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【米国最新情報:107】最高裁の反トランスジェンダー判決(1):保守派が「DEI」に反対する理由

ジャーナリスト
トランプ大統領は、2025年2月5日、ワシントンのホワイトハウス・イーストルームで、女子スポーツにおけるトランスジェンダーの少女および女性の参加を禁止する大統領令に署名する式典に出席した写真:ロイター/アフロ

3回連載の1回目

【目 次】(総字数:約3000字)

■保守派の「反DEI」の思想/■最初の争点は「アファーマティブ・アクション」問題/■トランプ政権の「反DEI政策」

■保守派の「反DEI」の思想

 2026年6月30日、最高裁は幾つかの重要な判決を下した。まず大統領の行政機関のトップを解任する権限に関する判決で、大統領の権限拡大を容認する判決を下した。また政党と候補者の支出制限を大幅に緩和する選挙資金規制の改正を容認する判決をくだした。さらにアイダホ州とウェストバージニア州の「出生時の性別による女子スポーツ制限」する女子スポーツ規制法を合憲とする判決を下した。いずれもトランプ大統領と保守派の勝利である。

 月末ではないが、6月28日に最高裁は、生誕地市民権の問題でトランプ大統領の政策を違憲と判断し、トランプ政権に大きな打撃を与えた。例年、6月30日に最高裁は重要な判決を下す。最高裁が審理を行うのは10月1日から6月30日で、その後、最高裁は夏休みに入り、審理を行わない。従って、夏休み前に急いで判決を下すのである。今年も例外ではなかった。

 本稿では保守派の「反DEI(多様性、平等性、包括性)」と「反トランスジェンダー」の議論の背後にある考え方と、最高裁のトランスジェンダーの女性スポーツへの参加を規制する判決の内容を分析する。

 多くの日本人には、なぜアメリカの保守派はトランスジェンダーを忌み嫌い、リベラル派の主張する「DEI」を否定するのか、理解できないのではないかと思う。現在、アメリカ政治の社会政策の最大の焦点が「DEI問題」であり、トランスジェンダー問題である。保守派とリベラル派の間で展開されている「文化戦争」も、この二つの問題を軸に戦われている。

 「DEI問題」や「トランスジェンダー問題」は人間観や社会観を巡る価値観の争いであるので、妥協点は見いだせない。それだけに、極論すれば、生きるか、死ぬかの争いになる。

 もう少し、保守派の考え方を説明する必要があるだろう。まず、「DEI問題」である。もともとこの考えはリベラル派の考え方である。「DEI」の発想が具体的に政策の中に入ってきたのは、1964年の公民権法が成立したジョンソン政権の時代である。最初の具体的な政策は1960年代後半から制度化された「アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)」である。公民権法の成立に伴い黒人に対する積極的な差別是正措置が取られた。連邦政府での採用や大学の進学で黒人を優遇するという政策であった。

■最初の争点は「アファーマティブ・アクション」問題

 ジョンソン大統領は、その趣旨を「南北戦争後、100年間にわたって黒人は教育から疎外されてきた。自由な地位が与えられたからといって、白人と対等な競争を求めるのは不条理である」として、優遇措置の正当性を主張した。

 だが、白人は「アファーマティブ・アクション」に反対した。その問題が最初に表面化したのが、大学入試である。1978年に元海兵隊員の白人男性がカリフォルニア大学デービス校医学部に2度出願したが、合格しなかった。当時、医学部は定員100名で、そのうちの16名を少数民族の学生に確保していた。その学生は、「アファーマティブ・アクション」の結果、特別枠で合格した黒人よりも成績や試験結果が優れていたにもかかわらず、不合格となったとして、憲法修正第14条の「平等保護条項」に反すると訴訟を起こした(裁判名:Regents of the University of California対Bakke裁判)。要するに「白人に対する逆差別」であると主張したのである。

 判決は、大学は人種ごとの「固定的な定員(クオータ)」を設けてはならないが、学生の「多様性(diversity)」を促進する目的であるなら、「人種を総合的審査(holistic admissions)」の一要素として考慮することは許されるというものであった。リベラル派は、人種的多様性を維持することは大学教育を促進するために有益であると主張した。

