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第15編 石炭及び燃焼
石炭の経済的燃焼に就ては前編に既に陳ぶる所ありたりと言えども、石炭の問題は機関車運転上重大なる事項なるをもって、さらにここにこれを詳論せんと欲す。しかしてよく石炭燃焼の理を明かにせんと欲せば、一般化学上の原理を審かにするを要す。ここにおいて化学上の元素及びそれらの化合物に就てまず説明するの必要を認む。
第1章 元素及び化合物
【 化 合 】
2個以上の物体相集りて一種の物体を作り、その性質全くその元物と相異なるときは、ここに化合作用をなしたりと認む。例へば硫黄と銅とを取り各これを細粉にして相混ずるときは、硫黄の色も無く銅の色もなき緑色の一種の物体となるべし。しかれどもこれを顕微鏡にて験するときは、なお明かに硫黄と銅との粉末を区別し得べく。なおこれを水に浸すときは硫黄粉は浮び銅粉は沈みて、再びこれを硫黄と銅とに別つことを得べし。この場合においては未だ硫黄と銅とは化合したるものにあらずして、単に機械的の混合物なり。
しかるにこの混合物を熱するときは漸次赤熱を呈し、終に黒色の物体となり、もはや顕微鏡にても硫黄と銅との存在を認むる事あたわず。その性質も前二者と全く相異なるものを生ずべし。ここにおいて硫黄と銅とは始めて化合したりと言ひ、その生成物を硫黄と銅との化合物と称す。ただしこの化合物もまた他の化学作用を仮ればこれをその元物に還原することを得べし。
汽缶破裂/取扱粗暴なるとき
【 取扱粗暴なるとき 】
圧力過大、缶水減少、検査粗漏等この種なり。安全弁の固着せる、験圧計(pressure gauge)の不正なる、験水計(water gauge)孔の閉塞せる、「ステー」の折損せる、皆もってはなはだ畏るべきものにして、欠点の個所は速に発見して速に修理するにあらざればその害の及ぶところ時と共に大なるべし。
缶水減少して「クラウン・プレート」露出し加熱せらるるときは、はなはだ危険状態にあるものなり。幸に「レッド・プラグ」早く溶解して危険を報ずれば大事に至らずして済むと言えども、「レッド・プラグ」不完全なるときは「クラウン・プレート」は赤熱せらるるに至るべく、その結果「クラウン・ステー」を引抜きて垂下し来り、「ステー」の孔より烈しく気水を噴出すべく、さらにこれを機として大なる破裂を来たすことあるべし。殊にこの際「クラウン・ステー」の「ナット」焦損弛緩し居るとき、もしくば「ステー」の螺旋山不完全なるときは、容易く「ナット」を離散せしむるものなり。
「クラウン・プレート」が赤熱せられたるを知りたるときは、まず「ダンパー」を閉ぢ、湿りたる粉炭を火室内に投入して火を押付け、「ファイア・ドア」を少しく開くを要す。この際狼狽して「インジェクター」を掛け始むべからず。「レギュレーター・バルブ」もそのままにしてさらに開閉すべからず。安全弁にも手を触るべからず。総てこの場合において缶内の状態を変更すれば圧力を増進して破裂を招き易し。故に第一に炭火を滅没して「クラウン・プレート」を徐々に冷却し、且つ蒸気の圧力を減少して、しかる後送水すべきものなり。
「クラウン・プレート」を赤熱して、しかる後これに水を加へ、汽缶を破裂せんと試みたるの実験はしばしば行はれたり。これらの結果は必ずしも破裂するものにあらざれども、破裂することあるべきを証せり。けだし急劇に蒸気発生すると共に圧力を増進する事と、「クラウン・プレート」が急劇に冷却収縮して破損を来たす事が破裂の原因なり。
汽缶破裂/原 因
汽缶破裂は機関車事故のうち最も畏怖すべきものにして、殊に機関庫または隧道内等、隠蔽物内において発生するときはその災害最も甚大なり。
【 原 因 】
汽缶破裂の原因は一言にして約すれば、汽缶の一部が蒸気の圧力に耐ふる事あたわざるがためにして、さらにこれを大別すれば、汽缶の強さがその常用圧力を支ふるに足らざりしときに起るものと、安全弁の固着もしくば類似の他の原因により、蒸気の圧力が常用圧力以上に上りたる場合に起るものとの二種に区別し得べし。
左の場合においては、汽缶はその常用圧力を支ふるに不適当なるべし。
1.設計に欠点あるとき。
2.材料及び加工不完全なるとき。
3.缶板腐蝕または衰弱せるとき。
4.取扱粗暴なるとき。
チューブの故障/チューブプラグ
【 「チューブ・プラグ」 】
「チューブ」破損し蒸気噴出するときは、一時の手当としては「チューブ・プラグ」を填充すべし。故に「チューブ・プラグ」及びこれを嵌入する道具として、「チューブ・プラッガー」は機関車の必要予備品として常に備へ置くべきものにして、これを填充するときは鎚撃強きに失すべからず。しからざれば「チューブ・プレート」を毀損するの憂あり。鉄製「チューブ・プラグ」の用意なきときは木製「チューブ・プラグ」を使用することあり。木製と言えども容易に焼失することなきのみならず蒸気の漏洩を防ぐには却て便利なることあり。ただしその長さは6インチ以上挿入するを要す。
総て「プラグ」を填充せんとするに、火炎煤煙のために「チューブ」を見透す事あたわざるときは、炭火上に木板を投入して火力を抑へ、「ブロワー」を使用して煤煙を誘出せば工事を施すに便利なり。しかして「プラグ」はまず「ファイア・ボックス」内における「チューブ」の一端に填充し、次に「スモーク・ボックス」内における他端に填充すべし。
「プラグ」にて「チューブ」の前後を填充したる後、蒸気の圧力増加するに従ひ該「プラグ」より漏洩することあるべし。しかれどもこの場合には再びこれを締付くるがために、鎚撃を加ふる等の手配をなさざるを良とす。これ「プラグ」の背面には高圧の蒸気存在するにより鎚撃の結果、却てこれを弛めて「プラグ」を弾丸のごとく放射することあればなり。
【 「チューブ」の故障 】
「チューブ」を「チューブ・プレート」に取付くるには、「チューブ・エキスパンダー」にて「チューブ」の周囲を拡張し、「チューブ・プレート」に堅くこれを嵌入しその摩擦によりこれを支持し、「フェルール」を打込みてさらにその弛緩を防ぐものなれども、ままその取付個処より気水の漏洩を免れず。また時としては「チューブ」の一部腐蝕または折損して多量の気水を噴出することあり。「チューブ」より気水の漏洩するときはその気水を無用に噴出するのみならず、通風を妨害するがために石炭の燃焼不充分となり蒸気の騰発を妨害すること著し。その結果列車を遅延しもしくは運転を休止せしむること少なからず。
【 「チューブ」漏洩の原因 】
「チューブ」漏洩の原因は、主として「ファイア・ボックス」及び「チューブ」の膨脹収縮のために、その取付個処が漸次弛緩するによるものにして、「ステー」の場合と同じくその膨脹収縮が急劇に襲来するときはその弛緩も特にはなはだし。故に「チューブ」漏洩を予防するの方法は「ステー」の折損を予防するの方法と異ならずして、機関手、火夫の注意いかんに待つ事はなはだ多し。
