« 2025年4月 | トップページ | 2025年6月 »
【 寒暖計 】
吾人の最も多く使用する寒暖計に2種あり。華氏(fahrenheit)の寒暖計、及び摂氏(centigrade)の寒暖計これなり。華氏の寒暖計にては氷点を 32度とし沸騰点を 212度とし、その間を180度に分割せり。摂氏の寒暖計にては氷点を 0度とし沸騰点を 100度とし、その間を 100度に分割せり。
実用上及び学術上にも摂氏の寒暖計は便利にして、我国にても医術その他に多くこれを採用すれども、工学上には英米の習慣を襲用し華氏の寒暖計を使用すること多きをもって、本書には皆な華氏の寒暖計にて指示する温度を採用せり。ただし左の公式により相対照すること容易なりとす。
F を華氏の寒暖計にて指示する温度とし、C を摂氏の寒暖計にて指示する温度とせば
第2章 熱及びその測定
【 物体の温度 】
総ての物体においてこれを組成する各分子は、常に若干の速度をもって運動しつつあるものなり。しかしてこの運動は場合により遅速あるものにして、運動劇しきときは物体をして膨脹あるいは変形せしむ。
実に熱とは物体の分子が有する「運動のエネルギー」にして、その運動緩慢にして「運動のエネルギー」僅少なるときはその物体寒冷なりと言ひ、冷体に外より適当なる方法によりて「エネルギー」を与へ、その分子の運動をして激烈ならしむるときはその物体温暖となれりと言ふ。しかして便宜のために物体中の熱「エネルギー」の多寡、すなわち物体温冷の差別を表はすには温度の高低と言ふをもってし、温暖なる物体は温度高く、寒冷なる物体は温度低しと言ふ。しかして器械的にこれを測るには寒暖計なるものをもってするは吾人の熟知する所なり。
【 機械の効率 】
いかなる機械と言えどもその一部は必ず無用の仕事を成すものにして、機械の成遂げたる仕事の全量は必ずこれを有用の仕事に供することを得ず。すなわちその仕事の一部は器械各部の摩擦に打勝つに費やさるるか、あるいは熱となり音となり種々の途に浪費せらるるを常とす。しかして機械の効率とは、原動力として始めに機械を与へたる「エネルギー」の総量をもって、よって得たる有用の仕事の総量を除したるものを言ふ。すなわち
今機関車をもって客貨車を牽引するに、その原動力は石炭の燃焼によりて発生する熱にして、その最終の有用なる仕事は全列車の抵抗に打勝ちてこれを運転するにあり。しかしてその始より終に至るまでに熱は3段の変遷を受け、漸次にその効率を減殺せらるるを見るべし。
すなわち第1に石炭の燃焼によりて発生したる熱は、これをことごとく皆缶水に伝送することを得ず。その熱の一部は煙突より飛散するあり。あるいは水以外の諸物体に伝導して大気中に放散するあり。あるいは石炭の一部は燃焼不充分のために充分の熱を発生する事あたわずして、煤煙となり火粉となりて逃出するあり。要するにふつう機関車の汽缶にては、石炭の燃焼によりて生ずべき熱の全量の 100分の50 ないし 70を吸収し、もって蒸気を発生するものなり。この分数を名づけて汽缶の効率と言ふ。
第2に汽缶内の蒸気は蒸気管を経て「シリンダー」に入り「ピストン」を動かし、もってその熱のいく分を仕事に化すと言えども、熱の大部分は「シリンダー」より逃れて大気中に放出し、もって蒸気の有する熱量の 100分の9 ないし 12をしてわずかに仕事に化せしむるに過ぎず。この分数を名づけて蒸気の効率と言ふ。
第3に「ピストン」は蒸気より得たる「エネルギー」を、「ピストン・ロッド」、「クロス・ヘッド」、「コネクティング・ロッド」、「カップリング・ロッド」等に伝へ、もって車輪を回転すれとも、その仕事のいく分はまた機械各部の摩擦のために削減せられて、車輪と軌条との接触点において真に車輪を回転するに利用せらるる仕事の量は、「ピストン」の受納したる「エネルギー」の 100分の60 ないし 90に過ぎず、この分数を名づけて機械部の効率と言ふ。
故に機関車全体の効率は
すなわち 2.7「パーセント」ないし 7.56「パーセント」なりと言ふべし。
【 「エネルギー」 】
「エネルギー」とは仕事を成し得べき潜勢、すなわち能力を言ふなり。例へば飛行しつつある弾丸は、船艦に衝突するときはこれを破壊し得るの能力を有し、高所にある池水はこれを流下するときは、水車を回転して仕事を成し得るの能力を有するをもって、これらは各々相当の「エネルギー」を有すると言ふ。このごとく「エネルギー」なるものは未発の仕事を言ふものなれば、仕事と同一の単位にて測定することを得べし。
「エネルギー」を大別して二種となすべし。「運動のエネルギー」、「位置のエネルギー」これなり。「運動のエネルギー」とは物体の運動せるがために有する「エネルギー」にして、飛行せる弾丸の鉄板を穿つは弾丸に「運動のエネルギー」あるがためなり。「運動のエネルギー」は、その運動せる物体の速度及び重量に関して増減するものにして、速度及び重量の大なるものはこの潜勢を有すること大なり。
いま一物体の重量を W ポンドとし、ある瞬間におけるその速度を1秒時間に V フィートなりとせば、その瞬間において物体の有する「運動のエネルギー」は
フィート・ポンドなる公式をもって示すことを得べし。
また「位置のエネルギー」とは物体の位置の関係により有する「エネルギー」にして、例へば高所にある物体はこれを支ふるものを取り除くときは、ある速度をもって地面に落下して仕事を成し得べきは、これ高所の物体に「位置のエネルギー」あるがためなり。この例において高所の物体の重量を W ポンドとし、その物体より地面までの距離を S フィートとせば、この物体の有する「位置のエネルギー」は( W × S )フィート・ポンドなる公式をもって示すことを得べし。
このごとく「エネルギー」には二種の区別あれども、「運動のエネルギー」はよく「位置のエネルギー」に変じ、「位置のエネルギー」はまたよく「運動のエネルギー」に変ずることを得べきものにして、このごとく変遷するもその二者の総量においては少しも増減することなきはその特色とする所なり。例へば今地上にある重量5ポンドの物体を 20フィートの高さまで投げ上るには、100フィート・ポンドの仕事を要すべきものにして、この物体がまた元の位置に落下するときは、再び 100フィート・ポンドの仕事を成し得べし。
投上の始めに有したる「運動のエネルギー」は漸次に減少して「位置のエネルギー」に変じ、20フィートの高さに達したるときは全く「位置のエネルギー」のみとなり、落下の時にはこれに反して「位置のエネルギー」は漸次に減少して「運動のエネルギー」に変じ、地上なる元の位置に達するときは、最初投げ上げられたるときに有したると同一の「運動のエネルギー」を得べく、両「エネルギー」の合計は5フィートの高さにあるも 10フィートの高さにあるも、またいずれの個所にあるも常に 100フィート・ポンドにして決して増減することなし。
前のごとく物体再び地上に落下したるとき、その有せる 100フィート・ポンドの「エネルギー」は全く消失せるやと言ふに然らず。結局変じて熱に化すべきものして、熱もまた分子間における一種の「運動のエネルギー」なれば、「エネルギー」の全量は決して少しも消滅することなし。
精密に論ずれば空気中においては、100フィート・ポンドの「運動のエネルギー」をもってしては、重量5ポンドの物体を 20フィートまで投げ上ることを得ず。また 20フィートの高さにある重量5ポンドの物体が有する 100フィート・ポンドの「位置のエネルギー」は、地上に落下したる際 100フィート・ポンドの「運動のエネルギー」を有せざるべし。これ上昇及び下降のとき空気と摩擦して熱を発すべく、また音響を発すべく、この熱たり音響たるものは皆一種の「運動のエネルギー」なれば、物体の有せる「エネルギー」は絶へずこれらのために削減せらるるものなればなり。
しかれども宇宙全般よりこれを見れば「エネルギー」はその形を変更すると言えども、その量は決して増減することなきものなり。これを「エネルギー」不減則と称す。ただし宇宙間において一現象の起るごとに必ずその「エネルギー」のいく分は変じて熱となり、その熱は大気中に放散せらるるものにして、熱がいったん大気中に放散せられたるものは吾人はまたこれを利用する事あたわず。故に宇宙間に存在せる無量の「エネルギー」は、その全量としては決して増減せざれども漸次利用する事あたわざるの熱と化するの傾向あり。
この推論の結果は宇宙は終に同一の温度を有せる死物と化し、風もなく雨もなく光もなく音もなく、また総て一つの活動するものなきに至るべし。これを「エネルギー」変衰則と称す。この不減則及び変衰則は「エネルギー」の二大原則にして、理学と言ひ化学と言ひ工学と言ひ結局この二大原則の研究に外ならず。
高所にある物体がその位置に静止するときは「位置のエネルギー」のみを有し、その落下するに及び「位置のエネルギー」と「運動のエネルギー」を併有するに至るは、全く地球の引力あるがために有する「エネルギー」の一例なれども、その他の種々の力ありて物体に「エネルギー」を与ふるものなり。
