機関車工学:下巻(その28)列車時刻表及び運行表:列車運行表時刻表作製(2)
列車の間隔及び行違時刻の法則を守り、急行列車、長距離列車、地方旅客列車等を順次列車運行表に記入するに当り留意すべき事項は概ね左のごとし。
1.旅客列車発着時刻は常に多数乗客の希望を容るること。
2.旅客列車発着時刻は殊に主要駅においては何人も記憶し易き時分を選ぶべきこと。例へば新橋発神戸行急行列車の出発時刻は午後5時 37分とするよりも5時 40分とするをもって記憶に便なるべく、6時2分とするよりも6時発とするをもっていっそう便利なるがごとし。その到着時刻またしかり。
3.主要なる旅客列車は時間改正に際しても主要駅の出発時刻をかなり変更せざること。例へば新橋発神戸行急行列車の出発時刻が従前午後6時なりとせば、時間改正に際してもかなりこれを尊重して保持すること。
4.通勤者通学者の乗車する列車は、多数乗客の希望あるにあらざればみだりに従来の発着時刻を変更せざるを要し、且つ他列車の妨害を受けて遅延すること無きよう時刻を調製すべし。ただし夏季と冬季と時刻を変更するはむしろ当然にして、また乗客の希望するところなり。
5.急行旅客列車はその性質上中間駅を通過するものなれば、中間駅に出入する旅客をして急行列車を利用するの方法を講じ置かざるべからず。すなわち中間駅より急行列車に乗らんとする旅客は、先発の地方旅客列車にて急行列車の停車する最近の主要駅に到らしむべく、また急行列車より降車したる旅客は、後発の地方旅客列車にて目的地へ向はしめざるべからず。すなわち急行列車の前後にはこれら地方旅客列車を相当に分配し置かざるべからず。しかしてこれら列車の継承に際し手荷物ならびに小荷物の積換へあることは注意すべきことなり。
6.連絡停車場における接続時間は最も注意を要すべきものなり。鉄道網の不完全なる時代においては、連絡停車場における乗換及びその待合時間も軽視せられたりと言えども、鉄道網漸次稠密となり長距離行旅客の増加するに従ひその乗換時間の多少は大なる問題となるに至れり。従って列車の分配に関し均一時間の間隔をもって列車を出発せしむるよりも、むしろ列車の接続を尊重するを便利とす。
7.主要なる旅客列車は相当なる設備を有する客車をもって編成すべきが故に、一編成の列車をよく利用するの方法を考へざるべからず。すなわち客車運行表なるものを同時に調製するの必要あり。
8.旅客列車の機関車と貨物列車の機関車とはかなり区別すべきはもちろん、車掌及び機関手等列車乗務員もかなり旅客列車と貨物列車とに区別するをもって適当となすが故に、時刻表作製の際それらを充分顧慮するを要す。
9.いずれの区間においても、いったん旅客列車の回数を増加したる以上は容易にこれを削減すべきものにあらず。旅客列車の速度を増加したる場合においてもまた然り。故に旅客列車の回数増加及び速度増加は最も慎重の調査を経て決定すべきものなり。ただし避暑もしくば海水浴等のため、ある時期を限りて列車を増発するはこの限りにあらず。
10.降雪多き区間においては列車遅延すること多きをもって、夏時刻と冬時刻とに分ちて列車を運転するをもって便利となすべし。もちろん冬時刻は列車運転速度を減し停車及び行違時間を充分に見積るものなり。これ殊に長距離列車においてその必要を見る。
11.貨物列車は急行、直通、不定期及び地方等の各種に分類して時刻を調製すべきものにして、急行及び直通貨物列車は連絡所における接続の時間、主要停車場における貨車解結の状態を明かにし、旅客列車と同じく最も定時に運転し得べき方法をもって時刻を制定するを要す。
12.急行直通及び不定期貨物列車は事情の許す限り中間駅を通過するをもって得策とす。これ貨物の速達と定時運転を期する上においてはなはだ必要の事なり。地方貨物列車は中間駅対主要駅、ならびに中間駅対中間駅の貨車を輸送するをもって主眼とし、中間各駅に最も便宜なる時刻にこれを配列すべし。中間駅にては人手少なきをもって、かなり毎日午前中に空車を配給し夕刻にこれを発送せしむるを得ば最も便宜を得べし。不定期貨物列車は多くは長距離行貨物の輻湊したるときに運転するものなれば、長距離に渡りてよくその連絡系統を正して配列し置くべし。
