君の魅力に気づいておくれ
みんな生きてるスーパー平和次元・ハイパー捏造、つまり超幻覚。
日虎です。すでに同棲しています。
日車さんがモブにとてもモテます。
考えるな、感じろ。系ギャグ?です。
五条先生は、夏油さんが生きていて離反してなかったら、もうちょっとクソガキムーヴを引っ張ってた気がします。そんな気持ちで書いています。
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前作にて、ブクマ、いいね等ありがとうございました。
人生で初めて小説というものを書いたので、投稿するか悩んでいましたが、投稿してよかったです。
今回の話は、前作を書いている時の息抜きに書いていた話です。
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日車と悠仁は、いつものように夜ご飯の支度をしていた。
「日車、飯炊けた?」
「炊けているが、まだ保温が10分経ってないな。鮭はもうできそうか?」
「おう、カリッカリに焼けてんぜ」
「では俺は味噌汁をよそうか」
「お、サンキュー。おひたし冷蔵庫から出すわ」
日車が味噌汁の入った鍋をあけ、戸棚から赤と黒の漆のお椀を2つ出す。悠仁は台布巾で机をサッと拭き、ほうれん草のおひたしのラップを取って、机に置いた。その様は、完璧なフォーメーションというやつで、無駄のない洗練された動きであった。
そんな空気を邪魔するかのように、机に置いてあったスマホが震えた。
「日車〜、電話!」
「悪いが出てくれるか」
日車は味噌汁をよそいながら答えた。
悠仁は画面をスライドして電話に出る。
「はーい、こちら日車」
日車は危うく味噌汁が入ったお椀を落としそうになったが、すんでの所で堪えた。
「あ、伊地知さん? うん、虎杖だけど。日車は今、手ぇ離せないから俺が出ました! え?なんで? 任務の電話じゃないの? うん、うん、別に俺で良ければ聞くけど。え、いやそんなに深刻なの? 深刻じゃないけど?? ごめん俺あんま謎かけとか得意じゃなくてさ……簡単に言ってくれると嬉しいんだけど」
日車は味噌汁を机に置きながら、随分と本題に入るまで長いなと思っていた。
「え」
悠仁は目を見開いて、日車を見た。
日車はただ首を傾げるしかなかった。
「いや、まあ、任務だからさ、別に俺の感情とか、関係ないっちゃ関係ないんだけど……」
悠仁は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
日車は悠仁に向かって手を差し出した。ところが、悠仁はスマホを日車に渡すどころか、背を向けて伊地知と話を続けた。
「いやてかそれ、もっと適任者がいると思うんだけど。ほら、五条先生か夏油さんでよくねえ?」
状況はよくわからなかったが、恋人の口から、突然別の男の名前が出てきて、伊地知に薦めるものだから、日車は少しムッとした。
「虎杖、いい加減電話を返せ」
日車は悠仁からスマホをするりと抜き取る。
「あっ、日車! まだ話は終わってねーから!」
悠仁は日車のシャツに縋りついて、ガクガクと揺らした。
「元々俺にかかってきた電話だろう」呆れたように悠仁を見て、電話を耳元に当てた。「すまない、任務の件だったな。何か問題が?」
伊地知は電話口で少し言い淀んだが、簡潔に答えた。
『はい、今回の件は、日車さんしかアサインできる人がいないんです』
「俺しかアサインできないというのは」
『その、潜入先が、30代医師弁護士限定の婚活パーティーになりそうでして』
日車にとって、生まれて初めて聞いたような言葉だった。
「30代医師弁護士限定の」日車が録音再生のように復唱する。
『婚活パーティーです』
見えてはいないが、伊地知のメガネが光った気がする。
そんなことよりも、日車は部屋の温度が急に上がった気がした。額から一筋の汗が落ちる。そっと目線だけを悠仁に移動する。
目の前には、目の据わった虎が、無言で、日車の反応を観察していた。
次の日、昼。カフェにて。
日車と悠仁は今回の相談者である女性と向き合い、話を聞いていた。
相談者、渡井 綾。27歳、独身、証券会社勤務。
韓国アイドルのような管理された体型と、陽だまりのように優しそうな面持ちで、花のようにいい匂いを体にまとわせていた。一言で言うと、絶対モテる。だった。
「おねーさんめちゃ美人!」
悠仁が反射的に言うと、頭に拳骨が飛んできた。
「黙って話を聞け」
日車は人を殺しそうな目で悠仁を睨みつけた。
「ウッス」
悠仁は大人しく日車の隣でちょこんと小さく丸まった。
「では先ほどの続きをお願いします」
日車が相手に話を促した。
「はい、あの、私の周りで、最近変なことが起こってて」
「変なこと、というと?」
「その、あまり大きな声で言えないのですが、パートナーと出会う目的の集まりで、仲良くなった人が、毎回、連絡が取れなくなるんです」
悠仁と日車は目を合わせた。
「それは」
日車が言い淀んでいると、渡井は慌てたように続けた。
「あ、あの! 私と合わないとかだったら、全然いいんです! でも……」
渡井は膝の上で手をモジモジとさせた。
「連絡が取れなくなった方の1人から、気になる事を言われて」
「気になる事?」悠仁は身を乗り出した。
そこで、タイミングよく店員が飲み物を運んできた。
「お待たせしました、ホットコーヒーのお客様」
日車が小さく手を挙げる。
「アイスティーと」店員は渡井の前にアイスティーを置き、「メロンソーダです」悠仁の前にメロンソーダを置いた。
悠仁は早速マドラースプーンでアイスを突きながら、改めて質問をした。
「で、気になることって?」
渡井はアイスティーのグラスを撫でた。
「その、人形に心当たりはないかって」
「人形」
日車はピクリと反応した。
「はい。日本人形じゃなくて、リカちゃんみたいな、そういう」
「おねーさんは、心当たりあんの?」
悠仁がそう聞くと、渡井は首を横に振った。
「全くなくて。でも、その人が」
アイスティーの氷が、カランと音を立てた。
「人形が、『綾(私)をとらないで』って言いながら、追いかけてきたって」
しん、とした空気が辺りを覆った。
「それは、気になりますね」
日車は肘を机に乗せ、顔の前で手を組んだ。
「毎回、ということは、他の方達も同じ体験を?」
「わかりません、でも、何人かに連絡したら」
それっきり黙ってしまったので、日車と悠仁は頷きあった。
「そっか、おねーさん、大変だったね。でも、そういう話なら、多分俺ら、力になれっからさ」
悠仁はニッコリと笑いながらアイスを口にした。
「ほ、本当に?」
渡井は、信じられない顔で悠仁と日車を交互に見た。
「そういう話であれば、我々の専門分野なので」
日車はこともなさげに言いながら、コーヒーを啜った。
余裕げな2人の様子に、渡井は安心したように肩の力を抜いた。「ありがとうございます」そう言って頭を下げた。