 その後も、「アファーマティブ・アクション」を巡る裁判は繰り返された。保守派の団体「Students for Fair Admission」が原告となり、ハーバード大学とノースカロライナ大学を訴えた。そして2023年に最高裁は6対2で「ハーバード大学の入学制度は厳格審査(strict scrutiny)を満たしておらず、人種を考慮する現在の制度は合衆国憲法修正第14条の平等保護原則に適合しない」という判決を下した。この判決を受け、多くの大学は入学制度の見直しを進め、社会経済的な背景や個人の経験など、人種以外の要素をより重視する評価方法を導入するようになった。

 また、この判決は教育分野だけでなく、企業や公共機関の「DEI施策」にも影響を与えた。企業も採用や昇進に際して、人種やジェンダーといった基準を導入するようになっていた。ただ、民間企業は公的機関と違い、その違法性を争う裁判はないが、第2次トランプ政権は民間企業に対しても「多様性基準」を変えるように要請している。一部の企業は応じたが、大多数の企業は「多様性基準」を維持し続けている。

■トランプ政権の「反DEI政策」

 もう少し保守派の「反多様性」の主張を聞いてみよう。彼らは、採用や昇進は「個人の能力」によって決められるべきで、「少数民族」であったり、「女性」であることを根拠に採用や昇進を決めるのは白人(もっと具体的に言えば、白人男性)に対する「逆差別」であると主張する。

 第2次トランプ政権は、2025年1月20日に「Ending Radical and Wasteful Government DEI Programs and Preferencing(過激で無駄な政府DEIプログラムと優遇措置の終了)」 という大統領令を出し、連邦政府全体からDEIを排除する政策を打ち出している。大統領令では「全米各地で生物学的な性別という現実を否定する思想を持つ人々が、法制度や社会的圧力を利用して、男性が自らを女性と名乗り、女性のために設けられたプライベートな単一性別空間や活動(女性向けの家庭内暴力シェルターや職場の女性用シャワー室など)への立ち入りを認めようとしている。これは誤りである。生物学的な性別という現実を消し去ろうとする試みは、女性の尊厳、安全、そして福祉を奪うことによって、女性そのものへの攻撃となる。言語や政策から「性別」という概念を消し去ることは、女性だけでなく、アメリカの制度全体の正当性にも悪影響を及ぼす」という保守派の論理を展開している。

 さらに「言語や政策から『性別』という概念を消し去ることは、女性だけでなく、アメリカの制度全体の正当性にも悪影響を及ぼすことになる」と書かれている。

 大統領令に署名したトランプ大統領は「本日をもって、アメリカ合衆国政府の正式な政策は、性別は男性と女性の二つだけであるというものになる」と語った。この大統領令によって、連邦政府機関は「gender」ではなく「sex」という用語を用い、「ジェンダー・イデオロギー」を推進する声明、政策、広報文書などを削除しなければならなくなった。パスポートや自動車免許証で「gender」という表記は使えなくなった。

 これに対して、全米最大のLGBTQ団体Human Rights Campaignは「今回および今後予定されている大統領令は、私たちの家族や地域社会を傷つける以外の目的はない。私たちのコミュニティは何十年もかけて、職場で人間関係が尊重され、学校で自分たちのアイデンティティが認められ、軍での奉仕が評価される社会を築いてきた。私たちの権利への攻撃は、狭い価値観に当てはまらないすべての人々の権利への攻撃でもある」という声明を出している。

連載(2)へのリンク:【目次】■神は「男」と「女」という2つの性を創った/■最初のトランスジェンダーの政治問題/■常に政権発足直後にトランスジェンダー政策が変更/■トランスジェンダーとスポーツ裁判の経緯

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ありがとうございます。
ジャーナリスト

1971年国際基督教大学卒業、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、東洋経済新報社編集委員を経て、フリー・ジャーナリスト。アメリカの政治、経済、文化問題について執筆。80~81年のフルブライト・ジャーナリスト。ハーバード大学ケネディ政治大学院研究員、ハワイの東西センター・ジェファーソン・フェロー、ワシントン大学(セントルイス)客員教授。東洋英和女学院大教授、同副学長を経て現職。国際基督教大、日本女子大、武蔵大、成蹊大非常勤講師。アメリカ政治思想、日米経済論、マクロ経済、金融論を担当。著書に『アメリカ保守革命』(中央公論新社)など。contact:nakaoka@pep.ne.jp

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