幸せは「強度」でなく「頻度」。幸福研究の第一人者が教える「後悔のない人生」のヒント
がんばって成果を出せば幸せになれる。……はずなのに、空しいのはなぜ? 日本でも「ウェルビーイング」という言葉が広く知られるようになりました。 それに合わせ、「どうすれば本当の幸福を得られるか」というテーマについて、真剣に考える人が増えている印象があります。 アカデミズムの世界からもさまざまな提言がありますが、今注目されているのが「心理的に豊かな人生」です。これは、単に「毎日がハッピー」というだけではない、深みのある人生へのカギとなる概念。 では、この「心理的に豊かな人生」とはどんな人生なのでしょうか。幸福研究に関する第一人者で、『Rich Life まだ知らない景色が人生を豊かにする』(日経BP)の著者である、シカゴ大学マーシャル・フィールド心理学教授の大石繁宏さんにお聞きしました。
「昇進しても幸せは続かない」残念な現実
──多くの人は、「出世して昇給すれば」「結婚して家庭を持てば」といった、努力して達成すること・獲得することで幸福になれる、と考えているように思えます。しかし、心理学の知見では、「達成して幸福」という考え方には問題があると伺いました。 心理学の世界では、“Affective forecasting error(感情予測の誤り)”に関する研究が進んでいて、「人は、将来の自分の感情を過大評価する傾向がある」ことがわかっています。 たとえば、スポーツの試合で、自分のチームが勝ったらすごくうれしいし、負けたらすごく悔しいと感じます。そのうれしさや悔しさは、1週間ぐらいは続くのではないかといった予測をしがちです。でも実際はそんなことはなくて、その感情はすぐに薄れてしまいます。 これに関連して1つの研究を紹介します。ハーバード大学のダン・ギルバート教授らは、大学で助教授の身分から終身在職権(定年まで教員として雇用される権利)を得た人、得られなかった人たちへのインタビュー調査をしました。終身在職権を得るのは大変な努力を伴いますので、得られたのであれば大喜びして、その感情がずっと続くと思いますよね。でも、昇進しても、幸せな感情はさほど続かなかったという結果が出ています。 逆に昇進できなかった人の中には、もっと格下の大学に移って、給料も減っている人もいたのですが、それほど不幸だと感じていなかったのです。 聞いてみると、「今の大学のほうが、自分らしい研究ができる。みんな優しいし」というふうに答えます。われわれには、不幸という名の心理的ウイルスを撃退する力が備わっているのです。これを心理的免疫システムと呼んでいます。 「何か1つの良いことで、とても幸せになるはず」という考えは、フォーカリズムと言います。そこに焦点を置きすぎて、たとえ達成したところで人生全体がそんなに変わるはずはないのに、「変わるはず」と予測した結果、エラーが起こってしまうのです。 💡ポイント:人は将来の幸福を大きく見積もってしまう