「しかし、何故人形があなたに執着しているのかが気になります。言いにくいかもしれませんが、例えば、誰かに執着されたり、恨まれたというような覚えはありますか?」
「執着」
日車の質問に、渡井は手を口に当てて、目を斜め上に流した。そして、何か思い当たったような顔をしたが、すぐには答えなかった。何かを迷っているようだった。
「言いにくいと思うけどさ、おねーさんのこと、守りたいから、教えてくれないかな?」
悠仁は真剣そうな目で渡井を見た。
「我々には守秘義務があります。ここで話した内容は、他言しません」
日車がそう言うと、渡井は観念したように話し出した。
「その、私の勘違いかもしれないんですが」
そう前置きして1人の名前をあげた。
「吉崎さん。職場の、隣のチームのマネージャーで、数ヶ月前からプライベートで会わないか何度か誘われてて」
「ほう」
「でも私、ちゃんと断ってるんです! 本当に、反応も、チャットにスタンプを送るくらいで! 全然」
渡井は無罪を主張するかのように、必死に弁明をした。
「すげー拒否ってるけど、そのマネージャー? はおねーさん的にあんましな人なの?」
悠仁は不思議そうに首を傾げた。
「いえ、年上ですが、見た目にすごく気を遣っていてかっこいいし、仕事もできて、すごくいい方だとおもいます。ただ……」
「ただ?」
渡井は最後まで言い淀んでいた。自白をするかしないかを、悩んでいるようでもあった。
少し野間の後、渡井は大きく息を吸って、告白をした。
「吉崎さんは、今月、婚約者さんと結婚するんです」
日車と悠仁は、空いた口が塞がらないとはこのことか、というくらいの、お手本のような表情をした。
「いやいやキモすぎるでしょそのマネージャー。ジャッジマンに聞くまでもないわ、有罪、没収、死刑判決よ」
釘崎はおとといきやがれ、というように首を掻き切るジェスチャーをした。
悠仁達は一度高専に戻り、別行動を取っていた。悠仁は、調査した内容を釘崎と伏黒に共有しているところだった。
「そのマネージャーが怪しいのは確かなのか?」
伏黒は悠仁に質問する。
「うーん、なんつーか、限りなく黒に近いグレー? みたいな……」
渡井から証拠として見せられたチャットの履歴には、そのマネージャーからと見られるメッセージが数週間おきに送られてきていた。
「最初は、『トレーニングのフィードバックが欲しい』とか、まあ、セーフっちゃセーフっぽかったんだけど...」悠仁は一度言葉を切った。「だんだん、『カメラが趣味ならレンズ買いに行きませんか?』とか、『メリークリスマス、せっかくのイブなのでご飯行きませんか?』とか、あといっちゃんおもろかったのは『スキーに行きませんか?』ってやつ。おねーさん、スキーできないのに。『スキー場は、スキーをしなくても楽しめるんですよ』って返信してて。しかもなんと驚き、そのマネージャー、日車とタメ」
「カス」
「死んだ方がいい」
釘崎と伏黒は同時にサムズアップの親指を下に向けた。
「でもそのマネージャーの名前で調べてみたんだけど、呪詛師って感じでもないんだよなー」
悠仁は頬杖をついて間延びした声を出した。
「依頼してんのかもな。最近はSNSで怪しい商売やってる奴もいるらしいし」
「裏サイト、みたいな?」
「ああ、SNSは変な奴多いからな。本物の呪詛師にとっては商売やりやすいだろ」
伏黒はスマホを操作すると、「例えば」と言いながらある投稿を見せた。
「なになに、『あなたの恨み、晴らします』……ナニコレ?」
いかにも怪しげな投稿に、URLが貼られていた。
「ふざけてお願いしたら、本当に、気になる女とくっつきそうな相手を妨害できたとしたら」
「なるほど……リピート確定だわ」
釘崎はパチン、と指を鳴らした。
ガラリと教室のドアが開いた。
そこからひょっこりと銀髪のサングラスが顔を出す。
「おっまた〜☆ グッドルッキングガイ・五条先生の登場だよ〜」
五条に続いて、黒髪をお団子にしてまとめた長身の男も入ってくる。
「悟、それずっと言ってて虚しくならないのかい」
「事実だからなんも思わん」
「五条先生! 夏油さん!」
悠仁はパッと顔を明るくさせた。
五条悟は悠仁達1年の担任で、夏油は五条の親友兼たまに実技を指導しにきてくれる、フリーの呪術師であった。
「伊地知から話聞いたよー?日車サン、婚活パーティー参加するんだって?」
軽く言う五条に、悠仁は顔をギュッと寄せて、険しい顔をした。夏油が五条の頭を叩く。
「悟、言い方。あくまで呪詛師を釣るために潜入することになっただけだろ。たまたまそのお見合いパーティーが、30代男性かつ医師か弁護士免許を持ってないと参加できないだけで」夏油はそこまで言うと、クックックッと笑った。「可哀想にね、こんなことのために弁護士資格をとったわけではないだろうに」と付け足した。
そう、任務の方針は、日車が、渡井が次に参加するお見合いパーティーに潜入し、彼女と仲良くなったと見せかけて、わざと呪詛師に日車を襲わせる作戦であった。
補助監督は、行政に施設の使用許可を取ったり、任務のサポートはしてくれるが、書類偽造等は(できるのだろうが)あまり積極的にやる雰囲気ではない。
というか、本部で、本物の資格を持っていて、実力もある日車を任務に当てれば、なんの問題もなくない?という話になった。
たしかに、任務上問題はなかった。
日車が悠仁と付き合っているという事実さえなければ。
「悠仁はさ、日車サンが参加していいわけ?」
五条の質問に、悠仁は困ったように、「いやー、任務だし、その辺は昨日話し合ったから」と言った。
そんな悠仁を見て、面白いおもちゃを見つけた子供のように、五条は笑った。
「可哀想なゆーじぃー! そうは言ってもさ、日車サンも受けちゃうなんて酷いよねぇ〜。ね、悠仁、この際だから僕と付き合っちゃいなよ!」
五条は悠仁の肩を組もうとした。その瞬間、五条に向かって何かが投げられた。
その何かは、五条に触れる数センチ前でガキン!と勢いよく跳ね返った。
天井に当たり、床に跳ねたそれは、えんじ色に塗装されたガベルだった。
入り口を見ると、殺気立った日車が五条を睨んでいた。
五条は両手をあげて敵意がないアピールをする。
「おお、こっわ! 冗談じゃんね」
「君が言うと冗談に聞こえないよね」
夏油が冷静につっこむと、五条はつまらなさそうに悠仁から離れた。悠仁は困ったように眉尻をさげた。
「五条先生、定期的に俺らで遊ぶのやめてくんない?」
「ええっ! なんで!? これも僕からの愛じゃん! 可愛い〜生徒は、構ってあげなきゃでしょ!」
キュートアグレッションもかくやな五条の言い分に、悠仁は問題児を前にした、幼稚園の先生のような顔になった。
「せんせ、人が嫌がることはやっちゃダメよ?」
悠仁は優しく諭した。
「本当に、どちらが教師かわからないな」
日車は教室に入ってきて、さりげなく悠仁を自分の後ろに隠した。
「五条君は相変わらずのようだね」