すなわちその主なる一例として化学上の親和、すなわち化合を説明せん。例へば酸素の一原子と炭素の一原子とは、その距離近接するときは常に相牽引抱合して一分子を作らんと欲するものにして、なお物体と地球と常に相牽引するがごとし。ただその異なるは酸素と炭素との両原子はその大さはなはだ僅小にして、その質量ほとんど相均しきのみ。しかれどもある範囲内においてはこの両原子の引力は非常に強大なるをもって、これを隔離して置くときはその間に「位置のエネルギー」ある事、なお高処にある物体が地球に対して「位置のエネルギー」を有するがごとし。
故に吾人は一方に多量の酸素を有し、他方に多量の炭素を蔵するときは、ここに多量の「位置のエネルギー」を貯ふるものにして、この隔離せる酸素と炭素とをして自由に相衝突抱和せしむるの機会を与ふるときは、従来の「位置のエネルギー」は一変して「運動のエネルギー」となり、もって吾人の利用に供すべし。
この現象はいわゆる熱なるものにして、石炭の一塊を空気中において燃焼する時たちまち多量の熱を発生するは、石炭中の炭素と空気中の酸素と化合するに基づくものにして、化合の当時分子が劇しき動揺を来たすによる。これ故に熱なるものは結局分子の劇しき運動に外ならざるものにして、熱の作用にて運転する蒸気機関のごときは、この分子の「運動のエネルギー」を工みに利用するものなり。
工学上に利用すべき「エネルギー」の源泉は、現今吾人の探知する所にては左の数種に類別することを得べし。
1.太陽の熱の「エネルギー」
2.流水、墜体、その他地球の引力の作用に基因する「エネルギー」
3.燃焼すべき物体(動物の食物を含む)の「エネルギー」
4.化学上の作用に基因する「エネルギー」
5.風力の「エネルギー」
6.潮の「エネルギー」
7.地球内部の熱の「エネルギー」
これらの区別は決して個々独立のものにあらず。例へば流水のごとき、風力のごとき、または薪炭のごとき、それらの源を尋ねれば皆太陽の熱に帰し、また化学上の作用と燃焼とはその間に少しも区別なきがごとし。ただし工学者がそのいわゆる原動力なるものを探求するには、前述の7種に類別するをもって便なりとするなり。
【 馬 力 】
器械の仕事の割合とは、ある一定時間内において器械の成遂げたる仕事の量を言ふなり。すなわち1分時間に 80フィート・ポンドと言ふがごとし。ただしこの割合に就て一種の単位あり。これを馬力(horsepower)と言ふ。1馬力とは1分時間に 33000フィート・ポンドの仕事を言ふものにして、1秒時間には 550フィート・ポンドに相当し、1時間には 198万フィート・ポンドに相当するものなり。
馬力なる語は西暦 1770年頃、有名なる「ジェームズ・ワット」氏が蒸気機械に一大改良を加へてこれを実際に応用するに当り、従来使用せる馬匹の力と比較して世人にその効用を示さんがために始めて用ひたるものにして、当時「ワット」氏は「ロンドン」市における最強馬は、よく1分時間に重量 33000ポンドの物体を1フィートの高さに運搬し得べきものと推定したるによれり。ただしこの推定は多きに過ぎたるものにして、実際1日に7~8時間の労働をなすものと仮定せば、平均1馬の仕事は1分時間に 20000ないし 26000フィート・ポンドに相当すべし。
【 石炭の重量 】
本邦においてふつう機関車用に使用せらるる筑豊炭、または北海道炭の比重は 1.22ないし 1.32にして平均 1.27なり。比重とは同容積の水(華氏 62度)の重量と比較したる数字にして、石炭は水よりも平均 1.27倍重きものなることを知る。これにより計算すれば石炭1立法尺すなわち1才の重量は 76斤に当る。しかれどもこれ石炭の実質のみを取りたる重量なり。既に市場に持出だされたる小塊の石炭を集合したる場合の重量は1立法尺 40斤と称するを常とす。1立法尺 40斤とすれば 42立方尺の石炭は約1トンの重量を有す。
石炭中にまま石炭に似たる悪石を混ずるを見るべし。悪石の内には幾分の石炭を含むと言えども燃焼すること困難なるをもって、炭坑において人手もしくば水洗法により出来得る限りこれを除去するを常とす。しかれどもなお幾分を混じて市場に来るを免れず。通称これを「ボタ」と称す。「ボタ」の重量は石炭の約2倍なるをもって、これを手にて持ち上ぐるときは容易にこれを識別することを得べし。結局「ボタ」なるものは炭層の上下にありて石炭の幾分を含める岩石にして、その岩石を含炭頁岩と称するものなり。
【 石炭の自然発火及び風化 】
石炭は炭坑内において、または石炭貯蔵所において、あるいは船内において自然に発火することあり。炭坑において発火する主なる原因は、炭化水素ガスの酸化によること、及び地盤の落下するに帰因すること、及び黄鉄鉱の酸化することなれども、坑内の空気高熱なること、ならびに粉炭の乾燥すること等もその原因たることあり。
石炭貯蔵所に石炭を堆積するときも自然にその温度を増し終に発火することあるものにして、発火するに至らずともその温度の著しく上進し為めに大に石炭の質を害することあり。この原因は多くの場合において石炭中に含有する黄鉄鉱の酸化するに基き、粉炭の場合において殊にしかりとす。これ粉炭は塊炭に比すれば化合面積多きと、通風の作用不完全なるをもってなり。米国「パデュー」大学において 1909年「パー」及び「ホィーラー」の両氏が、石炭の自然発火及び風化を研究したる記事中に左の事項あり。
「無烟炭は貯蔵用石炭としてほとんど理想的の石炭なり。無烟炭は事実上天候のために害せらるることなし。その塊炭たると粉炭たるとを問はず全く貯蔵用に適し、決して自然発火を起すことなし。しかれども瀝青炭に至りてはその性質これに反し、相当大なる堆積をなして貯蔵するときは自然発火を来たすのみならず、貯蔵中及びその積換へ中必ず石炭の性質をして劣等ならしむ。
石炭の大気に当りて酸化するの作用は普通の温度においても絶へず徐々進行するものにして、温度高くなればその酸化もますますはなはだしく、終に多くの場合において自然に発火するに至る。故に大気中において最もよく酸化する石炭は最も自然発火の恐れあるものにして、且つ最も発熱量を失ふべき資格を有す。
石炭貯蔵所において石炭の酸化する作用に2種類あり。その1は黄鉄鉱、「マーカサイト」、及び他の鉱石の酸化にして、その2は石炭中の炭素及び有機物の直接の酸化なりとす。鉱石の酸化に就て目に見へ得る変化の主なるものは、酸化鉄が硫酸鉄と硫酸とに変化する作用にして、その硫酸は石炭中に必ず雑入せる炭酸石灰及び炭酸「マグネシア」と化合し、石膏及び硫酸「マグネシア」を形成す。これらの化合の結果は必ず石炭の容積を増加し炭質を粗悪ならしむ。加えこれ水に洗はれざる限りは石炭の重量を増加するに至る。
次に石炭の直接の酸化に帰因する変化は、多くの場合において目に燭るべき著しき現象なしと言えども、光沢ある黒き瀝青炭がその光沢と黒色とを失して一見褐炭の状態に変ずるものなきにあらず。しかれどもこの目に見へざる変化が恐るべきものにして、石炭中の炭素及び有用の水素の酸化を来たすのみならず、不完全なる炭化水素をして酸素を吸収せしむるに至り、もって自然発火を促がし風化作用を増進せしめ発熱量の損耗を招くの基となる、云々。」
風化のために発熱量を減ずるの程度は、ほとんど各炭坑の石炭により差異ありて一定せずと言えども、採掘後1週間の間は風化作用最もはなはだしく、それより永久に多少づつ変化するがごとし。実験の結果はまちまちにして、採掘後1年間に3「パーセント」を損ずるものあり。またはなはだしきは1ヵ年間に 20「パーセント」を損ずるものあり。
一般に揮発分多きもの、硫黄分多きものは風化はなはだしく、褐炭は瀝青炭に比して風化大なり。要するに我国における各石炭は未だ分析の結果も不充分にして、風化の実験もはなはだ乏しければ後来大いに研究するの余地あるものなり。しかして風化を予防するの策としては、今日は石炭を水中に貯蔵するをもって最も有効たるべきこと疑を容れず。
【 烟の色の識別法 】
烟の色を言顕はすに種々の形容詞を用ふるものあり。そのうち最も普通なる語はこれを5種に区別するものなり。すなわち左のごとし。
1.白色透明のガス(White trasparent vapor)
2.淡褐烟(Light brown smoke)
3.褐灰烟(Brownish-gray smoke)
4.黒 烟(Dense smoke)
5.濃黒烟(Thick black smoke)
以上の区分法は観察者の視力及び色感により判別し、別に比較すべき標本なきをもってやや明瞭を欠くを免れず。
教授「リンゲルマン」氏は烟の色を5種に区別し、その色図を第 1538図のごとく白紙上に碁盤目の黒線にて表示せり。その区別は左のごとし。
0.無 烟(No smoke) 白紙