水質不良の影響は、「ステー」よりも「チューブ」に対して著しく損害を与へその漏洩を促すがごとし。水質不良によりて生ずる「スケール」の堆積及び過激なる沸騰は、「チューブ」及び「チューブ・プレート」よりよく熱を導かざるためこれらを過熱するものと認めらる。また酸類を含有する水は「チューブ」及び「チューブ・プレート」を腐蝕せしむることあり。
「チューブ・プレート」の孔と「チューブ」とは、同じく真円形をなすにあらざれば充分の緊締密接を望むべからざるものなり。しかるに古き汽缶にあってはしばしば「エキスパンダー」を使用したる結果、「チューブ・プレート」の孔は変形してその真円を欠くに至るべし。特に「フランジ」付近の孔は、「チューブ・プレート」伸縮のため変形して隋円形となるもの多し。また修理の際、一部の「チューブ」にのみ強く「エキスパンダー」を使用しその付近を顧みざるときは、一部圧迫の影響はその付近の孔を隋円形に変ずべし。
要するに「チューブ」の修理は特別の熟練を要するものにして、不注意にこれを行ふときは修理を加へたるがために却ってますます不良の結果を呈することあり。「チューブ・プレート」の裏面に接して「チューブ」の折損ある事あるは、「チューブ・プレート」の孔及び孔の内面が不正なるに関らず、「エキスパンダー」使用の過度なるがため「チューブ」を害するによること多し。
ステーに関する注意/ステー・ヘッドの焦損
【 「ステー・ヘッド」の焦損 】
「ステー・ヘッド」は火力のために自然に損滅せらるるものにして、「ブリック・アーチ」の付辺において最も著し。またある「ステー・ヘッド」は、「チッピング・ハンマー」にて軽く打ちたるのみにてたちまち脱落することあり。これけだしその分子が変質して脆弱となれるによるものにして、材料の不良なるか、または成形の際鎚撃その方法を得ざりしに帰因するものなり。しかして何れの場合においても「ステー」はその螺旋山により保持せらるるのみならず、「ステー・ヘッド」にも依頼すること多ければ、「ヘッド」の損滅もしくは落失したるものは全部これを取替へざるべからず。
ステーに関する注意/ステーより気水の漏洩
【 「ステー」より気水の漏洩 】
これ「ステー」と「プレート」と相密着せざるより来るものにして、螺旋山腐蝕するか、または「プレート」の牝螺旋が隋円形となるより生ずるものにして、「ファイア・ボックス」の収縮膨脹はまたその主なる原因なり。
「クラウン・プレート」の前部にある「スリング・ステー」は、「ファイア・ボックス」の収縮膨脹を融和するに必要なる装置なるに、ままこれに「スケール」堆積してその機能を害し、「スリング・ステー」をして自由にその長さを伸縮することを許さざることあり。その結果はたちまち「チューブ・プレート」の「フランジ」を押し曲げて、これに亀裂を生ぜしむるのみならず、「サイド・ステー」の上部の一列に最も多くの影響を与へ、それより気水の漏洩を来すに至るべし。
また一般に「ステー」の周囲に「スケール」の堆積するときは、「ステー」を過熱せしむるの原因となり、その頭及び螺旋を焦損せしめ、その緊締力を減殺して気水の漏洩を促すものなり。また鋼製「ファイア・ボックス」においては、腐蝕のためにその牝螺旋薄弱となりて「ステー」より漏水することあり。故にいずれの場合においても「ステー」より漏水するときは、「ステー」の効用薄弱となれるものなれば早く取替を要するものなり。
かって英国においてある機関車の「ファイア・ボックス」に「スケール」堆積のため、「サイド・プレート」の一部やや膨出したるにより一製缶工は単に鎚撃を加へてこれを復旧せしめたり。しかるに以後十数日はその付近の「サイド・ステー」より缶水の漏洩絶へざりしも、単に「コーキング」により姑息修理を施し別に意に介せざりしが、終に運転中一大破裂を来したり。
しかしてその原因調査の結果、全く前に「サイド・プレート」の膨出を修理するがために鎚撃を加へたる際、痛くその付辺の「サイド・ステー」の螺旋を害したるにかかわらず、これを取替へざりしためその部分より破裂を来したるものと認定せられたり。総て「ファイア・ボックス・プレート」の膨出したる場合には、姑息手段によりこれを直すよりもそのままに放任し、単に「サイド・ステー」を完全に保たしむるをもって安全なりとす。
ステーに関する注意/ステーの折損を知るの方法
【 「ステー」の折損を知るの方法 】
目下多数の機関車は、その「サイド・ステー」には「テル・テール・ホール」と名づくる小孔を有するをもって、その折損の場合においては、これより噴出する気水によりこれを知り得ると言えども、この設備なきものにおいては、水を排除したる後に「ステー」の一端に「スレッジ・ハンマー」を当て、他端を「チッピング・ハンマー」をもって軽く打撃しその音響にて判断するを要す。全部折損せるものは空虚の音を発し、一部折損せるものは鈍き震動するごとき音を発すべし。
然れどもこの方法にてはいかなる熟練家と言えども誤りなきを保せず、その他「クラウン・プレート」または「サイド・プレート」の一部分が「ステー」の頭と共に膨脹垂下するときは、多くはその「ステー」は折損せることを示すものなり。また汽缶洗滌の節、「ウォッシュ・アウト・ホール」より燭火を入れて内部を検するときはその折損せるものを発見することあり。
ステーに関する注意/ステー折損の原因
【 「ステー」折損の原因 】
「クラウン・ステー」及び「サイド・ステー」は、「ファイア・ボックス」とその「アウトサイド・シェル」との間に収縮膨脹の差があるがために、常に屈曲作用を受け折損するもの多く、その屈曲「モーメント」を最も多く受けてしばしば折損する個所は、「クラウン・ステー」においては左右両端の一列もしくは二列とし、「サイド・ステー」においては左右における上部の一列もしくは二列とし、漸次内部の「ステー」に及ぼすを見る。けだし「ファイア・ボックス」の後部及び下部は、「ファイア・ホール・リング」及び「ファウンデーション・リング」によりて固定せらるるが故に、この部分においては膨脹収縮を感ずること少なく、これに反してその前部及び上部に向ひては漸次膨脹収縮の自由を得るものなればなり。
しかしてまた一本の「ステー」中、その切離する個処が「ファイア・ボックス・シェル」に接するもの多きゆえんは、「ファイア・ボックス・プレート」は銅板もしくば薄き鋼板なるがために、「ステー」がその内において無理を受くること少なけれども、「ファイア・ボックス・シェル」内にてはほとんど固定せらるるをもって、板際において急に屈曲の作用を受くるによるものなるべし。
これらの屈曲作用は汽缶、殊にその「ファイア・ボックス」の収縮膨脹の結果によるは論を待たざれども、急激に汽缶を冷やし、もしくは熱するは、「ステー」の受くるその屈曲作用をして急激ならしむるものなれば、「ステー」の螺旋山を害し、もしくは折損来すは主としてこの時にありて、「チューブ・プレート」及びその「フランジ」の亀裂を来すも、または「チューブ」の弛緩を生ずるもこの原因に帰すること多し。
仕業激しくして多量の石炭を燃焼するものはその然らざるものよりも、また蒸気の圧力高きものはその低きものよりも汽缶を熱すること大なれば、それらの汽缶には比較的「ステー」の折損も多きはもちろんなれども、その他急に汽缶を熱冷するは主として左の場合に属す。
1.
