コムデギャルソン川久保玲 強まる反戦へのメッセージ「時間がない」
パリ・メンズファッションウィークでコムデギャルソン・オムプリュスの新作群を発表したデザイナーの川久保玲が6月28日、現地で朝日新聞の取材に応じた。この2日前に発表された2027年春夏メンズコレクションのテーマは「If The War Were To End……(もし戦争が終わったら……)」。かつては間接的・抽象的に反戦や平和のメッセージを発してきた川久保だが、近年は直接的な表現が目立つ。その理由を問うと、率直な答えが返ってきた。
「シンプルに言うと、早く戦争が終わって欲しいです」。川久保は発表されたばかりの新作群が並ぶパリ中心部のオフィスで椅子に腰掛け、そう語った。
常に既存の価値観を覆してきた川久保が今回打ち出したのは、世界に対する「希望」。全体として軽やかな印象のコレクションで、ピンクとネイビー、青と白のストライプ、蛍光色や原色の赤、青、黄などを大胆に用いた。
「コレクションですから、『こういう新しい着こなしですよ』『新しいアクセサリーですよ』と、新しいスタイルを発表するのが普通ですよね。私はファッションそのものの新しさを発表してきましたが、今回は希望のほうの比重が多かった」
だが「希望」を服で表現することは容易ではなかったという。「その表現は抽象的だし難しかったですね。空気だから。確かに色は表現として分かりやすかったけど、そのほかに何を材料にして気持ちを訴えればいいのかは難しいコレクションでした。だから、色以外だと、素材の軽やかさとか、でしょうか」
そして、この「希望」は決して楽観的なものではない。もし戦争が終わったら――という言葉の裏には、いまなお世界各地で戦争が続いている現実があるからだ。「もちろん各地での戦争は、終わったわけではありません。(終わる)可能性は低いかも知れないけれど、やっぱり希望は希望だから。もう今は暗いメッセージを出したくなかったから、明るい形にしました」
川久保は以前から一貫して服を通じて反戦や平和へのメッセージを発してきた。だが、その表現はあくまで間接的だった。ところが近年は25年秋冬メンズのテーマ「TO HELL WITH WAR(戦争なんて地獄に落ちろ)」をはじめ、明らかにトーンが変わっている。その理由を尋ねると川久保はこう答えた。
高級ブランドとは「全くやり方が違います」
「それはやっぱり年齢かしら」
冗談めいた言葉にも聞こえるが、真顔で「そういうことが昔よりも気になるんです。今更と言われるとあれだけど、そういうことが気になるのが遅かったのかもしれない」と続けた。
「あんまり政治的なことは言いたくないし、自分には何もできない。だから割と遠くからというスタンスを取ってきました」
しかし、いまは違う。「社会の情勢と照らして、ちょっと時間がない」
時間がない――この言葉には驚かされた。川久保は急ぎの用があればオフィスの敷地内や階段を力強く走りながら移動するほど健康だ。反射的に「すごくお元気じゃないですか」と聞き返すと、きっぱりと言った。
「いやいや、もうそんなに時間はないですよ。一般的に言えば」。残り時間を意識しながら世界を見つめているのだ。
危機感を強めているもう一つの理由は、日々ニュースに接していること。「私はストレートニュースをよく見ていますから。そうするとやっぱり考えますよね。報道ばかり見るとうんざりもするし、憂鬱(ゆううつ)になるでしょ。繰り返しトランプ大統領が出てくるし」
インタビューはやがて、現在のファッション業界そのものへと移った。近年、巨大ラグジュアリーブランドの製品価格の高騰が止まらない。この現状について尋ねると、川久保は極めて率直だった。
「ラグジュアリーブランドの人たちの経営の仕方は、我々とは全く違います」
そして、きっぱりと言った。「洋服を作りたいからやっているわけではないと思うから。おそらく」
では利益のため?「でしょうね」。
格好いいものを若い人に着てもらいたい
背景には巨大化したラグジュアリー産業の構造がある。ブランドアンバサダーを務める著名人への報酬、膨大な広告宣伝費、売り上げ拡大への圧力。そのコストは最終的に商品価格に転嫁される。
記者が、ある高級ブランドのバッグは20年前に20万円台だったが、現在は約200万円だと伝えると、川久保は「あれが、いま200万……」と絶句した。「レザーが10万円、工賃が10万円だとしてもバッグ自体の原価が20万円で……あとは広告とか営業費用……つまりバッグそのものよりも高いですよね」
「そういうやり方はおかしくないですか? 結局はモノだけでは売れないということなんでしょうね。はっきり言って。そして売る量も要求することになる。要するに、目的が売り上げだから」
一方、価格の上昇はコムデギャルソンも無縁ではない。「何もかもが価格上昇しちゃっているんです。生地代も縫製代も。この1~2年だけで製造コストは20%以上も上昇しています」
世界の戦争は服作りとも決して無関係ではない。原油価格が上がれば化学繊維の原料価格が上がり、物流費も上昇する。服の価格は必然的に押し上げられる。
「結局それが来ちゃうでしょ。原油の不足や高騰で生地の原料費が上がるんですよね」
「だけど世の中の若い人のお給料は、服を簡単に買えるほどには上がっていません。私がもうちょっと安く売りたいと言ってもスタッフからは『それはできません。コストが上がっているんです』と言われる。生地屋さんや工場が利益を増やしているわけではないのも知っています。そういう取引先だって同じようにコストが上がっているから。私たちは本当にギリギリでプライスを決めているんです」
同じ値上げでも、程度も思想も、巨大ラグジュアリー企業とは決定的に異なる。高額報酬を支払って著名人をショーに呼ぶことも、アンバサダーを起用することもない。「利益を出すことが目的だったら、私たちは今のやり方だと全然だめです」
そう笑った後、「我々は格好いいものを若い人に着てもらいたいんです。格好よくなると気持ちが上がって、何かまた良い方に向かう。その助けになればいいなと思ってやっていますから。利益を出すためだなんて何も思ってないです」と語った。
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- 小林恭子在英ジャーナリスト視点
素晴らしい記事でした。新作コレクションの紹介にとどまらず、川久保さんの率直な思いや、ファッション業界そのものへの分析と批判まで丁寧に引き出していて、読み応えがありました。 「時間がない」という言葉には、世界情勢への危機感と強い切実さが凝縮されているように感じました。また、「格好いいものを若い人に着てもらいたい」という最後の言葉には、利益ではなく創造を原動力とする姿勢が表れており、感動を覚えました。
2026年7月3日 19:03 - 梶原阿貴脚本家視点
「コムデギャルソンの洋服を買いたい」と、シンプルに思いました。こういう思いを込めて洋服を作っていらしたとは知りませんでした。昨年の「TO HELL WITH WAR(戦争なんて地獄に落ちろ)」から、今期の「If The War Were To End……(もし戦争が終わったら……)」どちらも大切なメッセージだと思います。あらゆる分野から反戦のメッセージを届けていけば、いつか必ず世界は変わる。そう信じたいです。
2026年7月3日 22:52