1.淡灰烟(Light gray smoke)
黒線の幅 1.0「ミリメートル」、黒線と黒線との間隔に当る白色の部 9.0「ミリメートル」とす。総て碁盤目のごとく直角に交叉す。
2.濃灰烟(Darker gray smoke)
黒線の幅 2.3「ミリメートル」、間隔 7.7「ミリメートル」
3.深濃灰烟(Very dark gray smoke)
黒線の幅 3.7「ミリメートル」、間隔 6.3「ミリメートル」
4.黒 烟(Black smoke)
黒線の幅 5.5「ミリメートル」、間隔 4.5「ミリメートル」
5.深濃黒烟(Very black smoke) 黒紙
焔の大小はガスの燃焼の遅速に関するものにしてガスの燃へ方遅きときは焔は大なるものなり。しかして焔はその熱を輻射して熱を缶水に与ふるをもって焔自身は絶へず冷却せらるるが故に、揮発分の燃焼は常に完全なることを得ずしてガス及び煤烟の一部は燃焼することを得ずして逃出するを免れず。
【 烟(Smoke) 】
燃焼の生産物にして空気中に飛散するものを烟と称し、その眼に映ずるものと否とを問はざるものとす。この意味における烟なるものは一般的の語なれども、やや狭義に解釈し多少の色を呈するものを烟と言ふことあり。この場合にはこれを煤烟と言ふを至当とすべし。
機関車の煙突より噴出する煤烟中には、酸素、窒素、炭素、水蒸気、炭酸ガス、一酸化炭素、亜硫酸ガス、諸種の炭化水素と、強き通風のために火室内より運び去られたる灰、骸炭、及び未燃焼の石炭等を抱含す。
しかして煤烟に色を与ふるものは主として遊離せる固形体の炭素にして、これに次ぐものは揮発分中の炭化水素が充分に燃焼することを得ずしてそのまま逃去するものなり。遊離せる固形炭素はその分子非常に軽微なるものして他の無色ガス、例へば炭酸ガスよりも別に重しと言ふべき程にあらず。
この炭素は石炭中に始めより遊離の状態として存在せるものが、石炭より分離して未燃焼のまま飛散するものと、炭化水素中の水素のみまず燃焼せられて、後に残されたる炭素が燃焼の暇なくして飛散したるものとに属し、煤烟濃黒なるものは皆この炭素の存在に基因す。
しかして煤烟が青色を帯ふるものは、揮発分中の炭化水素が燃焼作用をなさずして逃出しつつあるを示し、さらに煤烟が黄色を呈するものは最も分解し易き低度の炭化水素、すなわち「コール・タール」等が蒸留逃出しつつあることを示す。青色及び黄色の煤烟は火室内燃焼の熱度低き場合に起る現象なり。
揮発性分多き石炭を無烟に燃焼することは難事なり。またこれを無烟に燃焼し得るとするも果して利得なるやは大なる問題にして、機関車のごときにありてはすこぶる過剰なる空気を送入するにあらざるよりは、瀝青炭をして無烟燃焼せしむる事あたわざるべし。
詳しくこれを言へば、炭素、炭化水素、及び硫黄等により成れる石炭の各分子をして完全なる燃焼をなさしむるには、その酸化作用を助成すべき一定の温度において、その作用に必要なる一定量の酸素を供せざるべからず。しかも炭素も水素もその分子をしてよく燃焼せしめ、これらをして半燃もしくば不燃焼に終らざることの困難なる理由は、主として一面には燃料と空気とを完全に混合することの不可能なると、他面には発火に必要なる温度を燃料の各部に均しく分配することの難きにあり。
多量の空気を送入すれば発火に必要なる温度を減じ、また温度を保たんとすれば空気の分量不足がちとなり易し。要するによく熱せられたる相当の空気を火室内に送入することを得ば、揮発分多き瀝青炭の燃焼上最も良策なれども未だよく成功したる方法なし。多量に空気を送入するの弊害は、単に火室内において発火に必要なる温度を冷却するのみならず、熱せられたる空気はことごとくその熱を水に伝ふるの暇なくして燃焼の際発生するガス類と共に煙突に逸し去り、また利用の途なきに至る。
瀝青炭をしてよく燃焼せしめ、なるべくその烟を減ぜしむるには、火室内の容量を広大にして、火室内の温度は常に高熱に保ち、空気は炭火の下部より供給するのみならず、その上部よりも必要なる数量を給し、一酸化炭素及び炭化水素の燃焼を助けしむべし。しかして石炭は大塊を避け少量づつしばしば投入し、石炭の分布不等に陥らざるよう注意すること必要なり。
烟の内には多少の硫酸(H₂SO₄)を含む。これ石炭中に含める黄鉄鉱(FeS₂)が燃へて亜硫酸ガス(SO₂)となり、亜硫酸ガスが水分と抱合して硫酸を生ずるによる。石炭の烟の害は実に遊離炭素にあらずして、多くはこの硫酸の働きなりとす。
【 総分析(Ultimate analysis) 】
石炭の総分析法とは石炭中の水分及び灰分を除外して、その他の性分をことごとく皆元素に分析する方法なり。通常これを炭素、水素、酸素、窒素、硫黄礦等の各元素に分析するものして、精巧なる化学上の作用を応用して始めて決定するものなり。
総分析は主として学理上の研究に資せらるること多く、これにより石炭を分類す。また実用上としては、これによりて石炭の発熱単位を計上するに便利なり。第 315ページに陳べたる「デューロン」の公式のごときこれなり。第 114表は本邦石炭数種の総分析(百分率)を示す。
第 115表は「バブコック及びウィルコックス」汽缶製造会社において行ひたる、米国産石炭及びその他の固形燃料数種の総分析を示したるものなり。
総分析における炭素は、元より石炭中に含有する遊離炭素と炭素化合物中の炭素一切を含む。無烟炭は最も炭素の分量に富めるものにして、その分量 100分中95 は炭素分なることあり。水素は炭化水素及び水分となりて石炭中に存在するものにして、水分を形成する水素は発熱上利する所なし。ただし炭化水素を形成する水素は多量の熱量を発生するものなり。
石炭中の酸素は歓迎すべきものにあらず。その存在は発熱上はなはだ不良の結果を呈す。けだし燃焼なるものは総て諸物体と空気中の酸素との化合するに外ならず、しかるに石炭中の酸素は決して遊離の状態となりて石炭中に伏在するものにあらず。必ず他物体と化合して存在するものなり。すなわち言を更へてこれを言へば、石炭中の酸素化合物はある他の元素の燃へ滓を石炭中に混入せるものに外ならず。
故にこの酸素なかりせば他の元素は全部空気中の酸素と化合して熱を生ずることを得べし。またもしその酸素化合物が熱のために分解しさらに燃焼するとするも、分解するがために費やしたる熱は分解後燃焼するときに生ずる熱と同等なれば、熱の利用上益するところなし。
この酸素化合物の主なるものは水、すなわち H₂O にして重量の割合をもって比すれば水素の2と酸素の16、すなわち水素1、酸素8の割合をもって化合したるものなり。故に総分析において顕はるる酸素は水素の一部を無用のものに化するものと見なされ、分析中水素 100分の5、酸素 100分の10 ありとせば、利用すべき水素の量は
すなわち 100分の3.75 に減じたるものと見なすを普通とす。
また石炭中に必ず多少の硫黄分を含有す。これらの硫黄分は黄鉄鉱(FeS₂)、または石膏(CaSO₄+2H₂O)の形をなして石炭中に存在することあり。あるいは硫黄と種々の有機物と化合して存在することあり。
石膏すなわち硫黄石灰は、缶内における石炭燃焼の際には何らの変化を受けずしてそのことごとく灰中に残留すと言えども、他の硫黄化合物は燃焼して必ず二酸化硫黄(SO₂)を生ず。二酸化硫黄は目鼻を刺激する一種の臭気を有するガスにして、よく水に溶解し亜硫酸(H₂SO₃)を作る。しかれども他の媒介によりさらに硫酸(H₂SO₄)を生ずることあり。故に多量の硫黄分を含有する石炭は、人畜、草木、及び鉄類に害あり。
石炭中に含有する窒素及び燐はその量また寡少にして燃焼上何らの利害を感ぜず。
【 本邦産石炭工業分析表 】
第 110表ないし 113表は諸種石炭の工業分析を示す。本分析は最近に鉄道院にて分析(他所にて分析せるものは特に明記す)せるものに属し、多くは供給者より鉄道院に納入したる石炭を随時貯炭場において採集したるものをもってせり。
分析試料採集の方法に関しては、よく全体の石炭の平均を示すべき多量の石炭を採り、四分法によりさらに少量の試料を作るをもって正則となすと言えども、本表に示すものは斯く厳重に一定の律によりて試料を得たるものにあらず。むしろ目分量により数ポンドの石炭を採りたるもの多し。故に確実に各炭坑の炭質を代表するものにあらざるべし。且つ採掘後時日の長短一定せざるをもって相互の比較も正確のものにあらざるべし。
また本邦における石炭は同一炭坑名をもってしても、異なれる層より採掘するものは、もちろん同じ層にあるものも場所により炭質を異にするもの多く、選炭の方法もはなはだ不確実のもの多ければ、2~3分析の結果をもって全体の炭質を推定することは早計に失すべし。故に本表に示す所の分析は、当時納入の石炭の一部にこれらの成績ありしと言ふに止むべし。読者これを諒せよ。
表中に示せる発熱量は、測熱器にて実際に測定したるものなり(工業分析の結果により熱量を計算するの方法は第 316ページに記述せり)。
