4章 十代半ばの子は暴走してナンボですからね。①
兼重が心昼と小夜にご飯を奢った翌日以降からの学校生活は、少し雰囲気が変わった感じがあるものの平穏と言えば平穏ではあった。
まず心昼は特に問題はなく、ネイルを返した時も「ありがと」と普通だった。一方で小夜はなぜか校内で話しかけてこなくなった。ちらちらと兼重を見てはくるのだが、目が合いそうになるとすぐに顔を逸らしてくるのである。
兼重は特に嫌われるようなことはしていないハズなのだが……まぁ思春期の女の子はえてして複雑なものだ。
下手に気にするより、そっとしておく方が良いと兼重は思った。
最後に朝里については、本人も語っていたように少しずつは馴染もうという努力を始めているようで、兼重に報告を送ってくるようになっていた。
――自分が暴言を吐いたことのない子に話しかけてみた。
――話しかけられた時はなるべく話を合わせるようにしてみた。
次第に兼重にさらに信頼を寄せ始めているようで、文章が日増しに柔らかくなっているのもわかるくらいだった。
強すぎる暴言を吐いてしまった相手、例えば心昼や小夜にはまだ近づけないそうだが、しかし、兼重の目には、それもいずれ時間の問題という感じには見えた。
そんな時だ。
GWに皆で遊ぼう、と御山が言い出した。クラスメイトをなるべく多く誘いたいらしくどんどん声をかけていた。
――いいじゃん皆で思い出つくろうぜ。
――イケメンの御山くんの頼みならしょうがないなぁ。
――うっし、吉岡もこいよ。
――拙者も⁉ 明らかに階層が違う住人な気がするでござるが……ありがたい話でござる。ただ、拙者は推しのVtuverの為にお小遣い使ってるので遊びに使う分ないでござる。
――階層とかあんま関係ない……多い方がいいなって思ったんだ。残念。にしてもVtuberに使ってるって赤スパとかしてんの?
――赤はお年玉貰った直後しか無理でござるな。
――その言い方……つまり赤スパしてるのか……。
御山は性格が悪くない、と兼重も見ていて理解するようになった。御山に問題があるとするならば、兼重のことを神格化していそうな雰囲気があるところだ。
「兼重さん、全員は無理っぽいです」
「俺は別に指示を出していないが……」
「俺は恩は一生って主義なんです。青春、楽しみましょ!」
「あ、ありがとう」
「それはそれとして……最近ちょっと朝里が女子に対しては少し柔らかくなってるみたいですが、男子も仲良くなれそうです? これは勘なのですが、兼重さんに対しては裏でやり取りはしていると思うんですけど……俺の漠然とした直感というか、本能というか、そういうのがビビっと反応しているので……」
朝里から連絡を受けている、というのを教えていないのに御山が当てたことに兼重は驚いた。御山自身が以前に言っていた『中学では一番モテていた』というのは本当であったようで、経験則で女性の動きに予測がつくようだ。
いずれにしても、兼重が朝里に近づいた元々の理由が男子からの懇願ではあったので、誰かがどこかで話題に出してくること自体は想定内ではあった。兼重は「聞くだけ聞いてみる」と答えて、その日の夜に朝里に窺ってみた。
――GWに大人数で遊びに行く話があるようだ。男女混交でな。俺も行く。朝里も行ってみるか?
――おっさんがきて欲しいって言うなら……行ってもいいかな?
