見出し画像

『Time of Ring』(第十稿)Part.6

第六幕:大量絶滅

時空のトンネルを抜けると、
そこは巨大なシダ植物が鬱蒼と茂り
むせ返るような熱気に包まれた
深いジャングルの中だった。

6600万年前、白亜紀。

「今回の目標である
奴らの先祖の生息エリアまでは、
あと八百メートルってところかしら。

NOAのエンジンを冷却するためにも、
ここからは徒歩で接近するわ」

水原は重火器を背負い、
ハッチを開けて外へ出た。

「うわっ、すげえ熱気だな」

大地も後に続く。

見上げるほどの巨大なシダの大木が
辺りを覆い尽くしている。

その更に上空には
羽幅が数十センチもある
巨大なトンボが飛び交い、
遠くからは、
図太い獣のような咆哮が響いてくる。

人類が誕生するはるか以前の、
圧倒的な生命のエネルギーに満ちた世界だ。

二人は生い茂る草を掻き分け、
ジャングルの奥へと進んでいく。

「なあ、水原。

見つけたら本当に、
問答無用で 丸焼きにするのか?」

大地が背中越しに尋ねると、
彼女は前を向いたまま答えた。

「ええ。それしか無いでしょ。
クロノスの計算は絶対なの」

水原が足を止めて振り返ろうとした、
その瞬間だった。

ズズンッ!!

