「アイヌヘイト」いまなぜ先鋭化しているのか 研究者マーク・ウィンチェスター氏と考える〈前編〉

2026年7月2日 06時00分 会員限定記事
0

記事をマイページに保存し、『あとで読む』ことができます。ご利用には会員登録が必要です。

〈アイヌヘイトなぜなくならない──マーク・ウィンチェスター氏と考える〉前編
 札幌駅前の地下歩行空間(チ・カ・ホ)で今年3月、アイヌ民族への同化政策を強いた「旧土人保護法」をたたえるパネル展が開かれた。アイヌ民族の人たちや多くの研究者、市民団体らが「アイヌヘイトだ」などと批判した。ヘイトスピーチ解消法の施行から10年がたったが、なくなるどころか先鋭化する一面もある。人はなぜ差別するのか。アイヌヘイトをなくす運動を展開してきた国立民族学博物館助教のマーク・ウィンチェスター氏(アイヌ近現代思想史)に聞いた。(木原育子)

アイヌヘイトについて自身の考えを話すマーク・ウィンチェスター氏=大阪市内で

 マーク・ウィンチェスター 英国出身。8歳で空手を習ったことで日本好きに。16歳で日本語のスピーチコンテストで優勝し、埼玉県内の高校に1年留学。帰国後は英国の大学で日本の差別問題を学び、1970年代にアイヌ民族の若者らが発行し、当時の社会問題などを伝えた同人誌的な新聞「アヌタリアイヌ」を研究するため、2003年に一橋大大学院に進学した。研究だけでなく、アイヌヘイトに抗議するカウンターグループのメンバーで、ヘイト講義本を出版するなど「闘う研究者」を自負する。訳書にリチャード・シドル『アイヌ通史』(岩波書店)などがある。

◆歴史を省みず、勝手に文化をおとしめ作ったストーリー

──展示会の内容をどう感じましたか。
 差別と言える部分がどこにあるのかってことを考えた時、今回、目に見えて表れているところが、この文明化の論理なんです。和人(民族的多数派の日本人)がアイヌ民族を文明化させてあげたんだと主張している点です。
 アイヌ民族は一夫多妻制だったと主張するパネルがあったんです。そもそもアイヌ社会は一夫多妻制ではないですし、そうした要素があったとしても、それは戦国時代や江戸時代などに「側室」という形で和人社会にもあった。

北海道警に囲まれる中で開かれたアイヌ民族の先住性を否定するパネル展=3月16日、札幌市の地下歩行空間チ・カ・ホで(市民団体提供)

 ただ、アイヌ民族の文化にだけ本質的にあるものだと主張して、それは、現代の倫理観からみて遅れている文化なんだと訴えていく。本質化して、他者化して、アイヌ民族は遅れているっていう展開です。
 なお、このパネルは、アイヌ民族の人口の減少はそうやって力のある男が女性を囲って子どもを産めなくしたからで、人口減少はアイヌ民族自身のせいだっていう主張を平然と言っているわけです。
 感染症だったり、和人による強制移住の中で命を落としていった歴史は全く省みないで、勝手に文化をおとしめて、アイヌがアイヌを苦しめたというストーリーを作っていました。

◆法律の名称だけ…いいとこ取り

──それが差別的なまなざしにつながるということなのでしょうか。
 差別は、「あの人たちが『ああ』だから、このように扱ってよい」、あるいは「このように扱われているのは、あの人たちが『ああ』だから」という循環論理で正当化されます。
 この場合は、「あの人たちは、ああだから、ああなった」となっています。まさにこれが差別ですよね。「ああだから、こういうふうに扱っていいんだ、扱ってよかったのだ」って正当化していく。こうした循環論理が、差別やレイシズムの根幹にはあると感じています。
 パネル展を見に行ったアイヌ民族の人たちがもっとも反応していたのが、「至れり尽くせりの旧土人保護法」っていうパネルでした。北海道開拓において、アイヌが優遇されていたかのように見せかけた内容でした。

北海道警に囲まれる中で開かれたアイヌ民族の先住性を否定するパネル展=3月16日、札幌市の地下歩行空間チ・カ・ホで(市民団体提供)

 法律の名称だけ見ると、確かに「保護」って書いてあるけれど、そもそも先住民族であるアイヌ民族の土地が一方的に日本国に編入されたということを考えなければならない。条文でも「農業を営むことを望むアイヌには、無償で土地を付与する」などと定められていて、歴史を知らない人には良い条件のように見える。
 ただ、それだけでは実際に何が起きたのかはわからない。付与された土地は、非常に粗末なものであったり、開墾に向いていない土地だったり、水害の多い土地だったり、地方自治体の管理がずさんだったり、いろんなケースがケースバイケースであったんです。それを全部すっ飛ばして、チェリーピッキング(いいとこ取り)して、「アイヌにとってもいいこともあったじゃないか」と言う。
 全体的に見ると、誰が一番不利な状況に置かれたのか、それは紛れもなく、アイヌ民族であったのにもかかわらずです。そういう構造的な非対称性を無視した上で、形式的な平等を主張していく、これが差別のまなざしであり、差別の構図です。北海道旧土人保護法の非対称性を無視した形式的平等の構図が、現代の差別の構図とぴったり当てはまっています。

 旧土人保護法 1899(明治32)年に制定された。例えば1条に、農業に従事したいアイヌ民族に対して「土地1万5000坪以内に限り無償で下付(交付)する」などと定められているが、実際は粗末な土地を与えられたり、だまされたり、アイヌ差別の温床となったとされる。アイヌ民族への同化政策を強いた象徴とも指摘されている。1997年のアイヌ文化振興法の成立まで維持され続けた。

 在日特権についても、同じ構図の議論がありましたよね。自分たちよりも...

残り 2085/4169 文字

この記事は会員限定です。エントリー会員(無料)に登録すると、続きを読めます。

無料会員(エントリー)に登録すると
会員限定記事を読める
有料会員限定記事も月3本まで読める

有料会員などの会員種別、登録手続きについて詳しく知る

よくある質問はこちら

記事に『リアクション』ができます。ご利用には会員登録が必要です。

記事に『リアクション』ができます。ご利用には会員登録が必要です。

記事に『リアクション』ができます。ご利用には会員登録が必要です。

記事に『リアクション』ができます。ご利用には会員登録が必要です。

カテゴリーをフォローする

  • 『カテゴリーをフォロー』すると、マイページでまとめて記事を読むことができます。会員の方のみご利用いただけます。

  • 『カテゴリーをフォロー』すると、マイページでまとめて記事を読むことができます。会員の方のみご利用いただけます。

コメントを書く

ユーザー
コメント機能利用規約

    みんなのコメント0件


おすすめ情報