13.新聞紙輸送列車は世の進運に伴ひますます重要視せらるるに至れり。しかして旅客及び貨物列車にて輸送するをもって比較的その利用すべき列車回数多しと言えども、新聞紙の発送時刻は午後9時以後なると配達時刻は午前5時前後をもって最良とするにより、午後9時以後に出発したる列車をもってかなり速に長距離に達せんことを望むと同時に、主要駅より速に便宜の列車に積換へて中間駅に送り得らるるよう要求あるを常とす。
14.貨物列車にして最も発着時刻に紛議あるものは鮮魚の積込時刻と到着時刻なりとす。漁船は普通夕刻に帰着し魚類は早朝の市場に持出だすを要するをもって、停車場より市場の距離を見計らひ早朝相当の時刻に到着せしむるを要す。牛乳、果実、及び野菜類の運搬も鮮魚に次ぎ相当の配慮を要す。
15.運輸閑散なる地方または相当運輸の発達したる地方においても、中間駅における旅客貨物の輸送上に混合列車を利用するに当り、混合列車には左の制限あることを忘るべからず。
鉄道運転規程 第15条
「列車の軸数は連結具の強度に応じこれを定むべし。いかなる場合と言えども旅客列車にありては機関車を除き 70軸を超ふることを得ず。」
鉄道運転規程 第19条
「2車以上に跨る貨物を積載したる貨車は旅客列車に連結することを得ず。ただし2車を超へざる場合にして特別の装置を施し監督官庁の許可を得たるときはこの限りにあらず。
発火し易き貨物を積載したる貨車は旅客列車に連結することを得ず。ただし貨物または貨車に充分なる防火の施設を為したる場合において、該貨車を客車より2両以上隔つるときはこの限にあらず。」
すなわち多数の貨車を連結するには、または石油、火薬、あるいは長大なる木材等を運搬するには、混合列車は不完全なる貨物列車なれば、これをもって貨物輸送上直接の衝路に当らしむることは不可能なりとす。
16.主要駅発着の初列車、及び終列車(終列車は演劇場解散の時刻を標準とすることあり)は、乗客少数なるをもって混合列車を利用するをもって便利となすことあり。
17.時刻表調製及び列車運転の衝に当る者は従前の経験により、各運転区間における貨車の日常の輸送力と最大の輸送力とを知悉し、必要に応じてこれを輸送するの成案を有すべし。従って各運転区間において定期貨物列車と不定期貨物列車の調合を加減し、且つ必要に応じてなお若干の臨時貨物列車を運転し得べきやを調査し置くを要す。且つまた不定期列車に対して各関係区間においてその系統を正し、一区間の不定期貨物列車若干を運転せば、直ちに他の区間において相当の不定期貨物列車を運転し互いに相応ずるの準備なかるべからず。一列車の牽引定数の異なる区間においては、それに反比例して列車数を増加せざるべからず。
18.列車時刻表調製は紙上の空論にあらず。世間の要求と、鉄道の経済と、線路及び諸車両の状態と、駅員及び列車乗務員の適否、及び定員等を考慮し、その実行上に関し些少の疑義あるべからず。
従来一組の駅員にて昼間勤務のみをなせる駅に対して夜行列車を課せば駅員を増加せざれば事行はれざるべく、いかに多数の不定期列車を設け置くも、必要に応じそれに対する機関車及び列車乗務員を供給するの成案なくんば全く無用のものに帰すべし。終端駅の設備ようやくもって1日に 300両の貨車を取さばくに過ぎざるものに対し、500両の貨車を輸送し来るも何らの効果なきのみならず却って貨車の利用を妨げ有用なる側線を閉塞するに過ぎざる事となるべし。中間主要駅における貨物列車出入の割合もまた然り。よくその出入の時刻を調和せざれば、ある時刻には数個列車を駅内に包有するの結果を生じ駅構内の混乱を来たすべし。
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