一般に熱量を計るべき単位に3種あり。第1は英国熱単位と称し、B.T.U の符号(British Thermal Unit の略字)をもって示すものは、1ポンドの水を華氏 62度より 63度まで1度だけ上ぐるに要する熱量なり。
第2は華氏単位と称し、C.U の符号(Centigrade Unit の略字)をもって示すものにして、1ポンドの水を摂氏 15度より 16度まで1度だけ上ぐるに要する熱量なり。この単位を一名「ポンド・カロリー」と称し同じく英国にて使用せらる。
第3は「カロリー」(Calorie)と称し、1「グラム」または1「キログラム」の水を摂氏 4度より 5度まで1度だけ上ぐるに要する熱量にして、前者を「グラム・カロリー」と言ひ、後者を「キログラム・カロリー」と言ふ。
故に各熱単位を相互換算せんと欲せば C.U にて示したる数字に 180 ÷ 100、すなわち 1.8 を乗ずれば B.T.U にて示したる数字を得べく、1「キログラム」は 2.2046 ポンドに当るが故に、「キログラム・カロリー」にて示せる数字に 2.2046 × 180 ÷ 100、すなわち 3.968 を乗ずれば B.T.U にて示したる数字を得べし。同理にて1 B.T.U は 0.252「キログラム・カロリー」に当り、1「ポンド・カロリー」は 0.4536「キログラム・カロリー」に当る。
【 灰 分(ash) 】
工業分析において石炭中の灰分を知るには、白金製のるつぼ内に一定量の石炭の粉末を入れ、これを強熱して固形炭素及び揮発分等の可燃物を燃焼し尽し、残留せる灰の量を坪量したるものをもってす。
石炭中に含有する灰分は全く無用のものなり。これあるがため石炭の運搬賃を増加し、石炭の燃焼力を弱め、火室内を塞ぎ、且つ灰を放棄するに大なる手数を要せしむ。機関車火室より排除する灰はその内に半燃焼の石炭ならびに悪石等を混ずるをもって、分析上より見積りたる灰分よりもはるかに多量なりとす。しかして灰分がいわゆる「クリンカー」に変ずるときは燃焼上一層の困難を感ず。「クリンカー」とは灰分が鎔解して鉱滓状をなせるものを言ふ。
灰分の分析の標準としては左の一例を掲ぐ。これ米国「オハイオ」瀝青炭にして 100分の5.15 程の灰分を含めるものの分析に属す。
硅酸及び礬土は常に灰分中における主要性分なり。硅酸の純粋なるものは石英にして常に岩石中の主要性分なり。硅酸と礬土と化合したるものはすなわち粘土なり。結局、硅酸及び礬土及びその化合物は土砂の類と見なし得べく、石炭中に存在せしむるの必要なきものなれども、灰分の分量を増加するだけにて別に有害と称すべきものにあらず。
これに反して灰分中に酸化鉄の存在することは大いに注意を要するものにして、酸化鉄は灰分の熔解剤として働き、これあるがために大いに灰分の熔解をして速かならしめ、それと硅酸、石灰、ソーダ、カリ等と結合して灰分をしてガラス状の一塊をなさしむ。すなわちいわゆる「クリンカー」なるものを作り通風を害し燃焼を妨げ、その冷却したる場合にはこれを除去するに困難を感ずるは人のよく知る所なり。
灰分中に酸化鉄の存在することは、石炭中に必ず多少の黄鉄鉱(iron pyrite)(FeS₂)を含有するより来る。黄鉄鉱は黄金色の鉱石にして鉄と硫黄とより成り、世人よく黄金の鉱石として誤るものなり。この黄鉄鉱は熱に遇ひてその含有する硫黄の一部もしくば全部を分離し、硫黄の一部を失ひたるものは灰中に残りて黒色の硫化鉄(FeS)となり、全部を失ひたるものは赤色の酸化鉄(Fe₂O₃)となり、共に灰分の熔解剤たり。
灰分中に石灰の存在することは、石炭中に含有する炭酸石灰(CaCO₃)が熱のためにその炭酸ガスを奪はれて、後に石灰を残したるによる。石灰自身は最も耐火性に富み決して熔解することなしと言えども、石灰存在するときは酸化鉄の熔解をはなはだ助くるの性を有するをもって、石灰もまた灰分の熔解剤として認めらる。炭酸石灰は土地の主要性分にして岩石中にも必ず存在するものなり。白堊、大理石、石灰、石珊瑚等は、すなわち炭酸石灰なり。
灰の色に種々あり。白色あり、鳶色あり、赤色あり。然れども多くは白色及び赤色の二大別に区別せらる。白色の灰は硅酸及び礬土より成り、不純物少なきを証明するものにして主もに無烟炭の灰に属す。赤色の灰はその内に酸化鉄の存在するより来るものにし「クリンカー」を生ずるの恐れあり。酸化鉄は黄鉄鉱より来れるものなれば、灰の赤色なることは同時に石炭中に硫黄が黄鉄鉱の形となりて存在することを証明す。ただし硫黄は黄鉄鉱のみならず他の硫黄化合物として存在することあるものなれば、硫黄の存在は必ずしも灰に赤色を呈するものにはあらず。殊に硫黄が有機物として存在するときは然りとす。
また空気の供給不完全なる場合は、鉄は FeO あるいは Fe₃O₄ の形をなし灰に黒色または鼠色を与ふ。また灰が「クリンカー」を作るときは、硅酸と鉄と化合して硅酸鉄を作るがために黒色または緑色となるべし。
【 揮発分 】
工業分析において石炭中の揮発分を見るには、固形炭素の分量を見るときと同じく白金製のるつぼ中に一定量の石炭の粉末を入れ、これに蓋をなし強熱を加ふること7分間にしてその蒸発したる分量を坪り、さらに水分を減じたるものをもってす。
火室内において石炭が熱せらるるために蒸発するガスはこの揮発分にして、この揮発分はさらに燃焼して長き焔を作る。揮発分は、水(H₂O)、水素(H)、沼気(CH₄)、「オレフィアント」ガス(C₂H₄)、「ベンゼン」ガス(C₆H₆)、及びその他の炭化水素(CnH₂n)、ならびに「アンモニア」(NH₃)、及び他の窒素化合物、ならびに硫黄化合物等の混合物なり。
これらの内に含有する水素は空気中の酸素と化合して水蒸気(H₂O)を作り、またその炭素は酸素と化合して炭酸ガス(CO₂)を作る。窒素化合物中の窒素は遊離し、硫黄化合物中の硫黄は亜硫酸ガス(SO₂)または硫酸(H₂SO₄)となる。しかしてこれら揮発分中その量最も多量なるは水素と沼気なりとす。
水素と炭素との化合物なる炭化水素は、これに充分の空気を供給し且つ強熱を加ふるときは、やや透明なる青き焔をもってよく燃焼し炭酸ガスと蒸気とに変化すと言えども、冷かなる空気を与ふるときは燃焼せずして逃出すべし。また空気の供給を不充分にしてただこれを熱するときは、一部は炭素となり、一部は沼気となり、他部は水素となりて分解し去るべく、その遊離せる炭素は煤烟となりて飛散すべし。ただしその遊離せる炭素が燃焼し得らるる温度に保たれ居り、さらに燃焼に必要なる空気の供給を受くるときは、またその温度に応じて赤色、黄色、または白色の焔をなすに至るべし。
【 固形炭素 】
工業分析において石炭中に含有する固形炭素の分量を定むるには、白金製の坩堝(るつぼ)内に石炭の粉末を入れこれを密閉し、強熱を加へて残りたる滓を坪り、さらにその内より灰分を引き去りたる分量をもってす。固形炭素のことを骸炭とも称することあれども、骸炭と言へば固形炭素と灰分とを合同したるものを指示するを正当とす。
炭素は空気中の酸素と化合し、一酸化炭素(CO)または二酸化炭素すなわち炭酸ガス(CO₂)を作る。空気の供給充分なれば CO₂ を作ると言えども、不充分なれば CO を生ずるに至る。且ついったん CO₂ となりたるものと言えども火室内燃焼の際、半燃焼の石炭の層を通過するとき CO に変ずることあり。
工業分析においては石炭中の炭素は、固形炭素と揮発分との内に混入するものなり。前者には遊離炭素となりて存在し、後者には炭水化合物として存在す。
揮発分少なくして固形炭素多きものはいわゆる無烟炭にして、揮発分 100分の3 ないし6 、固形炭素 100分の80 ないし 95を含めるものは無烟炭と称すべく、燃焼中黒烟を発生すること少なく火焔はなはだ短かし。ただし揮発分少なきがために点火困難なるを免れず。揮発分 100分の45 以上、固形炭素 100分の40 以下の石炭は概ね褐炭にして、 揮発分多きに従ひ点火ますます容易なれども、燃えて長焔を生じ黒烟を発すべし。瀝青炭は褐炭との中位にあるものにしてその範囲はなはだ広けれども、我国における瀝青炭はその性質褐炭に近きもの多し。
火力の点より論ずれば固形炭素の多きもの必ずしも発熱量多からず。これ揮発分中に含有する水素は発熱量において炭素に勝る事その一原因たるべし。実験によれば約 100分の20 の揮発分を有する石炭が最も発熱量多しと称せらる。けだし固形炭素として、もしくば揮発分中の化合物として炭素の石炭中に存するものが、燃焼に際し最も燃焼し易き状態の下にあると言ふことは石炭の発熱量に大なる関係あるがごとく、前記のごとく揮発分の割合が 100分の20 ほどに達したる時がこの状態に適合したるものなるやも計り知るべからず。
【 水 分 】
