「攻殻機動隊」とのコラボレーション
デザイナーの森永邦彦は、「攻殻機動隊」とのコラボレーションを軸にこのコレクションを制作した。「AI技術が浸透する中で、実生活でも自分と世界の境界が曖昧になる感覚を覚えるようになった。それを30年以上前に描いていた作品というのが、今すごく時代性があると思った」と語る。
「攻殻機動隊」は漫画家の士郎正宗が1989年に「ヤングマガジン海賊版」で連載を開始し、押井守監督によるアニメ映画(1995年)が世界的な反響を呼んだ。人間の身体が機械化され、脳がネットワークに接続された"電脳"を持つ人々が存在する近未来を舞台に、デジタル犯罪を取り締まる組織「公安9課」がテロと戦うサイバーアクションだ。しかしその核心にあるのは、「テクノロジーによって人間の境界が曖昧になるとき、自己や意識はどこに宿るのか」という哲学的問いである。映画「マトリックス」など後世の多くの作品に影響を与え、SF表現の金字塔として今もなお語り継がれている。
テーマは「GHOST」、存在の曖昧さを服で描く
今季のテーマは「GHOST(ゴースト)」。「攻殻機動隊」の英題である“GHOST IN THE SHELL”に由来しつつ、「ゴーストって、通常だと幽霊とかそういう意味が強いと思うんですけど、今回はもっと、目に見えないけれども存在しているもの、その曖昧な存在というものを服で描こうとしました」と森永は語る。
その“輪郭をぼやかす”技術は、プリントで再現。柄はすべて輪郭を持たず、近づけば近づくほどぼやけ、離れるほどはっきりと浮かび上がる。京セラのサステナブルテキスタイルプリンター「FOREARTH」との5シーズン目となる協業で、水彩のような繊細な滲みを、一滴の水も使わずに表現した。
クラシックと近未来感が混在する世界観
序盤は70年代の自由と平和と愛を求めたヒッピー族のフラワーチルドレンの人間像を取り入れている。花のモチーフに合わせたアーマーは、アニメのヒーロー像をアンリアレイジの文脈でアレンジしたものだ。
またキューブリックの映画「2001年宇宙の旅」にヒントを得て、クラシックとフューチャリスティックが混在する空間の中に生きるような人物像として構築されたという。
剣を模ったペンケース、ランプシェード風のバッグなど、アニメの世界を感じられるキャッチーなアイテムも登場。1920年代の電話機を模したバッグは、遠い未来から地球へと"通信"するようなモチーフとして描いている。
アニメ「攻殻機動隊」のシーンをコラージュしたドレスなども披露した。
「光学迷彩」を再現した“消える服”
ラストを飾ったのが、このコレクションのハイライトとなった"光学迷彩"。「攻殻機動隊」の主人公のサイボーグである草薙素子が着用する特殊な服が持つ機能で、周囲の風景と完全に同化し、姿を消すことができる。
森永はこの概念をこれまでも採用してきたLEDの技術を用いて再現。モデルが壁の前に立つと、背景のデザインを服のLEDに送り、同化する。会場のグレーの有孔ボードの壁から、夜の街並み、雨の滴りなど、さまざまな映像を読み込み、その姿へと変えていった。
「攻殻機動隊の中で主人公が着ている光学迷彩"はまだ30年経った今でも現実にはなっていないんですけど、今回はかなり近いことを再現することができました」と森永は話す。
1年前と比べ、LEDは薄く、軽く、よりしなやかに進化。映像の精細度も格段に上がったといい、「去年はまだ結構重くて、もっとぼやけていたりもあったんですけど、かなり鮮明に今は出せるようになって」と森永。ショーではLEDを用いてワッペンのデザインが変わるジャケット、腕や首元を彩るアクセサリーなども登場し、一部商品の一般販売もスタートするという。
アンリアレイジが問う“存在論”
昨シーズンは「ヘラルボニー(HERALBONY)」の知的障害のある作家たちの生命力あふれる作品を服に落とし込み、ユカイ工学のロボット技術で服を動かしたが、それが今回は服で「存在とは何か」を問うことへと深まった。「前回は"生命の可視化"をして、今回は"存在論"が自分の中では大きくなっていった」と森永は振り返る。
この数年でAIは加速度的に進化し、ロボットが人間の仕事に代わって働き始めている今、30年前に「攻殻機動隊」が投げかけた問いは、この時代にこそ現実味を帯びている。森永邦彦は今季、服を通して人間の本質を問いかけた。
※アンリアレイジ 2026-27年秋冬コレクションを全て見る。
Photos: Courtesy of ANREALAGE Text: Mami Osugi