子供扱いしないで欲しいというわけではない。実際、自分はまだ子供だし、なんだったら、彼の優しさに心地良ささえ感じることもある。では、彼の何処に不満を抱いているのだろうか。遠くにいる日車が、同年代の日下部達と話す様子は、明らかに自分といる時より気負わない様子で、何処か楽しげだった。
「体調でも悪いのか」
気付くと彼は自分の目の前までやってきていた。こちらを見る彼に視線を合わせると、未だこちらを見れないのか、彼の視線は足元まで落ちてしまった。
「いや、大丈夫。ちょっとぼーっとしてただけ。」
「疲れが溜まっているんじゃないか。早く部屋に戻って休むといい。」
それとも飯でも食べに行くか、と機嫌が悪い子供は皆空腹が原因だとでもいう様子で提案された。
「…いや、休む。」
言葉とは裏腹に彼の袖口を掴むと、彼は困った子供にするように、それでいて優しく、小さく笑った。既に掴んだ手は離しているのに、何も言わずとも自室に付き添ってくれる。この優しさも含めて好きになったはずなのに、周りの大人にする対応とは違うそれに、もどかしくなる。
「日車、俺に気ぃ遣わないでいいよ。」自室に入ると、彼も何も言わずに付いてくる。自室まで付き添いしてもらいながら、それを断ることもなく受け入れた自分が言う台詞ではなかった。後ろでどんな顔をしているのか、日車は何も言わない。
「子供扱いされると、嫌なわけじゃないんだけど。…すごく、虚しくなる。」
後ろからようやく、子供扱いはしていない、と返事が返ってきた。
「大切な人を大切に扱うのは当然のことだ。大体、俺は子供に気を遣えるような人間じゃない。」
こちらの言葉の真意を汲み取ったのであろう、思ってもみなかった反応に嬉しさを抑えきれないも、しかしまだ納得しきれずに、振り返って彼を見る。彼はと言うと、何故か少し赤くなった顔を隠すように口元を手で覆いながら、やはり視線を外される。
「それに、君しか知らない俺もいる。君に気を遣っていたら、俺はここまで我儘になれない。好きでもない奴と、こんなことは、しない。」
おずおずと伸びてきた指が心臓の辺りに置かれる。昨夜の情事を思い出させる熱を帯びた目と、やっと視線があった瞬間、どうしようもなく愛しくて、壊れるくらいに抱きしめると、苦しそうな声が小さく聞こえた。