石炭中に含有する水分の重量は 100分中1ないし5なり。水分を験するには石炭を粉末にしてるつぼに入れ、華氏 280度を超えざる温度にて1時間の間これを熱するにあり。斯くして重量の減じたるものを水分とす。もちろんこの際、揮発分のいく分も水と伴ひ放散すれども、その量は 1000分の3 を超わざるをもってこれを無視して差支なきものとす。
普通の理論より推せば、石炭中に含有する水分は火室内においてまずその沸騰点、すなわち華氏 212度まで熱せられそれより蒸気変体し、その蒸気はさらに火室内の温度まで熱せられて、もって烟管に入りその熱を缶水に伝へ、もって煙突より逃入するものなり。
今炭水車(tender)上にある石炭中の水の温度を 62度とし、火室内の温度を 2000度とし、「スモーク・ボックス」内の温度を 600度とすれば、一度蒸気に与へたる熱度をさらに缶水に伝へしむるとするも、なお 600度の水蒸気はそのまま放棄するをもって、石炭中にある1ポンドの水は左の熱単位を浪費せしむるの媒介者たり。
第1 62度の水1ポンドを 212度まで熱する熱量 150 熱単位
第2 212度の水を蒸気に化するための潜熱 966 熱単位
第3 212度の蒸気を 600度まで熱する熱量 18624 熱単位
(600-212)× 0.48 = 18624
合計 19740 熱単位
すなわち石炭1ポンドの燃焼により生ずる熱量を 12000熱単位とすれば、この 19740熱単位を補ふがためには1ポンド6分余の石炭を損失する事となる。
今機関車運転1マイルに要する石炭を 30ポンドと仮定し、その石炭中に 100分の5 の水量を含むとすれば、水分のため損失する石炭は運転1マイルに付き左のごとく2ポンド4分となるべし。
30 × 5 ÷ 100 × 1.6 = 2.4 ポンド
しかして一般に言へば石炭中の水量 100分の5 なるときは、これがために石炭の数量は 100分の8 を損失するに当る。
総て石炭の分析を行ひ諸種の石炭を比較するがためには、出来得る限り石炭坑より採掘せられたるままの新鮮なる材料によるを便とす。従って石炭中の水分のごときも、石炭が坑内において自然に吸収し居る水分を測るを正則とす。この水分は前に陳べたるごとく、石炭全量の 100分の1 ないし 100分の5 ほど存在するものなり。
長距離に運搬せられ且つ採掘後長時日を経たる石炭は種々の状況または季節により、あるいはさらに乾燥して水分を失ひ、あるいは非常に湿潤して水分を増すべし。殊に雨水に遇ひたるままの切込炭のごときは、炭の表面及び間隙に多量の水を抱有し湿潤したるがために重量 100分の5 を増加することは普通の状況なり。故にかかる際には石炭中の重量の1割は水分たること有り得べし。従ってこれがために石炭の損失は前に計算したる数字の2倍に当り、石炭 100斤のうち 16斤は無用の熱となるの理となる。
以上石炭中の水分は全く石炭の損失を招くの基なりと陳べたりと言えども、実は全然これを損失なりと見積るは酷なりとす。すなわち水分は全然水蒸気の形体をなして飛散するものにあらずして、水分の一部は火室内石炭の燃焼熱に遇ひて分解し水素と酸素とに別れ、その水素は空気中の酸素と化合して水を作り、または炭素と化合して沼気(CH₄)をなし、酸素は炭素と化合して一酸化炭素(CO)または炭酸ガス(CO₂)を作り、沼気、一酸化炭素はさらに空気中の酸素と化合する等、種々複雑なる化合作用をなすべし。
しかして結局は水はまた元の水に帰し、水の分解のために要したる熱量は化合の際に生ずる熱量と均しきをもって、水分に対する熱量の増減は差引損益なしと言えども、水の分解化合の際、石炭中の炭素を介して種々の働をなすをもって、石炭をして燃焼し易き形とならしむるの便宜あり。
また余りに乾燥せる粉炭は炭水車上においても、また「ショベル」にて取扱中にも飛散するの恐れあり。且つ火室内に投入するも強き通風のために燃焼の機会を得ずしてそのまま煙突より排出せらるるを免れず。故に粉炭にはある程度の湿気を与へ塊炭と付着抱合せしめてこれを取扱ひ、且つ塊炭と同時に燃焼することを得せしむるを得策とすることあり。殊に勾配線用機関車において、強大なる通風を利用する場合において然りとす。
【 工業分析(technical analysis) 】
工業分析法においては石炭を分析して、水分、固形炭素、揮発分、及び灰分の四種となすを常とす。工業分析法は一名、部分分析法(partial analysis)または近似分析法(proximate analysis)とも称す。この分析を行ふには石炭を粉末にし、白金性のるつぼに入れこれを熱するものにして、第一に水分を験定するものなり。
まず一定量の石炭を取り精密にこれを坪量し置き、るつぼに入れて華氏 280度を上らざる温度の範囲内においてこれを熱し、しばしばこれを坪量し重量の減少全く止みたるを見届け、その減量をもって蒸発したる水分と見なすものなり。次にそのるつぼに蓋をなし、漸次熱を加へて終に赤熱するに至らしめて全く可燃ガスを放逐し去り、その残灰を坪量す。この際における減量は揮発分と見なさるべきなり。次になお熱度を増し、るつぼの蓋を一部開きて空気を入れ、残留の石炭を白熱の程度に燃焼せしむべし。このごとくするときは石炭中の炭素は全部燃焼し尽し後に灰を残すべし。この灰の重量と前の重量との差は、いわゆる固形炭素に属するを知る。
以上の方法により水分、固形炭素、揮発分、及び灰分の分量を知り、これを換算してその合計を 100とし、各々を百分率に直すを常とす。
時としては工業分析中に硫黄の割合を加ふることあり。硫黄の分量は特別に験定するものにて、これを百分率中に加算するものあり。または百分率以外に置くものあり。百分率中に加算する場合には硫黄は固形炭素及び揮発分験定の際、半分ずつ(または6分4分の割合)にて逃出するものとして、それだけ固形炭素及び揮発分の百分率を減額せり。しかれども結局硫黄は百分率以外に置くをもって便利とす。
石炭の一般の性質を知るには工業分析をもって充分なりとす。工業分析中、水分と灰分とは石炭中に混入せる異物にして、元より石炭の一部と見なすべきものにあらず。故にもっぱら固形炭素及び揮発分により石炭としての価格を論ずべきなり。
第 109表は本邦主要炭坑における石炭の工業分析にして、地質調査所にて分析せるものなり。
第3章 石 炭
【 石炭の類別 】
石炭には種々の類別あれども、これを無烟炭(anthracite)、瀝青炭(bituminous)、褐炭(lignite)の三種に区別し得べし。しかれども順次に変質せるものなれば、それらの境界は判然と区画することを得ざるものとす。
そもそも石炭は樹木その他植物性物体の化石にして、前世界の植物が(前世界には植物非常に繁茂せりと言ふ)地中に埋没し、空気の作用を受くる事あたわずしてもっぱら水気に浸潤せられ、炭素、水素、及び酸素の複雑せる化合を受け、炭酸ガス、窒素、炭化水素、「オレフィアント」ガス等の揮発物の発生を促がし、その結果漸次炭素を残留し時代の進むに従ひこの天然の炭化作用ますます進歩し、軟質のものは漸次硬質となり、泥炭(peat)より変じて褐炭(lignite)となり、酸化して瀝青炭(bituminous)となり、さらに進んで無烟炭(anthracite)となるものなり。
泥炭は新しき地層中に存在し草木の原組織容易に識別せらるるものにして、その色は褐色または黒色なり。これ石炭の形状をなせる第一の階段にして、よくこれを乾すときは相当の燃料に供すべく、且つこれを細粉にし圧搾するときはさらに良き燃料となすことを得べきものなり。しかれども未だ石炭と称すべきものにあらず。故に一名これを亜炭と称す。
褐炭は泥炭より進歩せるものなれば、石炭と称すものの中にて最も幼稚なるものにして不完全なる石炭たるを免れず。一般に多量の水分及び酸素を含有す。常磐炭は主に褐炭に属す。
瀝青炭は、黒炭、真正炭、有烟炭、または脂質炭等称呼せらるることあり。瀝青とは「コール・タール」または「チャン」の義にして、瀝青炭を乾留するときは多量の「コール・タール」を得るが故にこの名あり。瀝青炭は褐炭の進歩したるものにして産額最も多く、九州、北海道及び樺太、ならびに撫順の石炭はほとんどこの種に属せり。この石炭は炭化水素、すなわち主に「コール・タール」の多量を含みその割合は種々なり。その燃焼の状況によりこれを類別すれば左の三種に分つことを得べし。
1.乾 炭
粘結することなくしてよく燃焼し、且つ烟を発生すること少きもの。
2.粘結炭
熱を受れば膨脹し、且つ同時に多量のガスを噴出し、糊形をなし融解粘着す。粘結炭は機関車用として不適当なれどもガス及びコークスを製造するに適せり。
3.長焔炭
長焔を発して燃焼し黒烟を生じ易し。粘結するものあり。また粘結せざるものあり。