日車の後から、冥冥も入ってきた。
「お邪魔するよ」
「あ、冥さん」悠仁は日車の背からひょこりと顔を出して声をかけた。
「冥冥さんも今回の任務参加するんですか?」
伏黒が質問した。
「ああ、パーティー会場は広いし、外の見張りも必要だからね」
冥冥は適当な席の椅子を引いて腰掛けた。
「今からでも担当を変えられないか確認する」日車ははっきりとした声を出した。
日車は死滅回遊の時と同じような目をして、教室を出ようとした。それを悠仁が羽交い締めにして止める。
「いやいや、弁護士資格ないと参加できないんでしょ?じゃあしょうがないじゃん」
「しかし、こういう時こそあの無駄にレベルの高い顔面達を使うべき時なんじゃないのか」そう言って、日車は五条達を指差した。
「どうせ出来レースなんだし誰が行っても一緒だって」
「では尚更、パートナーがいない人間が行くべきだろう」
「いやだから資格が......って、何で俺がこんな頑張ってんだよ! 先生達も何とか言ってって!」
悠仁の姿は、言うことを聞かない大型犬を必死に静止しようと、助けを求める飼い主のようだった。
「えー、僕、男女のいざこざとか興味なーい」
五条は舌を出しながら、両肩をすくめた。
「私も任務とはいえ、女性をその気にさせるのはちょっと」
「お前はパーティーに行かなくてもいろんな女に執着されてるもんな」
「いやだな、友達よりちょっと仲良し、くらいなもんだよ?」
「ちょっと仲良しくらいの女ならストーカーになんねーし刃物も持ち出さねーだろ」
一連のやり取りを、冥冥は机に肘をついて、バードウオッチングのように見ていた。
「まあ、私は、日車さんが適任だと思うよ」冥冥は確信があるようだった。
冥冥の言葉に、日車は静止して、何を言っているんだこいつ、と言うような顔をした。
「まあ、僕が行ったら、相談者どころか、全員の人気を総なめにしちゃうしね」
五条はサングラスをずらし、ガラス細工のような瞳をチラリと見せてウィンクしていたが、意外にも夏油は真面目そうに反応した。
「いや、本当に。今回の場合、この中だったら、日車さんが1番人気だと思うよ」
夏油の言葉に、悠仁も怪訝そうな顔をした。
日車は一般の人間と比べて、頭もいいし、タッパもあるし、そらいい男だと言えるが、どう考えてもモデル並みに美人な2人を差し置いて、日車が人気になれるとは、(恋人の欲目込みでも)思えなかった。
「まあ、潜入してみればわかるよ」
夏油はゲームが始まる前のような雰囲気で、楽しそうに言った。
「それにしても残念、日車さんがフリーだったら、恋愛リアリティーショーとして配信できたんだけどね」冥冥は残念そうに言った。
悠仁はギョッとして、羽交締めの体勢から、大事なぬいぐるみを抱きしめるかのように、日車の腹に腕を回した。
「そんなことをしたら肖像権の侵害諸々で訴えるからな」日車は今にも領域展開を始めそうな声で言った。
夏油の言葉を実感したのは、パーティー当日のことだった。
ホテルの一室を貸し切った会場は、呪霊とはまた違う、謎の威圧感に満ちていた。
この婚活パーティーでは、男性側は参加費無料である。ただし、男性は30代の医師または弁護士である必要があり、参加には資格の証明が必要だった。
対する女性の参加費は、なんと1万5000円。高額ではあるが、未来への投資のため、参加を希望する女性は多かった。そして、どの女性も、ギラギラとした熱を瞳に映していた。
悠仁、伏黒、釘崎は給仕係の服を着て潜入していた。耳につけたインカムは、冥冥と日車の胸元のマイクにつながっている。
給仕といっても、お見合いイベントでは、参加者はほぼ食事に手をつけないので、壁に並んで待機しているだけでいいようだった。
「み、皆顔がガチだ......」
悠仁はガクガクと震えながら辺りを見回していた。
「3級の呪霊ぐらいだったら倒せそうな感じの熱気ね」
釘崎がそう言った時、突然、耳に差したインカムから、作戦に参加していないはずの、五条の声が聞こえてきた。
『おっ、まだ始まってない感じ?』
悠仁達は顔を見合わせる。
「ご、五条先生? 今日は参加しないはずじゃ」悠仁は焦った声でヒソヒソとインカムに話しかけた。
『いやこんな面白いイベント、見学しないわけにはいかないっしょ! あ、僕の担当の呪霊は秒殺してきたから問題ないよ〜。おい傑、それ僕のコーラだから』
それならこっちの件も秒殺してくれよ、全員がそう思ったが、口には出さなかった。無駄な努力はしないに限る。
「まあでも冥冥さんの監視と、いざとなったら?あのアホグラサンを駆り出せばいいわけだから、気楽にやりましょ」
釘崎の言葉に、他の2人が頷いた。
司会の声が入り、パーティーの説明が始まった。
パーティーでは、男性達は動かず、女性が1席づつ横にスライドするように移動していくらしい。時間は1組5分で、自分たちのプロフィールをお互いに見せ、そこから会話スタート。5分したら女性は隣にずれる。
1対1の後は30分ほど立食形式でのフリートーク時間があり、最後に気になる人がいれば、投票用紙に相手の番号を書き、投票。男女でマッチングすればカップル成立として扱われるらしい。
壇上には、すでに “カップル成立!おめでとうございます” という旗と白い柵のアーチで、フォトスペースが作成されていた。出来上がったカップルは、あそこで写真を撮るらしい。とんだ羞恥プレイである。
「あそこで写真撮るとか、正気かよ...」
伏黒はげっそりとした顔で壇上を見上げた。
『あれはね、他の人たちに ”自分は勝ち組なんだ!” って自慢する、マウンティングスペースなんだよ』
夏油の解説に、釘崎はオエ、と言った。インカムを通して、五条の声も聞こえたような気がする。
日車は指定された席に座っていた。
右には、少し髪色が茶色の、グレーのストライプが入ったスリーピースのスーツを着こなした男性が座り、左には黒髪をガチガチに固め、メガネかけた、ブルーのスーツの男性が座っていた。どちらも服装にかなり気を遣っているようだった。
バッチリとキメた男性2人に挟まれた日車は、きちんとアイロンはかかっているものの、いつものスーツ姿で、やる気があるのかお前、と言われても仕方がないくらい、ある意味会場で浮いていた。
「ヒエ、日車が......パリコレに迷い込んだ野良犬みたいになっとる......!」
悠仁はクラスで浮いてしまった我が子を心配する、親のような気持ちだった。
「逆にあそこで平常を保てるのすげぇな」伏黒の声は尊敬と憐れみを感じさせるものだった。
「まーでもよかったじゃない。あの様子なら、虎杖が無駄な心配する必要はないんじゃない?」
釘崎の言葉に、悠仁は複雑な気持ちながらも、少し胸がスッとするのを感じた。
3人の会話をよそに、お見合いパーティーが始まった。
「ヒグルマさん......変わったお名前ですね」
1人目は、茶髪の髪をゆるく巻いた、白いワンピースの女性だった。