冷水を有する汽缶の点火に際し急に炭火を増進するとき。
2.
運転中「レギューレーター・バルブ」閉塞後、または停車中一時に多量の給水を行ふとき。
3.
一般に「ファイア・ホール」より一時に多量の冷気を送入するとき、石炭投入の際その処置緩慢にして「ファイア・ドア」を開放する時間永きときはこの害を生ずるはもちろん、蒸気騰発その度を過ぎたるとき、これを減却するため「ファイア・ドア」を開放するの悪習慣はこの害最もはなはだしきものとす。
4.
一般に「ブロワー」の使用過度なるとき、殊に運転中下り勾配線において蒸気を使用せざるとき、炭火乏しきにかかわらず「ブロワー」の使用過度なるとき。
5.
帰庫後炭火を落したる後、「ダンパー」及び「ファイア・ドア」閉鎖不充分なるとき。
6.
汽缶洗滌に際し汽缶の冷却過度なるとき。
7.
石炭不良なるとき。けだし炭質不良なるときは蒸気の騰発も不良なるが故に、石炭及び水の供給不規則となり、且つ灰燼堆積すれば「ダンパー」より空気の補給は欠乏し、止むを得ずして「ファイア・ドア」を開くことあり。あるいは灰燼掃除のために「ブロワー」を過度に使用し、冷気を進入せしむる等温度の急高下を促すに至るものなればなり。
8.
時々多量の石炭を投入するとき。けだしこの場合には石炭投入際は一時に「ファイア・ボックス」の温度を低下せしめ、その石炭燃焼するときはまた反対に一時に温度を昇騰せしむるをもってなり。
9.
通風盛んなるときに「ロッキング・プレート」を振動し、または「クリンカー」の掃除を行ひ炭火に欠損の個所を生ずるとき。
「ファイア・ボックス」の下部における「ステー」の折損は、「スケール」堆積して過度にこれを熱するより来るもの多し。けだし「ファイア・ボックス」の銅板はその表面の温度は華氏 800度ないし 1000度に及び、「ステー」の頭はそれより 4分の1 インチばかり突出するをもって、その温度はなおその1割5分を増加することをあるをもって、その頭より 2分の1 インチ内部の所にては約 600度の温度に至るべきは疑を容れざるがごとし。しかもこれ普通の場合なれば、「プレート」及び「ステー」に「スケール」堆積して、水に触れざるときはその温度はこれよりもはるかに上昇すべし。
然るに銅製「ステー」の伸張力は熱せらるるに従ひ著しく減少し、普通の温度すなわち華氏 60度において1平方インチに付き 14トンの伸張力を有するものが、華氏 700度にてはその力半減せらるるものなれば、「スケール」堆積するときは「ステー」の力大いに減少しその折損を促すに至るは自然の理なり。
やや同じき状態にある「ステー」にして、あるものは折損しあるものは無事なることあり。その原因は一々これを説明する事あたわずと言えども、数百の「ステー」中、実際は1本ごとにその状態を異にすべく、その位置、その長さ、頭の大小、螺旋山の完不完、「スケール」被覆の状態、熱焦の程度、またはその頭を製作するときの鎚撃の多少等、各々その状態を異にするの原因となるべく、また水の循環不良にして当該「ステー」付辺に蒸気の泡沫滞留するときは、熱焦をして劇甚ならしむる等、折損したる各「ステー」は各その折損すべき理由を有すべきものなれば、「ステー」折損の原因は時と場合に応じてよくこれを研究すべきものとす。
「ロンジチュージナル・ステー」、「トランスバース・ステー」、及び「パーム・ステー」の折損は、稀に起るべき現象なれどもまた注意を要すべし。「ロンジチュージナル・ステー」折損するときは、「バック・プレート」に属する「サイド・ステー」の折損を促がし、「トランスバース・ステー」折損するときは、左右の「サイド・ステー」に影響を来し、「パーム・ステー」折損するときは、「チューブ・プレート」の膨出と「チューブ」漏洩を促すの基となるべし。
汽缶洗缶/洗缶の順序
【 洗缶の順序 】
洗缶は一定の順序を追ふて諸洗滌孔より注水するを要するものにして、その順序を転倒すれば一部より洗ひ落したる「スケール」をさらに他部に堆積することあるべく、またある部分は常に洗滌を受けざることあるべく、大修繕の際汽缶の内部を検査するに当りまま驚くべき大塊の「スケール」を発見することあり。
洗缶の順序は一般に「ファイア・ボックス・シェル」の前方上部にある洗滌口より始め、しかも第一に「チューブ」の後端を洗滌すべきものとす。しかる後「クラウン・プレート」の頂部及び「クラウン・バー」及び「ボルト」等を洗滌して、その「スケール」はなるべく「ファイア・ボックス」の左右両脚及び後脚に落し、「チューブ」の後部にこれを堆積せしめざる様になすべし。
しかして「ファイア・ボックス・シェル」の上部にある数個の洗滌孔中、その最も前部にあるものより始めて、かくのごとく順次後部に及ぼすべきものにして、「ファイア・ボックス」の左右両脚もそれより届く限りは洗滌すべし。「チューブ」の後端は火焔の進入口にして蒸気の騰発盛んなるがため、「スケール」堆積し易きをもってよく洗滌し置かざれば「チューブ」及び「チューブ・プレート」を焦損すべし。且つこの部分は「チューブ」の全長中にて蒸気騰発の効力最も大なる個所なれば、「スケール」のためにその効力を害せざるよう洗滌をつとむべきなり。
次に「バック・プレート」の上部にある洗滌孔より、曲りたる「ノズル」を長く突込みて「クラウン・プレート」を洗滌し後、またそれより届く限り後部の水脚を洗滌すべし。しかる後「バレル」の前部にてその頂上にある洗滌孔より「チューブ」を清掃し終りて、「スモーク・ボックス・チューブ・プレート」の洗滌孔に移るべし。
「バレル」の下底に堆積せる「スケール」は「スモーク・ボックス・チューブ・プレート」の下部、または「バレル」の下底にある洗滌孔より洗滌すべく、斯くて「チューブ」及び「バレル」を洗滌したる後は、再び「ファイア・ボックス」に還りてその周囲の水脚を残りなく洗滌し、「ファウンデーション・リング」上に堆積する「スケール」及び泥砂をことごとく排出すべし。
流出する水が清潔なるが故に汽缶は清潔なりと思ふべからず。総ての汽缶内部を燭火にて照らし、必要に応じ掃除桿を挿入して「スケール」を除去すべし。掃除桿は突端を有する長き銅また鋼製の桿にして、直径 8分の3 インチないし 2分の1 インチのものを用ふるを常とす。竹を用ひて諸方面より缶内をつつくもまた一法なり。
