隣で
1人で戦おうとしてるるかさんに止められるくれあさんのお話
マシュタンとくれあさんは仲良しであって欲しい
くれあさんがエクレールでなかったら灰になります。。
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ハンニンダーとの戦闘が終わり、変身が解ける。
ピンチなところに助けに来てくれたあんなとみくるにお礼を告げ、くれあはその場を後にした。
元いた場所に戻ってくるも、その場には誰もいない。もちろん、誰かがいた形跡など何も残っていなかった。
***
街中で急に暴れ出したハンニンダーを追おうとする帆羽くれあの腕を何者かが掴んだ。
くれあが振り返ると、額に汗を浮かべた様子で、何やら必死な眼差しを向ける森亜るるかがいた。
近くには他に誰もいない。あの手の輩を相手にできる人間はくれあ以外誰も。
その眼差しを見ればくれあはわかってしまう。だけれど、それに応えられる状況でもない。
今、行かなければ。私は一生後悔する。
「るるか」
こちらの思いを込めて、腕を掴む彼女の名を呼ぶ。
「行ってはダメ」
————での戦闘は命懸け。
身を持って知っているくれあは、わずかに揺れる瞳に追い打ちをかける。
「危なくなったら、あなたが助けてくれるでしょう?」
「っ、……私は、」
目を見開き、逸らすようにして彼女は俯いた。くれあの腕を掴む力が一瞬強くなる。
彼女がそうすることができる状況ではないことを、くれあは知っている。これは自身へ言い聞かせるおまじないのようなもの。
あなたが見ていてくれるなら、私はなんだってできる気がするから。
「おねがい。るるか」
もう一度名を呼ぶ声に、誰にも告げたことのない熱が混じる。
彼女が強く出られない言葉を選んでいる自覚もあった。
「っ、……わかった」
目を合わせてるるかは言う。
腕を掴む手を離し、そっとくれあの手を取った。細くて滑らかなそれ。たくさんの人を幸せにすると望む手は温かくて、小さい。
「無茶はしないで」
精一杯の激励。どうか、無事に。
これ以上掛けられる言葉はないとるるかは悟る。
「ありがとう。るるか」
くれあは強くるるかの手を握り、祈るように額に当ててから手を離す。
名残惜しさも見せない遠ざかる背中を、るるかは眺めることしか出来なかった。
***
周囲を気にしながら歩き続けるくれあに近づく妖精がいた。
「るるかはもう帰ったわ」
探し物はもうここにはないと、占いの妖精は残酷に告げる。
「そう。なら良かった」
棘のある態度など気にした様子もないくれあは、妖精の言葉を聞いてほっと息をついて足を止めた。
「……くれあ、あんまりるるかに関わらないでくれる?」
居心地の悪そうな妖精に歩み寄り、ハート型の毛皮をそっと撫でる。
「それは、どうして?」
このおとも妖精はこの世の何よりも、主のことを理解している。言葉を聞くのは、占いの結果を聞くよりも少し心が重たい。
「るるかが悲しむのはみたくないもの」
「……私のせい?」
ぎゅうと締め付けられる胸のせいで、くれあはうまく呼吸が出来ない。
「あなたは悪くない。......あの子は賢いから。自分の使命をよく理解している。あなたなら、この意味わかるでしょ?」
ほんの少し声が掠れたのを、めざとい妖精は見落とさなかった。
責めたいわけではないのだと、その答えを冷静に告げる。
「そうね。あの子は優秀で、誰よりも思いやりを持っている純粋な子だもの」
私なんて、いつまで経ってもあの子に届かない。
「くれあ......」
そんな顔しないで、と妖精はくれあの指先に擦り寄った。
マシュタンがるるか以外に近寄るのは、彼女の他にいただろうか。
「でも、やっぱり話したいことがあるの。ねえ、るるかはどこ?」
どれだけ説得されようと、これだけは譲れない。
「あなた、存外いい性格してるわね」
他の誰よりも主のことを思っていることは、マシュタンからみても明らかだった。
そんな彼女だからこそ、放っておけない。なにより、るるかのためになることを知っている。
「ふふっ。こうみえても、るるかのことは結構わかっているつもりよ? いつも一緒のあなたには、勝てないかもしれないけど」
唇をわずかに尖らせて言うくれあにマシュタンはふわふわと近寄り、彼女の胸に抱かれる。
「はぁ。わかったわ。一緒に行きましょ」
あの子の中には、いつだってあなたのことで溢れているのに。
お互いのことになると盲目になる人間の心は難しい。そして、あの子と同じ気持ちを知っている彼女を羨ましく思った。
「……あの子を。るるかをお願いね」
「ありがとう。マシュタン」
くれあは胸元で妖精を優しく抱きしめた。
***
「おかえりマシュたん。遅かった……、」
後から帰ると言ったマシュタンが帰ってきたのかと思ったるるかは、穏やかに微笑むくれあの姿を見て言葉を失う。
「こんばんは。るるか」
「くれあ」
くれあの胸元にいるマシュタンに視線を過らせ、目の前の彼女を見た。
「急にごめんなさい。あのね、話したいことがあってマシュタンにお願いしたの」
くれあはここにいる理由を告げる。
「……そう。お茶淹れるから、入って」
何か言いたげな視線を感じつつ、通してくれたことにひっそりとくれあは息をつく。くれあの鼓動まで聞こえるマシュタンには筒抜けだった。
「お邪魔します」
お茶なんてわたしがやるから、とくれあから離れて浮かぶマシュタンの姿が見えなくなる。
「邪魔なんかじゃ、ないのに」
ぼそっと呟いた言葉が、二人しかいない静かな空間には小さくても届いてしまう。
「るるか、こっち向いて」
「? なに、っ、くれあ?」
くれあの声に振り向いたるるかを、たまらず抱きしめる。
「このまま話してもいい?」
「……うん」
どうしても。あなたに伝えたいことがあるの。顔を見て話すのはちょっと勇気が出ないから。これなら、あなたの顔が見えなくても、気持ちがわかる気がした。
「私はまだまだあなたの足元にも及ばない見習いみたいなものだけれど、」
「そんなこと」
小さく首を振るくれあの気持ちを汲んで、るるかはそっと腕を背に回した。
「少しでもあなたの背負うものが軽くなって欲しいと思ってるの」
「……」
「今日は私のせいで、ごめんなさい」
私こそ、弱くてごめん。
「あなたが、私のこと助けようとしてくれたことも、そうできなかった理由も。全部とは言えないかもしれないけど、わかってるつもり」
「くれあ」
「だからね、もっと私強くなるから。あなたの隣に並んでも輝けるようにがんばるから」
私の方が、貴方の隣に並びたくて必死なのに。
「だから、見ていてほしい。どんなに遠くても。どこからでもいいから」
るるかはとん、と背中に触れ、離れる合図を送る。
一歩離れて、お互いに見つめ合う。
キラキラと眩しいくらいの眼差しに、時々逃げ出したくなる。現に今日は、自身のやるべきことと彼女を天秤にかけて、動けなかった情けなさに逃げてしまったのだ。
こんなまっすぐな瞳に逃げるなと言われて、誰が目を逸らせよう。
怖くても、逃げたくなっても。
もう逃げないから。
「うん。いつも、見てる」
一番近くで見せて欲しい。
コツンと額を合わせながら、大切な人に誓い合った。