「ダブルバーガーセットでポテトL、追加で同じバーガー三つと……えと、飲み物はコーラLでお願いします!」
「デザートはいいのか」
「いやさすがにそれは」
「育ち盛りなんだから遠慮しなくていい」
「……じゃあ、お言葉に甘えてアップルパイ……」
「それを二つ。あと照り焼きバーガーセットをひとつ、飲み物はウーロン茶で」
「日車、照り焼きとか頼むんだ」
「悪いか」
「悪くない悪くない! あっ以上でお願いします!」
ドライブスルーの注文口で一通り頼み終わると、虎杖は弾んだ表情で運転席の日車を見遣った。今日はいつもの黒いスーツではなく、カジュアルなボタンダウンの水色のシャツを着ている。たまの休日に見せる恋人のオフの姿は少し面映い。
昼食はドライブスルーで買って海辺で食べよう。そう提案したのは日車だった。メジャーなハンバーガーチェーンの名前を挙げられて思わず「え、意外」と虎杖は口にしたが内心嬉しかった。普段はどちらかと言えば近寄りがたい大人の男である日車が、自分のところまで降りてきてくれたようで。
商品を窓越しに受け取り、目的地である海へと若干型の古い国産セダン車を走らせる。半開きの窓から春の柔らかな空気が流れ込む。ただでさえ久しぶりのデートだというのに、心が浮き立つのを抑えることができない。
連休明けの平日だからか、穏やかな晴天にもかかわらず人気はまばらだった。まだ泳ぐほどの季節ではないから不自然なことではないのだが。海を見下ろせる高台に車を停め外に出た。潮の香りをはらんだ風が頬を髪をなぶる。ちょうど目の前にベンチがあったので、そこで昼食を摂ることにした。
「いただきます!」
虎杖は手を合わせると早速分厚いハンバーガーにかぶりつく。その気持ちの良い食べっぷりを日車は微笑ましく思いながら見つめた。
「食べないの?」
「いや。ああ、いただこう」
かさかさと包み紙を剥がし、日車も意を決したように口を目一杯開けて齧る。一気に頬張り過ぎたのかしばらく難儀そうに咀嚼するのを見て、虎杖は思わず噴き出した。
「くくっ、頑張りすぎ」
抗議しようにも、口の中の物を飲み込むのに気を取られて笑われるがままだ。
「日車って意外と雑だよな。ハンバーガーとか普段食わなさそうなのに」
「偏見もいいところだな。別にそこまでお行儀が良いわけではない」
ようやくハンバーガーを胃に流し込むと日車は不本意そうに反論した。その唇には茶色いソースがうっすらついている。虎杖は新たに湧き上がる笑いを噛み殺しながら「口、ついてる」と指先で彼の口端を拭った。こういうとこ隙っつーか可愛げがあるよなと思う。
急に顔を近付けられて日車がわずかに怯んだ。その様子に虎杖の心がざわ、と波立つ。気が付けば目の前の唇に軽く触れるだけの口づけをしていた。
ほんの出来心で生まれた行為はあっけなく、唇を離しながら虎杖は心許ない表情になる。
「俺さ、日車のこと好きだよ」
「どうしたんだいきなり」
日車が訝しげに応える。
「どこにも行かないで欲しい」
「行かないさ、どこにも」
「時々不安になるんだ。全部夢なんじゃないかって」
いつもは真っ直ぐな目の前の瞳はどこか揺らいでいて、日車は宥めるように彼の鴇色の髪をくしゃりと撫でる。
「ほら冷めたらもったいない。食べよう」
虎杖は素直に頷くと齧りかけのハンバーガーに再び口をつけた。
「食べ終わって少し遊んだら、どこかで休むか」
虎杖が目を丸くして日車を見つめる。
「あんたの方からそういうこと言うの珍しくね」
「嫌か?」
「ううん、すげー嬉しい」
虎杖の頬にたちまち赤みがさす。分かりやすいなと思わず苦笑しながら日車は頷いた。
太陽が空の真上を差し始めていた。あれだけの量を全部たいらげたのか。やはり若いなと驚嘆しつつ日車は虎杖と一緒に紙袋へゴミを詰めていく。
「浜辺に降りてみるか」
「応!」
二人はベンチから立ち上がる。白く跳ねる波打ち際を見下ろしながら虎杖がぽつりと呟いた。
「なあ、またこうやって俺と会ってくれる? 今ほんと幸せなんだ。それだけは分かって欲しくて」
「虎杖、俺は」
「なんてね。ごめん、重たいこと言って。今のなし! 忘れて」
虎杖が目を細めて切なそうに笑う。彼の明るい髪が陽射しを受けて煌めく。どうか君はこのままで。日車はかけるべき言葉を見失ったまま、強くぬるい潮風を受けながら立ち尽くすのだった。