鋼製掃除桿は洗滌孔の螺旋山を害するの恐れあれば、これを使用するときは洗滌孔に相当の「ブッシュ」を挿入するを良とす。洗滌後、各洗滌孔に「プラグ」を挿入する時よく注意せざれば螺旋山の食違を生じ、為めに蒸気騰発後缶水の漏洩を来たし困難することあり。
挿入の際「プラグ」には獣脂を塗り置くべし。また「グラファイト」と鉱油とを混じたるものを使用するも可なり。しかしてその締め付けは決して堅きに失すべからざるものにして、長 16インチの「スパナ」を片手にて締め付くる位の程度に存ずべきものなり。しからざればさらに抜き取りの際困難を感ずべし。
汽缶洗缶/温水洗缶法
【 温水洗缶法 】
以上陳べたる方法は冷水を用ひて洗缶するものなり。今もし冷水の代りに温水を用ひて洗滌し洗滌後も温水を缶内に入るるときは、第1に汽缶の急遽且つ有害なる冷却を避け得べく、第2に「スケール」をよく除去し得べく、第3に4時間ないし5時間にて洗缶全部の作用を了し得べく、第4に点火後蒸気の騰発速かにして「ブロワー」も早く使用し得べく、第5に機関車流用上非常の便利を得べく総ての点に対して有利なるをもって、近来は欧米各国においても温水洗缶法の利益を認め、これがために相当の設備を有するものはなはだ多し。
洗缶用に温水を使用する時その温水を得るの方法に数種あり。最も簡単なる方法は他の予備機関車の蒸気及び「インジェクター」を利用し、「インジェクター」により温水を注射せしむることなり。これを行ふには総ての機関車に相当の装置を要す。すなわち「キャブ」外にある送水管(feed pipe)に一つの支管を設くる事と、「ボイラー・チェック・バルブ」の口元に「ストップ・バルブ」を設くることなり。支管の端には「ユニオン・ナット」を取り付け、さらにその上に円錐形の座を有する蓋を捻ぢ込みてこれを蔽ふべし。
洗缶用にこの「インジェクター」を使用せんとするときは、前記「ストップ・バルブ」を締め、支管の蓋を取り外し、蛇管を「ユニオン・ナット」に連なぎ、もって「インジェクター」を動作せしむべし。大なる機関庫においては古き小形機関車等をこの洗缶専門の用に供するもまた一方法たるべし。ただしこの場合には特別に大なる洗缶用「インジェクター」を使用すれば水勢及び水量とも充分なりとす。
次の方法は特別に「スチーム・ジェット・ポンプ」を使用することなり。この「ポンプ」はその構造、結局「インジェクター」と大差なきものにして、蒸気を直接に冷水に当てて冷水を温むると同時に蒸気の圧力にて水を押出すものなり。この「ポンプ」は通常機関庫の壁に取り付け置き、蒸気は主として据付汽缶より取り、水は便宜の個所よりそこへ導くものとす。しかして送水管は「ポンプ」より諸方へ分岐せしめ、庫内便宜の個所にてこの熱湯を利用せることを得せしむ。送水管は内径 1インチ16分の9 にして、「ポンプ」に近き所に一つの空気室(air chamber)を設け水の槌撃を防ぐを要す。しかしてこの水圧は1平方インチに付き 45ポンドないし 75ポンドなるを普通とす。
次にやや大なる設備にして且つ多数の機関車を有する機関庫に応用し得べき方法は、帰庫したる機関車より総ての蒸気を集めてこれを大なる水槽に送り、もってその水を温むるの方法なり。しかして場合によりて据付汽缶の蒸気をもなお補給することあり。この水槽は高処に置きて、それより来る水を直接に洗缶用に供することあり。または特別に「ポンプ」の力を借りて水圧力を作ることあり。
次に最も大なる洗缶設備は「ホワイト」式洗缶装置にして、帰庫せる機関車の蒸気及び熱湯をことごとく皆利用するものにして、各機関車の蒸気及び熱湯を一個処に集中し、湯は直にそれをもって洗缶するの用に供し、蒸気は冷水を温めて最後に汽缶に盛るの用に供するものにして米国及び英国の一部において賞用せらる。
この装置の主要部分は排出管(blowout pipe)、洗滌管(washout pipe)、給水管(feeding pipe)、気水分別室(separator)、洗滌水槽(washout tank)、加熱室(heater)、給水槽(feeding tank)、洗滌用「ポンプ」、給水用「ポンプ」、及び据付汽缶等より成り、排出管、洗滌管、給水管の三大管は機関庫の全長にわたり敷設せられ、各管より諸方に支管を分岐し庫内の機関車と随時連絡することを得せしむ。すなわち機関車が庫内に帰り来りたるときは、その「ブローオフ・コック」を排出管の支管に連絡せしめ、蒸気及び湯を直ちに排出管を経て気水分別室に送るものとす。そこにて蒸気は別の管にて加熱室に送られ、湯は濾過せられて他の管にて洗滌水槽に送らる。
加熱室に送られたる蒸気は清鮮なる冷水と接触してこれを温め、その温水をさらに給水槽に貯ふるの順序にして、その温度は華氏 190度を標準とす。洗滌水槽にも他より清鮮なる冷水を入れて水量を増加し、その温度は華氏 145度を標準とす。温度の加減、冷水の分量、及び各水槽の水平面は自動的に調整せらるるの装置を有し、必要に応じ据付汽缶より清鮮なる蒸気を各水槽に送り得べし。据付汽缶は洗滌喞筒及び給水喞筒を動かすの用に供せられ、各喞筒の放出蒸気は各々洗滌及び給水の両水槽に送られて水を温たたむるものとす。
しかして機関車の蒸気及び湯がことごとく皆排出管に排出せられたるときは、「ブローオフ・コック」を閉ぢ、各「プラグ」を取り去り、洗滌蛇管を洗滌管の支管に取付く。しかる後洗滌喞筒を動かし洗滌水槽内の湯を洗滌管に送り、もって普通の方法にて洗缶を行ひ充分洗滌したる後、各「プラグ」を収め「ブローオフ・コック」を給水管の支管に連なぎ、給水喞筒を動かして給水槽内の熱湯を缶内に注入し、もって洗缶作業を終る。
ドイツ「バーデン」国有鉄道においては、普通左の方法により温水洗缶を施行せるを見る。
洗缶すべき機関車の蒸気をその「テンダー」内に逆流せしめて「テンダー」の水を約華氏 140度に熱せしむ。しかして総ての蒸気が逃去したる後、汽缶の上部にある孔の蓋を取りそれより冷水を注入し、同時に「ブローオフ・コック」を開き出づる水と入る水とは同じ分量に加減し、缶内の水平面は同一状態に保つ様に留意す。