「そうですね、よく言われます」
日車はいつもの調子で話していた。
「カード交換しても良いですか?」
「はい、どうぞ」日車はプロフィールカードを渡した。
女性はプロフィールカードと日車の顔を見比べながら、値踏みするような目で日車を見ていた。
「弁護士さんとのことですが、大学はどちらなんですか?」
いきなり就職面接のような質問をする女性に、悠仁は震えた。
「え? 怖すぎん? 初手それ?」
『慣れてるんだろうね。5分という時間の中で、欲しい情報を集めようとしているんだと思うよ』
夏油がゲーム実況のように解説をした。
「ここが地獄か......?」
伏黒は口を手で覆って、完全に引いていた。
「てか、なんで夏油さんはそんなに詳しいわけ......?」
釘崎は戦慄した。
日車はというと、何の感情もない様子で「T大です」と言った。
女性の口角が、わずかに上がったのを悠仁は見逃さなかった。
「えぇー! すごいですね〜! T大なんて、浪人しても入れない人がたくさんいるのに......」
女性はチラリの日車を見た。釣り糸に魚がかかるのを待っているような顔だった。
「そうなんですね。自分は現役だったので、浪人のことはよくわかりませんが」
日車の一言に、女性は目を輝かせた。
「えっ! すごぉい! さすが、弁護士になる方って、頭がすごくいいんですね〜!」
「はぁ、まあ、勉強で苦労したことはないかもしれません」
女性は、釣った魚は、思いの外デカかった事を確信したようだった。
先ほどよりも、かん高い声で、髪をくるくるといじりながら、女性らしさを全面に押し出そうとしていた。
「ヒグルマさんて、趣味は料理って書いてますけど、よく自炊されてるんですか?」プロフィールカードを見ながら女性は質問した。
「ああ、そうですね。ほぼ毎日料理をしています」
おい、それは俺と作ってるやつやろがい! と悠仁は思ったが、拳を握って耐えた。
「え〜! 素敵! 得意料理って、何なんですか?」
「特にはありませんが......ああ、でも最近は、焼き鮭と、味噌汁を作りました」
伊地知との電話の後、不貞腐れる悠仁を何とか宥めながら食事した時のことを思い出して、日車は思わず笑った。
そんな日車の様子に、女性は手を口に当てた。
「本当に料理が好きなんですね......あの、私も料理が好きで......休みの日とか、お菓子を作ったりするんです」
「そうなんですか」
女性は自分がいかに家庭的かを、日車に説明していた。
あっという間に5分のベルが鳴った。
「あ、じゃあ......お話できてよかったです」
白いワンピースの女性は、上目遣いで日車を見ながら、横に移動した。
「はい、では」
日車は事務的に挨拶をしただけだった。
『あの女性、明らかに日車さんをロックオンしてたね』と、夏油は確信したように言った。
『大学聞いた後からの態度があからさま過ぎてきもーい』と、五条がコメントし、
『日車さんには全然響いていなさそうだったけどね』冥冥の楽しそうな声がした。
「……センセー達は楽しそーだな……」
悠仁はすでにどっと疲れたような顔をしていた。
2ラウンド目が始まり、グリーンのドレスを着た、ふくよかな女性が日車の前に座った。
「はじめまして、ヒグルマさん、こういう場は初めてですか?」
「はじめまして、はい、今回が初めてです」
「わからないことがあったら聞いてくださいね。私、こういうパーティー長いんで」
なぜか誇らしげに言う女性に、素直に日車はお礼を言った。
挨拶もそぞろに、早速女性は「あ、ヒグルマさんって、どこ大卒なんですか?」と質問した。
もう、悠仁達は驚かなかった。
「現役T大です」
日車は面接で答えるような簡潔さで回答した。
「すごいですね! 年収はおいくらなんですか?」
「このくらいです」日車はプロフィールカードを見せた。
プロフィールカードには、年収のレンジが500万〜、750万〜、1000万〜、のように、3段階ほどで分かれていて、チェックボックスにチェックを入れるようになっていた。
女性はカードの内容をものすごい速さで眼球を移動させながら、素早く確認した。
「えー、すごーい! 私、日車さんのこと好きかも〜」
突然の女性の言葉に、悠仁達3人は額から汗を流し、凍りついた。
「ありがとうございます」
日車は冗談として受け取ったようだった。しかし、女性の目つきは本気で、日車を逃さないという強い意志を感じさせた。
「い、今の流れで好きになる要素あったか……!?」
「年収の話で好きになるって、完全にATM扱いじゃない……!」
「ひ、日車の魅力は金じゃねえのに……っ!」
『まあ、それをわかってないで言っちゃう時点で長年婚活してる理由が見えるよね。でも、こういう人、男女関わらず多いから、まずはそういうことを言わないようになるのが、こういう場で差別化を図る一歩だよね』
『……傑、オマエ、婚活ソムリエの資格でも持ってんの?』
珍しく五条が夏油に引いていた。
女性は、将来は家が欲しい、とか旅行は年一で行きたい、とかそんなことを話していたが、日車はずっと「なるほど」&相手の言った内容をオウム返しにするテクニックで、会話を続けていた。
そしてまた、5分のベルが鳴った。
3人目はメイクが濃い、赤いドレスの30後半に見える女性だった。
「ヒグルマさん?」
「はい、そうです」
「弁護士だそうですけど、年収はどのくらいなんですか?」やたら高圧的な声だった。
日車は先ほどのように、プロフィールカードを見せた。
「まあ、悪くないですね。私、専業主婦希望なので」
女性は腕を組んで髪をいじりながらプロフィールカードを見ていた。
「そうなんですね」
日車は手を組んで、机に乗せた。
「あ、あの構え……! 相談料30分5000円モードだ……!」悠仁はたらり、と汗を流した。
「アンタその言葉使うの好きね」釘崎は呆れたように言った。
『つか、なんであの年増はあんなに偉そうなの? 教えて婚活ソムリエ』
『それはね、自分がいまだに選ぶ立場だと勘違いしている悲しきバケモノだからだよ』
『いやあ、金はあれば嬉しいけど、自分で稼げばもっと増えるのに、機会損失もいいところだよねえ』
五条、夏油、冥冥と続く。
女はプロフィールカードを日車に返すと、キリッとした顔で日車を見た。
「それで、ヒグルマさんは今後のキャリアをどう考えているんです?」
「キャリアですか?」
日車は首を傾げた。
「正直日車さんは婚活市場で言うとギリギリの年齢ですよね。その中で相手に選ばれるために何かキャリアアップや努力していることはありますか?」
女性は、ほぼノンブレスで言い切った。
悠仁は額に青筋を立てて、解の手印を構えた。
「……なあ、あの人は俺をイラつかせる天才なん? どこかで特殊な訓練でも受けてんのか?」
解の「か」を言いかけたところで、伏黒と釘崎に腕を取り押さえられた。
「落ち着け虎杖! 精神修行だと思って耐えろ」