無烟炭は各種石炭中化成時期の最古なるものにして、その善良なるものは堅硬にして光輝を有し、その砕片はほとんどガラスの状をなせり。その質は炭素の多量と鉱石の少量とより成り、炭化水素は全く含有せざることあり。含有するも極少量に止まる。その燃焼するに当っては湿気を含むにあらざれば、ほとんど烟を有することなくして高熱を発す。火室内にて熱を受くるときは細片に破砕し易しために灰燼と共に落下するの恐れあり。無烟炭はこれを打つときは鈴声を発し、これを握るも手を汚すことなし。我国おいて紀州炭、天草瓦ケ炭、及び平壌炭はこの無烟炭に属す。
【 「スパーク」(火粉) 】
「スパーク」とは「チムニー」より噴出する半燃焼の状態にある石炭の細小片を言ふ。故に夜中これを望めば光輝あり。石炭粉末の既に全く燃焼し尽くして骸炭(cokes)の状態をなすものは「スパーク」と同時に多量に噴出せらるべし。これは「シンダー」として区分せらるるを至当なりとすれども、「スパーク」と「シンダー」との区別明かならざるあり。また区別するの必要もなきことなれば一般にこれらを「スパーク」と称せらる。
「スパーク」は石炭の損失と、他物体に触接したるとき発火の恐れあるとにより、従来その噴出の予防策に就て種々考究せられたりと言えども、目下「スモーク・ボックス」内の「スパーク・アレスター」により、これを出来得る限り減殺するより他に良策なし。しかして「スパーク・アレスター」の網目は石炭燃焼上、必要なる通風を妨げざるをもって最小限となさざるべからず。
我国においては「スパーク・アレスター」の網目は 16分の3 インチをもって普通とす。しかして如何なる場合においても1分2厘5毛、すなわち 32分の5 インチより小にしては通風を害する事はなはだしきをもってほとんど用に耐へず。網目小に過ぐるときは「スパーク」が網目を全く閉塞するに至り、その結果運転中まま網目の「スパーク」を打落すの必要を生じ、従って網目の破損頻々たるを免れず。
「スパーク」となりて逃出する石炭は案外に多きものにして、米国「パデュー」大学「ゴス」氏の実験によれば、普通の場合において瀝青炭を用ゆるとき石炭の1割を超過す。同氏の実験の結果を公式にて示すときは左のごとし。
C = 3d
ただし C は「スパーク」の量にして、石炭全量の百分率を示す d は「スモーク・ボックス」内の通風にしてインチをもって示す。
すなわち通風4インチなるときは C = 3 × 4 = 12 にして全石炭の 100分の12、すなわち 100斤の石炭中 12斤は「スパーク」として飛散し行くを示す。
「スパーク」の内に含有する熱量は相当に大なるものにして、同じ重量の石炭の熱量の7割ないし8割なるを普通とす。例へばある試験の結果によれば瀝青炭1ポンドの熱単位 14855 なるに対し、「スパーク」1ポンドの熱単位は 11992 ないし 10777 なりしがごとし。
「スパーク」が「チムニー」より噴出後、光輝を有して目に映ずる時間は石炭により、また大気の温度により差異ありと言えども、普通の瀝青炭の「スパーク」にして 8分の3 インチの網目を通過したるものは、華氏 60度ないし 70度の温度の気候にては5秒ないし8秒時間を維持するがごとし。実験の結果これらの「スパーク」は容易に他物を燃焼することなしと言えども、同時にまたその絶無なることを保する事あたわず。すなわちはなはだ燃焼し易き枯草等が、よく「スパーク」を保留して点火に便なる状態にある時のごとき、たまたまもって発火の原因となることあるべし。
【 燃焼の温度 】
石炭の燃焼により生ずる火焔の温度は、石炭の燃焼熱、発生したるガス及び残りたる灰分の比熱、ならびに供給したる空気の重量、比熱、温度等を知ればこれを算出することを得べしと言えども、その結果は多くは華氏 3000度以上の温度を得、実際と相距ること遠し。これ石炭が瞬間に燃焼せざると、且つ火室内において全く燃え尽さざると、また発生したる熱の多分は直に輻射及び伝導により逃げ去るをもってなり。
しかして実際の温度も事情により一定せずと言えども、炭火の上部にて華氏 2500度、「チューブ」に入るの際において 1000度、「スモーク・ボックス」内において 600度と仮定すれば、普通の場合において大差なかるべし。
「セント・ルイス」博覧会における機関車の試験によれば燃焼率 25ポンド、すなわち「グレート」の1平方フィートに付き1時間 25ポンドの石炭を燃焼するときは、「ファイア・ボックス」内の温度は華氏 1400度ないし 2100度にあり。しかして燃焼率を 125ポンドに増加するときは、「ファイア・ボックス」内の温度は華氏 2150度ないし 2300度にあり。
しかして同じ燃焼率をもってして、「ファイア・ボックス」内に比較的高温度を有するものは CO の存在少なきものにして、また「ブリック・アーチ」を有するものは「ファイア・ボックス」内の温度を高むることにおいて、また CO の分量を少なくすることにおいて著しく効能あることを証せり。またこの試験において「スモーク・ボックス」内の温度は、 500度ないし 700度を普通とし最も高温度は 787度に達せり。
仏国「プイエ」氏(Pouillet)は炭火の色別により、その温度を左の通り鑑定するの方法を提出せり。
色 別 温 度(華氏)
1.ようやく識別し得べき紅色 977度
(Red,just visible)
2.暗紅色 1290〃
(Red,dull)
3.暗桜色を呈する紅色 1470〃
(Red,cherry,dull)
4.桜色を呈する紅色 1650〃
(Red,cherry,full)
5.満紅色 1830〃
(Red,cherry,clear)
6.深橙色 2010〃
(Orange,deep)
7.満橙色 2190〃
(Orange,clear)
8.白 熱 2370〃
(White heat)
9.光輝ある白熱 2550〃
(White heat,bright)
10.眩き白熱 2730〃
(White heat,dazzling)
金属の鎔解する温度は各金属により一定せり。故に火中に諸種の金属を投入し、その鎔解するをもって温度を判断することを得べし。各種金属の鎔解温度は左のごとし。
金 属 鎔解温度(華氏)
1.スパーマセティ 120度
(Spermaceti)
2.白 蝋 154〃
(White wax)
3.硫 黄 239〃
(Sulphur)
4.錫 449〃
(Tin)
5.ビスマス 515〃
(Bismuth)
6.鉛 620〃
(Lead)
7.亜 鉛 786〃
(Zinc)
8.アルミニウム 1215〃
(Aluminium)
9.純 銀 1751〃
(Pure silver)
10.純 金 1946〃
(Pure gold)
11.銅 1949〃
(Copper)
12.鋳 鉄、白 1975〃
(Cast iron,white)
13.鋳 鉄、鼠 2250〃
(Cast iron,gray)
14.道具鋼 2500〃
(Tool steel)
15.鍛 鉄 2900〃
(Wrought iron,pure)
16.白 金 3218〃
(Platinum)
【 空気と燃焼との関係 】
空気の重量はその温度及び気圧によりやや増減すと言えども、普通の場合においては空気1ポンドの容積は 13立法フィートとなすを常とす。温度高まれば空気稀薄となり低ければ濃厚となるをもって、普通の気圧の場合において空気1ポンドの容積は温度により変ずること左のごとし。
空気は諸元素の化合物にあらずして、酸素と窒素との簡単なる混合物に過ぎず。しかれどもその混合の割合は常に一定せるものにして、容積をもってこれを言へば酸素1と窒素4との割合より成り、重量よりこれを言へば酸素 16と窒素 56との割合より成る。故に酸素1ポンドを得るがために要する空気の重量は左のごとし。
(16+56)÷ 16 = 4 ¹/₂ すなわち4ポンド半
また重量1ポンドの炭素をよく燃焼し尽して、炭素ガス CO₂ に変ずるがために要する酸素の重量は左のごとし。
2 × 16 ÷ 12 = 2 ²/₃ すなわち 2ポンド3分の2
故に結局1ポンドの炭素を燃熱せしむるに要する空気の重量は左のごとし。
2 ²/₃ × 4 ¹/₂ = 12 すなわち 12ポンド
同理にて1ポンドの水素を燃焼せしむるには、酸素の8ポンドを要し空気の 36ポンドを要することを知る。
ここにおいて吾人は今前に揚げたる「デューロン」氏の公式を書換へて、石炭1ポンドを燃焼せしむるに要する空気の重量を知るの公式を得べし。すなわち左のごとし。
石炭1ポンドに対する空気の重量 = 120 C + 36(H-¹/₈O)
ただし C、H 及び O は石炭1ポンド中に含有する炭素、水素、及び酸素の重量なり。
【 例 】
ある瀝青炭あり。これを分析するに、その重量 100分中に炭素 70.0、水素 5.9、酸素 7.2、その他の窒素、硫黄、灰分、水分等併せて 16.9を含む。「デューロン」氏公式によりこの石炭1ポンドの燃焼熱、及び所要の空気の重量、及び容積を求む。
燃焼熱 = 14500 C + 62000(H-¹/₈O)