しかして「ブローオフ・コック」より流出する水の温度が華氏 140度に降下するに及び、冷水の供給を杜絶し缶水をして速かに流出せしむ。ただし総ての水が流出せざる前に「テンダー」内の熱湯にて洗缶を始むるものにして、別途に備付けある運搬し得べき電気装置の「セントリフューガル・ポンプ」により、60ポンドないし 75ポンドの圧力にて「テンダー」内の熱湯を送入するものなり。同時に針金製のカギを缶内に入れて出来得る限り「スケール」を除去す。「テンダー」内に残れる熱湯は洗缶後さらに缶内に補充するの用に供す。
汽缶洗缶/汽缶急速冷却法
【 汽缶急速冷却法 】
米国「サンタ・フェ」鉄道においては、止むを得ざる場合における急速冷却法を規定せること下のごとし。
汽缶に蒸気を有するときは、その蒸気を利用し得る限り「インジェクター」により汽缶に給水すべし。「インジェクター」を使用するあたわざるに至れば、「エンジン」と「テンダー」間にある給水「ホース」を絶ちて、これに洗缶用の「ホース」を連結し、さらにこれより引続き汽缶に送水し、同時に汽缶の上部にある相当の「コック」より残余の蒸気を放出せしむべし。
斯くて満水したる後「ブローオフ・コック」を開きて缶水を排除し始むべく、しかも「ファイア・ボックス・プレート」の温度が華氏 90度、すなわち手を触るればやや冷やかに感ずる程度に冷却するまでは引続き缶内に注水し、流出する水量は注入する水量より多からざる様にして絶えず満水するに努むべし。90度に達したる後送水を止めて全く水を排除し、もって直ちに洗滌を行ふべし。
ノルウェー国有鉄道においてもよくこの急速冷却法を実施せり。その方法は「サンタ・フェ」鉄道とほとんど相同じと言えども、そのやや異なる点は冷水を上部「ウォッシュ・アウト・ホール」より入れて満水すること、及び冷水を入れ同時に缶湯を出だす時間を1時間半ないし2時間として、缶湯の温度を前と同じく人間の体温とやや同じきに至らしむることなり。
汽缶洗缶/洗缶に要する時間
【 洗缶に要する時間 】
洗缶を行ふ前には必ず缶水を流出せしめざるべからず。蒸気が相当圧力を有し缶水の温度高きときに缶水を流出し、且つ直ちに冷水を用ひて洗滌するときは、汽缶は急に冷却せらるる故に急に諸部の収縮を来し、「チューブ」の漏洩、「ステー」の折損、その他「ファイア・ボックス」諸板の損傷を促すのみならず、当然流出し得べき「スケール」を缶板に焼き付けることあり。故に洗缶前には時間の許す限り徐々に汽缶を冷却するを要す。
普通の場合においては機関車帰庫後、蒸気の圧力をして自然に 0ポンドまで降下せしめ、なお缶水を相当冷却せしめたる後において「ブローオフ・コック」より徐々に缶水を排除し、排水後数時間はそのまま自然に冷却せしめ、しかる後各洗滌孔より洗滌を始むるものとす。しかして蒸気落下及び缶水冷却のために少くも9時間を費やし、缶水排出及びその後自然冷却せしむるために3時間以上を要し、洗缶及び水入れに4時間、点火にも4時間を費やすものとすれば、洗缶するがために約 20時間の余裕を必要とす。
機関車数不足またはその他の理由により洗缶のため 20時間の余裕を得ざるときは、止むを得ずして速に汽缶を冷却するの法を講ぜざるべからず。汽笛、「ブロワー」、あるいは小「エジェクター」より蒸気を放出せしむるか、あるいは「インジェクター」を用ひて給水するときは、蒸気圧力の落下をして速かならしむべし。ただしこれらも出来得る限り徐々に行ふべきは論を待たざるべく、「ブロワー」または「エジェクター」より蒸気を排除するときは冷気を「ファイア・ボックス」より吸収せざる様、「スモーク・ボックス・ドア」を少しく開放し置くことはまた必要なり。汽笛より蒸気を排出せしむるときは糸屑の類をそれに填充し置くときはその鳴声を防ぎ得べし。
汽缶洗缶/洗缶用水圧
【 洗缶用水圧 】
洗缶の際は総て「ウォッシュ・アウト・プラグ」を抜出し、その孔より高圧力を有する水を注射し缶内を清掃するものにして、この水圧力は高ければ高きほど効力あるべく、米国諸鉄道においては多くは「ポンプ」によりて1平方インチに付き 90ポンドないし 100ポンドの高圧力を有する水勢を利用し、スイス同盟鉄道のごときは特に設けたる水道により 150ポンドないし 200ポンドのものを使用せり。
我国においては「ウォーター・タンク」に連絡せる「ハイドラント」に「ホース」を取付け、その水を利用して洗缶するもの多けれどもこの水勢ははなはだ微弱なり。すなわち「タンク」の水面を軌条面より 25フィートとし、汽缶の中心を7フィートと仮定すれば、水はただ 18フィートの差をもって「ノズル」より噴出するものにして、水管内における摩擦をもって皆無とするも、なお1平方インチに付き約8ポンドの圧力に過ぎず。外国においても同じく「ウォーター・タンク」より水を取るものありて、非常に高き「タンク」を利用すれどもその水圧 20ポンドを超ふるもの稀なり。故に洗缶には特に「ポンプ」を用ひてそれより直接に送水するを便利とす。
「ホース」の先端に置くべき「ノズル」はその口径1インチを適当とし、真直なるもの、屈曲せるもの、長きもの、短きもの等種々備へ置くを必要とし、なお屈曲「ノズル」を用ひ自由にその方向を転じて水流を四方に放散し得るがためには、「ノズル」と「ホース」との継目において自由に回転し得るの装置を施すを最も便なりとす。
水の改良方法/化学公式
【 化学公式 】
水の軟化作用及びこれに伴ふ副産物の状態を化学公式により示すときは左のごとし。
1.
炭酸石灰を溶解する水を華氏 176度以上に熱するときは、炭酸ガスを遊離し炭酸石灰を沈澱せしむ。その分解は左の公式による。ただし炭酸石灰(CaCO₂)は炭酸(H₂CO₃)と化合し居りて重炭酸石灰(CaCO₃H₂CO₃)、すなわち(CaH₂(CO₃)₂)の形状をなして水中に溶解し居るものなり。炭酸「マグネシア」も同様なり。
2.
硫酸(H₂SO₂)を含める水には苛性ソーダ(NaOH)、または石灰(Ca(OH)₂)を加ふるときは左のごとし。
3.
炭酸石灰を溶解する水に石灰を加ふるときは、炭酸石灰を沈澱せしむ。
4.
同じく炭酸石灰を溶解せる水に苛性ソーダを加ふるときは、炭酸石灰を沈澱しさらに炭酸ソーダを溶解せしむ。
5.
