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2025年3月の記事

2025年3月31日 (月)

機関車工学:下巻(その197)汽缶取扱:インジェクター取扱/水の吸上げ不良

インジェクター取扱/水の吸上げ不良

【 水の吸上げ不良 】

 「インジェクター」に「タンク」より適宜に水を吸上げ得ざることは、主として左の理由に帰因す。

 1.「サクション・パイプ」閉塞

 これ「ストレーナー」に塵埃、泥砂、木葉の類停泊して、その網目を閉塞するによること最も多く、その他「ホース」の折れ重なり、または「パイプ」がある点において閉塞せらるることあるにより、水道を絶ち水を「インジェクター」に送らざるものにして、障害物の場合には「オーバーフロー・バルブ」を閉ぢ「スチーム・バルブ」を開き、蒸気を「タンク」内に逆流せしむれば障害物を除去することを得ることあり。

 注意粗漏のため愚かなる失敗をなすことあり。「タンク・バルブ」の閉塞しあるに心付かず、または「タンク」内に水の欠乏せるに心付かず切りに水を「インジェクター」に吸出さんと試みたる実例あり。

 2.「サクション・パイプ」内に空気漏洩すること 

 この場合には「サクション・パイプ」内に真空を作る事あたわざるをもって水を呼ぶ事あたわず。

 3.「サクション・パイプ」内の水が熱せらるること

 これ「ボイラー・チェック・バルブ」より蒸気漏洩すること、ならびに「インジェクター」の「スチーム・バルブ」、及び「ライン・チェック・バルブ」より蒸気漏洩するに基づくものなり。「ライン・チェック・バルブ」の目的は、「ボイラー・チェック・バルブ」不工合のとき反流し来れる缶水をそこに食ひ止めんとするものなり。

 「サクション・パイプ」内の水が熱せらるるときは、何故に水の吸上げを害するやは下の理由に基づくものなり。実験によれば水の沸騰点は圧力のいかんにより変ずるものにして、水は 180ポンドの圧力の下にては華氏 380度にて沸騰し、14ポンド7 分の普通の大気の圧力の下にては華氏 212度にて沸騰し、真空 10インチの場合には華氏 160度にて沸騰すべし。

 今「インジェクター」を掛け始むるため蒸気を通ずるに、その蒸気の誘導により「サクション・パイプ」内に一部の真空を作るべきも、その内の水が 160度ないし 175度に熱せられいるものとすれば、たちまち沸騰して蒸気を発生し、その真空を破り水の吸上げを害するの理なり。

 この場合に処して「インジェクター」を取扱ふには、まず少量の蒸気を送り「オーバー・フロー・バルブ」を閉ぢ、「サクション・パイプ」に蒸気を通じ、その内の温かき水を「タンク」内に反流せしめ、直ちにまた「オーバー・フロー・バルブ」を開くべし。しかるときは冷水はさらに「サクション・パイプ」を経て上り来り「オーバー・フロー」より出づるに至るべし。

 4.「タンク」内の水が熱せらるること

 「ウォーター・タンク」内の水が高温度に熱せられたるときは「インジェクター」はその作用を失すべし。かかる場合には冷水を「タンク」内に加ふるをもって良策となすこと疑を容れずと言えども、汽缶の「ストップ・バルブ」を少しく開きて蒸気を絞りて低圧力となし、それにて「インジェクター」を試むべし。これ「タンク」内の水の温度高きときは、「インジェクター」を掛るに蒸気は低圧のものほど都合好きをもってなり。

 総て「セーフティー・バルブ」より蒸気の噴出するを防ぐため、または停車中に水を温むるため、「インジェクター」より蒸気を「タンク」内に反流するときは一方の「インジェクター」のみを使用すべし。これ「タンク」の一脚のみにおける水を温むるをもってなり。

 5.「チューブ」の故障

 「リフティング・チューブ」または「コンバイニング・チューブ」に障害物あるときは、蒸気が自由に「オーバー・フロー」に通ずる事あたわざるのみならず、「サクション・パイプ」内に真空の代りに蒸気の圧力を与ふる事となり水の吸上を害す。

 

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2025年3月30日 (日)

機関車工学:下巻(その196)汽缶取扱:インジェクター取扱/インジェクター故障

インジェクター取扱/インジェクター故障

【 「インジェクター」故障 】

 運転中「インジェクター」に故障を生ずることは割合に多し。ただし「インジェクター」自身に異状なきも、「サクション・パイプ」、「ホース」、「ストレーナー」、「ボイラー・デリバリー・パイプ」、「チェック・バルブ」等の故障は引きて「インジェクター」の作用を害するものなり。故に普通これらの送水装置の故障を一括して「インジェクター」の故障と称し、送水作用不完全なるときは送水装置全部に就てその原因を探求するの必要あり。

 「インジェクター」は左右とも常に完全の状態を保つを要し、一方が故障を生じたるときは直に他方を使用しつつその故障を取除かざるべからず。運転中双方の「インジェクター」が同時に故障を生ずることは事実上はなはだ稀なり。しかして双方とも常に完全の状態に保たんには、常に双方の「インジェクター」を使用すること必要なり。あるいは交互に使用するか、あるいは場所を定めて使用するか、あるいは停車中は一方を使用し運転中は他方を使用する等、ともかく常にその作用を試むることを必要とす。

 

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2025年3月29日 (土)

機関車工学:下巻(その195)汽缶取扱:インジェクター取扱/蒸気と水との割合

インジェクター取扱/蒸気と水との割合

【 蒸気と水との割合 】

 「インジェクター」において重量1ポンドの蒸気をもって送り得べき水の重量は蒸気の圧力増加するに従ひ減少す。すなわち例へば 30ポンドの圧力を有する蒸気は、重量1ポンドの蒸気をもって水 20ポンドないし 25ポンドを送り得べきも、140ポンドの圧力を有する蒸気は約 13ポンドの水を送り、180ポンドの圧力を有する蒸気は約 11ポンドの水を送り得るに過ぎず。

 

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2025年3月28日 (金)

