中国が台湾をめぐる現状変更に着手 八重山列島南方の日本EEZに圧力、太平洋への出口確保をねらう #エキスパートトピ

益尾知佐子
国際政治学者/九州大学大学院比較社会文化研究院教授

サラミはぶ厚く切られた。5月28日、日本とフィリピンが海洋境界の画定交渉入りを発表したことを奇貨とし、中国が海上で新たな法執行活動の立ち上げと実体化に動いている。その最大のねらいは、台湾の「以東海域」(東方海域)を押さえ、東シナ海から太平洋に抜ける出口を確保すること。中国は八重山諸島南方の日本EEZでも、生態保護などの「法執行」を実施すると見られる。

7月2日、中国の自然資源部が、日比の「国際法違反」を糾弾する文書を公表。4日には中国海警局が「以東海域」で「常態化した法執行パトロール」の展開を表明した。

ココがポイント

台湾「九州沖から台湾、フィリピンに延びる「第1列島線」の周辺で中国が過去最多となる艦船110隻以上を展開」
出典:産経新聞:産経ニュース 2026/7/4(土)

中国が文書で日比を糾弾「中国との協議を経ておらず国際法違反だ」「中国は(台湾以東の)同海域にEEZと大陸棚を有する」
出典:自然資源部海洋発展戦略研究所(中国) 2026/7/2(木)

中国が対日圧力拡大か「台湾海峡、東シナ海、西太平洋を結ぶ海域で(中略)海洋境界画定交渉を行う者は中国の核心的利益に挑戦」
出典:Global Times(中国) 2026/7/4(土)

(中国は過去の国家計画で)「管轄権を主張しているすべての海域に区画を設定」「南シナ海全体や台湾東部が含まれていた」
出典:日本国際問題研究所(図2、29番の正式名称が「台湾以東海域」) 2025/11/5(水)

エキスパートの補足・見解

中国が台湾統一に向けた駒を進めた。その海洋進出も新たな段階を迎えている。

これまで日本では「台湾有事」と言えば台湾海峡を指した。しかし今回、中国は日比の外交交渉への反対を口実に、そうした想定をはるかに上回る行動に出た。つまり、駒を一気に台湾東方の「以東海域」に進め、そこに常態的な監視体制を築こうというのだ。太平洋を望む台湾東部海岸は上陸適地で、軍事作戦上、非常に重要である。

日比共同声明が5月末に発表された後、中国は翌月、以東海域に交通運輸部、自然資源部などの船を展開し、多部門による「近海ガバナンスモデル」の立ち上げを喧伝した。この海域は八重山列島の南方で、日本が主張するEEZとも一部、重複する。7月2日の自然資源部の文書は、国際法的な面から日比の違反を指摘したが、その最後で国際社会に「不介入」を要請し、中国が今後、不満を行動に移す可能性を示唆した。3日に中国は、自らが管轄権を主張する海域で最大規模の110隻以上を展開。並行して尖閣諸島周辺等でも日本への示威行動を強化している。

トランプ大統領の訪中で米中関係が休戦中の今、中国が海上行動を格上げし、高市早苗政権への圧力を拡大するリスクが高まっている。要注意だ。

  • 18
  • 33
  • 21
国際政治学者/九州大学大学院比較社会文化研究院教授

フォローして最新記事をチェック

専門は現代中国の対外政策、国際関係論。東京大学総合文化研究科博士課程修了、博士(学術)。小倉高校在学中にアメリカに、東京大学教養学部在学中に中国に交換留学してサバイバル力を磨く。日本国際問題研究所研究員、エズラ・F・ヴォーゲル教授研究助手、早稲田大学講師などを経て現職。ハーバード大学イェンチン研究所協働研究学者、中国社会科学院・外交学院訪問学者などを歴任。単著に『中国の行動原理──国内潮流が決める国際関係』、『中国政治外交の転換点──改革開放と「独立自主の対外政策」』、共著に『中国外交史』、訳書にエズラ・F・ヴォーゲル『日中関係史』など。好きなものは国境。

あわせて読みたい記事