炭酸「マグネシア」を溶解せる水に石灰を加ふるときは、化合作用は左のごとし。
なお石灰の分量多ければ前の化合はさらに進んで左の公式を作る。
6.
硫酸石灰を溶解する水に炭酸ソーダ(一名ソーダ灰)を加ふるときは、炭酸石灰を沈澱せしめ硫酸ソーダを溶解せしむ。
プロイセン官有鉄道「ポツダム」停車場構内の水の軟化設備において、軟化前と軟化後における水の分析の結果は第 108表に示すがごとし。
水の改良方法/改良方法
【 改良方法 】
硫酸、炭酸等の遊離せる酸類、及び塩化石灰、塩化「マグネシア」等を含有する水には石灰または炭酸ソーダ(ソーダ灰とも言ふ)、または他の「アルカリ」性分の物質を加ふべし。酸類は常に僅少の分量なれば、これに加ふる「アルカリ」の分量も少量にて足るが故に、これらの薬品のために別に「プライミング」を起すことなし。
炭酸石灰または炭酸「マグネシア」を含有する水には石灰を加ふべし。石灰は水中の炭酸ガスと化合するをもって、炭酸ガスの水中に溶解せるがために存在する炭酸石灰または炭酸「マグネシア」は、自然に炭酸ガスと分離して水底に沈澱すべし。理論上より見れば炭酸石灰を全く除去するがため、石灰を投入すべき割合は1ポンドの炭酸石灰に対し 0.56ポンドの生石灰を要す。
硫酸石灰または硫酸「マグネシア」を含有する水には炭酸ソーダを加ふべし。しかるときは炭酸石灰もしくば炭酸「マグネシア」と硫酸ソーダとを作るべく、炭酸石灰及び炭酸「マグネシア」は前述のごとく遊離せる。炭酸ガスが無くなるときは自然に沈澱すれども、硫酸ソーダは水中に溶解して存在し、その溶液濃厚なるに従ひ「プライミング」を惹起するに至る故に、しばしば缶水を取換へざるべからざるの不便あり。理論上より見れば硫酸石灰を全く除去するがため、炭酸ソーダを投入すべき割合は1ポンドの硫酸石灰に対し 0.78ポンドの炭酸ソーダを要す。
総て薬品を加へて水を改良することは、水を「テンダー」内に入れざる前に相当の装置をなしてこれを行ひ沈殿物を除去するを良とす。「テンダー」または汽缶内に薬品を投入することは、水の使用量一定せざるをもってその分量当を得ざること多きのみならず、為めに生じたる沈殿物を除去するがためにしばしば缶水の一部を排出せざるべからず。
欧米各国においてはこれがため、多くは大なる貯水池もしくは貯水槽を設備し、水と薬品とを永く且つ充分に混和し、沈澱法により、または木、毛、砂等により水を濾過して沈殿物を除去するの方法を取る。しかして化合作用を助くるために、蒸気機関または蒸気喞筒より逃出する廃気を利用してこれを温むることあり。
水の改良方法/改良の程度
【 改良の程度 】
「スケール」を生成するもの、または鉄板を腐蝕すべき物質を溶解含有せる水には、ある薬品を加ふればその水質を改良せしむることを得ることありと言えども、「プライミング」を引起す物質を溶解含有する水に就ては未だ適当の方法なく、殊に食塩を含有する水のごときは蒸留するにあらざるよりは他に方法なきものにして、未だ機関車用としてこの蒸留方法を採用せるものなし。
薬品を用ひて水質を改良せんとするには、必ず化学者をして用水の性質を分析研究せしめたる後においてすべし。「スケール」の予防剤として坊間販売せるもの、その種類はなはだ多しと言えども、その主要成分はソーダもしくば石灰にして、一見特殊の物品なるがごとく装ふために種々の着色を施すもの多し。
しかしてソーダ及び石灰は「スケール」の予防剤としてその効あれども、後段陳ぶるごとく却ってこれがために「プライミング」を惹起すべき新たなる化合物を生成するに至るは止むを得ざるものなり。故に汽缶を腐蝕せしむる作用を有する塩化石灰、及び塩化「マグネシア」はこれを撲滅するの必要ありと言えども、「スケール」を生成すべき諸塩類の全重量が水の重量 100万分中に 150以内なるときは、その水はそのまま使用し別に薬品を加へざるを普通とす。また薬品使用後、水中に残留する「アルカリ」の全重量が水の重量 100万分中に 500を超過するときは、「プライミング」を起すをもってそれより以上の「アルカリ」を副産する事なからしむべし。
ドイツにおいては薬品を用ひて硬水を軟化にする当り、その硬度を全滅することなくして常に6度ないし8度(ドイツ硬度)の硬度を残し置くを普通とす。
水の汽缶に及ぼす作用/硬 水
【 硬 水 】
石灰、塩類、及び「マグネシア」塩類を多量に含有する水を硬水と言ひ、これらの塩類を全く含有せざるか、もしくば極めて少量に含有する水を軟水と称す。
しかして硬水に一時的硬水と永久的硬水の二種ありて、水中に炭酸ガスあるがために炭酸石灰及び炭酸「マグネシア」を一時溶解するものを一時的硬水と言ひ、硫酸石灰及び硫酸「マグネシア」、塩化物ならびに硝酸塩類等を溶解し、容易くそれらを駆除する事あたわざるものを永久的硬水と言ふ。
硬水の程度を比較するがために何度の硬水と称す。例へば6度の硬水と言ふがごとし。英国においては水1「ガロン」中に1「グレーン」の炭酸石灰を含めるものを1度とし、フランスにおいては水1「リットル」中に 10「ミリグラム」の炭酸石灰を含めるものを1度とし、ドイツにおいては水中に水の重量 10万分の1 だけ石灰(CaO)を溶解したるに相当したるものを1度とす。これらを換算すればドイツの1度は英国の 1.25度に当りフランスの 1.79度に当る。
硬水の度を験定するにはいわゆる「クラーク」氏の法によるをもって普通とす。これによれば一定の石鹸水を作り置き、1個のガラス瓶に水を容れ石鹸水を少しづつ水に加へて水を振蕩し、総ての水をして全く泡沫に化するに至らしむ。硬水の度強ければ強きほど石鹸水を要すること多かるべく、石鹸水を費したる多少により硬水の程度を決するものなり。石鹸水は通例1「グラム」の精良なる石鹸を 20立法「センチメートル」の水に溶かしたるものをもって標準とす。
水の汽缶に及ぼす作用/スケール
【 「スケール」 】
「スケール」を生成するものは大別して二種となす。第1は水中に浮遊せる泥砂塵埃の類が漸次熱板上に堆積付着するもの。第2は平常の温度にて水中に溶解せる数種の化合物が、温度の上騰するに及び水より分離し沈澱して缶板に付着するものこれなり。濁水を使用したるために生じたる「スケール」は軟質にして、化合物の分離して付着したる「スケール」は軟質及び硬質の二種あり。軟質の「スケール」は缶洗滌の場合に除去し得ると言えども、硬質の「スケール」は岩石に類し単に水勢をもってこれを除去することを得ず。大修繕の際、鎚またはノミをもってこれを剥離するを要す。