機関車工学:下巻(その194)汽缶取扱:インジェクター取扱/水の温度

インジェクター取扱/水の温度

【 水の温度 】

 「インジェクター」により温められて缶内に送入せらるる水の温度は、普通の場合において華氏 160度ないし 200度なり。ただし蒸気と水との加減により低きは 110度高きは 250度に至らしむることを得べく、高圧の蒸気を使用しかなり水を減少するときは送水温度は比較的上昇すべし。

 「インジェクター」に供給すべき「タンク」内の水の温度に制限あり。140ポンド以上の圧力を有する蒸気に対しては「テンダー」内の水の温度は華氏 110度を限りとし、それ以上に及べは「インジェクター」の動作確実ならず。しかれども蒸気の圧力低き場合には 125度または 130度の水を掲ぐることを得べし。

 

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2025年3月27日 (木)

機関車工学:下巻(その193)汽缶取扱:インジェクター取扱/インジェクターの利益

インジェクター取扱/インジェクターの利益

【 「インジェクター」の利益 】

 機関車の送水器としては近来もっぱら「インジェクター」を用ふ。特に高温度に水を温めて送水する装置を施すものは、止む得ずして「ポンプ」を使用することありと言えども、しからざるものは皆「インジェクター」を使用せり。けだしその利益は機関車停車中にも、または高速度にて運転中にも送水し得ること、取扱簡単にして送水の加減自由なること、故障少なきこと。また故障を生ずるも検査修理比較的容易なること、給水器内に残留する水の凍結する患少なきこと、常に熱湯を缶内に注入すること等にして到底「ポンプ」の及ぶ所にあらず。

 

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2025年3月26日 (水)

機関車工学:下巻(その192)汽缶取扱:気水共発/プライミングとフォーミング

気水共発/プライミングとフォーミング

【 「プライミング」と「フォーミング」 】

 「プライミング」と「フォーミング」とを区別して論ずることあり。この場合には「プライミング」を狭義に解して、「プライミング」とは主として缶水多量なるときに起る気水共発の現象を指示し、また「フォーミング」とは主として缶水不潔なるときに起る気水共発の現象を指示せり。

 しかれども元来「プライミング」なるものはその原因のいかんに関せず、蒸気が缶内より水分子を携帯して「シリンダー」に赴くことを意味し、「フォーミング」は泡沫の盛んに発生することを意味するものなれば、「フォーミング」なるものは「プライミング」の一原因なりと見なし得べし。

 

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2025年3月25日 (火)

機関車工学:下巻(その191)汽缶取扱:気水共発/プライミングの害

気水共発/プライミングの害

【 「プライミング」の害 】

 「プライミング」ははなはだ不経済的のものにして、これがために無用に石炭を消費するものなり。

 第1に蒸気と混じて「シリンダー」に赴きたる水分は「ピストン」を推進するに何らの効能なく、単にその保有する熱量を空気中に放棄するのみ。第2に蒸気と水と混合するがために「シリンダー」に出入する蒸気の速度は遅鈍となり、「ピストン」の前圧力は減少し後圧力は増加し、列車の一定の速度を維持せんとするには、乾燥したる蒸気を用ふるよりもはるかに多量の蒸気を要すべし。

 「プライミング」の時はこのごとく缶水の減却は速かなる上に、「ゲージ・グラス」内の水量は一時虚偽の表示をなすものなれば、「プライミング」止みて缶水静止したるときは殊に注意せざれば、缶水不足のために「レッド・プラグ」を鎔解することあるべし。「プライミング」のために膨脹したる水を名けて偽水と言ふ。「ゲージ・グラス」にてこれを見るに偽水の場合には半インチないし5インチを増加す。

 「プライミング」のときは「スチーム・チェスト」及び「シリンダー」内に多量の水を集むるをもって、「バルブ・シート」及び「シリンダー」の油を洗滌し去るべく、また「グランド」内にも水の進入するにより「パッキング」を損害すべし。故によく給油に注意せざれば、「バルブ・シート」、「シリンダー」、及び「ピストン・ロッド」に疵を与ふることあるべし。

 

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2025年3月24日 (月)

機関車工学:下巻(その190)汽缶取扱:気水共発/プライミングに対する処置

気水共発/プライミングに対する処置

【 「プライミング」に対する処置 】

 機関手は「プライミング」の徴候を発見したるときは速に「シリンダー・コック」を開放すべし。しからざれば「シリンダー」内に蓄積したる水量は「ピストン」のために非常に圧迫せられて、「シリンダー・カバー」もしくば「ピストン」を破損せしむることあるべし。

 次に機関手は「レギュレーター・バルブ」を一部または全部閉塞し、蒸気の流動を減殺し水面を静止せしむることを謀るべし。蒸気の流通減殺せらるるときは「プライミング」は直に消滅し「ゲージ・グラス」に真水面を指示するに至るべし。もしまた缶内の水量過分なるときは給水を停止し、不足となるときは補充すべし。

 米国製機関車には上部「テスト・コック」の下部に「サーフェス・コック」あり。水面に油その他の浮遊物あるによりて「プライミング」を起したる場合には、この「サーフェス・コック」を開放して不潔物を排除するは最も妙なり。

 

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2025年3月23日 (日)

機関車工学:下巻(その189)汽缶取扱:気水共発/プライミングの徴候

気水共発/プライミングの徴候

【 「プライミング」の徴候 】

 「プライミング」を起したるときは、左の徴候によってこれを知ることを得べし。

 1.
 「チムニー」または「シリンダー・コック」より逃出する蒸気は直ちに白色を呈すべし。乾燥したる蒸気は暫時無色または青色なれども、その内に水分子を含有すれば白色となる。

 2.
 「エキゾースト」の音響は通常は清鋭なるに反し、「プライミング」の場合には濁鈍となるべし。「ファイア・ドア」を開きたる際によくこれを聴き別くることを得べし。