「そうよ、落ち着けバカ! これは任務なんだから、あんなババアの言うことは蝉の鳴き声くらいに思っときゃいいのよ!」
2人の声に、悠仁は冷静さを取り戻しながらも、両手を合わせて「あの人が明日タンスの角に小指をぶつけますように」と唱えた。
日車はというと、女性の質問に、考える姿勢を見せて、少ししてから口を開いた。
「……正直、相手に選ばれる努力と言われても、自分には思い当たることはありません」日車は目線だけを動かして悠仁を見た。
「では──……」
「ですが、相手がどこかを目指していると言うのなら、共に走っていきたいと思いますし、疲れた時や、何かに絶望した時には、心を休めるような安全地帯になりたいと、そう思っています。なので、相手にそう思ってもらえるような、頼れる人間になることが、私に必要な努力、なのかもしれません」
日車は眩しそうに目を細めて笑った。
悠仁は理性を総動員して、いますぐ日車に抱きつきたい衝動を押さえた。
「見せつけてくれんじゃん、うざいわね」
釘崎はそう言いながらも、優しい顔で笑っていた。
女性は、その質問後、「そうですか」と言ったきり、何も言わなかった。
その後すぐ、5分のタイムアップを迎えた。
『いやあ、誠実、かつ愛に溢れた答えだったよねえ』
『一番視聴率が上がる瞬間だったね』
『カッコイイじゃーん! 絶対次会った時のネタにしちゃお!』
感動の余韻も、実況席の茶々入れによって、悲しくもすぐ霧散したのであった。
その後もベルトコンベアのように、色々な女性が席については流れ、席については流れていった。
「日車さんは旅行行くならどこが良いですか?」
「貯金額は……」
「子供についてどう思いますか?」
「私、身長ない人とは結婚無理で〜」
「結婚したら専業主婦になりたくて」
「子供はGMARCH以上じゃないと」
「家事の分担は……」
悠仁でさえ、聞いたことのないような質問を、女性達は根掘り葉掘り聞き出そうとしていた。
1対1も終盤となり、とうとう渡井と日車のペアになった。
「すみません、日車さん」
「いえ、これも仕事なので」そう言った日車の顔には、疲れが滲んでいた。
「日車さん、この後の動きですが、フリータイムで話して、お互い投票、と言う流れで認識あっていますか?」
「はい、認識に相違ありあせん」
「ありがとうございます。承知しました」
手短に会話を済ませると、2人は手元のドリンクを飲んで残り時間がなくなるのを待った。
5分終了のベルが鳴った。
「では、この後は手筈通りに」日車はさりげなく会場を見回した。
渡井はコクリと頷き、席を立った。
長いラウンド戦が終わり、フリータイムの時間になった。
「それでは、これからはフリータイムになりますので、立食スペースにお越しください。気になるお相手がいらっしゃいましたら、お気軽に会話をしてみてくださいね! 時間は30分です」
司会の声と同時に、参加者達が立ち上がり始め、移動を始めた。
日車は他の男性陣が席を立ってから、立食スペースに移動した。
「う……、日車が、ポツンと1人になってたらどーしよ……」
悠仁は胃のあたりを抑えた。
「まあ、ありえなくはないよな」
「30分棒立ちはキツすぎるわね。私なら帰ってるわ」
3人はヒソヒソと様子を伺っていた。
「俺、もし日車がボッチだったら、お酒配るふりして話しかけに行く……!」
悠仁は拳を握って、今にも駆け出しそうであった。
「やめとけ、ぜってぇ変に思われるだろ」
暴走寸前の悠仁に、伏黒が待ったをかけた。
『……まあでも、心配はないみたいだよ。ほら、見てごらん』
夏油の声に合わせて3人が日車を見た。
「!? なん……だと……!?」
想像もしてなかった光景に、悠仁は数歩後ずさった。
日車は、多くの女性に囲まれていた。日車を中心にサークルが出来上がっている。
女性達はキャッキャしながら、「ヒグルマさん身長高ーい」「やっぱ身長は大事よね」と言って、盛り上がっていた。
「すげー人気だな」伏黒は全く羨ましくなさそうに言った。
「い、一体何が……!?」悠仁は何度も目を擦った。
「なるほど......わかったわ......」
釘崎はゴクリ......と唾を飲み込んで、2人に顔を向けた。
「わかった!? どういうことですか釘崎隊員!」悠仁は釘崎に詰め寄った。
「アンタ達、あそこに先生がいると想像してみなさい」
悠仁と伏黒は、五条が立っている場合を想像した。
『へー、そーなんだー。ウケる』
『休みの日何してるとかどうでもよくない?』
『今まで付き合ってきた人? あんま覚えてないかなー』
そしてあの美貌。
「結婚しても浮気しそう」
「やる気なさすぎて自分だけ本気なのかと思って病みそう」
「てか、そもそもサクラと思われてそう」
『ちょっと! 僕に対して偏見が過ぎない?』
散々な評価に、五条は遺憾の意を示したが、夏油は『日頃の行いだと思うよ』とツッコミを入れた。
「先生だけじゃない、今日見たかぎり、婚活男性陣は割と個性が強い......つまり、この場において、学歴あり、地位あり、金あり、身長あり、性格に難無しな日車さんは、本気の結婚相手として、UR(ウルトラレア)……!」
釘崎は拳を強く握って、くわっ!と言い放った。
「UR……!?」悠仁の背景に雷が走った。
「知らなかった……俺、いつのまにか結婚したい男ガチャ、UR引いてたんか……」
悠仁は胸元をグシャリと掴み、もう片方の手で壁に手をついた。
『そうそう、将来を考えるなら、日車さんのような相手が一番理想なんだよね』
夏油の解説に、五条はハッと馬鹿にしたような声を出した。
『くだんねー、結局自分が自慢できるアクセサリーを探してるだけじゃん』
『まあ、大概のお見合いパーティーってそんなもんだからね』
教師達の会話を背景に、悠仁はグッと口を結んで日車を見つめていた。
日車を取り囲む女性達は隙を見て日車の腕に触ったりして、盛り上がっていた。とうの日車は気にした様子もなく、会話を続けていた。
「日車、隙がありすぎん? もっと狙われてる自覚を持てよ……」
悠仁はボソボソと文句を言った。
「まあ、あの人はアンタしか見てないから……ってこんなこと言わせんな」
釘崎は悠仁の背中をバシッと叩いた。
「ぐっ、理不尽!」
悠仁は背中をさすった。
確かに、釘崎の言う通り、せめてもの救いは、日車が渡井と喋る以外、他の女性とは数言しか話していないことであった。
「……俺、めっちゃ恵まれてたのかも」
悠仁はその様子を見てぽそりと呟いた。
「でも、日車さんが選んだのはオマエだろ。別に堂々としてればいいんじゃねーの」
伏黒は会場に顔を向けながら、なんでもないことのように言った。
「伏黒ぉ〜!」
悠仁はキラキラした目で伏黒を見た。
「そうだよな! 気にしたってしゃーないもんな!」悠仁はいつも通りの明るい声を出した。
しかし、日車に視線を戻した悠仁の目は、燃える炎のように煌々と輝いていて、たまに墨が落ちたように、どよりとした濁りを見せていた。
