東洋経済オンラインとは
ライフ

「今日好き」出身インフルエンサーが逮捕、フォロワー22万人の"拡散力"がリスクに変わる瞬間

8分で読める
三野宮鈴
恋愛リアリティショー「今日、好きになりました。」に出演していた三野宮鈴容疑者(写真:本人Instagramより)
  • 城戸 譲 ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー

INDEX

恋愛リアリティーショー(恋リア)出身のグラビアアイドルが、麻薬の共同所持の疑いで逮捕された。SNSのフォロワーが多い、いわゆる「インフルエンサー」だったこともあり、過去投稿が掘り起こされ、注目を集めている。昨今存在感を強めるインフルエンサーの功罪について考えた。

過去投稿が次々に掘り起こされる事態に

高知市内の駐車場でケタミン(麻薬)を所持していたとして、三野宮鈴(さんのみや すず)容疑者(22)が高知県警に逮捕されたと高知放送やテレビ高知などのメディアが報じた。ケタミンを男と共同所持していた疑いが持たれている。

これらのニュースが報じられると、SNS上で注目が集まった。三野宮容疑者がインフルエンサーとして知られていたからだ。2020年に動画配信サービス「ABEMA(アベマ)」の恋リア「今日、好きになりました。」に出演。2022年にはミスマガジン2022読者特別賞を受賞し、グラビアアイドルとして活動している。

恋愛リアリティショー「今日、好きになりました。夏空編」に出演していた(写真:ABEMA公式ページより)

「今日好き」がZ世代を中心に人気なこともあり、三野宮容疑者のインスタグラムは約12万フォロワー、TikTokは約22万フォロワーを持つ。当然ながらSNS上でも知られる存在で、過去の投稿を掘り起こして、臆測で今回の事件と結びつける反応が少なくない。

【写真を見る】「今日好き」出身インフルエンサーが逮捕、フォロワー22万人の"拡散力"がリスクに変わる瞬間(7枚)
2/5 PAGES

また、共に逮捕された青木敬士郎容疑者(28)の動画も拡散されている。TikTokからの転載とされるこれらでは、体を横に揺らしたり、白目をむいたりする様子が映し出されており、「撮影時に薬物使用していたのでは」といった指摘も見られる。なお青木容疑者は、コカイン所持の容疑で再逮捕されている。

ミスマガジン2022読者特別賞を受賞していた(写真:ヤンマガWebより)

「個人にファンがつく」ことが、企業リスクに転じる

三野宮容疑者は、このコラム執筆時点で、容疑を否認していると報じられている。そのため今回は、“推定無罪”である前提で、一般論として「インフルエンサーが抱えるリスク」について考えてみたい。

ここで改めて“インフルエンサー”とは何かを説明しよう。SNSでの強い拡散力を持つ人物を指し、彼ら彼女らが紹介した商品は、売り上げに大きく影響を及ぼすことがある。かつてで例えるなら、「健康効果がテレビで紹介された翌日、店頭から納豆が消えた」みたいなものと考えればわかりやすいだろうか。

その影響力を活用しようと、このところはビジネスの一部として組み込む“インフルエンサーマーケティング”も盛んだ。広告ではありながら、「売らんかな」の宣伝色が薄いことから、さまざまな場で活用されている。

一方で、ファンはその個人にひも付いていることから、今回のようなスキャンダルが起きると、企業側にも起用責任が降りかかることがある。

その転機は、はっきりしている。インフルエンサーが企業ロゴを背負った瞬間だ。ファンが“個人”にひも付いている分、起用が決まった時点から、その個人が抱えるリスクはそのまま企業のリスクへと転化する。そして、いざスキャンダルが起きれば、事件と無関係な過去投稿までもが掘り起こされ、起用した企業の判断責任まで問われる。

そしてインフルエンサー本人もまた、いざという時に過去投稿を掘り返されるリスクと隣り合わせだ。フォロワー数という「魅力」と、デジタルタトゥー(ネット空間上に入れ墨のように残る投稿)という「時限爆弾」は、始めから同じコインの裏表なのだ。

スキャンダルが起きれば、事件と無関係な過去投稿までもが掘り起こされる(写真:三野宮 鈴Instagramより)
3/5 PAGES

このように、SNSでの人気は、いまやビジネスの一部として組み込まれている。SNS上で直接商品を販売・宣伝する場合に限らず、「フォロワー何万人の人気タレント」などと、箔を付けるためにも重要だ。

となった時に考えられるのが、「見せるための自分」を演出しなければならない強迫観念にさいなまれている可能性だ。自らの素顔とは裏腹に、着飾ったヨソ行きの姿を作り上げて“映え”させる。その結果として、リアルな自分とのギャップが生じ、日を追うごとに拡大していく。

その結果、悲しい結末となったのが、恋愛リアリティーショー「テラスハウス」(フジテレビ、Netflix)での事案だ。2020年の同番組で、ある出演者の行動に賛否の声が上がった。そして“アンチ”による誹謗中傷が、SNSを通して本人に届くようになる。