 3.
 「チムニー」の頂上に黒色の水滴が飛舞するを認むべし。且つその水滴は飛散して「ボイラー・ラッギング」及び窓ガラスに付着すべし。

 4.
 「スライド・バルブ」の動作平滑ならざるために、「リバーシング・レバー」の取扱重くなり且つ振動を感ずべし。

 5.
 「ゲージ・グラス」において水量急に増加すべし。且つしばしば急遽に下底より気水突出し気水混合の状を呈し、またはその水が汚濁となる。

 6.
 上部「テスト・コック」より蒸気を噴出せしむるとき、その蒸気中に水の混合するを見るべし。また缶水面が上部「テスト・コック」少しく以下にあるときに、わずかに「コック」を開くときは蒸気のみ噴出し、なお広くこれを開くときは却って水のみを噴出することあるべし。

 

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2025年3月22日 (土)

機関車工学:下巻(その188)汽缶取扱:気水共発/プライミングの原因

気水共発(Priming)/プライミングの原因

【 「プライミング」の原因 】

 「プライミング」とは、蒸気が缶内より水分を携帯して「シリンダー」に赴く場合を言ふものにして、その主なる原因は水の不潔なるにあり。缶水中に油類及び「アルカリ」性分を含むとき、または多量の泥砂塵埃の類存在するときは「プライミング」を生ぜざる事ほとんど稀なり。総て激烈なる沸騰は蒸気をして共に水分を持去らしむるものなれば、激烈なる沸騰を誘致すべきものは「プライミング」の原因なりと知るべし。すなわち缶水汚濁なるときは、上昇しつつある泡沫は不純物のためその通路を妨げられ容易に水面上に出づることを得ず。彼方此方に衝突狂乱し、あるいは分離し、あるいは合併し、泡沫の状態混乱するがために激烈なる沸騰を呈するものなり。
 
 また運転中、急に蒸気使用の分量を増加するときは「プライミング」を生ず。けだしこの場合には蒸気の流動大なるのみならず蒸気の圧力が急に降下するをもって、一時急に蒸気の騰発を促し缶水急激に沸騰を来すがためなり。

 缶内の水量多きに過ぐるときは「プライミング」を生ず。けだしいかなる場合においても蒸気発生の際は多少の沸騰をなすべく、その沸騰に際してはいく分の水分は蒸気中に混入するを免れざるものなれば、缶水多きに過ぐるときは蒸気充実の容積狭小となり、発生したる蒸気はよく乾燥するの暇なくして「シリンダー」に吸収せらるるがためと、また蒸気が「レギュレーター・バルブ」に近き水面に沿ふて流動するをもって、水分子を含有すること多きによる。

 低圧の蒸気は高圧の蒸気に比すれば「プライミング」を生ずること多し。これ低圧の蒸気を使用するときは割合に蒸気使用の容量を増し、圧力の乱高下を来し易きがためなり。故に低圧の蒸気を使用せんとするときは、缶水はなるべく少量に保ちて蒸気の容室を多くするを要す。

 

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2025年3月21日 (金)

機関車工学:下巻(その187)汽缶取扱:缶水補給/レッドプラグ鎔解

缶水補給/レッドプラグ鎔解

【 「レッド・プラグ」鎔解 】

 缶水不足して「クラウン・プレート」を露出するときは、「レッド・プラグ」はたちまち鎔解して蒸気を噴出せしめ、缶水不足の警告を与ふると共に火勢を減殺すべし。しかれども「レッド・プラグ」の上に「スケール」の堆積するときは、その鉛鎔解するとも蒸気を噴出せざることあり。または蒸気を噴出するとも少量にして、緊要なる「レッド・プラグ」もその効用を全くせざることあり。故に「レッド・プラグ」に「スケール」を堆積せしむることは、大なる危険の伴ふものなれば充分の注意をなさざるべからず。

 機関手は「レッド・プラグ」より蒸気を噴出し「クラウン・プレート」過熱せらるるを認めたる場合には、直ちに「ダンパー」を閉ぢ湿りたる粉炭を投入して炭火を圧迫し、「ファイア・ドア」を少しく開くべし。しかして「クラウン・プレート」のやや冷却するを待ちて、しかる後送水すべし。またこの際急に「レギュレーター・バルブ」を閉塞、または開放することなくそのままに放置すべし。否らざれば圧力を増加するの恐れあり。

 以上の手当を怠たるときは「クラウン・プレート」は膨脹垂下すべく、「クラウン・ステー」折損せざるときは「ステー」の個処のみ凹み、他部は膨脹して波形をなすに至り、そのはなはだしきに至れば「クラウン・プレート」は「ステー」の「ナット」を離散して「ステー」と相離れて垂下し来り。あるいは「プレート」裂損して大なる破裂を惹起することあるべし。

 水不足して「クラウン・プレート」を熱焦したる後これを験すれば、「クラウン・プレート」は一種の赤き焼け色をなし、「ステー」の螺旋山および「プレート」の牝螺旋害せられ、その「ナット」も弛みて気水それより漏洩するを見るべし。

 「クラウン・ステー」の「ナット」焦損して弛緩せる場合に、水不足のため「クラウン・プレート」を熱焦するときは容易に「ナット」を押し落すべし。これ最も起り易き事故にして大に警戒を要すべきことなり。

 

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2025年3月20日 (木)

機関車工学:下巻(その186)汽缶取扱:缶水補給/給水杜絶

缶水補給/給水杜絶

【 給水杜絶 】

 運転中「ポンプ」または「インジェクター」不工合を来して缶水補充の途絶え、「クラウン・プレート」を露出せんとするの恐れあるときは、機関手は直に「ダンパー」を閉ぢ消化の手配をなすべし。消化するに最良の手段は、湿りたる土砂または石炭を炭火の上に投入して炭火を圧迫するにあり。缶水やや余裕ある場合には炭火を「アッシュ・パン」に落すか、または「ファイア・ホール」よりこれを掬ひ出すも可なり。しかしていかなる場合においても決して水を注入す可からず。

 運転中まま「テンダー」内に水の欠乏したるため汽缶に送水するあたわざる事あり。故に機関手は常に「テンダー」の水量に相当の余裕を存ずるよう注意すべし。否らざれば種々の出来事、例へば出発後列車の重量意外に重かりしか、または風雪に際会したるか、もしくば「プライミング」、空転、蒸気漏洩、「インジェクター」不工合等の原因により、あるいは自己または他列車の故障のために永く停車して時間を費さざるべからざること等ありて、予想外にその水を消費することあればなり。

