1.ハラスメントと厳しい指導との違い
令和2年厚生労働省告示第5号『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』は、職場におけるパワーハラスメントを、
職場において行われる、
① 優越的な関係を背景とした言動であって、
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③ 労働者の就業環境が害されるものであり、
①から③までの要素を全て満たすもの
と定義しています。
指針にはハラスメントの具体例も記載されており、
「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと」
はその一つとして掲げられています。
しかし、叱責行為であれば全てハラスメントに該当するかというと、そのようなことはありません。指針は、
「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」
と規定しています。
それではハラスメントに該当する叱責行為と、ハラスメントにならない適正な指導とは、どのような点に注目して区別して行けば良いのでしょうか?
ここ数日ご紹介している山口地判令8.1.28労働判例ジャーナル171-38 損害賠償等請求事件は、この問題を考えるうえでも参考になる判断を示しています。
2.損害賠償等請求事件
本件で被告になったのは、
■を設置、運営する法人(被告法人)、
被告法人の■講座(本件講座)に所属する教授(被告■)、
の二名です。
本件講座は、
被告■、講師2名、助教1名、技術補佐員1名、事務補佐員1名、
他の講座から派遣された准教授1名、講師1名、助教1名、
学生、
によって構成されていました。
原告になったのは、本件講座に所属する講師の方です。被告■から違法なハラスメントを受けたほか、被告法人がハラスメントに対して必要な調査を怠り適切な措置を講じなかったとして、慰謝料等の支払を求める訴えを提起したのが本件です。
原告の方はハラスメントを構成する事実として多岐に渡る行為を主張しましたが、その中の一つに、ミーティングの場での叱責がありました。
これについて、裁判所は、次のとおり述べて、不法行為の成立を認めました。
(裁判所の判断)
「証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、被告■は、令和3年4月30日に実施されたプログレスミーティングにおいて、
〔1〕原告が発表内容を難しく感じた旨を発言したところ、原告に対し、『これさ、じゃあ難しいと思う人この中でいる。先生、講師レベルでこれが難しいと思わないでしょう。』と発言した事実、
〔2〕被告■が、原告に対し、『先生は職務をちゃんと全うしていない。他の先生はみんなちゃんとやっている。■(注:本件講座の講師)、講師レベルで先生、■と先生の仕事を比べると先生は■の半分から3分の1ですよ。』『これが分からないというのは、ちょっと恥ずかしいと思うよ、先生。ちゃんと先生やってください。本当に。ちゃんと講師としてのちゃんと役目を果たしてください。いいですか。以上。他の先生を見習って、ちゃんと仕事してください。ちゃんとしてください。もう本当に困るんですよ。』などと発言した事実
が認められる。
「被告■の当該発言は、被告■が想定する講師に求められる能力や仕事量と比較して、原告の能力や状況が不十分であると考え、その改善を強く求めたものと認められる。もっとも、当該発言の内容は、具体的な改善方法等を指摘するなどの指導的な文言を含むものではなく、第三者の面前において、被告■が原告に対して抱く不満を矢継ぎ早に吐露し、原告が講師として求められる能力に全く達していないことを断定的に摘示することに終始しており、もはや社会通念上許容される指導としての範囲を逸脱するものといえる。」
「そうすると、当該発言がされた当時において、被告■が原告に対して指導をする意図があったとしても、被告■の当該発言は、職場内の優位性を背景として、業務の適正な範囲を超えて、精神的、身体的苦痛を与える言動であり、原告の人格的利益を違法に侵害するものというべきである。」
「よって、本件行為・・・に係る上記・・・の事実は、不法行為を構成する。」
3.具体的な改善方法等の指摘が含まれているか
適正な指導とハラスメントとの判断基準として、最近「具体的な改善方法等の指摘が伴っているのか」という指標を用いる例が散見されるようになっています。
確かに、叱責に際して改善方法の指摘があれば業務改善に資する可能性があるのに対し、改善方法の指摘がなければ受け手は単に嫌な思いをするだけであるため、この指標はある程度有効に機能するように思われます。
裁判所の判断は、不適切な言動をハラスメントとして構成して行くにあたり、実務上参考になります。