1.ハラスメントの相談受けた使用者の対応
令和2年厚生労働省告示第5号『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』は、労働者からパワハラ(パワーハラスメント)の相談を受けた使用者に対し、
「事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること」
を求めています。
事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認している例として、
「相談窓口の担当者、人事部門又は専門の委員会等が、相談者及び行為者の双方から事実関係を確認すること。その際、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも適切に配慮すること。」
「また、相談者と行為者との間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずること。」
を規定しています。
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000584512.pdf
また、これと類似した仕組みは、セクハラ(セクシュアルハラスメント)との関係でも設けられています。
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605548.pdf
このように、法の建前上、事実の調査は相談者及び行為者の双方から行うことが要請されています。
しかし、行為者が組織内で有力な地位を持っているなど使用者側に強く出られない理由がある場合、相談者がハラスメントを受けたと申告しても、行為者に対する調査が行われないことがあります。ハラスメントは申告さえすれば無条件に成立するというものではありませんが、このような片面的な扱いが相談者の心理的安全性を毀損することは指摘するまでもありません。
それでは、行為者に対する事情聴取が行われないなどの片面的な調査が行われた場合に、相談者が使用者に対して安全配慮義務違反を理由として慰謝料を請求することはできないのでしょうか?
近時公刊された判例集に、この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が掲載されていました。山口地判令8.1.28労働判例ジャーナル171-38 損害賠償等請求事件です。
2.損害賠償等請求事件
本件で被告になったのは、
■を設置、運営する法人(被告法人)、
被告法人の■講座(本件講座)に所属する教授(被告■)、
の二名です。
原告になったのは、本件講座に所属する講師の方です。被告■から違法なハラスメントを受けたほか、被告法人がハラスメントに対して必要な調査を怠り適切な措置を講じなかったとして、慰謝料等の支払を求める訴えを提起したのが本件です。
被告法人に対する慰謝料等の請求の根拠として、原告は安全配慮義務違反を指摘しました。具体的には、
「本件調査委員会は、本件各行為に係る事実関係の調査に際し、加害者とされる被告■から事実関係の聴取を行っていない一方で、その他関係者から事実関係を聴取し、不必要に原告の名誉やプライバシーを侵害した。また、本件委員会が作成した本件勧告には、原告が主張する行為がハラスメントに該当しないと判断された理由が記載されていない。これらによれば、本件調査委員会による調査、本件委員会による判断は適切に行われていない。さらに、被告法人は、原告が本件勧告に従い、原告の配置換えを希望していたのに、異動の手続に際し、法律上不要である被告■の同意に固執するなどして、上記措置を講じるなどの原告の就労環境の整備を何ら行っていない。」
「よって、被告法人が、原告が被告■からハラスメントを継続して受けない環境を整えるという安全配慮義務に違反したことは明らかであ(る)」
と主張しました。
これに対し、裁判所は、次のとおり述べて、被告法人の安全配慮義務違反を認めました。
(裁判所の判断)
「使用者が、被用者からハラスメントについて相談を受けた場合には、当該相談に係る事実関係を迅速かつ正確に把握するための調査等の措置を講じる必要があることは明らかである。そして、当該事実関係を調査するに際しては、相談者及びハラスメント行為をしたとされる者(以下、単に『行為者』という。)のプライバシーに配慮しつつ、第一に、相談者及び行為者を対象として事実関係の聴取を実施し、両者の事実関係に関する主張に不一致がある場合や当該聴取のみでは事実の確認が不十分であると判断される場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講じることを原則とすべきであり、本件規則にも概ねこれと同様の内容を意図したものと窺われる記載がある・・・。この点、原告が申し立てた各行為がハラスメントに該当するか否かの判断に当たっては、単に当該言動の内容のみならず、当該言動の目的やその経緯、原告と被告■との関係性等の諸般の事情を総合考慮する必要があるのが通常であるところ、本件調査委員会が、正確な事実関係を把握するためには原告から提出された資料等のみで十分であると思料し、あるいはどのような事実関係であっても原告の申立てはハラスメントに該当しないと判断したのならともかく、正確な事実関係を把握する必要があると判断したうえで、行為者である被告■に対する事実関係の聴取をしないまま関係者に対する事実関係の調査のみを実施するというのは、その調査方法において理解に苦しむというべきであり、そのような調査方法をとったことについて合理的な理由は見いだせない。そうすると、本件調査委員会は、行為者である被告■に対する事実関係の聴取を実施し、第三者に対しても事実関係の聴取等の措置を講じる必要があるか否かについての判断をすべきであったといえ、このような一連の対応は、上記の調査等をすべき注意義務に違反したものというほかない。」
「この点につき、被告法人は、本件委員会が被告■に対して事実関係の聴取を実施すべき法的義務はなく、また関係者に対する事実関係の聴取を実施することは正しい事実関係を把握するために必要不可欠であった旨を主張するほか、本件勧告においては、原告が申し立てた各行為についてはアカデミックハラスメントに該当しないと判断したため、被告■に対する事実関係の聴取を実施しなかったと説明している・・・。」
「この点、あらゆる場合に被告■に対して事実関係の聴取を実施すべき義務がないのは明らかであるが、事実関係を把握する必要があると判断した以上、一方当事者である被告■に聴取する義務が生じるというべきであるし、ハラスメントに該当しないとの判断は、一定の事実関係の認定を前提としているのであるから、その結論をもって被告■の聴取をしないことを正当化できるものとも解されない。」
「上記までに指摘した事情によれば、本件調査委員会が行った調査の方法は安全配慮義務に違反し、これによって、原告が適切な職場環境で職務を行う利益が侵害されたものと認められる。」
3.きちんとした調査を行ってくれない場合
ハラスメントについて、職場に相談したけれども、きちんと調査してくれないという悩みは、比較的よく耳にします。
裁判所の判断は、職場に適切な調査を求めて行くにあたり、実務上参考になります。