 「テンダー」内の貯水欠乏したる場合においては、機関手は列車の一部を解放するか、もしくば機関車単行にて前途の給水個処まで進行するか、または付辺の河井より水を汲み込まざるべからず。または他に手段なきときは救援機関車を迎ふるの手段を構ぜざるべからず。しかしてこの際注意すべきは、決して缶水の続く限り無理に運転を継続せざることなり。けだし汽缶は常に多少の漏洩あるものなれば為めに缶水はいよいよ減少すべく、缶水また冷却するに従ひその容積収縮するをもって「ファイア・ボックス」の露出を招くことあればなり。例令直ちに消化して一時の危険を防止し得たりと言えども、さらにこれを使用せんとするにはそのまま汽缶に点火することを得ず。初めに些少の注意を欠くために後に大なる手数を要するに至るべし。

 

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2025年3月19日 (水)

機関車工学:下巻(その185)汽缶取扱:缶水補給/給水の時機

缶水補給/給水の時機

【 給水の時機 】

 給水は運転中、蒸気を使用するときに行ふをもって汽缶の保存上有益なりとす。けだしこの時は缶水沸騰しその循環好良なるをもって、缶水の温度を全部やや均一に保ち得ればなり。これに反して停車中または運転中、蒸気を閉塞したる後給水をなすときは缶水の温度均一を欠き、汽缶の膨脹収縮を促がすをもってなるべくこれを避けざるべからず。止むを得ずしてこれを行ふときは必ず「ブロワー」を使用すべし。その適例を挙ぐれば停車中または蒸気閉塞後に補給したる水をもって運転を始むるときは、蒸気の圧力は割合に急に降下するを認むべし。

 停車中または蒸気を閉塞したる後に給水するときは、冷水は缶内の下底に沈下して上層の熱湯と混合せず、また蒸気とも接触せざるをもって、直に蒸気の温度を冷却すること少なく、またその圧力に影響を来すこと少なけれども、いったん「レギュレーター・バルブ」を開きて運転を始むるときは、急に缶水の循環を促して缶水の温度全体に下降するをもって、それより発生する蒸気もまた低圧力のものたらざるべからず。概するに「インジェクター」により送水する水の温度は、缶中の水の温度よりも華氏 200度だけ冷かなり。故に温度の均一を保つためには蒸気閉塞後に給水するを避けて、閉塞前において充分の給水をなすべきものとす。

 勾配線用機関車には「チューブ」漏洩、「チューブ・プレート」亀裂、もしくは「ステー」折損の頻々たるの一原因は、蒸気閉塞後において多量に給水するの悪習慣あるによらずんばあらず。

 汽缶の諸部より蒸気または缶水の漏洩することあるときは、意外に缶水の減少を来すものなれば注意を怠るべからず。停車待合中または点火の際に缶水の減少に心付かずして「クラウン・プレート」を焦損することあるべし。殊に夜中埋め火を行ふときは時々缶水を補充することを怠るべからず。

 

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2025年3月18日 (火)

機関車工学:下巻(その184)汽缶取扱:缶水補給/ゲージグラス内の水面

缶水補給/ゲージグラス内の水面

【 「ゲージ・グラス」内の水面 】

 缶水は線路の勾配に応じて移動す。故に機関手は各種の機関車に就て勾配のいかんにより、「ゲージ・グラス」内の水面は幾インチ上下すべきやを知悉せざるべからず。また盛んに蒸気を使用するときは、缶水も盛んに沸騰するをもってその容積膨脹すれども、いったん蒸気を閉塞するときは水面静止するをもってその容積縮少すべし。機関手が上り勾配線を運転し終りて山嶺の平坦線もしくば下り勾配線に掛り、蒸気を閉塞する際によく「レッド・プラグ」を鎔解する者、この二者の理を充分に了解せざるによるもの多し。

 缶水はようやく「クラウン・プレート」及び「チューブ」を覆ふに足るの量に止め、充分に蒸気を貯ふれば割合に乾燥せる蒸気を使用し得て利益なりと信ずる者あり。これその理なきにあらざれどもむしろ危険の処置なり。

 前に述べたるごとく、缶水は線路の勾配に伴ひて動揺するのみならず、「ブレーキ」締結等速度の変化ある毎にもまた移動するものなれば、どうもすれば「ファイア・ボックス」を焦損するを免れざるべし。加へこれ運転中「ポンプ」または「インジェクター」不工合の際には、これを修理するの余裕少なく止を得ず進行を止め、時としては消化せざる可らざることあるべし。

 「ゲージ・グラス」内にて水の見え得べき最下底の位置、及び最下位の「テスト・コック」の位置は、「クラウン・プレート」の頂上より少なくも3インチ以上にあるべく、3個の「テスト・コック」の間隔は各約3インチなるべく、また「ゲージ・グラス」の長さは約8インチなるべきをもって設計上適当なりとなせども機関車により一定せず。

 はなはだしきに至りては「ゲージ・グラス」の下底にいく分の水を認むる場合において、既に「クラウン・プレート」を露出するものあり。故に機関手は缶洗浄その他の際によく「クラウン・プレート」の頂上と「ゲージ・グラス」、または「テスト・コック」の位置を比較し置くことを必要とす。

 

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2025年3月17日 (月)

機関車工学:下巻(その183)汽缶取扱:缶水補給/給水の要点

缶水補給/給水の要点

【 給水の要点 】

 給水の要点は清浄なる水を使用し、運転中常に「ゲージ・グラス」の中腹もしくは以上に水面を保ち、蒸気の消費に相当する水量を間断なく送入するにあり。「テスト・コック」はしばしばこれを使用し、「ゲージ・グラス」上下の「コック」は充分に開放して、「ゲージ・グラス」内の水面は缶水の動揺に伴ひて常に動揺することを確認せざるべからず。運転中「ゲージ・グラス」内の水面静止するものは、一方の「コック」開き方不充分なるか、または水の通路が「スケール」または塵埃のために閉塞せらるるによるものと知るべし。

