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供述と共犯/Novel by 鳩沼

供述と共犯

3,362 character(s)6 mins

深夜の日車さんのグレ活報告を聞く悠仁。
虎日工場で製作

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 廊下の突き当たりに白い顔が浮かんでいる。それは闇に似た、黒くて大きな体を持っていた。
 俺が気付いたのを察して、白い顔は宙に浮いた体を半転させ廊下の角を曲がる。俺はそれについていく。
 深夜の今、廊下はどこまでも薄暗い。外から差し込むおぼろげな灯りだけが頼りだ。
 その暗がりの先に、白い光が細く長く伸びている。扉の隙間から溢れ出た光だ。扉の先はなんだったろう。あまり近寄ったことのない部屋だった。
 白い顔を持った黒い式神はその部屋の前に辿り着くと、闇に溶けるように消えた。
 俺は扉の隙間から中を覗き込む。人の気配はなく、手前にきれいに折り畳また白い布の束が見える。ああ、ここは寝具を収納しておく倉庫だっけ。
 力を込めると扉は滑らかに開いた。
 シーツにマクラ、敷布団に掛け布団。
 それらが隙間なく整然と収納された部屋の一角、一番奥の窓側の棚。下段だけ乱れたシーツが詰め込まれ小山のようになっている。俺はそれにそろりと近寄る。白いシーツの山をかき分ける。黒い髪と形のいい額が見えた。
「……おかえり、日車。仕事お疲れ様」
 予想通りシーツの中には日車がいた。いつものスーツ姿のまま、狭い棚の中を横向きに長い手足を器用に折りたたんでシーツの海に丸く埋もれて眠っていた。まるで猫のようだ。
 瞑ったままの短いまつ毛が揺れる。
「……キミはいつも俺のみっともないところばかり見つけてくる。悪いことには鼻が効くのかな、西中の虎、虎杖悠仁くん?」
 日車の声は掠れていた。
 確かに俺はよく日車の奇行に遭遇した。正面玄関からではなく木を伝って三階の窓から校舎に侵入してきたり、歩道のタイルの同じ色の上だけ歩き出し(それ以外のタイルを踏むと死ぬ小学生のアレ)たり、工事現場の入り口に複数付けられていたダイヤル錠を手の感覚だけでことごとく解除したり(すぐ元に戻してた)メントスコーラやったり、仮眠している日下部先生の部屋に侵入してトランプでベッドを囲むように巨大ピラミッドを建設して先生が起きるまでじっと待機したり(先生の悲鳴で駆けつけた)など、よほど日頃の日車の行動とは思えないグレ活に。
 何故か目撃者はいつも俺一人。だから伏黒や釘崎、先輩や補助監督のみんなに話しても誰も信じてはくれない。
 何をバカなことを、あの日車さんがそんな幼稚なことするわけないだろと、呆れた顔をされる。心外だ。俺からすればむしろ。
「濡れ衣だよ」
「そうか。まぁ最近は内通者がいるようだが……」
「あっ」
 特徴的な日車の三白眼が胡乱げに俺の背後に向けられる。いつのまにかジャッジマンが現れていた。
「公正を期すべき裁判官が理由もなく手続きも踏まず外部の人間と接触するのはいかがなものか?」
 日車の詰問にジャッジマンは答えない。用は終わったとばかりにまた溶けて消えた。
 ジャッジマンが単なる判決装置なのかそれとも感情を持ち合わせているのか、それは使い手の日車にもわからないらしい。
 普段日車は彼(彼女?)の好きなようにさせている。存在が受け入れられている高専内では以前より単独で行動している姿が見受けられた。
 今回のジャッジマンの動きも日車が意図したものではないらしい。
 ふうっと日車がため息をつく。起きる素振りを見せたので両手を掴んで狭い棚から引き起こす。パキッパキッと関節が鳴った。
「身体中が痛い」
「そりゃそうでしょ」
 日車は一旦立ち上がったが、肩にシーツを纏わせたまま、隣に重ねて置かれた敷き布団の上に腰を下ろした。俺も隣に座る。日車が話を続ける仕草だった。
「……俺は一人っ子だが、両親は兄弟が多い。幼少期、盆や暮れに祖父の家に連れて行かれると田舎の広い家に親族が溢れかえっていた。同年代の子どもも多く、年に二回しか会わないから、その度に親の名前を言わないとどこの子かもわからない。山と田んぼと畑しかない典型的な田舎で、テレビも地方局とNHKのみ、それにチャンネル権は子どもたちになかったから大体野球と相撲が流れていた。親は親同士で忙しかったし、俺はゲームを嗜まなかったから年上の従兄弟たちに連日外へと連れ出された。山で昆虫を捕まえ、畑で野菜を取り、清水でスイカを冷やし、川で泳いだ。自宅ではできない貴重な経験だったと思う。
