塩結び
羂寛、お好きな時間で再生どうぞ、住居。
2022/11/26発刊「ScorchDrop」収録の書き下ろし作。
幸せ要素は多分ない(見方によってはあるのかも)。
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日車は、昨日からの住処に戻る。
誰かが逃げ出した部屋には、家具も家電も調理器具も、一通りが揃っている。
八畳一間のワンルームは、かつて自分の住んでいた部屋と、なんだか似ている。
殺風景で、必要最低限のものしかない。
食料らしい食料も備蓄されていないそこで、彼は米を炊く準備を始めた。
米を三合量り、炊飯器の釜に入れ、といでいく。
じゃっ、じゃっ、という音の合間に、今日の相手を思い出す。
七三頭の、メガネをかけた中年の男は、最後に命乞いをしていた。
何だか、あの時の検事に顔が似ていて…ガベルが頭に当たる感触まで、似ていたような気がする。
そこに悦びが、潜んでいた気がする。
日車はその感情に、目を逸らす。
…炊飯器のスイッチを押し、ソファーベッドに座る。
テレビをつけてみるが、何も映らない。
ザァザァと砂嵐だけが、映る。
虚無を眺めるうちに、米が炊けた。
塩を混ぜ、ラップを使い、途中で表面にも少しの塩をかけながら、熱い白飯を握っていく。
日常のものを食べて、正気を保ちたい。
全てを握り飯にして、ソファーに戻り、彼はそれを食べ始める。
塩気の効いた握り飯が、美味い。
合間に、代金を置いて取ってきたお茶を、一口飲む。
その時、隣からゆっくりと手が伸び、塩むすびが一つ消えていく。
目を向けると、五条袈裟の男が、ラップを剥き、握り飯に齧り付いていた。
彼は日車の視線に気づき、絡みつきそうな声で、話しかける。
「ああ、美味しいね。日車、いつもご馳走になる」
「たいしたものじゃない。あと、急に現れるのは、いい加減やめてくれ」
羂索は、飲みかけの日車のペットボトルを取り、お茶を飲む。
「そう言いながら、一人で食べきれない量を用意するのは、どうしてかな」
「…たまに君が、訪ねてくるからだ」
「おや。もしかして私が来るのが、待ち遠しかったのかな」
応えず、次の塩むすびに手を伸ばして取り、日車は食べる。
その彼に羂索が、優しく問いかける。
「そろそろ慣れたかい」
「…慣れるものか」
「今日の男は、最初の男に、似ていたね」
「…やめろ」
咀嚼しながら、小さく返す。
手に持った食べかけの塩むすびを、羂索が手ごと掴み、握り飯を食べた。
掴まれた感触にぞくりとして手を払った日車が、声をあげる。
「俺はまだ、正気だ!」
「そうかな」
「ああ、そうだ!悦んでなどいない!」
「…そうだといいね」
羂索は、日車の額に浮かんだ汗を、指でつうっ、と撫で取ってペロリと舐め、囁き声を返す。
「美味しくなった」
なにがだ、と聞き返したくなる衝動を、日車は仏頂面に、押し込めた。
萌え禿げた!!!