第299話 幸せの連鎖
「センパイ、たまには私の家で夕食を食べていきませんか?」
愛さんに帰りにそう言われた。
「いいの?」
「はい。いつもご馳走になっていますし……話したいことがあるので。お父さんも喜びます」
そう言ってもらえてかなりうれしかった。俺もサトシの件で相談したいことがあるので、ちょうどよかったと思う。ちなみに、サトシにはきちんと愛さんに相談する許可をもらっておいた。
「いいのか。林さんと仲がいいから味方になってくれたら嬉しい」
ということで、その相談もしたかった。おじさんも一緒だとすると相談難しいかなと思いつつも、どこかでチャンスもあるかと思う。
「実はお父さんがご飯を作って待っていると言っていて」
愛さんは恥ずかしそうに笑った。それは恥ずかしそうだったけど、どこかでやはり嬉しそうな顔をしていた。
彼女の世界が徐々に落ち着いているというのがわかって、なんだか嬉しくなる。そういえば、宇垣のおじさんの手料理を食べるのは初めてだ。いつもはうちでご飯を食べていたから、なんだか新鮮だと思う。
※
「いらっしゃい。英治君。もう少しでできるから待っていてくれ」
愛さんの部屋に入ると、おいしそうな香りに包まれていた。
「おじゃまします。カレーですか?」
「ああ。この前、君のお兄さんに教えてもらったレシピでね。無水カレーだ。トマトやナス、キノコをいれて野菜の水分だけで作るカレーだから濃厚で、ルウではなくカレー粉で作るから塩分も調整できる。今、一番のお気に入りの料理だよ」
そう笑っていた。
「お父さん。これを食べてから、週に1回はカレーが食べたくなるくらいはまってしまって」
愛さんは苦笑しながらも幸せな笑みを浮かべた。
「もうすぐできるから、部屋で遊んでいるといい。サラダも作るからあと30分くらいだ」
そう笑うと、おじさんは用意しておいてくれたお菓子がおかれた盆を指さした。ポットにはすでに紅茶の葉も用意されていて、お湯も適温になっていた。
準備の手際の良さに、俺たちは苦笑した。
部屋に入ると、あの思い出のぬいぐるみが見えた。おじいさんを助けたときにもらった感謝状と一緒に取ったふたりきりの記念写真も綺麗な写真立てに収まっている。その横には中学校の入学式で撮ったのだろうか。幸せそうな家族写真も一緒に飾られていた。
最初に来た時に比べて、なんだか生活感があるというか……幸せな世界になっているように思えた。それだけ、愛さんの生活も日常に戻っているのかもしれない。
彼女が淹れてくれた紅茶を飲んで、一息ついた。チャンスはここしかない。
そう思って口を開くと、彼女も同じようにしていた。珍しく、言葉が被る。
「サトシと林さんのことで相談があってさ」
「林さんと今井さんの件で相談があるんですが」
俺たちはお互いに言いたいことを悟って思わず吹き出してしまう。
幸せの連鎖を確信した。
―――――
(作者)
6月10日(水)にコミカライズ版2巻が発売です!
それを記念して、明日より3日間、活動報告でSSを投稿しますのでよろしくお願いいたします。
また、現在人生逆転のグッズも予約受付中。詳細は、作者のエックスにて!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます