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冥冥之志 ― 北米経営録
Created
2026/6/27
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仕事
米国・カナダにて、5グループ14社を対象とした企業統合、組織再編およびPMIを主導し、完遂した。Chair, Post-Merger Steering Committee(兼 取締役Vice President)として、異国の地で、一手にその責任を担い、最後までやり切れた経験は、自分の人生においてかけがえのないものとなった。大きな自信になっただけでなく、その過程で得たもの全てが、自分の血肉になった感覚がある。
M&A後、「(ほぼ)そのまま」の状態に置かれていた企業群A-E社を、本来あるべき姿へ再編することを目的に始まった取り組みだった。「AとDで、同じエリアに店舗があるのに、それぞれ別々にオペレーションするのは無駄が多いよね」「同じ事業なのに、毎月各社ごとに事業レビューするのは効率悪い/時間足りないよね」「コーポレート機能(経理や人事)は集約させるべきだよね」といった問題意識を解消することが、このプロジェクトの本質だった。
アジェンダは、オペレーション・システム・業務プロセスの統合をはじめ、予実管理・予算策定、組織設計、人員配置・最適化、ガバナンス・経営管理体制の整備、月次決算体制の構築、各種コーポレートアクションの計画・実行、NOL(繰越欠損金)の活用を含む組織再編ストラクチャーの検討、コールセンター統合を含むカスタマーサポート体制の再構築、SNSやWebサイトの統合・刷新など、多岐にわたった。
複数の会社、異なる企業文化、多様な利害関係者が交錯する中で、これらを同時並行で進めていく。人、組織、システム、そして数字が複雑に絡み合う、摩擦と複雑性に満ちたプロジェクトだった。
推進体制としては、Function-based Working Groups(以下、WG)とSteering Committee(以下、ステコミ)という2つの組織体を設けた。WGはオペレーション、セールス、人事、ITなど計10個ほど、ステコミは企業群のうち売上高の大きな2社の経営トップ2名(以下、現地経営トップ)と僕、GENDA米国事業責任者(以下、代表)の合計4名という構成にした。
各WGにはHead(場合によってはSub-Head)をアサインし、目的とスケジュールをセットした上で、日々アジェンダを推進していった。従業員は1,000名ほどいたが、極めてセンシティブなプロジェクトであるため、WGとステコミに関わるメンバーは50名ほどに絞った。
まず着手したのは、経営体制の再構築とWG組成に向けた従業員インタビュー(360度評価のような形)だった。A〜Eの各社にはそれぞれ経営陣や部門責任者が存在しており、統合後の体制を設計するためには、一人ひとりの強みや適性を見極めつつ、合理的な設計を追求する必要があった。その結果をもとに、将来の経営陣や部門責任者候補となる人材をHead/Sub-Headとして配置し、統合後を見据えたWG体制を構築していった。
こうした体制設計も含め、全てをゼロベースで構築した。そして、上程されたものを意思決定するだけの指示型ではなく、日々発生する大小の問題や論争に向き合い、自らアジェンダを設計し、泥臭く手を動かした。そのスタンスこそが、物事を前に進める上で最も重要だった。
書きたいことも学んだこともたくさんある。「もっとこうすればよかった」という振り返りも数え切れないほどある。しかし、それらの多くは結果論でもある。
今回改めて感じたのは、単なる意思決定者であってはいけないということだ。現場に深く入り込み、自分自身の解像度を高め続ける。そうすることで初めて、長年その事業や組織に携わってきた人たちと対等に議論し、その時々で最も正解に近い意思決定ができる。
逆に解像度が低いままでは、適切な軌道修正はできない。声が大きい人や、感情的に強く主張する人の意見に流されてしまうこともある。組織が複雑になればなるほど、その差は大きくなる。
そもそも、このような大規模な統合は、過去のM&Aごとに一つひとつ丁寧にPMIを進めていれば発生しなかったかもしれない。もっとも、過去を振り返っても仕方がない。いつか誰かが向き合わなければならない課題だった。
また、このような局面において、全員が納得する意思決定など存在しない。実際、「異動したくない」「あの人の下では働きたくない」「あの会社のやり方は受け入れられない」といった声は日々寄せられる。それらは決して軽視してよいものではなく、それぞれに本人なりの事情や背景がある。
しかし、その一方で経営には、組織全体の未来を見据えて意思決定を下す責任がある。時には摩擦を伴う判断や、誰かにとって不都合な決断をしなければならないこともある。
だからこそ、嫌われることを恐れず、目の前の賛否に振り回されず、自らの主観とスタンスを持って信じる未来に向かって進むことが重要だと思う。こうした局面で最後に問われるのは、覚悟と意思なのだと改めて感じた。どれだけ考え抜いても、誰かが傷つき、誰かが不満を持つ。その現実から逃げないこともまた、経営の仕事なのだと思う。
過酷で、報われることよりも批判されることの方が多い。目立つ仕事でもないし、誰もやりたがらない。しかし、そうした仕事こそが会社の未来をつくる。少なくとも僕は、これからもそうした仕事から逃げず、その価値を信じて向き合っていきたいと思う。
これから
この壮大なプロジェクトを一区切りとし、次は新たな環境で、中東・東南アジアを舞台に、引き続き海外事業の経営に従事することになった。拠点はまだ未定だが、数か月日本で過ごした後、再び海外へ渡る予定である。
今回の意思決定には、大きく二つの理由があった。
一つ目は、プロジェクトベースや支援ではなく、より長い時間軸で、事業や経営そのものに責任を持ちたいと思ったことだ。
GENDAは、純粋持株会社(以下、本社と言う)にM&Aした事業体(ゲームセンター、カラオケなど)がぶら下がるような構造であり、事業責任者は、買収先のもとの経営陣ないしは新たにアサインされた業界経験者(一部例外はあるが、それが基本線)が担い、本社所属としては、事業責任を負うというより、それらのM&Aした会社を「支援」するような体裁を取っている。また、支援のような立場でもあるので、さまざまな必要性に応じて、事業やプロジェクトを転々とするような設計にもなっている。
自分もまさに国内の事業(当時、社長室長)から、米国事業の経営にアサインとなり、このプロジェクトが終われば、また次の案件に向かう可能性があった。
もちろん、組織横断でさまざまな課題に向き合うことには大きな面白さがある。しかし、米国で事業経営に深く携わり、そこで感じたいくつかの問題意識を通じて、自ら事業や経営そのものに責任を持ち、長い時間軸でコミットしたいという思いが強くなった。
その中でも、最も大きな問題意識が、M&Aと事業経営の分断だった。
GENDAはM&Aを成長戦略の中核に据える、非常にユニークな会社である。一方で、現場に身を置く中で、M&AとPMI(事業経営)をより一体として捉えることの重要性も強く感じた。
M&Aの実行そのものはもちろん重要だ。しかし、その価値は買収した瞬間に生まれるわけではない。どのような意図で買収し、その後どのように事業を改善し、どのような組織をつくり、どのようなシナジーを実現するのか。その構想から実行まで含めて初めて価値が生まれるものだと思っている。だからこそ、事業経営サイドもM&Aの検討や実行に主体的に関与し、その結果に責任を持つべきだと考えるようになった。
組織のアイデンティティは、こうした意思決定のあり方にも色濃く表れる。投資や管理だけで事業が成長することはない。事業の価値向上は、もっと手前の戦略や組織設計、そして現場での実行から始まるのだと思う。
二つ目は、家族の存在である。
米国では、おそらく人生で最も働いた。自分なりに覚悟を持って臨み、結果として大きな成果を残すことができた一方で、その代償として家族には相当な負担をかけてしまった。余談にも書いた通り、プレッシャーも非常に大きく、自分自身が描いた戦略もかなりハードなものだった。その結果、家族との時間は大きく削られ、家族の体調にも影響が出てしまった。だからこそ、この仕事を終えた後は、一度立ち止まり、家族との時間を深く過ごすことにした。ガラパゴス諸島やアフリカ、フランスなどを訪れ、子どもたちに新しい景色や体験を見せた。そして、妻も含め、家族全員でゆっくりと時間を過ごした。仕事は人生の大切な一部だが、人生そのものではない。そのことを改めて実感した時間でもあった。今回の経験も、家族と過ごした時間も、次の挑戦を支える大切な糧になった。最高の父と夫でいたい。
あとがき
海外赴任が決まった当初は、少なからず不安やプレッシャーがあった。不安で眠れないとかはさすがになかったが、赴任が決まってから「(現地で)どう戦うか」「どういう戦略でいくか」を考えつつ、もう10年近く本格的に使っていなかったこともあり、すぐに英語のリハビリを始めた。しかし、それは杞憂だった。踏み出してみれば分かることがある。