――来てくれ。
――じゃあ行く。
参加してくれるそうなので、兼重はすぐさまに男子たちの集まるグループチャットに結果報告を投げた。
すると、ものすごい歓喜が上がった。行けない男子は悔しがりもした。
日々の状況がますます好転していると安堵した兼重は、気持ちに余裕が産まれたことで、時期的に来月にはくるであろう初めての中間テストについて考え始めた。
そろそろテスト対策も始め――る前に、しかし、それより先に解決すべき問題を兼重は思い出した。
お出かけ用の服についてだ。心昼と小夜からも私服に気を使うべき、という反応を示されたのであって、今回も普段着で行くわけにもいかない、というのは思ったのだ。
というわけで、兼重は元より相談相手にすると決めていた夕真に連絡を取った。すると、『今からちょっと会って話そうよ』と誘われたので、深夜営業のファミレスで会うことになった。
それから。
自分より先にファミレスに到着していた夕真に声をかけて、適当な飲み物を頼んで、一息吐いたところで兼重は私服選びについて相談を始めた。
ちなみに、私服を気にするようになった理由を兼重は伏せた。同級生の女子から指摘されたから、と馬鹿正直に伝えてしまうと、『女子高生と仲良くなろうとしてる』とあらぬ疑いをかけられる可能性があるからだ。
「お出かけ用のお洋服ね……若者と一緒にいても違和感ない感じ……それなら2~30代向けの中でも年齢が下寄りかも、っていうのを選ぶといいかもね」
「なるほど」
「ちょっと待ってねぇ……こういうの」
夕真はスマホをぽちぽちして通販サイトを開くと兼重に見せてくれた。過度に若過ぎずかといって中年が着るわけでもない絶妙な衣類が並んでいた。
兼重は悩みながらも夕真に協力して貰いつつ、GWまでに配達も間に合うということでその場で通販で買うことにした。本当であれば実際に店舗に赴いて試着するのが間違いがないそうだが、連休前で夕真も教師として片づけないと駄目な仕事もあるようで、一緒に買いに行くのは無理だということで通販になった。
※※※※※※※※※※※※
あっという間にGWが訪れた。兼重が準備を整えて合流場所へと向かうと、結構な人数で少し驚いた。
最終的にクラスの半分が参加することになったそうで、心昼と小夜もいた。朝里もドタキャンすることもなく姿を見せており、自前の大きな胸が目立たないようにする為なのかゆったりした私服を着ていた。
「いきなり話しかけられない用の壁にする。おっさんを」
朝里は少しずつ周囲と馴染もうと努力はしているものの、性格的にまだ難しい部分も当然にあるわけで、兼重を見つけるや否や後ろに回って隠れてしまった。男子が隙を見つけては朝里のおっぱいを視界に入れようとする時もあったが、見られていることに朝里が気づく前に兼重が注意して散らしたりもした。
昼間に行ける遊べそうな場所には概ね赴いて、皆で楽しむと共に、個々人のクラスでの立ち位置がより明確になりつつあるのが分かる日でもあった。
小夜は元気の良い女子を集めては男子にちょっかいをかけたりしている。御山はなんだかんだイケメンであるせいか、一部の女の子から追いかけられていた。
そうした中で兼重が気になったのは、気にしたのは――心昼だ。大人しくて輪に入り辛い子、あるいは気が強そうで揉めそうな子、そうしたクラスメイトが上手くできるようにずっと気配りに回っている姿を頻繁に見るのだ。
傍から見れば心昼は本当に性格が良い子だ。だが、一方で、周りのことばかりで心昼自身が楽しめていない可能性がある、と兼重はそこを心配に思った。
だから声をかけた。
「心昼」
「ん? どしたの?」
「難しそうな子の面倒を今日は俺が見る。お前も楽しんだ方がいい」
「あたしの動きをきちんと見てるの、おぢだけだ」
「早く行け」
「うん。嫌だって言っても、おぢは勝手に手伝ってきそうな気もするし、だから素直に甘えることにする」
心昼は兼重の背中を軽く叩くとすぐに輪の中心へと向かった。まるで兼重からそう言われるのを待っていたかのようだった。
純粋に遊ぶことを楽しむ心昼が見せる笑顔は、もとより美少女であることも相まって本当に可憐であった。朝里の胸ばかりを気にしていた男子たちの視線すらも、その一瞬だけは釘付けにして見惚れさせていた。
――心昼が普通にかわよ。
――顔いいのは最初からそうだった。誰も狙わないのは、絶対に相手して貰えないって分かりきってるからだし。
――顔は心昼がダントツだからな。芸能人とかアイドルより整ってんぞアイツ。
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