 

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2025年3月16日 (日)

機関車工学:下巻(その182)汽缶取扱:蒸気発生不良/蒸気発生不良なる原因

蒸気発生不良/蒸気発生不良なる原因

【 蒸気発生不良なる原因 】

 蒸気発生不良なる原因は主として左記の事項に属す。

 1.
 蒸気の使用過度なること、燃炭の方法拙劣なること、乗務員線路に慣れざること、石炭及び水質の不良なることはもちろん、しばしば蒸気発生不良を惹起す「ファイア・ボックス」内の火層充分ならざるときに当り、劇烈なる通風にて炭火を煽動攪乱し、これに補充する石炭また粗悪なるときは蒸気発生不良を来たさざる事ほとんど稀なり。

 2.
 通風は機関車汽缶における一大要素にして、その状態不完全なる時はたちまち蒸気の騰発を阻害す。完全なる通風は「チューブ」全体より均一によくガスを吸収し、「グレート」上の炭火を万遍なく燃焼せしむべし。しかるに時としては一部の「チューブ」のみガスを吸収し、他の部分は全く灰塵にて閉塞せらるることあり。あるいは「グレート」のある部分のみ燃焼盛んにして、石炭は絶えずその部分にのみ補給するを要することあり。これ全く通風の作用不完全なる現象にして「チューブ」及び「ファイア・ボックス」の効率を害する事はなはだし。

 この原因は多くは「エキゾースト・パイプ」の高低、「ノズル」の大小、「ペチコート・パイプ」あるいは「デフレクティング・プレート」の加減よろしきを得ざるに帰す。「ペチコート・パイプ」あるいは「デフレクティング・プレート」の適当なる位置は、実に各機関車によりて異なり一定せざるものなれば実験により適宜加減するを要す。

 石炭ガスが主もに「チューブ」の上層より吸収せらるるときは、炭火は「グレート」の後部においてよく燃焼すべく、下層より吸収せらるるときは前部においてよく燃焼するの現象を呈すべし。ただしこの偏頗なる現象は「ブリック・アーチ」のために多少融和せらるるものとす。
 
 「ペチコート・パイプ」取付の「ボルト」弛緩し、または支柱の破損によりて傾斜し、「エキゾースト・ノズル」より噴出する蒸気をして、「ペチコート・パイプ」の一側にのみ放射せしむるため大に通風を妨害することあり。また「ブロワー・パイプ」の取付弛緩して垂下し「エキゾースト」の通路を妨害することあり。

 3.
 蒸気の発生不良なるときは、直にその不良の原因を「エキゾースト・ノズル」の広大なるに帰し、その口径を縮少せんとし、はなはだしきに至りてはある障碍物を「ノズル」内に垂下する者あり。これ多くは誤れる判断なり。

 「ノズル」の口径狭小なるに従ひ通風は強盛なるべしと言えども、その結果は「グレート」上の炭火を散乱し、また粉炭及び未燃のガスを誘出するのみならず、ガスの速度を増加して熱を水に与ふるの時間を短縮し、且つ「シリンダー」内の後圧力を増加する等、その結果はたちまち石炭の浪費をなし易し。故に「ノズル」の口径は及ぶだけ大なるものを用ふるを要するをもって、「ノズル」の口径を縮少するがごときは最後の手段となすべし。

 4.
 「チムニー」の直径形状適当ならざるため通風を害せらるること多し。またある場合には工作上の不注意より、「チムニー」の中心と「ノズル」の中心と相合せざることあり。これ「チムニー」の頂上よりその内面を検査するときは、煤烟の付着均一ならざることによりて発見し得らるべし。

 5.
 「スパーク・アレスター」に油垢堆積するときは大に通風を薄弱ならしむ。「シリンダー」に余り多くの油を給与するときは、油滓と煤烟との混合物なるゴム状の物質を「アレスター」の網目に填充せしむるに至るべし。これらの油垢は石油を加へたる屑糸にてこれを焼き去ることを得べし。また「アレスター」の網目小なるときは灰塵その網目に滞り易く、しばしばこれを払ひ去るにあらざれば大に通風を妨害すべし。

 6.
 「スチーム・ボックス」内における「スチーム・パイプ」の継目より、または「ブロワー・パイプ」裂損してそれより蒸気漏洩することあり。また「スチーム・パイプ」と「スモーク・ボックス」との間隙より空気進入することあり。あるいは「スモーク・ボックス・ドア」が密着せざるためそれより空気進入することあり。いずれも「スモーク・ボックス」内の真空を害し通風作用を薄弱ならしむ。新鮮なる空気が「スモーク・ボックス」内に進入するときはそこに火粉に接触して、さらに燃焼作用を惹起し灰塵赤熱し「スモーク・ボックス・プレート」を焦損す。

 7.
 「アッシュ・パン」の構造の良否は大に通風に影響す。そこに堆積する灰塵は清掃するに便なるべく、もって空気の流通を害すべからず。「ダンパー」もまた工合よくその加減自由なるべきを要す。

 8.
 「グレート」の構造は使用する石炭の品質によく適応するものを選ばざるべからず。間隙過小にして空気の供給不足するの恐れなきか、または過大にして有用の炭火を「アッシュ・パン」に墜落するのみならず、「グレート」を露出して冷気を「ファイア・ボックス」内に進入せしむる事なきやよく研究するを要す。

 9.
 「ブリック・アーチ」の位置及び長短は各機関車に就て最も工合よきものを選ばざるべからず。「ブリック・アーチ」は新規組立てたるときは自然によくその耐火粘土を乾燥せしむべく、始めて点火したるときは極めて徐々にこれを温むるを要す。否らざれば運転中、欠損、崩壊することあり。

 10.
 「チューブ」の種々の故障は蒸気発生不良の原因をなす事はなはだ多し。「チューブ」の掃除不充分なること、「チューブ」に水垢(scale)の付着すること、「チューブ」より缶水の漏洩すること、皆もって蒸気発生不良の原因をなす。

