弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

英語力の揶揄とハラスメント-大学講師に対し英語力をpoorと評したことや「あなたは研究者ではありません」と述べたことが違法とされた例

1.英語の揶揄

 外国語の習得は容易ではありません。英語にしても同様です。言語構造や発音が日本語とは大きく異なっているため、日本人が英語に習熟しようと思った場合、かなりの努力が必要になります。筆者の周りでも、英語の習得が簡単だったと言っている弁護士は見たことがありません。

 ネイティブのように自然に英語を使うことができないことは、非ネイティブにとっては当たり前のことで、それは知的専門職に従事している人でも変わりません。

 それでは、英語を揶揄することが、ハラスメントを構成することはないのでしょうか? 

 近時公刊された判例集に、この問題を考えるうえで参考になる裁判例が掲載されていました。一昨日、昨日とご紹介している、山口地判令8.1.28労働判例ジャーナル171-38 損害賠償等請求事件です。

2.損害賠償等請求事件

 本件で被告になったのは、

■を設置、運営する法人(被告法人)、

被告法人の■講座(本件講座)に所属する教授(被告■)、

の二名です。

 本件講座は、

被告■、講師2名、助教1名、技術補佐員1名、事務補佐員1名、

他の講座から派遣された准教授1名、講師1名、助教1名、

学生、

によって構成されていました。

 原告になったのは、本件講座に所属する講師の方です。被告■から違法なハラスメントを受けたほか、被告法人がハラスメントに対して必要な調査を怠り適切な措置を講じなかったとして、慰謝料等の支払を求める訴えを提起したのが本件です。

 原告の方はハラスメントを構成する事実として多岐に渡る行為を主張しましたが、その中の一つに、ミーティングでの英語力を揶揄する言動がありました。

 これについて、裁判所は、次のとおり述べて、不法行為の成立を認めました。

(裁判所の判断)

「証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、令和2年4月9日、本件ミーティングにおいて、原告が担当する実験の内容について議論がされた際、被告■が、原告に対し、poorという表現を用いて原告の英語力を非難し、あなたは研究者ではありませんなどと発言したことが認められる。

上記被告■の発言は、原告の語学能力が不十分であることを指摘するものであるが、その表現方法には問題があるといわざるを得ないし、それに続けてあなたは研究者ではありませんと述べたことは、原告の研究者としての人格を、直接的な表現を用いて根本から否定するものである。そして、当該発言が第三者の面前で行われていることからすれば、たとえそれが指導というつもりであったとしても、これは職場内の優位性を背景として、業務の適正な範囲を超えて、精神的、身体的苦痛を与える言動であるといえ、原告の人格的利益を違法に侵害するものというべきである。

3.英語力の程度に踏み込まれることなく違法性が認められている

 本件で特徴的だと思ったのは、英語力の程度が問題とされていないことです。

 判決文のうち公表されている部分からは明確には分からないのですが、おそらく被告■は英語力が不十分なことに対する指導のつもりであったという主張を展開したのではないかと思われます。

 しかし、裁判所は、指導のつもりであったとしても、英語力をpoorと評したことは、表現方法に問題があると判示しました。

 外国人が話す日本語を揶揄する日本人はあまり見たことがありません。しかし、同胞であるがゆえの気軽さからなのか、英語を話す日本人の語学力を揶揄する日本人は(数は多くはないにしても)時々目にします。

 裁判所の判断は、非ネイティブ者に対する語学力の揶揄が人格を毀損する行為であることを明らかにした点で、実務上参考になります。