もちろん日々の努力というものに加えて、決めていたことが1つあり、シンプルにハードワークすることだった。誰よりも入念に準備をする、誰よりも早く多くのアウトプットを出す。それはかなり機能し、主導権をとってあらゆることを推進でき、かつ、あらゆるアジェンダが自分に回ってくるようになった。業界経験もなく(もっとも、自分は業界経験が絶対条件だとは思っていないが)、年齢としても比較的若い自分が戦う方法はこれだと思っていた。主語を大きく語るつもりはないが、総じて、日本人はとても勤勉だと改めて感じたし、それが武器になると強く思った。そして、ナショナリティに関係なく、勤勉で責任感の強い人たちはいるのだということも実感できた。
生活拠点
拠点は、カナダのトロントから始まり、アメリカへ移動し、ダラス、コロラドと短期間で転々とした。それだけでもかなり大変だった。子どものための家のセットアップや、国を跨ぐ引越し、州をまたぐ引越し、自家用車の輸送手配などにも追われた。ダラスで借りた戸建はかなり古く(そこしか空きがなかった)、夜遅くまで仕事をしていると、窓から虫が入ってくるような家だった😢。海外では、新しめのマンションに住むのが絶対によい。笑
経営原則 - Principles
- 海外での事業経営は、言語や文化のハードルに加え、顧客や市場を理解するまでに時間を要し、意思決定コストも高い。
- 1Q(2026/2-4)調整後EBITDAは0.1億円。通期着地見込み40億円に向けて、Q2-Q4で約39.9億円($25M)が必要。2026/4のEBITDAは1.3億円/月($0.8M)だが、2Q以降は月平均4.4億円($2.7M)が必要。約3倍のジャンプが必要。
- 「どうあるべきか」を構想し、不可逆性の高い問題から先に潰す。
- 顧客や売上を把握できない状態では、正しい意思決定はできない。まず経営基盤を整え、その上で事業改善を進める。「何を、どの順番で解決するか」を設計することこそ、経営の役割である。
- 固定費は「フル稼働で回収」か「セットで削る」の二択。中途半端が最も危険。
- 固定費を抱えたらフル稼働させる。稼働を落とすなら固定費ごと削る。「抱えたまま遊ばせる」が最も利益を毀損する。
- 「稼働を上げれば利益が増える」は、限界利益がプラスの拠点でのみ成立する。
- 限界利益がマイナスの拠点で稼働を上げても、赤字が拡大するだけである。拡大と同じくらい、「やめる判断」が重要である。
- KPIも店舗数ではなく、利益を生む店舗を見るべきである。単体で採算が取れない店舗を積み上げても、企業価値は向上しない。時には「NO」と言うことも経営の仕事である。
- 説明の「変遷」は、本質を捉えられていないシグナルである。
- 逐次的な下方修正と、反証不能な説明が続く場合、根本原因を掴めていないか、執行力が不足している可能性が高い。経営の説明は、弁明ではなく、予測精度と実行力を測る材料として見られる。
- M&Aと事業経営は、一体である。
- 買収そのものでは価値は生まれない。事業をどう改善し、どのような組織をつくり、どのようなシナジーを実現するか。その構想から実行、PMIまで、事業経営サイドが主体的に責任を持って初めて価値が生まれる。
- 利益構成比と経営インパクトは一致しない。
- 北米事業の利益構成比は1〜2割に過ぎない。しかし重要なのは利益額ではない。減損というB/Sの非連続リスクと、M&A成長ストーリーへの市場の信認を左右する点にある。減損は信認毀損を一気に増幅させ、下方修正の連続は市場の信認を損なう。
- 任せることと、手放すことは違う。
- 現地への権限委譲は必要だが、すべてを委ねることではない。可逆な判断は任せ、不可逆・重要な意思決定は経営が手綱を残す。この線引きこそが本質。「オペレーションは誰がやっても変わらない」という言葉を信じて運営を委ねた結果(かつ、管掌外であることに甘え)、現場の崩れに気づくのも、対処に動くのも遅れた。任せる範囲を設計し、そこだけは自ら解像度を持って最後まで責任を負う。
- 信じたいことほど、最後まで仮説として扱う。
- 「本当にクレーンゲームに置き換えるべきなのか」「日本IP景品の展開は、本当に競争優位になるのか」。どれだけもっともらしく聞こえる戦略でも、まずは仮説である。効果検証を繰り返し、投資判断を見直し続ける。肩書きや上下関係ではなく、ファクトで意思決定する。
今回得た全てを糧に、次は事業、プロダクト、M&A、そして組織を含め、一貫して責任を持つ役割に挑戦する。Hakuna Matata!😉