そのことは、誰も気づいていなかった。
「おめでとうございまーす!」
30分後、壇上には、日車と渡井が並んで、パシャリ、と写真を撮っていた。
『いやー、面白いものが見れたよね』
『恋愛リアリティーショーがいつの時代も人気を博しているのがよくわかる件だったね。いや、本当に、配信できないのが残念だよ……』
『つかそこまでして恋愛したいもんかね』
実況席はまとめパートに入っていた。
「先生達、こんだけ日車をおもちゃにしたんだから、なんか、助けてあげてな」悠仁は呆れたように言う。
『まあそうだね、あとで何か考えておくよ』夏油は楽しそうに答えた。
そんな話をしているうちに、日車と渡井は壇上の脇から降りて、残った参加者より先に出口に案内された。
日車は会場のドアに近づくと、悠仁達を見て、小さくうなづいた。
その合図を見て、悠仁達も従業員通用口に向かい、会場を後にした。
日車は渡井と別れた後、静かな住宅街を歩いていた。街灯がまばらな道路は、人気がなく、日車の靴音だけがあたりに響いていた。
切れかけた街灯がジジジ……と音を発しながら、チカチカと点灯していた。
ボトリ、と音がして、日車は後ろを振り返った。
そこには1体の着せ替え人形が、地面に落ちていた。
日車が無言でその人形を見ていると、人形は一人でに動き出した。ギュギュギュ、とゴム人形特有の後を立てながら立ち上がる。そして震えながら、ノイズ混じりの声で、『綾を......取らないで』と言葉を発した。
「なぜだ」日車は地面でのたうち回る虫を見るような目で、人形を見た。
『綾を取らないで』
「だから、なぜだと聞いている」
全く怖がらない日車の様子に、人形はブルブルと震えて、語気を強めながら、日車に向かって走ってきた。
『綾は私のぉ!』
人形が日車に飛びかかろうと、ジャンプした。
「理由になっていない」
飛び上がった人形のこめかみに、ガベルが叩き込まれた。
バギィ! と、ものすごい音がして、人形の頭は1発で粉砕された。
人形が地面に落ちると、日車は表情ひとつ変えず、人形の胴体を靴で思い切り踏みつけた。
シン、と動かなくなった人形をしばらく眺め、首がもげた人形の胴体を片手で拾い上げた。
「!?」
それを背後の角から隠れて見ていた男は、あからさまに動揺し、走り出した。しかし、何かに足を取られ、派手に転倒した。
手をついて起き上がると、足元には何か黒い影が巻き付いていた。
「やっぱ呪詛師か」
「つか、簡単に罠にハマったわねー」
呪詛師の男の前に、伏黒と釘崎が現れた。
「呪術師……!」
男は驚いたように声を上げて、慌てて立ち上がり、拳を構えた。
「絵に描いたような雑魚ムーヴだわ」
「玉犬で捕獲でいいか」
伏黒と釘崎はつまらなそうにその男を見ていた。
「わり、2人とも。今回だけは俺に譲ってくんない?」
2人の後ろから現れた悠仁は、ひまわりのような、大輪の花を思わせる笑顔であったが、その後ろには閻魔が見えた。
2人は流石に茶化すこともできず、黙ってどうぞどうぞと悠仁に道を譲った。
悠仁はゆっくりと息を吐いた。
「あー、やっと今日のイライラ発散できるわ......」
両方の指をバキバキと鳴らす。黒閃の炎はメラメラと燃え上がり、その火力はいつもよりも大きく見えた。
「ヒィッ」
ただならぬ気配に、呪詛師の男は後ずさった。
「ったく......せっかくの力をこんな事に使うなよな……」
悠仁は一歩一歩、呪詛師に近づいた。呪詛師はその場で縫い付けられていたので、逃げられなかった。
悠仁の表情は、影がかかって見えなかったが、鋭い目だけは呪詛師をまっすぐに捉えていることがわかった。
「黒閃────!!!!」
悠仁の拳は呪詛師の鳩尾にめり込み、呪詛師はいろんな液体を口から溢しながら空中で数回転して地面に転がり落ちた。その後も勢いが止まることはなく、地面をローリングし、追いかけて来た日車の側で、やっと動きが止まった。かろうじて、息はあるようだった。
悠仁はフゥ、と息を整えて、「あー、スッキリした」と呟いたあと、日車を見つけると、眉を下げて日車の元に駆け寄った。
「日車、大丈夫だった?」
「あ、ああ......」
日車は無意識に自分の鳩尾を押さえた。
「さて、捕獲捕獲......と」
釘崎は慣れたような手つきで呪詛師を縛り上げる。
「あ、伊地知さん、こっち終わりました。回収お願いします」
伏黒も何事もなかったかのように、伊地知へと報告の電話を始めたのだった。
「お疲れサマンサ〜」
どこからか五条が現れた。
「あ、五条先生」悠仁は五条を見て、目をしばたかせた。
「いやー、面白いもん見せてもらったからさー、最後くらいは協力してあげてもいいかなって」
伏黒と釘崎は、来るならもっと早く来いよ、と言う顔で、五条をジトリと睨んだが、五条はどこ吹く風だった。
五条は所詮、ヤンキー座りをして、縛られた呪詛師と向き合った。
「おい、選ばせてやるよ。上空634mからの紐なしバンジーと、お前の依頼主ゲロるの、どっちがいい?」
手を顎に添えて、余裕そうに笑った。その笑顔は、万人を惚れさせるような、極上の笑みだった。
帰宅後、日車はご飯も食べず、風呂にだけ入って、ソファの上で動けなくなっていた。
「全く、えらい目にあった」
日車は頭をソファの背面に預け、目に腕を当てていた。
「日車、疲れたよな? お疲れ様」
風呂から上がってきたTシャツ短パンの悠仁が、日車の隣に座った。
タオルを首にかけ、半端に乾かした髪はまだ少し湿っていた。
日車は腕を上げて悠仁を見ると、悠仁の肩からタオルを取って、悠仁の首に残っている水分を拭き取った。
「まだ髪が濡れてるぞ」
「うーん、ドライヤーの時間暇でさ、乾いてなくても早めに切りたくなっちゃうんだよね」
「風邪を引くから、最後までちゃんと乾かせ」
「いやでもドライヤーかけるようになっただけでも進歩よ? 今まで自然乾燥派だから」
悠仁は自分の前髪を摘んで、確認するかのように目線を上げた。
そして、突然「あ」と声を上げた。
「そいやあ結局、あのマネージャーが依頼主っぽいけど、証拠とかすでに削除してたんだろ? 大丈夫なんかな」
悠仁は顎に手を当てて、うむむ、と唸った。
「夏油と冥冥がなんとかすると言っていたから、方法はあるんだろう。むしろ、あれだけ俺をおもちゃにしたのだから、ここから先は働いてもらわないと困る」
「そっかー、お姉さん、早く安心してパートナー探しできるようになるといいな」
悠仁は安心したように頷いた。
「まあ、あとのことは夏油達に任せておけばいい」
そう言って、日車は悠仁の腰に手を回し、自分の方へ抱き寄せた。
悠仁は風呂上がりの火照る顔を、もう少しだけ赤くして、自分の耳を日車の肩にぴたりとくっつける。
日車は「疲れた」と言って、腰に回した手を、そのまま悠仁の頭に持っていって、猫を撫でるかのように頭を撫でる。たまに、悠仁の毛束を、親指、人差し指、中指で擦り潰すようにつまんだ。悠仁は頭皮にくすぐったさを感じて、身を捩らせた。