突然の地響きと共に、
真横の巨大なシダの群生が
いっせいに薙ぎ倒された。

現れたのは、
見上げるほど巨大な
肉食恐竜だった。

鋭い牙がびっしりと並んだ巨大な顎から、
粘り気のある唾液が滴り落ちる。

「危ない!」

大地は水原の腕を掴み、
力任せに横へと飛び退いた。

直前まで二人が立っていた地面が、
巨大な顎によって丸く抉り取られる。

「化け物め!」

水原が体勢を立て直し、
ブラスターを連射する。

だが、分厚い皮膚と鱗に阻まれ、
致命傷には至らない。

怒り狂った肉食恐竜は、
太い尾を振り回して
水原を薙ぎ払おうとした。

「水原!」

大地は体術と脚力を全開にし、
倒木を蹴って宙に舞い上がった。

そして、恐竜の鼻っ柱に向かって
渾身の蹴りを叩き込む。

「ギャアアアッ!」

予想外の痛撃に怯んだ巨獣の隙を突き、
大地は水原を抱え上げて、
岩場の狭い亀裂の中へと滑り込んだ。

肉食恐竜の巨大な鼻先が
亀裂に突っ込まれるが、
中までは届かない。

やがて諦めたのか、
重い足音と共に遠ざかっていった。

暗く狭い岩の隙間で、
二人は荒い息を吐きながら
壁に寄りかかっていた。

「……無茶苦茶するわね、あなた。
肉食恐竜に蹴りで挑むなんて」

水原が呆れたように、
しかし少しだけ震える声で言った。

「あんたが食われそうだったからな。
……怪我はないか?」

大地が手を差し出すと、
水原はその手を取って立ち上がった。

「……ありがとう」

二人が岩場を抜けて崖の上に出ると、
眼下のすり鉢状の盆地に、
クロノスが指定したターゲットの姿があった。

「あれが……奴らの祖先」

青い鱗を持った、
二足歩行の小型恐竜の群れだった。

あの地下世界アガルタで酷使され、
仲間の死を悼んで泣いていた
水色の種族の祖先たちだ。

彼らは群れを作り、
自分たちより体の大きな捕食者から隠れるように
ひっそりと、身を寄せ合って生きていた。

崖の上からスコープで観察していた水原が、
不意に息を呑んだ。

一匹の子供の恐竜が足を滑らせて転ぶと、
親らしき恐竜がすぐに駆け寄り、
心配そうに鼻先をすり寄せたのだ。

「……まるで、人間みたいね」

水原の声が、微かに震えていた。

彼女は背中から
強力なプラズマ兵器を下ろし、
銃口を群れに向けた。

これを引き金ひとつで焼き払えば、
レプティリアンの歴史は消滅し、
人類は救われる。

だが、空の異変は、
すでに始まっていた。

太陽とは別の、
不気味な赤黒い光の塊が、
天空を引き裂きながら
地上へと迫りつつあったのだ。

直径10キロメートルにも及ぶ、
滅びの巨大隕石だった。

空の異変に気づいた水色の恐竜たちが、
パニックを起こして逃げ惑う。

親の恐竜が、
迫り来る空の恐怖から
幼体を庇うように
必死に抱きしめる姿が見えた。

その姿が、瓦礫の中で自分を庇い、
撃ち殺された母親の背中と重なる。

「……撃てよ」

大地が静かに言う。

「それがクロノスの出した正解なんだろ」

「……できない」

「撃て!!」

「無理よ!!」

水原はプラズマ兵器を放り出し、
両手で顔を覆って泣き崩れた。

「私には……
あんな無抵抗な親と子を 焼き殺すなんて、
できない……!」

「それでいい。
俺だって、あいつらを撃てやしない」

大地は優しく水原の肩を叩くと、
崖の下で待機させていたNOAに向けて
全速力で駆け出した。

「なら、俺たちのやり方で
歴史を作る!」

大地はNOAのコンテナの
巨大なハッチを全開にした。

「おい! こっちだ!
早く中に入れ!!」

大地の声と身振りに反応し、
怯えていた水色の小型恐竜たちが、
次々とコンテナの中へと逃げ込んでいく。

そのパニックの中、
数匹のネズミのような生き物が
どさくさに紛れて
コンテナの隅へと潜り込んでいた。

一方、彼らを突き飛ばすようにして、
より体格が良く凶暴そうな
「オリーブ色」の鱗を持った恐竜の群れが、
コンテナには見向きもせず、
その後ろにある岩場の洞窟へと
我先に逃げ込んでいくのが見えた。

その直後だった。

——突然の閃光と供に音が消え、
世界が真っ白に染まった。

直径数十キロの巨大な隕石が
地表に衝突した。

少し遅れて、
すべてを粉々に砕くような
絶望的な衝撃波が押し寄せた。

「緊急離脱!!」

大地と水原はコクピットに飛び込み、
操縦桿を限界まで引き上げる。

だが、爆風に煽られたNOAは
船体のバランスを崩し、
海岸近くの水面へと
不時着してしまった。

『警告。
コンテナの重量オーバー。
この大気乱気流の中では
浮上・跳躍不可能です』

「うわダメか!」

窓の外を見ると、
地平線を覆い尽くすほどの
超巨大津波が迫ってきていた。

このままでは波に飲まれ、全滅する。

波がNOAを飲み込み、
機体が岩山の洞窟めがけて
猛烈な勢いで押し流されていく。

大地は咄嗟に、
コンテナの完全密閉スイッチを叩き、
続いて「パージ(切り離し)」のレバーを
全力で引いた。

ガコンッ!!という重い金属音と共に、
恐竜たちを乗せた巨大な鉄の箱が、
NOAの船体から切り離された。

コンテナは津波の圧倒的な勢いに乗って
岩山の洞窟の中へと激しく突っ込み、
入り口を完全に塞ぐようにして挟まり、
そのまま動かなくなった。

(……『大空から降ってきた巨大な鉄の箱』)

大地は、洞窟の入り口を塞いだコンテナを見つめ、
背筋が凍るような戦慄を覚えた。

オリーブ色の種族が逃げ込んだ洞窟を、
水色の種族を乗せたコンテナが
外の過酷な環境から守るように密閉していた。

コンテナを切り離し、
身軽になったNOAの本体は、
津波の反動と急上昇で
宙へと舞い上がった。

だが、下から突き上げる
隕石の衝撃波が
船体を激しく打ち据えた。

『警告。
時空跳躍エンジンに致命的な損傷。 』

「おい!どういうことだよ!」

『……現在、制御不能。
当機は時空の海を漂流しています』

窓の外の景色が、
光の帯となって
狂ったように回転し始めた。

2156年への道標は失われ、
NOAは果てしない時間の渦の中へと
飲み込まれていった。

いいなと思ったら応援しよう!

ピックアップされています

インスタント短編小説

  • 51本

コメント

コメントするには、 ログイン または 会員登録 をお願いします。
小ぶりなプログラムを試しに作っているんですが、 ここではその説明書きをしていこうと思います。 こういう機能をつけてみてほしいだとか要望は、 コメント欄か、Xのリプライ欄に書いてみて下さい。 ひまをみて対応します。 (未管理著作物裁定制度に定められた問い合わせも受付中。)
『Time of Ring』(第十稿)Part.6|古井和雄
word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word word

mmMwWLliI0fiflO&1
mmMwWLliI0fiflO&1
mmMwWLliI0fiflO&1
mmMwWLliI0fiflO&1
mmMwWLliI0fiflO&1
mmMwWLliI0fiflO&1
mmMwWLliI0fiflO&1