オレの場に【飛行】と【封陣1】を持った1/1の鳥・トークンが生成される!」


 なっ!?


「2体って、まさかカードを引いただけで!?」


「その通り。さらに言えば、こいつらで攻撃するだけでオレはデッキを上から並べ替える事が出来るし、記録カウンターを得ることが出来る」


 なんだそれ。

 ステータス自体は大したことはないが、問題なのはそれじゃない。

 これは2体とも飛行を持っていることだ。

 つまり。


「もう、そこのクソドラゴンでオレの攻撃を受けることはできないってわけだ」


 完全に当てられる攻撃が潰された。

 いやでも、クリーチャーの数は青年のほうが上回ってる。


「まあそこのデクノボウも合わせて殴られたらきつい、が」


「なにかしますか?」


「オレは負けることはないんだったか? 受けてもいいんだぜ」


「なにかしますか?」


「予言してやる。次がお前のラストターンだ」


「なにかしますか?」


「うっせーな、ターンエンドだ」


 舌打ちと共にターンが切り替わる。


「俺のターン」


 もう色彩は使い切ったから打ち消されることはないはずだけど。どうするんだ?


「レディ、アップキープ――クラットの弱体化。2/2へとダウン」


 あっちのライフは9、彼のライフもこれで9。

 どちらもクラットで5点、いや4点も受ければ即死ライン。

 相手は負けない、つまりライフが0になっても敗北しない有利まで得ている。ここから勝つには。


「ドロー」


 相手のライフを削りきってかつ、クラットの効果を無効化すること。

 そして、こちらは《《2点もダメージを受けないこと”。


「<残酷な御伽噺>の最終章、惨劇はEDの後に再び顔を見せるものだ。4/4のホラー・トークンを1体生成し、<残酷な御伽噺>を生贄に捧げる」


「また出やがったか!」


「ちなみに4ページ目の参照は俺じゃなくて、対戦ファイター1人のサブ墓地の枚数だ。呪言に、魔石とたくさんいれててくれてありがとよ」


 最初の呪言、送られた魔石と間一髪2枚分か。

 ……相手と自分が色彩しかいれてなかったら後半2ページは役に立たないんじゃないか、これ?


「メイン。2コスト、秘宝<幻想少女の御伽噺>をセット。通りますか?」


「またかよ。通る」


「では――少女は再び夢を見るだろう。手札から1枚裏向きに、2/2クリーチャーとして場にセット」


 また新しく手札が1枚裏向きのクリーチャーとして呼び出された。


「場の楔カウンターはクラットと快男児の3つ――3コスト支払い、<血塊の魔女>を起動ステイ。3点のバーンを、お前に与える」


「なにッ」


 魔女が振るう杖の先に小さな火が宿り、瞬く間に膨れ上がる。


「クラットの効果により倍の6点だ」


 そして、優雅な動きと共に炎の火球が放り込まれた。

 轟音。

 けたたましい爆音と共にこの空間の中を照らし出すように火の粉が舞って。


「きははは!! おいおい、まだ死んでねえぞ! 残り3てーん!」


 笑い声を上げながら、オレンジの男は軽々しく火をかき消した。

 どうなってるんだ。

 リアルダメージじゃないのか。


 青年のようにあっちも痛みを受けないとでも?


「バトルだ。2/2に弱体化したクラットと4/4のホラー・トークン1体で攻撃する」


「ライフで受ける!」


 2体の攻撃が直撃し、ライフデッキは全て吹き飛ばされて。



「だがしかし、オレは負けない! ライフは0だが、マイナスにならずにぃキープだ!」



「バトルフェイズ終了」


「いやあ楽しいな。ライフの数を気にしなくていいってのはよぉ」


「メイン2を始める」


「さあ、使ってみろよ。【封陣】が2体で、盤面リセットでも出来るもんならな」


「2コスト、瞬間魔法<抱き寄せ>を発動。通りますか?」


「おいおい、まだ|切り札(マスカン)引いてなかったのかよ。頼むぜ」


「手札を1枚捨てて、2枚ドローします」


 まずい、もう色彩が残っていない。

 次のターン、凌げるのか?







「あ゛?」


 彼は、手札を1枚捨てた。

 色彩を、”まだセットしていなかった色彩を”。


「お前。<防災>か<貫く意思Skewer of Will>か<苦渋の運命>なり2枚ぐらい握ってんだろ」


「――なんのことだ?」


「マストカウンターさえ打ち消せば負けない。ピッチスペルでコストは踏み倒せる、クラットを処理する方法さえ潰せば負けはない。あるいは特殊勝利か、それだけに注目している」


 彼が説明する言葉に、オレンジ男は怪訝そうに目を細めた。

 盤面を見る。

 盤面は圧倒的だ。

 けれども、次のターン、ライフデッキを全て並べた膨大なオドがあれば逆襲は成り立つ。

 勝ちの条件が満たせていない以上、彼は負けるだろう。


「それは正しい。ここから俺が勝利する手段はない」


「ああ、そうだ。1つだけ教えてやるよ、オレの手には確かに<苦渋の運命>はある。これのコストは”ライフを失う”であって支払うわけじゃねえ、つまり問題なく使えるわけだ。ここからお前がどうやって耐え凌ぐか、だらだらと「ああ、そうだ。俺は勝てない」


「ただお前が負ける」


 僕らは首を傾げた。


「ページを捲る。少女の物語が始まり捲られる。鏡の国か、不思議の国か、あるいは見えない地下の世界か、何処に繋がるものかわからない”落とし穴”」


 セットされていたカードがくるくると回り出す。

 具現化された小さな絵本に、彼が指をかけて。


「2ページ目。”あなたはクリーチャーを1体除外する”」


「あ゛?」


 パラリとページが捲られる。


「俺は<永夜・崩れゆく狂界クラット>を選択」


「 あ゛?? 」


 床が開く。

 小さな扉が床に生み出される、そこは白い雲、否、膿の満ちる領域。


「まて! まてまてまて!! おかしいだろ! 」


「これを除外する」


 扉が開く。

 音を立てて、水が排水溝に飲み込まれるように消えていく。


「クラットは【孤絶】だ! 対象にならねえはずだ! そうだろ!? さっきの御伽噺でも選べなかったは」


「――それは3ページ目の話だろう? 2ページ目は違う」


 クラットは沈むように姿を消して。



「”この物語を見ている貴方あなたはクリーチャーを1体除外する”。カードが相手を選ぶんじゃない、俺が自分の登場人物カードを選んでるだけだ、だって俺が語り手コントローラーなのだから」



「馬鹿な!? 生贄記述でもないやつが、コントローラー指定なわけがないだろ!」


「悪いな、これは古いカードでね。”テキストがそうなってるんだ”」


「ふざ、ギ」


 ピシリと音が鳴った。


「ご」


「クラットが場から離れたことにより、ルールは元通りになる」


 オレンジの男の身体から破滅的な音が聞こえた。


「ガ」


 全身が軋みを上げて、燃え上がっていく、腐っていく。


「お前は敗北することが出来る」


「あ゛ア゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ!!!!」


「顔を上げたなら、現実逃避は終わりだ。グッドゲーム」




 悲鳴を上げながら、それは前へと崩れ落ちた。







――――――――――――――――――――――――


 彼は法の忠実なる奴隷である。


 管理するものがもはや腐り果てても

 彼を正しいと思うように変えたのだから。



            ――永夜・崩れゆく狂界クラット


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