= 14500 × 0.7 + 62000 ×(0.059-¹/₈ × 0.072)
= 10150 + 3100
= 13250 英熱単位
空気の重量 = 12 C + 36(H-¹/₈O)
= 12 × 0.7 + 36 ×(0.059-¹/₈ × 0.072)
= 10.2 ポンド
空気の容積 = 10.2 × 1.3 = 132.6 立法フィート
すなわち本例における石炭においては、その1ポンドに対して空気の分量 10ポンド2分を要するを知る。しかれども一般に良質の瀝青炭1ポンドに対しては空気 11ポンドと仮定するを常とす。しかして1ポンドの炭素に対して空気の 12ポンド、また1ポンドの水素に対して空気の 36ポンドと称するは、真に所要の数にして少しもその間に余裕なし。故に実際汽缶内において石炭をして充分に燃焼せしめんとするには、5割ないし 10割だけ過分の空気を供給するを要し、一般に石炭1ポンドに対して空気の重量 20ポンド、容積 260立方フィートを要するものと認めらる。
石炭燃焼のために火室内に送入せる空気の分量を測定するには、管を用ひてそれより空気を「ダンパー」内に送りて管内空気の速度を測るか、または「スモーク・ボックス」内のガスを分析して、その内に含める酸素、炭酸ガス、一酸化炭素等の分量を知り、それより空気の量を推定するにあり。
空気の供給不充分なるときは、炭素はことごとく皆炭酸ガス、すなわち CO₂ に化する事あたわずして一酸化炭素、すなわち CO を生ずべし。しかして CO の熱量は CO₂ の3分の1に及ばず、また空気の供給過度なるときは CO を生ずるの憂なしと言えども、火室内において徒らに無用に多量の空気を温めて全体の温度を下降せしむるに至り、且つ機関車のごときにおいては、華氏 600度内外の温度にてこれを大気中に放散せざるべからざるをもって、結局多量の熱量を浪費する事となるべし。故に空気の分量に過不足あればいずれも熱量の損失あり。
火室内において石炭を燃焼するには空気の大部分は石炭の下層、すなわち「ファイア・グレート」より供給すると言えども、「ファイア・ホール」その他より石炭の上層にもまた空気を供給すること必要なり。殊に火層厚き時しかりとす。「ファイア・グレート」より進入したる空気はまず「グレート」に接近せる炭火に触れ、その炭素に酸素を与へて CO₂ を作り多量の熱量を発生す。しかして CO₂ は高温度をもってさらに上昇し白熱の程度にある炭素の間を通過し、そのやや半燃焼の個所に近づくに及び炭素を取り左の変化を来すべし。
CO₂ + C = 2CO
すなわち CO₂ の1容積は CO の2容積となり、且つその熱度減却すべし。しかしてこの際さらに CO に空気を与へて CO₂ に化する事あたわざれば、非常なる損失なること明かなるべし。
火層浅薄なるときは石炭は「グレート」より進入する空気のみにより充分に燃焼し得、且つ CO を生ずるの暇なしと言えども、火層深厚なるときは前述のごとく CO を生ずることを免れず。しかしてこの際注意すべきは石炭の補給その度を過ぎざるにあり。如何となれば石炭の上層には CO を燃焼せしむるに足るの空気ありとも、新たに投入したる石炭のためにその温度を減却せらるるをもって、盛んに発生しつつある CO はその発火点に達する事あたわずして、ついに燃焼するの機会を失すればなり。
「スモーク・ボックス」内におけるガス中に 100分の1 だけの CO を含むときは、投入石炭の 100分の4 を損失したるものに相当すべし。すなわちもし「スモーク・ボックス」内のガス中 100分の4 だけの CO を有する場合には、石炭の1割6分を空散すると同じ。実験によるによく注意して石炭を燃焼する時は、CO の逃出をしてガス全量の 100分の1 以下に止むることを得べし。しかれども多量に蒸気を発生するの必要ありて、多量に石炭を燃焼せしむるに従ひ漸次 CO の量を増加するを免れず。
炭素燃焼の結果その生ずべきガスは CO 及び CO₂ にして、両者とも無色透明のガスなり。しかして CO ガスのみを燃焼するときは青き焔を発して燃焼し CO₂ ガスとなる。しかして CO₂ ガスはそれ自身決して燃焼することなく、また他物の燃焼をも助くることなし。これらのガスの重量は空気の重量と比較するに、空気の重量を 100とすれば CO は 97に当りて空気よりも軽く、CO₂ は 153にして空気より約1倍半重し。
【 「グータル」氏石炭発熱量公式 】
ドイツ「グータル」氏(Goutal)は工業分析の結果により、石炭の発熱量を計上するの方法を提出せり。その方式により計算すれば、実際の発熱量との差謬は普通の石炭の場合において 100分の1、褐炭の場合において 100分の2 に過ぎずと言へり。
工業分析とは、るつぼ内にて石炭を熱し水分、揮発分、固形炭素、及び灰分の四種に大別するの方法にして、「グータル」氏はそのうち水分を除外し(石炭の粉末を華氏 240度に熱して水分を去る)、石炭を乾燥状態に保つものとし、石炭を揮発分、固形炭素、及び灰分の三種に別ち、各々その百分率を求め、揮発分及び固形炭素のみにより発熱量を計算せんとするにあり。その方法は左のごとし。
C 固形炭素の百分率 すなわち C ÷ 100
V 揮発分の百分率 すなわち V ÷ 100
X 揮発分と総燃焼物との百分率 すなわち X = 100 × V ÷(C+V)
Q 石炭の発熱量(英熱単位) Q = 147.5C + aX
a は英熱単位にして X の価に応じ変化するものにして、左表によりその数字を取るべし。
【 「デューロン」氏石炭発熱量公式 】
石炭の分析上よりその発熱量を推定するには種々の公式ありて、硫黄、灰分、湿気等の分量までも計算するものありと言えども、到底その近似数を得るに過ぎざればこのごとく詳細にわたりて計算するの必要なし。「デューロン」氏(Dulong)は石炭中にあることごとく皆の酸素は、同じく石炭中にある水素と化合して水を生ずべく、従って多少の熱を生ずれども、その熱は石炭の分解上に費やさるべき熱と相差引して別に燃焼熱に関係なしとし、その残りの水素と炭素とにより発熱量を計算すべしとせり。すなわちその公式左のごとし。
発熱量 = 14,500 C + 62,000(H - ¹/₈O)
この公式中 C、H、O は石炭の重量1ポンド中に含める炭素、水素、酸素の重量なり。けだし1ポンドの酸素は 8分の1 ポンドの水素と化合して水を生ずるの割合なれば、(H-¹/₈O)は水を生じたる残りの水素の量なること明かなり。
このごとく石炭の主要部分は炭素と水素なりとす。窒素は単に客分として存するのみにて別に火力に影響する所なく、単に燃焼ガスを稀薄にするに止まる。硫黄はわずかの火力ありと言えども却って火を汚損するの害多し。湿気及び灰分は火力に関しては全く不用のものにして、それが多きだけそれだけ石炭の粗悪なるを証明するのみ。
【 石炭の燃焼熱 】
石炭の燃焼によりて生ずる熱を知るには、測熱器により実際の試験をなすか、また化学上石炭の分析の結果により推定するを要す。
そもそも石炭中には遊離炭素のほか種々の化合物を含有し、その燃焼するに当りて新たに化合物を生成するために多量の熱を生ずれども、同時に現在の化合物を分解するがために熱を費すをもって、その差引の熱量は例え石炭中のことごとく皆の化合物を知り得るとも、理論上未だ精密にこれを測知することを得ず。いわんや現在の石炭分析方法は、諸化合物をことごとく皆分解して元素に復帰せしめたるときの結果に止るおや、これをもって石炭の燃焼によりて生ずる熱量を測るには、測熱器を利用するをもって最も精密なりとす。
測熱器には「マレル」氏「ボンベ・カロリーメーター」、及び「トンプソン」氏「カロリーメーター」等あり。皆一定量の石炭を粉末にし、純粋の酸素または酸素化合物と混じてこれを燃焼せしめ、その熱を水に吸収せしめ水の温度の上昇を見て、もって熱量を測るものなり。
左の表は石炭中に普通含有する元素及びガスの重量1ポンドを取り、これを燃焼せしめたる時に生ずる熱量を示す。
英国熱単位 蒸発単位(ポンド)
炭 素 4400 4.55
(CO に化するとき)
炭 素 14500 15.01
(CO₂ に化するとき)
水 素 62000 64.18
硫 黄 4000 4.14
一酸化炭素 4393 4.54
沼 気 24020 24.87
(Marsh gas)
「オレフィアント」ガス 21930 22.70
アセチレン 21850 22.62
英国熱単位は重量1ポンドの水を華氏 62度より 63度まで1度だけ温むるに要する熱量なり。また蒸発単位は重量1ポンドの物を燃焼して、華氏 212度の水をその温度にて蒸気に化せしむる時その蒸発し得る水の重量を言ふ。すなわち 212度における蒸気の潜熱は 966英国熱単位なるをもって、前記英国熱単位数を 966にて除したるものなり。