「スケール」の熱を導く力は金属の約 30分の1 なりと称せらる。故に「スケール」をもって蔽はれたる「ファイア・ボックス・プレート」及び「チューブ」は、その受けたる熱を直に水に伝ふる事あたわざるをもって、蒸気の騰発を害し石炭の浪費を来す事おびただしく、「スケール」の厚さ 32分の1 インチなるときは石炭は9分の損失にして、16分の1 インチなるときは1割6分の損失、4分の1 インチなるときは5割の損失を来すものと称せらる。
加えこれ時としては「ファイア・ボックス」はこれがためにはなはだしく熱せられ亀裂を生じ、殊に「ステー」の周囲において膨脹突起し「ステー」より漏水せしめ、または「ステー」の頭を折損する等の結果を生じ、為めに汽缶破裂の基をなすことあり。しかしてこのごとく「ファイア・ボックス・プレート」が熱せられたるときは、石炭の粉末がそこにおいて付着燃焼するものにして、よくこれに注意する時はいかなる部分において「スケール」が過分に堆積せるやを認むることを得べし。
また時としては「ファイア・ボックス・プレート」膨脹収縮の際に、厚き「スケール」と「プレート」との間に空虚を成し、その空虚中に缶水浸入し化して蒸気となることあれば、その蒸気は「スケール」よりもいっそう熱の不導体なるが故に、その部分の「プレート」はたちまち激熱せられて膨脹し、また破裂の原因をなすことあり。あるいは空虚中に缶水浸入して「スケール」を堆積し、さらに一層厚く「スケール」を形成することあり。
「スケール」を生成する化合物は、炭酸石灰(CaCO₃)、炭酸「マグネシア」(MgCO₃)及び硫酸石灰(CaSO₄)、硫酸「マグネシア」(MgSO₄)をもって主要なるものとし、ケイ酸塩類、塩化石灰(CaCl₂)、塩化「マグネシア」(MgCl)等もまた「スケール」を生成す。炭酸石灰と炭酸「マグネシア」とは同じ作用をなすものにして、いずれも純粋の水には溶解することなしと言えども、炭酸ガスを含める水には容易く溶解するものなり。
しかして炭酸ガスを含める水はこれを沸騰するときは、その炭酸ガスは水より分離して逃去するをもって、炭酸石灰、炭酸「マグネシア」は後に残されて「スケール」となるに至る。この沈澱作用は水の温度華氏 176度ないし 248度において行はる。この「スケール」は白堊性の物質にして、結晶水を含むこと多きをもって厚き層をなすと言えども、軟質なるをもって洗滌に際し比較的除去し易し。
硫酸石灰及び硫酸「マグネシア」は冷水にはやや溶解すと言えども、温度上昇するに従ひ漸次分離するものにして、華氏 284度ないし 424度において全く水中に溶解する事あたわずして沈澱するものなり。この「スケール」は最も堅硬にして、ほとんど陶器に類し最も忌むべき性質のものなり。
第 107表に示せる数種の水の分析表は良水及び不良水の標準として見るべきものにして、数字中*印を付したるものは上欄故障の主因をなすものと知るべし。
水の汽缶に及ぼす作用/プライミング
【 「プライミング」 】
水中に硫酸ソーダ(Na₂SO₄)(鉱泉中に多し)、塩化石灰(CaCl₂)、または塩化ソーダ(NaCl)(普通の食塩)等の塩類を溶解するもの、あるいは苛性ソーダ(NaOH)、苛性「ポタシウム」(KOH)等の「アルカリ」物を含有するものは沸騰の際多量の泡沫を生ずべく、また泥砂塵埃の浮遊物及び油類多量なるときは同じく激烈なる沸騰を来たすべく、その結果「プライミング」を生ずるは前に陳べたるがごとし。
ただし泥砂塵埃は塩類及び「アルカリ」物等の溶解したるものに比すればその害僅少なりとす。しかして陸上汽缶にてはこれら溶解物の重量が、水の重量 100万分中に 800ないし 1000なるにおいては未だ「プライミング」を生ぜざれども、機関車においてはその割合 500に達すれば「プライミング」を生ずと言ふ。
【 水の汽缶に及ぼす作用 】
機関車の汽缶に使用する水は各所において供給せらるるものなれば、一般に良質の水のみを使用すること難く、止むを得ず有害なりと知りつつこれを使用する場合はなはだ多し。しかして多くの有機物を含有せる水のごときは、吾人の飲料に供する事あたわずと言えども汽缶に対しては別に有害ならざるものあり。
汽缶用水に不適当なる水は、第1.缶板を腐蝕せしむるもの、第2.「プライミング」を生ぜしむるもの、第3.「スケール」を残留するものこれなり。
【 缶板腐蝕 】
水中に酸類としては硫酸(H₂SO₄)または炭酸(H₂CO₃)の類を含有し、塩類としては塩化「マグネシア」(MgCl₂)または塩化石灰(CaCl₂)の類を溶解含有せるものは、缶板を腐蝕せしめその作用最も恐るべきものにして、あるいは数多の痘痕に腐蝕する作用すなわち「ピッチング」となり、あるいは数多の溝形に腐蝕する作用すなわち「グルービング」となる。これらの腐蝕作用は時としては最も検査し難き部分に集合して缶板をして薄弱ならしむ。
汽缶内においては種々複雑なる原因により、水中に存在するある物質が互に化合するか、または缶板の鉄または銅と化合して硫酸または炭酸を遊離することあるがごとしと言えどもその原因不明のもの多し。しかれども井水あるいは河水中、酸類の痕跡あるものを使用することは勉めてこれを避けざるべからず。しかして遊離せる酸類の量が水の 10万分の5 あるときは既に重大なる腐蝕作用を来たすものと称せらる。缶洗滌の際、洗滌孔より流出する水が暗赤色を帯ぶるものは、水中に酸類の存在するの徴候なりとす。最も植物性の酸類、例へば「タンニン」(C₁₇H₂₂O₁₇)のごときは無害にして、却ってこれらの存在は「スケール」の付着を防ぐことあり。
水中に含有する空気の作用は「ピッチング」の一原因として数へらる。けだし空気中の酸素が鉄と化合して錆(FeO₃)を生じ、錆が脱落してその痕跡を残し漸次深き孔を穿つに至るものと信ぜらる。
インジェクター取扱/水の押込み不良
【 水の押込み不良 】
「インジェクター」は水を「タンク」内より吸上げ得るも、これを缶内に押込み得ざる場合あり。または一部分のみ缶内に送入し他は「オーバー・フロー」に排棄することあり。これらの故障は主として左の原因に属す。
1.「サクション・パイプ」の閉塞
「サクション・パイプ」または「ストレーナー」が一部閉塞せらるるか、または「タンク・バルブ」の開き方少なきか、あるいは「ホース」折れ重なる等の事ありて水の流通不充分なるときは、「インジェクター」内において「スチーム・ノズル」より出づる蒸気は充分に凝結する事あたわざるべく、従って「コンバイニング・チューブ」内の真空が漸次減殺され、その真空が約7インチまたは8インチに相当するに至れば、水の供給及ばずして「インジェクター」の動作中絶すべし。
