【労働者性】Case702 常勤教員との同一性・共通性を重視して大学非常勤講師の労働者性を肯定し無期転換を認めた事案・国立大学法人東京海洋大学事件・東京高判令8.1.15労経判速2615号3頁
【事案の概要】
国立大学法人である被告において、平成17年4月以降、数学科目の講義を担当する非常勤講師として「委嘱」する旨の期間1年の契約を毎年更新してきた原告労働者が、令和3年度の契約を最後に雇止めされた事案です。
原告は、本件契約が労働契約法18条1項の「有期労働契約」に該当し、同項に基づく無期転換権を行使したことにより期間の定めのない労働契約に転換したと主張しました。そして、上記の雇止めは解雇に当たり無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位の確認等を求め提訴しました。
本件契約が労働契約に該当するのか、すなわち原告の労働者性が争点となりました。
第一審(原審)は、本件契約が労働契約に当たらないとして労働者性を否定し請求を棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴しました。
【判決の要旨】
判決は、労働者性の判断枠組みについて、「労契法2条1項は、「労働者」を「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」をいうと定義しており、基本的な判断枠組みは、指揮監督下の労働と報酬の労務対償性が基準になるものと解される。そして、その考慮要素としては、対象となる事案の類型ごとに多様なものが考えられるが、少なくとも請負又は準委任か雇用かが問題となるような類型においては、労基研報告が示す考慮要素、すなわち、①仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、②業務遂行上の指揮監督の有無、③拘束性の有無、④代替性の有無、⑤報酬の労務対償性、⑥事業者性、⑦専属性の程度、⑧その他の事情(以下、順に「考慮要素①」などという。)を前提に長年にわたって議論が蓄積されてきた経緯があり、原審の判断も、基本的にはこれに沿うものと理解される。」と述べました。
そして、以下のとおり考慮要素①~⑧を総合考慮し、原告の労働者性及び無期転換を認め、雇止めを無効とし、第一審判決を取り消して原告の請求を認容しました。
①仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
原告の業務は担当科目の講義に限られていたことから、形式的に見れば、仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由があったといえる側面もあれば、自由はなかったと言える側面もあるものの、本件契約の特性を踏まえて考えると、必ずしも労働者性を肯定する方向にも、否定する方向にも結び付けて考えることは困難というべきである。
②業務遂行上の指揮監督の有無
大学において授業を担当する教員の専門性、広範な裁量性の反映として、原告は、業務遂行上の中核的な部分において自由に決定できた(指揮監督の要素は希薄)ということはできるものの、それは労働者であることに争いのない常勤教員にも共通する内容であって、これをもって労働者性を否定する根拠とすることは相当でない。
③拘束性の有無
勤務時間の厳格な管理が行われていたわけではないものの、常勤教員も同様であり、担当する講義数が物理的に少ないという点以外に、非常勤教師ゆえに拘束性が希薄となっているという事情を認めるに足りる証拠はない。
④代替性の有無
代替性が認められていたとはいえないものの、これ自体は指揮監督関係を否定する要素にならないというにすぎず、労働者性を積極的に基礎づける事情とはいえない。
⑤報酬の労務対償性
被告は、原告に支払う報酬の名称を「給与」とし、所得税の源泉徴収をする一方、消費税の支払いをしていなかったのであり、この点は、本件契約の報酬の労務対償性を基礎づけるものといえる。
⑥事業者性
原告の事業者性を基礎づけるような事情は見当たらない。
⑦専属性の程度
非常勤講師は自由に兼業することができ、この事実は専属性の程度が低いことを示すものということはできるが、そもそも労基研報告は、専属性がないことをもって労働者性を弱めることとはならないが、労働者性の有無に関する判断を補強する要素のひとつと考えられると位置付けており、原告の労働者性を否定する方向で考慮することは相当でない。
⑧その他の事情
現在、大学の教員は常勤教員であるか非常勤講師であるかを問わず「労働者」として処遇するのが一般的であり、文部科学省当局も、そのような取扱いが適切であるという指導を強めていること、大学における常勤教員と非常勤講師の実態として、その業務は基本的に同一性・共通性を有することが認められ、以上の点は、原告の労働者性を認める方向で考慮すべき極めて重要なポイントになるというべきである。