炭素の燃焼するに当り酸素の供給不足なるときは、一酸化炭素すなわち CO を生じ、充分なるときは炭酸ガスすなわち CO₂ を生ず。しかしていったん生じたる CO もさらに充分なる酸素の供給を受くるときは、燃焼して CO₂ に変ずるものなり。その CO に変じたるとき生ずる熱量は、CO₂ に変じたるときの熱量に比すれば3分の1に達せずと言えども、CO の全部がさらに今一段の変化をなして CO₂ を生じたるときの熱量を加ふれば、炭素が始めより CO₂ に変じたるときの熱量と同じき熱量を発生するものと仮定せらる。
しかしていずれの場合においても炭素が充分に燃焼して CO₂ を成すときは、炭素の1ポンドに対して CO₂ の
ポンドを作ること明かなり。
第2章 燃 焼
【 燃 焼 】
ある物体の燃焼することは、その物体の分子間に劇烈なる化合作用起りて熱を生じ光を発するものを言ふ。ただし時としては全く光を発せざることあり。しかして普通空気中における燃焼は、ある物体と空気中の酸素との化合せるに帰するものにして、可燃物質は主に炭素化合物とす。しかしてまたその化合を助くるためには、まず外部より熱を与へて化合を誘導せしむるを要す。蝋燭または薪炭を燃焼せしむるには、まずこれに点火するがごとし。
炭素化合物の燃焼するに当り、その燃へ方により光を発生する時と発生せざる時とあり。市中にて点灯用に供する石炭ガス中に充分に空気を混じて燃焼すれば光を発生せざれども、単に石炭ガスを導ける管端に点火すれば大いに光を発生するを見るべし。その光を発生するゆえんは燃焼の熱によりガスの一部分解せられて炭素を分離し、その分離炭素が焔中に入り赤熱せらるるによるものなり。この時この焔中に挿入するに冷器をもってせば煤烟の付着するを見るべし。これけだしガスの外部は空気に触るるがためによく燃焼すれども、内部には数多の遊離炭素の存在を示すものなり。
これに反して始めよりガスと空気を相混和じてこれを燃焼するときは皆よく燃焼し去り、また遊離炭素を生ぜざるによりその焔に光を発生せざるゆえんなり。
焔の光るものはその光らざるものよりもその温度は低きものにして、温度の高低は決して光の多寡に関せず。酸素と水素と化合するとき発生する温度は非常に高きものなれどもその光は皆無なり。けだしその光るものにあっては、その焔中に未だ燃へ尽さざる物体の存ずるがためなり。
総て焔の発生するは可燃物体がガスに変じ、そのガスの燃焼するによるものにして、すなわち上等の無烟炭のごときはほとんど全部炭素なるをもってガスを生ぜず、従って焔を発生せざれども瀝青炭以下においては多量の炭化水素を含有するをもって、盛んにガスを発生し長き焔を出して燃焼するを見るべし。蝋燭のごときその燭心に点火すればその熱により周囲の蝋を融解して油となし、さらに変じてガスに化しこれを燃やすものにしていわゆる一種のガス製造所たり。
総て焔中に三種の部分あるを認むべし。すなわちよく燭火に注目せば焔の最内部は常に暗色を呈すべし。この部分は可燃性ガスなるも未だよく空気に触るるあたわざるをもって、そのガスの状態を有つものなり。
次にこの暗色ガスの外部はよく光輝を放つ部分なるを知らん。この部分は空気の供給不充分なるがため充分に燃焼する事あたわずして、固形体の炭素存在しその炭素が熱せられて光を放つものなり。
次にまたその外部によく注目すれば無色透明なる部分あるべし。この部分は空気の供給充分なるがためにガスが充分に燃焼し尽くす所なりとす。この最外部の無色透明なる焔を酸化焔と言ふ。金属を酸化せしむるの働あり。また中部に位する光輝ある焔を還原焔と称す。他物体より酸素を奪ひ取るの性あり。
総て可燃性物体が燃焼するには、すなわち語を変へてこれを言へば、可燃性物体と空気中の酸素との間に劇烈なる化合を生ずるためには相当の温度を要し、しかしてその温度を絶えず持続せざる可らず。斯のごとく燃焼するに要する温度を称して、その物体の発火点と称す。いかなる燃え易き物体と言えどもある温度に達せざれば決して燃焼せず、また燃えつつある物体と言えどもこれに必要なる温度を冷却すればたちまち消滅すべし。
蝋燭のごときは一度その一部に点火する時は、その熱により漸次他の部分をして発火点に至らしめ、もって燃焼を持続すべし。また多くの炭を積集して点火する時は、その間隙に熱を持続するをもって長く消ゆることなし。しかれどももしその一塊を取り、これを冷灰中に置く時はたちまち消滅すべく。殊に金属のごときよく熱を導く物の上に置くときは、その消ゆる事はなはだ速かなるは速かに温度を冷却するをもってなり。
【 化学的符号及び公式 】
化学上においてこれらの関係を示すために各元素に1字の略字を与へ、化合物にはこれらの略字を併記し一つの方程式を作る。すなわち前の図解を変ずること左のごとし。
H₂+O=H₂O
H は水素、O は酸素の符号にして、H₂O は水の符号となる。しかしてこれらの文字は単に水素たり酸素たるを示すに止まらずして、各その1個の原子(H₂と書すれば2個の原子を意味す)を代表し、併せてその原子量をも指定す。すなわち水素の2原子の原子量は2にして、酸素の1原子の原子量は 16なるをもって、化合して生じたる水の1分子の分子量は 18なるを知る。
なお普通の単位(いかなる単位を取るも差支なし)をもってこれを解釈すれば、水素2立法フィートと酸素1立法フィートとを化合せしむれば、2立法フィートの水蒸気を得るの理。また水素2ポンドと酸素 16ポンドを化合せしむれば、水蒸気 18ポンドを得るの理なり。
左の表は石炭の生成分及び燃焼に関係ある、諸元素及び化合物の符号、原子量、及び分子量を示す。
元素の部 符 号 原子量
炭 素 C 12
水 素 H 1
酸 素 O 16
窒 素 N 14
硫 黄 S 32
化合物の部 符 号 分子量
一酸化炭素 CO 12+16=28
炭酸ガス CO₂ 12+2×16=44
水蒸気 H₂O 2×1+16=18
沼 気 CH₄ 12+4×1=16
(Marsh gas)(一名メタン)
「オレフィアント」ガス C₂H₄ 2×12+4×1=28
(一名エチレン)
「アセチレン」 C₂H₂ 2×12+2×1=26
左に揚ぐる方程式は石炭燃焼の際、その主成分が空気中の酸素と化合するの状態を示す。
C+O=CO
炭素と酸素と化合して一酸化炭素を生ず。
C+O₂=CO₂
炭素と酸素と化して炭酸ガスを生ず。
CO+O=CO₂
一酸化炭素と酸素と化合して炭酸ガスを生ず。
S+O₂=SO₂
硫黄と酸素と化合して亜硫酸ガスを生ず。
CH₄+2O₂=CO₂+2H₂O
沼気と酸素と化合して炭酸ガス及び水を生ず。
C₂H₄+3O₂=2CO₂+2H₂O
「オレフィアント」ガスと酸素と化合して炭酸ガス及び水を生ず。
【 分子、原子の容積及び重量 】
研究の結果、分子、原子の容積及び数に就て左の三項を知れり。
1.
総てのガス体はその元素たると化合物たるとを問はず、温度及び圧力に変化なき時においては、同一の容積中に含有せらるる分子の数は常に相同じ。従ってもしこの分子にして同種の原子より成れるときは、同一の容積中には同数の原子あり。
2.
ガス体をなせる化合物の各分子の占有する容積は常に同一にして、いずれも水素の1原子が占有せる容積の2倍の容積を有す。
3.
各元素の分子は2個の原子より成る(ただし金属元素中には、ままこれに従はざるものあり)。
吾人は絶対的に原子の大きさ及び重量を知ることを得ず。しかれども異種原子間における関係を決定することを得べし。すなわちここに水素と酸素と各その同容積を取り、これを秤るに酸素は水素に比すればその重量 16倍なり。故に酸素の原子は水素の原子より同じく 16倍重き道理なるべし。水素は諸元素中にて最も軽きものなれば、吾人は水素の原子量を標準としこれを1と定め、酸素の原子量は 16と定む。同理にて炭素の原子量は 12、窒素の原子量は 14と言ふ。
電気の作用を仮りて水を分析するに、水はガス体となりて水素と酸素との二元素に分解せられ、しかして生じたる水素の容積は常に酸素の容積の2倍なるを知る。また逆に水素の2立法フィートと酸素の1立法フィートとを混じて3立法フィートとし、これに電気の火花を通ずれば非常の爆発をなして化合し水を生ず。これを水蒸気に化せしむれば2立法フィートの水蒸気となるべし。これらの変化を図解すれば左のごとし。
| 日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | |
| 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 |
| 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 |
| 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 |
| 28 | 29 | 30 |
最近のコメント