2.「オーバー・フロー」における水の浪費
これ蒸気の圧力に対し水の供給が過大もしくば過少なるときに起るものにして、過大なるときは水は微温度にて「オーバー・フロー」より出づべく、過小なるときは水は高温度にて「オーバー・フロー」より出で、まま蒸気と混合して噴出すべし。これらの場合においては猶予なく水の供給を加減するを要す。
「オーバー・フロー」に「オーバー・フロー・パイプ」を取付くるものにありて、その継目より少しも空気漏洩せざるときは「オーバー・フロー・パイプ」は「サイフォン」の働を成して、いったん水をそれより流出せしめるときは蒸気を閉塞するも、なお且つ絶へず水を流出せしむべし。これを防ぐために「オーバー・フロー」に小なる空気孔を設け置くときは「サイフォン」の働を妨ぐるのみならず、それより噴出する小水流を見て「インジェクター」の働を察することを得べし。
3.「サクション・パイプ」より空気漏洩すること
「サクション・パイプ」より空気漏洩するとも水の吸上げを全く害せざることあり。しかれども水量不充分なれば、「コンバイニング・チューブ」において総ての蒸気を凝結するに足らずしてたちまち真空を害し、その結果水の吸上げを害すべし。加えこれ水中に空気混入して来るときは、水と蒸気と充分によく触る事あたわざるをもって水流しばしば中絶すべし。
「サクション・パイプ」内空気漏洩するを試験するには、「オーバー・フロー・バルブ」を閉ぢ「スチーム・バルブ」を少しく開くべし。しかして「サクション・パイプ」及び「ホース」内に僅少の圧力を保ち得るように「タンク・バルブ」を閉づべし。しかれば蒸気の漏洩する個所は空気の漏洩する個所なること疑を容れず。
4.「ボイラー・チェック・バルブ」固着すること
「チェック・バルブ」が全く「シート」に固着して離れざるときは送水することを得ず。この場合には「クラック・ボックス」の上部、底部、または「デリバリー・パイプ」を軽く槌撃するときは、時としては「バルブ」を「シート」より離れしむることあり。
「チェック・バルブ」の開き方僅少なるときは、「インジェクター」は一部分の水を缶内に送り、他は「オーバー・フロー」より流出せしむべし。この場合には水を節約するため、蒸気及び水を加減して「オーバー・フロー」より流出せざる様にして送水すべし。
蒸気を加減するにはかなり汽缶付属の「バルブ」においてし、「インジェクター」内の「スチーム・バルブ」により蒸気を絞らざるを要す。これ「バルブ」において蒸気を絞りその圧力を減殺するときは、同時に蒸気をいく分か過熱するものにして、「インジェクター」は過熱蒸気を厭ふをもってなり。汽缶付属の「バルブ」において蒸気を絞るときはそこになお過熱蒸気を作ると言えども、それより「インジェクター」までに来るの間において過熱だけの熱は輻射により放散せらるべきなり。
「ボイラー・チェック・バルブ」が開きたるままにて閉ぢざる時は、「インジェクター」の「ライン・チェック・バルブ」は逆流し来る缶水を防ぐべき任に当ると言えども、ここ不工合なるときは「インジェクター」の「オーバー・フロー・バルブ」及び「ウォーター・バルブ」を閉ぢてこれを防ぐべし。「ボイラー・チェック・バルブ」が開きたるままにて閉ぢざる時は、その「シート」に固着したるときと同じく「クラック・ボックス」及び「デリバリー・パイプ」を軽く槌撃すべく、なおそれにて効を奏せざるときは、「クラック・ボックス」に冷水を注ぎ収縮膨脹せしめてその機会に「バルブ」を弛むることを得ることあり。
5.「デリバリー・チューブ」における障害
「インジェクター」内の「デリバリー・チューブ」に糸屑、石炭、または木片の類停泊するときは、たちまち水勢を阻碍し「オーバー・フロー」より多量の水を放出すべし。これを直すには「チューブ」を取出し掃除するのほか他に策なし。
6.「タンク」密閉せらるること
「タンク」の水入れ口における蓋が、氷結またはその他の原因により密閉せられ空気を流通せしめざるときは、水の「インジェクター」に赴くに従ひ「タンク」内に一部の真空を作り、ついに「インジェクター」に水を送る事あたわざるに至る。「タンク」の蓋が全く密閉せずして僅少の空気の流通を許すとも、空気進入の分量が水の流出に及ばざるときは、「タンク」内の空気は膨脹して漸次稀薄となり圧力減少し、終に水を押上ぐるの力なきに至るべし。
7.「インジェクター」内の「スケール」
「インジェクター」をしてよく動作せしむるには、その「チューブ」の内面は充分に滑かにして且つ適当の口径を有せざるべからず。しかるに「チューブ」の内面にはしばしば「スケール」付着してその口径を縮少し、はなはだしきに至りてはほとんど全くこれを閉塞することあり。少量の蒸気を使用するにあらざれば動作せざるに至るものは、概ねこの通路の縮少せられたるためなり。
「コンバイニング・チューブ」及び「デリバリー・チューブ」等の「スケール」を掃除するには、これを取外して塩酸の溶液に浸し塩酸と石灰と化合せしむるを便利とす。塩酸の溶液は塩酸1に対し水 10の割合をもって適当とす。両者化合するときはガスの泡を発生すべく、その泡の発生止みたるときは速に「チューブ」を引上ぐべし。否らざれば塩酸は石灰と化合しつくせば直ちに金属と化合し「チューブ」の内面を損傷するをもってなり。
8.「チューブ」弛緩及び磨滅
「チューブ」の取付弛緩するときは大に送水に影響し、多くは全くその作用を失すべし。故に「チューブ」を取替へたるときは、その位置に充分に確実に締め付け置くことを必要とす。
「チューブ」腐蝕磨滅して形を変じたるとき、もしくば新規に不適当なる形状の「チューブ」を用ひたるときは、「インジェクター」は直ちにその作用を失すべし。140ポンドもしくばそれより以下の低圧蒸気に対する「インジェクター」の「チューブ」は、140ポンドないし 200ポンドの高圧蒸気に対するものとややその形状を異にすべし。故に前者に対し適当なる「インジェクター」は後者に対し不適当なり。
機関庫において低圧蒸気を有する場合にはよく動作し得るも、運転中の常用圧力にて使用すれば、「オーバー・フロー」より水及び蒸気を放出してよく送水する事あたわざるものは、「チューブ」の形状が高圧力の蒸気に不適当なるがためなれば、これらは「チューブ」を取換ふるを要す。しかしてその取換を行ふまでは特に現在の「チューブ」に適応するよう蒸気の圧力を減じて使用すべし。
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