第2回父は死を前に「悔いは解散」と言った 旧統一教会2世が見た信者の今
安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件から8日で4年になった。今年に入り、事件の被告に一審判決が言い渡され、被告の母親が献金を続けてきた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の解散が確定した。だが、信者の両親の元で育った30代男性は「教団も信者も変わっていない」と言う。
男性の父親は今年、がんと診断された。ステージ4だった。医師は「抗がん剤治療はしてもほぼ意味がない」と言った。
「悔いは何かある?」と父に聞くと、「教会があんな風になってしまったからね。悔いはあるよ」と返ってきた。
東京高裁が3月、教団に解散を命じたことを指していた。こんな状況でも、気にしているのは教団のことなのか――。
「僕は解散するべきだと思っているけどね」。そう伝えると、父は黙った。
両親は教団の合同結婚式で結ばれた。男性は、物心ついたころから教会に連れて行かれた。毎朝5時に起きて教義を音読した。教義を理由に恋愛を禁じられ、節約を強いられた。一週間の断食をさせられたこともあるという。
両親は収入の多くを教団に献金し、男性は大学に進む金銭的余裕はなかった。専門学校を経て20歳で就職。その頃には教義に疑問を抱くこともあったが、幼いころから「教えに従わなければ地獄に落ちる」と刷り込まれ、行動に移せなかった。
解散命令後、信者のLINE「むしろがんばりどころ」
変えたのは4年前の銃撃事件だった。銃撃に至る背景に「2世としての苦しみ」があったのだろうと思った。信仰を離れることを決めた。
事件から1カ月後、ツイッター(現X)の匿名アカウントで2世であることを明かした。語ったことのなかった生きづらさを、記者会見などで伝えるようになった。
訴えているのは、2世として育てられた子たちの境遇だ。教義以外の価値観を否定され、自由な意思を持ちにくいという。解散命令請求を検討していた文部科学省に陳述書を提出した。今年に入り、児童虐待の相談を受ける施設の職員に向け、自分の体験を話した。涙を流して聞く人がおり、「当事者の現状は多くの人が知るべき問題だと思った」という感想が寄せられたという。
それでも、理解が進んでいないと感じることは多い。
銃撃事件で山上徹也被告(45)に無期懲役を言い渡した1月の奈良地裁判決は、「不遇な生い立ち」は犯行に大きく影響しておらず、酌量の余地は大きくないとの判断を示した。「2世としての境遇が考慮されず、教団の責任にも一切触れていないことに違和感を覚えた。2世の苦しみが社会に忘れられてしまうのではないかという不安もある」
教団をとりまく環境はこの1年で変わった。東京高裁の解散命令で、施設は清算人の管理下に移り、活動の拠点は失われた。高額献金など過去の被害を申し出る手続きも始まった。
ただ男性が知る限り、旧知の信者の多くは信仰を続けている。入ったままになっている信者間のSNSグループでは、高裁決定後も「むしろこれからが私たちのがんばりどころ」「決して下を向くことなく、新しい挑戦として取り組んでいければ」というメッセージがあった。
「献金をさせ続け、家族も崩壊させたのは教団」
両親にも変化のきざしは見えない。
父親は教団の仕事をしてきて、企業で働く人と比べて半分ほどの年金しかなく、献金のために貯蓄もできなかったという。両親は生活費のために、70代を過ぎても働き続けてきたが、ここ数年だけで500万円ほどの献金をしている。父親のがんが判明した後、両親は10万円ほどする高麗ニンジン液を買った。教団が信者に購入を強く勧めるもので、最後まで教団の教えに従順だ。
男性は、親は死を前にしているはずだが教団のことばかり気にしており、「隔たりは今も埋めることができない」と話す。一方で「献金を続けさせ、家族も崩壊させたのは教団だ」とも思う。
男性はかつて、自身が「教団によって生み出された」存在で、何のために生きているのか意味を見いだせなかった。ただ、事件を機に2世としての人生を語るようになり、少なからず社会の役に立てるのではないかと思えるようになったという。「生きていてよかった」。今はそう思える。
親の信仰によってさまざまな制約を受けている子が、SOSを発して環境を変えられるよう支えたいという。秋には、警察官や児童相談所、教育関係者への講演をする予定だ。「教団や信者は変わらないけれど、いま自分にできることをすることだけが救いになっている」
「デジタル版を試してみたい!」というお客様にまずは1カ月間無料体験