出演者は番組制作側の意向を受けて、番組内での共同生活を行っていたとされる。なかには「やらせ」とも言える指示もあり、単なる「演出」では説明できない状況に発展。最終的に出演者が亡くなったことで、問題が表面化。フジテレビは責任を問われる事態となった。

恋愛リアリティーショー「テラスハウス」は人気番組だったが、事件後に終了した(写真:フジテレビより)

明るい「素直な子」ほど、ひずみをためこむ

テラスハウスの件と、今回の薬物事案は、同一に語れるものではない。ただし、“大人による強要”がなくとも、「こうすれば大人が喜ぶ」と、自主的に振る舞う若年層がいてもおかしくない。

よく言えば「空気が読める」、悪く言えば「空気を読みすぎる」。この場にふさわしい、自分に求められている役割を察知して、その“あるべき姿”に忠実であり続ける。表面上は「明るく振る舞う素直な子」にしか見えないだろう。

しかしながら、時が進むにつれて「憧れの存在で居続ける」「本来とかけ離れた自分を演じる必要がある」などの葛藤にさいなまれる。そして、その差が広がれば広がるほど、どこかにひずみが生じる。

そうした重圧に苦しむ「イマドキのZ世代」は、少なくないのではないか。仮にそうだとすれば、行きすぎた逃避行動を取る前に、なんとか気づく必要があるのではないだろうか――などと、老婆心ながら感じてしまうのである。

4/5 PAGES

こうした事件や騒動が起きるたびに、「また若いのがやらかしている」といった反応が出る。冷笑するのは簡単だが、そこで立ち止まらず教訓を得て、より良い未来につなげることが重要なのだ。

タイムラインに流れる投稿から、無意識のうちに“より良い姿であるべきだ”と刷り込まれている若年層も多い。時代の流れでルッキズムが批判される一方で、“美”の価値観は日々コロコロと変化し、より先鋭化している印象を受ける。

例えば、ここ数カ月で言えば「マンジャロ」だ。本来は糖尿病の治療薬として承認されているものだが、自由診療や個人売買で入手して、食欲を減退させる“やせ薬”としての利用を呼びかけるインフルエンサーが続出。医療関係者が問題視する一方で、まだ事態は沈静化していない。

背景には、おそらく「美への探究心」がSNSによって増幅したことがある。インスタグラムやTikTokのように写真や映像で、同年代の“成功例”とされるものを見るたび、興味はかき立てられ、購買意欲は増していく。

「美への探究心」はSNSによって増幅する(写真:三野宮 鈴Instagramより)

「あの人の推薦」が虚像だったとき

それに加えて、「あの人がオススメしているなら、間違いないだろう」といった、お墨付きの要素があることは否めない。悩みを解決してくれる最後の一手として、背中を押してくれる存在としてのインフルエンサーは、存在感を増している。

だが、その推薦が編集された“虚像”の上に乗っているとしたら――受け手に求められるのは、発信を鵜呑みにせず一次情報に当たる姿勢であり、それは購買でも投資判断でも変わらない。

SNSに投稿されるものは、ある程度完成された“キラキラ”でしかない。その裏側にあるドロドロした部分は、ほとんどの場合、描かれていない。つまりはヨソ行きでしかない。

5/5 PAGES

最近では、水商売系のSNSコンテンツも人気だ。そこに映されているのは「華やかで、きらびやかな世界」。なかなか飛び込めない空間を、疑似体験できるとあって、フォロワーも多くついている。

SNSに投稿されるキラキラの裏側にあるダークな部分は見えにくい(写真:三野宮 鈴Instagramより)

ただし、SNS上に流れているのは、あくまで一面にすぎない。裏側にあるダークな部分は、なかなか明かされないものだ。なぜなら、そうしたマイナス要素を排することで、収益の最大化を狙っているからだ。

「フォロワー数」に張り付いているデジタルタトゥー

ここまで、起用する企業、演じる本人、受け取る私たち――3つの立場からリスクを見てきた。通底するのは、“拡散力"と“リスク”が始めから同じコインの裏表だという構造だ。とりわけ起用する企業にとって、インフルエンサーの可否は「フォロワー数」だけで測れるものではない。その数字の裏には、いつ掘り起こされるとも知れないデジタルタトゥーが必ず張り付いている。起用前に過去投稿や交友関係をどこまで精査し、“いざという時”にどこまで許容できるかを設計しておく。そのひと手間が、後から降りかかる起用責任の重さを左右する。

これは、企業の公式アカウントであれ一個人であれ、SNSで発信するすべての人に通じる話だ。素の自分とかけ離れた“キラキラ”を積み上げるほど、埋めきれないギャップとなっていつか跳ね返ってくる。短期的な“映え”より、等身大で続けられる発信のほうが、長い目で見れば信頼という資産になる。

フォロワー22万人という数字は、大きな武器であると同時に、大きな時限爆弾でもある。その両面を直視できるかどうかが、SNSと付き合うすべての人に問われている。

三野宮容疑者のインスタグラムは約12万フォロワー、TikTokは約22万フォロワーを持つ(写真:三野宮 鈴Instagramより)

こちらの記事もおすすめ

あなたにおすすめ

ライフ