28歳からやり直す、おっさん高校生活。まさかモテてしまうとは。

陸奥こはる/ファンタジア文庫

ぷろろーぐ

――新入生代表挨拶、志良堂兼重くん。


 つい先月に義務教育の中学校を終えたばかりの新入生たちが、これから高校生になることへの期待と不安を抱く表情を浮かべている。

 入学式でよく見る光景だ。



 ――新入生代表だって。入試で一番良い点数だったのかな?

 ――入試の点数で選ばれたは絶対ないよ。点数だけなら一位だったのあたしだもん。多分けど点数とかとは違う理由で代表選ばれてると思う。



 新入生代表として挨拶をすることになっていた兼重は、これから同級生となる彼ら彼女らと同じ……ではなく少し異なる感情を抱いていた。

 理由は年齢である。兼重はアラサーの男だった。十代の若者からは『おじさん』という風に見られる存在だ。



 兼重が抱いた不安は『自分がどう思われるか』というものである。

 大人であれば、事情がありそうだと察して、学ぶことに前向きなしっかりした人と思ってくれる人も恐らくはそれなりにいる。



 だが、十代の子はどのように感じるだろうか?

 それが気になった。

 兼重は二十八歳にして初めて『高校生』となる決断をした。きちんと勉強をしてみたい、という気持ちもあったし、それ以上にいわゆる〝青春〟が欲しかったからだ。


「はい!」


 兼重は元気よく返事をして壇上へと向かった。一歩、また一歩と進む度に周囲のひそひそ話が妙に鮮明に聞こえてくる。



 ――あれが新入生代表……?

 ――雰囲気も顔つきも大人びた感じだね~。

 ――てか大人じゃね?



 周囲と上手くやっていけるだろうか?

 勉強をしっかりこなせるだろうか?

 自分は……青春を送ることができるだろうか?



 登壇した兼重は、眼下に映るひと回りも年下の同級生たちを前にして、事前に用意していた新入生代表挨拶の最初の一言が出てこなかった。内容はしっかりと頭の中に入っているのだが、緊張して口が開かなかった。


 十数秒ほど沈黙した。


 何かあったのだろうか、と周囲がざわつき始める。すると、女性教師――田場夕真が兼重の隣にやってきた。

 夕真が兼重の耳元で囁いた。



「がんばって……ね? 大丈夫。兼くんはとっても素敵な男性だから。私はそのことをよく知ってる」

「……俺は素敵な男ではない。でも、ありがとう。心が軽くなった」



 夕真は兼重の中学時代の同級生だ。卒業以降は疎遠になってしまっていたものの、中学時代には色々と絡みがあった仲でもある。再会したのは、長らく使われてこなかった社会人入試の枠で兼重が面接を受けた時だ。

 見知った人間が傍にいることで兼重の不安も薄れ、ようやく口上を述べることができた。



「新入生代表、志良堂兼重! よろしくお願いします! 二十八歳と少しばかり皆さんよりも年上かと思いますが、精一杯に共に勉学に励み、そして共に泣き笑い、記憶に残る決して忘れられない青春を送りたいと思います!」



 兼重の挨拶は他の新入生たちを唖然とさせた。十代も半ばの子たちにとっては春雷の衝撃であったようだ。



 話は少し逸れるが、高校生に憧れる大人は意外といたりする。大抵は兼重のような『実際に今の状態で高校生になる』ではなく、『時間を戻してやり直したい』という方向性ではあるが……。時間が巻き戻って青春をやり直すようなドラマや映画、漫画が何度も繰り返しブームになることがその証拠だ。


 だが、時間逆行など夢物語であるし、そもそも兼重の場合は時間が巻き戻っても高校生ではないのだから意味もなかった。

 今のまま、ありのまま高校生になる以外の道はなかった。


 今さら高校生になるなんて――そうした気持ちも兼重にはあったが、しかし、それは諦める理由にはならなかった。色々と事情もあったから仕方ない、と簡単に納得できる性格でもなかったからである。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る