 11.
 蒸気を浪費して罪を汽缶の蒸気発生不良に嫁することあり。すなわち「バルブ・ギア」、「シリンダー」、及び「ピストン」等の不工合のため、蒸気を浪費することあり。「バルブ・セッティング」の不正、「スライド・バルブ」または「バルブ・シート」の欠損または疵、「シリンダー」及び「ピストン・リング」の磨滅、「クリアランス」の過大等は無用に蒸気を浪費すべし。

 「ピストン」に鋳疵ありて前後に蒸気の漏洩せるを知らずして使用すること数月の多きに及べることあり。また「バランス・バルブ」の「スプリング」が弾力を失ひて「バランス・バルブ」の効用を欠き、新鮮なる蒸気を直ちに「エキゾースト・ポート」に放出せしめて知らざることあり。また「スチーム・パイプ」が汽缶内部において故障を生じ居ることを永く気付かざることあり。

 12.
 機関車の空転は一時に蒸気を使用し、且つ激烈なる通風を生じて炭火を分裂四散せしむために、蒸気の圧力は減少し炭火を立て直すに非常の困難を感ずることあり。

 13.
 「プライミング」は水分子を蒸気中に混じて「シリンダー」に送るの現象にして、その水分子は高温度に熱せられたるまま、何ら有用の仕事をなさずして「シリンダー」外に放棄せらる。従って汽缶はそれだけ無用の仕事をなしたるものなれども、これ汽缶の罪にあらずして水の罪なり。

 

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2025年3月15日 (土)

機関車工学:下巻(その181)汽缶取扱:蒸気発生不良/機関車水に追はる

蒸気発生不良/機関車水に追はる

【 機関車水に追はる 】

 この機関車はよく水に追はるとは吾人がしばしば機関車乗務員より聞くところの言なり。けだし水に追はるとは機関車が所定の速度にて運転せんとするに当り、蒸気の発生不良にして水の必要量を補給せんとすればますます蒸気の圧力減退するが故に、止むを得ず給水の量を減ずるにより缶水ますます欠乏し来るを意味す。

 機関車水に追はれたるときは直ちにこれが快復に努むべく、一方はその原因を探求すると同時に、他方は蒸気の使用高を節約して缶水を補充せざるべからず。すなわち運転速度を減却するか、または牽引車数を減少するは蒸気の使用高を減少する方法にして、停車場における停車時分を長くし、もしくば途中に停車して缶水の補充を行ふ事もまた止むを得ざることあり。しかして不注意なる乗務員は、極度に少量なる缶水にて運転を継続せんと試むるがために、「レッド・プラグ」を鎔解し「クラウン・プレート」を焦損するの例多し。

 

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2025年3月14日 (金)

機関車工学:下巻(その180)汽缶取扱:燃炭の方法/灰塵掃除

燃炭の方法/灰塵掃除

【 灰塵掃除 】

 機関車帰庫後、埋め火を作り置くの必要なきときは、ことごとく皆灰塵を掃除して機関車を機関庫に納むるを普通とす。もちろん火夫は仕業の終りには充分に石炭を燃焼せしめて帰り来るべきにより、「アッシュ・ピット」に臨みたるときは「グレート」上に未燃焼の石炭なくほとんど灰塵のみなるべく、これを「アッシュ・パン」に落し、それよりさらに「レーキ」にて「ピット」内に掻き落すべし。灰塵を「アッシュ・パン」に落すときは、「アッシュ・パン・コック」を開きて「タンク」より水を「アッシュ・パン」内に注入し、灰燼を湿はし灰分の飛散するを防ぐべし。

 

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2025年3月13日 (木)

機関車工学:下巻(その179)汽缶取扱:燃炭の方法/埋め火

燃炭の方法/埋め火

【 埋め火 】

 機関車が終端停車場に到着し帰途牽引すべき列車を待合すとき、または中間停車場に長時間待避するとき、あるいは帰庫の後再びこれを他の仕業に使用せんとするとき、命令次第速やかに炭火を運転状態に立て直し得るため埋め火を行ふ必要あり。

 埋め火をなすには、利用し得らるべき炭火はこれを「グレート」の後部に搔き集め、必要と認むるときはその上に塊炭を加へ、その塊炭が燃焼し始めたる後さらにその上に粉炭をもって充分に蔽ふべし。また火夫は始より着駅の上埋め火を作るべきことを期するときは、着駅前にやや多量の石炭を「グレート」の後部に給して小山を作り、これをもって埋め火となすことを得べし。いずれにしても「グレート」の前部にある灰塵はそのままにして置き、空気の流通するを防止すべく「ダンパー」は堅く閉鎖し置くを要す。

 運転を始めんとする時は灰塵を掃除し、埋め火を崩して炭火を「グレート」の前方に押し広げ、さらに石炭を加へ「ブロワー」を用ふれば、たちまち「グレート」一面に相当の炭火を得べし。

 

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2025年3月12日 (水)

機関車工学:下巻(その178)汽缶取扱:燃炭の方法/ブロワー

燃炭の方法/ブロワー

【 「ブロワー」 】

 「ブロワー」の取扱は燃炭上最も注意すべきものの一つなること論を待たざるべし。過度に強くこれを使用するか、もしくば不必要の時期にこれを使用する事はいわゆる濫用にして、その結果汽缶を損傷すべし。

 「ブロワー」は、(1)蒸気を使用せざるとき炭火を通じて通風を作るとき、(2)新たに炭火を起すとき、(3)蒸気の圧力を増進せしむるとき、(4)黒烟を減ぜんとするとき、(5)「ファイア・ボックス」内の灰塵を落すときに当り灰の飛散を防がんがため、これを「ファイア・ボックス」より煙突に導くときに使用すべきものなり。

 「グレート」上に相当強き炭火を有するとき、「ファイア・ドア」を閉ぢ「ブロワー」を強く用ふるときは、猛烈に炭火を煽動し急遽に温度を高め火室を損傷することあるべし。また炭火乏しく炭火の間に数多の孔あるとき、「ブロワー」を強く用ふれば「ファイア・ボックス」及び「チューブ」を冷却し、「チューブ」漏洩「ステー」折損を来すべし。