「だからそれ、苦手なんだって」
悠仁は自分の頭を何度か日車の腕にぶつけて非難した。
「すまない、無意識だった」
日車は再び悠仁の頭を撫でる動作に戻った。
悠仁は少しの間じっとしていたが、突然、そろりと中指で線を描くように、日車の太ももの内側に向かって手を這わせた。急な動きに、日車はびくりと反応し、手が止まった。
「……虎杖、やめなさい」命令に従わない犬を責めるような声だった。
その言い方が気に食わなかったのか、悠仁は顎を上げながら、ふうん、とした顔をして、日車から上半身を離した。
「俺さ、今回だいぶ我慢したと思うんだよな」
悠仁は日車の上に跨り、見下すような体勢をとった。日車はあからさまに不機嫌な態度をとる悠仁の姿に、反応が遅れた。その隙に、悠仁は日車の頭に手を回して、包み込んだ。
「俺、日車の趣味が料理なんて、知らんかった」
「それは、書くことがなかったから適当に書いただけで、」
胸元でモゴモゴと話す日車に、悠仁は反論ができないように、自分の胸に、日車の顔を押し付けた。鍛えられた大胸筋は柔らかく、Tシャツ越しでもその感覚が日車の肌に伝わった。風呂上がりだったので少し湿っていて、ボディーソープの臭いがした。日車は下半身に熱が集まるのを感じた。
素早く、日車の両腕が悠仁の横腹に差し込まれ、ベリッと剥がされた。日車の顔は、熱にうなされた時と同じくらい赤く、汗もかいていて、呼吸は少し荒かった。
悠仁は気にした様子もなく、人差し指で日車の鼻先をツン、とついた。
「みんな好き好き言いながら日車に群がっちゃってさ」そう言いながら、不服そうな顔で、日車の額に唇を寄せ、「俺のなのに」と呟いた。
「虎杖」責めるような声を日車は発した。
「日車も、ひどいと思わん?」悠仁は眉を下げて日車を見た。
悠仁の表情を見て、日車が怯んだと同時に、日車の首筋に唇を移動させて、フゥ、と息を吐いた。
「腕とかホイホイ触らせちゃって」
悠仁は首元に頭を預けたまま、日車の腕に手を這わせて、筋肉の形を確認するかのように撫でた。
日車は肩を揺らしたが、目を閉じて、眉根を寄せながら、手のひらに爪が食い込んで出血するのではないかくらい、強く握って刺激に耐えた。
そんな様子を見て、悠仁は嬉しそうに日車の頭を2度ほど撫でた。
「うんうん。これは、オシオキだから」悠仁はそう言って日車の胸元にツツ、と指を這わせた。
日車は沸騰しそうな脳をなんとか落ち着かせて、悠仁に鼻を向けた。
「オシオキも何も、今回のことは、アサインされた時に話し合っただろう。君も納得していたし、それに、」
「それに?」
「俺は、やましいことは、なにも、」
「してないって?」
悠仁の両手が、日車の顔を包み込んだ。
「確かに、日車の、なんだっけ、安全地帯になりたい、だっけ? あれ、嬉しかったな」
日車の口の端を悠仁はぺろりと舐めた。
「俺、やっぱ心狭いのかな」
日車が悠仁の目を見た時、悠仁の瞳が轟々と燃えていて、歪んでいることに気づいた。それは紛れもない嫉妬の炎だった。しかし、時々、どこか寂しそうに、ゆらり、と揺れている瞬間があった。
日車は小さくため息をついて、悠仁の頬に手を添えた。
「……心配かけてすまなかった、虎杖」
途方に暮れたような日車を見て、悠仁はやっと、自分の体を日車の隣の位置に戻した。
「別に、怒ってないけどさ、任務なら仕方ないのも、わかるよ。でも、やっぱいい気持ちはしなかったよな」悠仁は口をすこし尖らせて、「俺の気持ち、わかってる?」と言った。
「ああ」
今回日車は完全に被害にあった側であったが、それは言わなかった。恋人の機嫌が最優先である。
悠仁はようやくいつもの調子に戻って、「なんか観よ」とテレビをつけた。
悠仁がサブスクの映画を選んでいると、日車はソファから立ち上がり、部屋の外に向かった。
「どこ行くん?」悠仁はソファに手をかけて、体を後ろに回転させた。
「……手を洗ってくる」
日車はぽそり、と聞こえるか聞こえないかの声で答えた。
「ここで抜いてもいーのに」
悠仁はソファの背もたれに両肘をついて顔を乗せ、わくわくした顔で日車を見ていた。
まるで動物の生態観察をするような目線に、日車は沸々と怒りが湧いてくるのを感じた。
「君は本当に……18歳になったら覚えておくといい」
日車は顔を赤らめながら、眉根を寄せ、青筋を立てていた。
「そっか! どうなっちゃうのか楽しみだな!」
カラッとした笑顔で悠仁は返事をした。
数日後、某証券会社 レセプションパーティー
会場は多くの人で賑わっていた。
軽食をつまみながら、顧客と証券会社の担当者が歓談をしていた。
その中に、吉崎はいた。仕立ての良いダークブラウンのスーツを着こなし、会場を歩きながら、自分の顧客に挨拶回りを行っていた。
そこに、黒髪長髪をハーフアップで纏め、黒いスーツを着こなした夏油と、銀の髪をシニヨンで結って、キラキラと品よく光る青いドレスをまとった冥冥が歩み寄ってきた。2人とも、手にはシャンパンを持っていた。
「こんばんは、大盛況のようですね」
夏油が吉崎の顔を見て話しかけた。
吉崎は「こんばんは」と返しながら、はて、こんな美人カップルは顧客の中にいただろうか、と首を傾げた。
「ああ、そういえば、ご結婚おめでとうございます」
夏油の言葉に、吉崎は「ありがとうございます」と定型的なお礼を言った。
3人はグラスを寄せて乾杯した。
「それで」
冥冥がシャンパンを口にしながら節目がちに吉崎を見た。
吉崎はその仕草にごくりと喉を鳴らした。
「あなたが手を出している、女性3人は、一体どうするんです?」
吉崎の笑顔が固まった。
夏油は人の良さそうな顔で、まるで友達の相談に乗ってあげるかのような雰囲気で、吉崎の背中に腕を回し、肩をポンと叩いた。
「デジタルは便利なようで不便です。完全削除済みの、呪いの依頼に関するチャット データも、結局、クラウド インフラのホストが持つデータ コンテナーに保存されていて、望めば復元できてしまう。今度からは、紙にするといい」
吉崎はグラスのステムをギュッと握った。
「いやぁ、何のことだか、はは」
そう言うことで、精一杯だった。
夏油は全てわかったような顔で、狐のように笑いながら、「そうですか」と言った。
吉崎は時計を見た。
「失礼、約束がありますので」吉崎はそう言って、頭を下げ、2人の横を通り過ぎようとした。
夏油はすれ違いざまに吉崎に囁いた。
「カンダタの糸は、残念ながら、極楽に届く前にちぎれてしまいましたが」
吉崎は一瞬びくりと震え、足を止めた。
「あなたの糸は、極楽に至ることが、できるのでしょうかね?」
夏油は楽しそうに嗤った。
冥冥は空になったシャンパンを通りかかった給仕に渡した。
「我々もお暇します。もう2度と、裏であなたの名前を見ない事を祈っていますよ。私もここの証券会社には、常々お世話になっているのでね」