 でも俺はどちらかというと単独行動を好む。朝から晩まで誰かに干渉され持ち込んだ本一冊読むこともできないことにきっと子どもながらストレスがあったんだろう、離れを歩いていてふと扉の開いた押入れが目に入った。寝具が一式入っていた。当時、押入れは猫型ロボットが住む魅惑的な空間で、俺は引き寄せられるようにその押入れに入った。中は少しカビ臭かったがひんやりして快適だった。わずかばかり隙間を残して襖を閉めると外界から遮断された。
 ああ、やっと一人になれた、これでゆっくり自分の世界に入れる。俺は喜んだ。閉ざされた空間で、隙間から差し込む光で本を読んで満たされて、そしていつの間にか眠ってしまった。
 あとはわかるな?寛見が見つからないと大騒ぎだ。総出で家中を探すが見つからない。山や畑、川にもいない。事故か事件か。最悪の事態にあわや町内放送一歩手前で俺は目を覚めた。あの時は本当に驚いた。日の落ちた家に、誰もおらず電灯もついてない。声をあげても反応はない。どこか違う世界に紛れ込んだかのような不気味さがあった。
 途方に暮れながら外に出ると、ちょうど両親がこちらに戻ってくるのが見えた。両親は俺を見つけると声を上げ、ほとんど転げるように走り寄ってきた。俺を抱きしめて声を張り上げて泣き出した。物静かな両親だったからこの取り乱しぶりは驚愕だった。そして初めて自分が犯した過ちに気付いた。二度と親に心配はかけまいと思ったものさ。当時は」
 そこで一旦日車は言葉を切り、さっきまで忍び込んでいた棚を見る。
「高専に戻ってきたのは二三時頃だがここから光が漏れているが見えた。普段施錠されているから安全確認のため立ち寄ったわけだが、誰かが寝具一式を持ち出したあと、閉め忘れたのだろう、ここだけちょうど人一人入れるいい空間があった。興味本位で体を入れてみると思いのほか居心地がいい。どうやら俺は狭いところが好きなようだ。それに洗いざらしのシーツの感触も魅力的だった。誘惑に負けて迂闊にも寝入ってしまった。二度目の失態だ。そしてキミに見つかり今に至る」
 ふぅと息を吐き、日車は両手で自分の頬をもんだ。
「供述は以上だ。つまらない昔話だったな。長いわりには内容がなく、説得力にかける。お粗末な出来だ。」
「いい思い出じゃん。楽しかった?」
「……そうだな、楽しかった」
 日車がおもむろに立ち上がる。
「もういいの?」
「ああ、十分だ。それに今のこの状況を誰かに見咎められ、あらぬ嫌疑をかけられるのはごめんだ」
「そう?」
「そうさ。ことと次第によれば俺の生死に関わる」
「そんなに!?」
 意味も分からぬまま慌てふためく俺をよそに、日車は足元に散らばったシーツをかき集める。
「これらは俺が責任を持って明日洗濯するとしよう」
「証拠隠滅?」
「そうとも言う」
「俺には?」
「……カップラーメンと冷凍チャーハン」
「いいよ!」
 電気を消し、連れ立って外に出る。廊下はひっそりと静まり返っている。
 日車のスーツは変な姿勢で寝ていたせいで皺が目立つが汚れや綻びはなかった。今日の任務は大して難しいものじゃなかったようだ。じゃあ、こんな時間まで何をしてたのだろう。上層部にでも会ってきたのだろうか?
聞いても日車はゆるく笑って誤魔化すだろう。
 日車が突拍子もない行動をするとき、それは決まって強いストレスがかかったときだ。そして何故自分がそんな行動を取るに至ったのか、答えが出るまで自問自答を繰り返す。それは誰かに話すと解決が早まるような気がする。その誰かは多分俺だ。
 日車はきっと認めないだろうけど、これは偶然じゃなくて、日車の願望であって、その証拠は今目の前で浮いてる彼の式神の行動で一目瞭然だった。
 だから最初から誘えばいいのに。それを本人にぶつけたところで、渋い顔で、善処する、とでも言うんだろうけどね。

Comments

  • ミッキー
    May 22nd
  • オーョシキリ
    May 21st
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