 しかして日常最も「ブロワー」を濫用し多くの害を来たすものは、「ピット」の上において、または普通の線路の上において炭火を清掃するときなり。当事者は烟、ガス、及び火気を身辺より排除せんとし、極度に「ブロワー」を開き、「ファイア・ボックス」及び「アッシュ・パン」に炭火無くなりたるにもかかはらずなお且つこれを閉ぢずして、冷気の強流を「ファイア・ボックス」及び「チューブ」を通じて「チムニー」に導く者あり。これ実に「チューブ」より缶水漏洩を促がす最大原因なり。

 

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2025年3月11日 (火)

機関車工学:下巻(その177)汽缶取扱:燃炭の方法/石炭塊の大小

燃炭の方法/石炭塊の大小

【 石炭塊の大小 】

 次に石炭塊の大小に就て注意すべきことあり。石炭にせよ、またこれより発生するガスにせよ、空気と相触れて燃焼をなすには両者充分に相混合触接するを要す。故に燃焼速かにし且つ充分にして熱量を増加せしむるには、小塊の石炭を用ひて空気との触接面積を増加すること必要なり。且つ石炭の大塊は火力を抑圧して温度を下げ、また「クリンカー」を生じ易きが故に、石炭は小塊のものを使用するを得策とし、その大きさ拳大のものにあっては既に過大のものと心得べし。しかして粉炭は薄く散布するにあらざれば空気の流通を害すべく、また飛散し易きが故に少しくこれを湿はして使用するを便利とす。

 

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2025年3月10日 (月)

機関車工学:下巻(その176)汽缶取扱:燃炭の方法/汽缶の鳴音

燃炭の方法/汽缶の鳴音

【 汽缶の鳴音 】

 運転中または停車中、汽缶は一種の不愉快なる鳴音を発し汽缶震動することあり。これを「ドラミング」(太鼓打ち)と名づく。けだし空気と石炭ガスとがある割合に混じたるときに限り、静かに燃焼する代りに爆発するより来れる現象にして、この場合には空気をそれより多くするか、もしくば少なくして、空気と石炭ガスとの混合割合を変更すればその爆発を止むることを得べし。すなわち「ダンパー」を閉づるか、または「ファイア・ドア」を開けば可なり。

 

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2025年3月 9日 (日)

機関車工学:下巻(その175)汽缶取扱:燃炭の方法/空気の分量

燃炭の方法/空気の分量

【 空気の分量 】

 理論上普通の石炭1ポンドを完全に燃焼せしむるに要する空気の分量は、重量にて 11ポンド、容積にて 143立方フィート(空気1ポンドの容積は 13立方フィートとする)なりとす。これ実に空気の最少量にして些少の余裕を見積らざるものにして、実際はこれより余分の空気を与ふるにあらざれば、石炭の総ての分子を完全に燃焼する事あたわざるべく、機関車の場合においては1ポンドの石炭に対し、重量 20ポンド、容積 260立方フィートの空気を供給するをもって適度なりと称せらる。

 しかしてここに留意すべきは、石炭投入後間もなく石炭よりガスを蒸発しつつある間は、最も多量の空気を要するの時期なる事これなり。しかして一時に多量の石炭を投入するときは一時に多量のガスを発生すべく、また一時に多量の空気を要求すべし。ガス蒸発しつくるときは石炭は骸炭及び灰分となり、徐々燃焼するをもって一時に多量の空気を要求することなし。

 このごとく「ファイア・ボックス」内における空気の要求は不順にして、石炭投入の際に最も多量を要するをもって、その場合には全部所要の空気を「グレート」及び火層を通じて呼び入るる事ははなはだ困難なるがごとし。故に石炭投入後ガスの発生しつつある間は、「ファイア・ドア」を少しく開きてそれより空気を入れ、漸次これを閉づる事ははなはだ有益の方法なるべし。

 石炭を少量づつ間断なく投入するときは、「ファイア・ボックス」内の状態を均一に保ち得てガスの発生も常に順調なるをもって、所要の空気も多寡の変動少なく「ダンパー」及び「ファイア・ドア」により空気の分量を加減し易し。一般に「ファイア・ドア」の構造はゆるかせにすべからざるものにして、構造堅固にして軽きを要し、開閉自在なる数多の空気孔を有するを必要とす。空気孔はそれより空気を送入するのみならず、「ファイア・ドア」の焦損を防ぐの効能あり。
 

 

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2025年3月 8日 (土)

機関車工学:下巻(その174)汽缶取扱:燃炭の方法/ダンパー

燃炭の方法/ダンパー

【 「ダンパー」 】

 「ダンパー」の使用に就ては大いに注意を促ながすべきものあり。「ダンパー」は空気が「ファイア・バー」及び炭層の間隙を通じて、「ファイア・ボックス」内に進入する分量を加減するに必要なる装置にして、これによって炭火を適宜に調整するをもって第1の目的とし、「アッシュ・パン」内に墜落せる灰塵を掻き出すの用に供するをもって第2の目的とす。

 「ダンパー」より供給する空気の分量多きに過ぐるときは、徒らに火室内を冷却して蒸気の騰発を害し、また少なきに過ぐるときは有用なるガス及び炭素を充分に燃焼せしめずして、徒らにこれを大気中に散逸せしむるものなれば、「ダンパー」は炭層と火力とに応じ適宜加減するを怠るべからず。炭層深く空気の通過不充分なる時は「ダンパー」を開放すべく、炭層浅き時もしくば蒸気の騰発過度にして、火力を殺減するの必要あるときは「ダンパー」の開き方を減ずべし。

 そもそも「ダンパー」より空気の進入するは、「ファイア・ボックス」及び「アッシュ・パン」内に生ぜる真空を充実せんがために外ならず。しかしてこれら真空の多少は全く通風の強弱いかんによりて異なるものなれば、「ダンパー」の開き方を同一にするとも空気進入の多少は場合によりて大いに差異あるを知らざるべからず。

