インドなどでの好調な販売を背景に、2026年3月期連結決算で売上収益が6兆円を超え過去最高を更新したスズキ。モビリティ業界が激動の変革期を迎える中、トップ自らがAIを学び、その姿を社員に示す形でDXを進めている。同社DX担当シニアフェローの鵜飼芳広氏が、AI活用の歩みと、人材獲得の要点を語った。
三現主義ゆえの「アナログ色の強い会社」だった
──スズキは近年デジタル変革を進め、2025年には経済産業省の「DX認定」事業者にも認定されました。もともとITやデジタルの活用にどのように取り組んでいたのですか。
鵜飼芳広氏(以下、敬称略) 特に10年ほど前までは、とてもアナログ色の強い会社だったと思います。
もちろん、業務現場のデジタル化は進んできていて、製品開発にはCAD(コンピュータ上で製図を行うツール)やPLM(製品ライフサイクル全体を一元的に管理するシステム)が早くから導入され、生産工場やバックオフィスでも基幹業務システムが稼働していました。ただ、いずれも「点の最適化」にとどまり、全社で価値を生む「線や面」への広がりは弱かったと感じています。
当社には、現場・現物・現実を重んじる、いわゆる「三現主義」の文化が根強く、ITやデジタルが前面に出ることはあまりありませんでした。ITは「他社並みでよい」という意識が強い上、日本の製造業にありがちな自前主義も残っていたため、各システムがサイロ化し、一次データを全社の意思決定に生かし切れていませんでした。
──三現主義の風土の中で、全社的なデジタル変革をどう進めていったのですか。
鵜飼 「これからの時代において、正しい経営判断をするためには、役員こそデジタルに強くなくてはならない」「今のままでは、我々がボトルネックになってしまう」そんな危機感から、2022年6月、「役員・本部長が業界No.1デジタルチームになる」という行動変革宣言をしました。
以降、社長を含む全役員・本部長が参加するDX研修を19回開催し、自ら生成AIでソースコードを作成したり、セキュリティ研修ではハッキングを体験したりしています。研修会場にはIT本部の20代の若手社員がリバースメンターとして参加しており、役員に操作をアドバイスする場面もあります。