吉崎の首に汗が伝った。喉元にナイフを突きつけられているかのような顔をしていた。
2人はそのまま、会場を後にした。
「本当に、ありがとうございました」
カフェで再会した渡井は、悠仁と日車に頭を下げた。
「無事解決してよかったねー。でも、あのマネージャー辞めてないんでしょ? いいの?」
悠仁はちょっと不服そうに渡井を見た。
「はい、もう私には連絡してこなくなりましたし、マネージャーとして優秀なのは間違いないので、私のせいで隣のチームに迷惑がかかるよりはいいかなって」
「この場合、何かあってもあなたのせいではありませんけどね」
日車はコーヒーを啜りながらしれっと言った。悠仁も日車の言葉に力強く頷く。
「そーだよ! おねーさんは何も悪くないんだからさ!」
悠仁が口を尖らせながら文句を言う姿に、渡井は笑った。
「ありがとう、でも、本当にいいんです」
スッキリした顔で告げる渡井に悠仁は笑顔を取り戻した。
「そっか、ならよかった! これからいー出会いがあるといいね!」
「はい! ちょうどこの後、起業家男性限定の交流パーティーがあるから、頑張ってきます!」
渡井は力こぶしを作ってムン!と意気込んだ。
「そ、そっか......意欲的なのはいいことだよね......」
渡井の脅威的な行動力に、悠仁は固まっていた。
「へへ、私から動かないと! 素敵な人は歩いて来てくれないから! そのための努力って、楽しいんです!」
自信に満ち溢れた顔でそう語る渡井に、悠仁はいつのまにか、「かっけー......」と呟いた。
「おねーさんの考え、超いいと思う!」
「ありがとう、お2人のおかげだよ!」
きゃっきゃと盛り上がる2人の姿を、日車はコーヒーを飲みながら見守っていた。
それから程なくして、渡井は帰宅し、任務は完了となった。
帰宅後、悠仁と日車は風呂と食事を済ませ、ソファでくつろいでいた。
「結局、あの呪詛師は本部の監視下で、呪術師になれるよう、更生プログラムに参加することになったらしい」日車はスマホに届いたメールを見ながら言った。
「へー、まあ力があるなら、人のために使ったほうがいいもんな」悠仁は足先を見ながら、「何とかやり直せるといいけど」と呟いた。
「まあ、その辺りはあの男次第だな。だが、もう傍迷惑なことはやめてほしい」
「日車、モテモテだったもんね」悠仁は揶揄うような表情で言った。
「あれはモテていると言わない。遺伝子を残すための家畜として品評されていたというんだ。あの後、五条にまた揶揄われるわ、脹相に嫌味を言われるわで最悪だった......」
日車は先日のことを思い出して、死んだ魚の目をした。
「俺からもオシオキされちゃったしな」
悠仁はニシシ、と笑って日車の顔を覗き込んだ。
「……正直、あれが一番キツかった」
日車がため息をついていると、突然、悠仁がソファの上で正座して、日車に向き合った。
「日車」真剣な顔で名前を呼ぶ。
「何だ?」
日車も、スマホをローテーブルに置き、きちんと座り直して、上半身を悠仁に向けた。
悠仁は、試合前のような気迫で口を固く結び、日車の顔を見ていた。その雰囲気が並々ならぬものだったので、日車も真剣な表情で悠仁の言葉を待った。
「......日車ってさ、どんな人がタイプなん?」
「は?」
日車の背景に宇宙が広がった。なぜ、今、自分は恋人から好きなタイプを聞かれているのだろうか。
「......記憶違いでなければ、俺たちは恋人同士だったと思うが......質問の意図を聞いても?」
日車は口の片側をひくつかせていたが、状況を整理しようと、質問を絞り出した。
悠仁はモジモジとして恥ずかしそうに顔を逸らした。
「ん......、まあ、そうなんだけど。あのパーティーで、日車の人気見たら、なんか、俺と付き合ってくれてるのが、すげー事みたいに思えて......」悠仁はちらり、と横目で日車を見て言った。
「......そうか......」
日車は精一杯の声を絞り出した。
日車本人からすると、先ほども言った通り、特段モテている自覚もなく、ただ自分のステータスが、誰かにとって価値があるのだなぁ、くらいにしか思っていなかった。むしろ、みんなから大切に思われている悠仁が、自分のことを好きだと言ってくれるこの状況は、本当に奇跡であると、いつも思っていた。
そんな日車の思いを知ってか知らずか、悠仁はフン!と言いながら、胸元に両手の握り拳を作った。
「なんか好みがあるならさ、そーなれるように頑張っから! もっと魅力的な? 俺になって、付き合っててよかったー! って思ってもらえるようにさ!」
「虎杖......」
悠仁の言葉に、日車は胸がキュッと鳴き声を上げ、抱きしめたい気持ちに駆られた。というか、手を広げて、悠仁の方に上半身を倒しかけていた。しかし、すんでのところで踏みとどまった。
『もっと魅力的』という言葉がどうしても引っかかっていた。
突如、日車の脳内に、悠仁と付き合うまでの、エベレスト登頂並みに困難だった存在する記憶が流れ始めた。
天上天下・唯我独尊、面白き事は良き事也な教師の妨害に始まり、自称お兄ちゃん&親友達の「うちの子(ブラザー)は嫁にはやらん」宣言や、同僚(七海)にゴミを見るような目で見られながら、無駄に良い声で、念仏のように青少年育成条例の淫行禁止規定を耳元で囁かれ続けた、屈辱の日々が────。
ちなみに、今もそんなに状況は変わっていない。日車はなぜか目頭が熱くなったので、鼻と口を両手で覆って、天を仰いだ。
その上、ただでさえ変人フェロモン(?)を無意識に振り撒いている悠仁が、これ以上魅力的になろうものなら、今以上の苦労が増える事は、自明の理であった。頭が痛すぎる話である。
日車は顔に濃い影を作って、悠仁の両肩に手をガシリ、と置いた。
「......虎杖」
「......おう」悠仁は覚悟を決めた顔で、ゴクリと喉を鳴らした。
「結論から言うと、俺の好みというものはない。君は自分の弱さを受け入れて、立ち上がることができる。その気高い精神は誰にでも持てるものではないし、そんな君の姿を眩しいと思う。だからこそ、君の周りには多くの人が集まるんだろう。そして、そんな君に、一番近くで寄り添えることが、何よりも嬉しいし誇らしい。……つまり」
日車は手の力をグッと入れて、悠仁を見た。
「......頼むからそれ以上、魅力的にならないでくれ」
恥ずかしいセリフだろうが、そんな事、日車には関係なかった。そんなことよりも、未来の2人の平穏を守る方が、ずっと大切だった。
悠仁は一瞬、ポカン......とした後、顔を赤くして「日車って、俺を過大評価しすぎ」と言いながら、とろけるように目尻を下げて、花が咲くように笑った。
悠仁はやっと体勢を崩して、日車に抱きついた。日車の首に手を回し、喜びを表すように、ぎゅーっと力を込める。
「いや、本当に......」
日車はただ、悠仁の背中に手を回して、よしよしと撫でながら、遠い目をするしかなかった。
君の魅力に気づいておくれ