 また石炭の種類と「クリンカー」の多少とは大いに空気の通行に影響するものなれば、常にここに留意せざるべからず。また「アッシュ・パン」内に灰塵の堆積せる結果空気の流通不足し、「ファイア・バー」を充分冷却する事あたわざるをもって「ファイア・バー」を焦損するの実例少なからず。要するに「ダンパー」の使用に就ては以上の理由を顧み、時と場合に応じしばしばこれを加減せざるべからず。しかして蒸気発生好良なる限りは後部「ダンパー」のみを使用し、炭層深くなるに及びて前部「ダンパー」によるべし。

 

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2025年3月 7日 (金)

機関車工学:下巻(その173)汽缶取扱:燃炭の方法/クリンカー

燃炭の方法/クリンカー

【 「クリンカー」 】

 石炭中に黄鉄鉱(iron pyrite)(鉄と硫黄の化合物)を含有するときは、その灰分は鎔解して「クリンカー」を生ず。「クリンカー」を生じ易き石炭は「ロッキング・グレート」上にて燃焼するをもって便利とし、しばしば少しづつ「グレート」を振蕩し、「クリンカー」が未だ軟かなる間にこれを破砕しその間に空気を通ずべし。

 しかしていったん生成したる「クリンカー」は、そのままに放置するときは徒らに有用なる「グレート」の面積を塞ぎ蒸気騰発を害するをもって、速に「ドロップ・プレート」より突き落とすか、または「クリンカー・ショベル」にてこれを「ファイア・ホール」より取り出だすべし。ただし「クリンカー」の種類により「グレート」より剥ぎ取りて烈火の上に置くときは、容易く脆弱となり小片に破砕するものあり。

 

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2025年3月 6日 (木)

機関車工学:下巻(その172)汽缶取扱:燃炭の方法/火 層

燃炭の方法/火 層

【 火 層 】

 最も経済なる燃焼を得るに要する炭火の深さは炭質及び通風のいかんによりて差異あれども、「ファイア・バー」の露出せざる限り、また粉炭の飛散せざる限りは炭層は浅きを良しとし、通常5インチないし7インチに保つを適度とす。故に長途の運転に際しては時々灰塵を落して空気の流通を自在ならしむるの必要あり。

 米国形の「ロッキング・グレート」はこれらの整調に対しはなはだ便利なるものにして、随時「シェーカー・レバー」を取りてこれを振動すれば、直ちに灰塵を「アッシュ・パン」に墜落せしむることを得べし。英国形の「グレート」は粗悪の石炭を使用するに不適当にして、運転中灰塵を「アッシュ・パン」に落すがためには、特にことさら「ファイア・バー」の一端を欠き置くか、または「ファイア・バー」の間隙を広くし「ポーカー」を使用してその間隙より灰塵を突き落すべし。総て灰塵を落すの目的をもって「ロッキング・グレート」を振動するとき、もしくば「ポーカー」にて炭火を整理するときは、蒸気を使用せざる時もしくば少量の蒸気を使用して通風薄弱なる時においてすべし。

 これに反して「クリンカー」の生ずることを防ぎ、もしくば「クリンカー」を破砕するの目的をもって「ロッキング・グレート」を振動し、もしくは「ポーカー」を使用するときは盛んに蒸気を使用しつつある時においてすべし。ただし注意せざれば「ポーカー」の先端を鎔解すべし。

 

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2025年3月 5日 (水)

機関車工学:下巻(その171)汽缶取扱:燃炭の方法/黒 烟

燃炭の方法/黒 烟

【 黒 烟 】

 黒烟なるものは炭素の分子なり。この炭素は石炭中に始めより炭素そのままの状態をなして存在せるものが、石炭より分離して未燃焼のまま飛散するものと、炭化水素中の水素のみまず燃焼し、後に残されたる炭素が燃焼の暇なくして飛散したるものとに属し、黒烟噴出は第1に「ファイア・ボックス」内の温度が低くして、総ての炭素を充分に燃焼しあたわざる事を証し、第2に「ファイア・ボックス」内に空気の供給不充分にして、炭素が充分に燃焼し得るだけの酸素を得る事あたわざるを証するものなり。

 

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2025年3月 4日 (火)

機関車工学:下巻(その170)汽缶取扱:燃炭の方法/燃焼作用及び温度

燃炭の方法/燃焼作用及び温度

【 燃焼作用及び温度 】

 石炭を燃焼せしむるには、まず石炭を元素に分離せしめざるべからず。しからざれば酸素と化合して、いわゆる燃焼作用を起す事あたわず。しかして石炭を分解するには熱を要するをもって、石炭の燃焼により熱を生ずる前にはまず石炭に熱を与へざるべからず。この事実は石炭燃焼の理論において最も重要なるものにして、石炭投入の方法等もこの理論により決すべきものなり。

 この理論を最もよく証明するものは「マッチ」に点火する場合なりとす。すなわち「マッチ」の先端に付着し在る薬品は燐と硫黄との混合物にして、これを他物体に摩擦する時は熱を生じ、その温度華氏 150度に至れば燐は直に空気中の酸素と化合し燃へて華氏 500度の温度を生じ、その温度にて始めて硫黄がまた酸素と化合し燃へて華氏 1000度の温度生じ、もってようやく木を燃やすに至る。しかしてこれらの作用は決して同時に起るものにあらずして順次来るものと知るべし。

 しかして石炭の場合においては、「ファイア・ボックス」内に投入せられたる石炭は華氏約 700度に熱せられたるとき、石炭中に含有するガスすなわち炭化水素を蒸発し始むべく、その蒸発せられたるガスはさらに華氏 1800度に熱せられたるとき始めて炭素と水素とに分解せられ、もって空気中の酸素と化合して燃焼す。しかして石炭中の固形炭素は華氏約 1000度に達したる頃より漸次燃焼を始むべし。

 石炭が燃焼したるため生ずる温度は完全に燃焼したる場合には、固形炭素も炭化水素も共に華氏 4000度以上に達し得るの能力を有す。しかれども「ファイア・ボックス」中央部における最高温度は実際は、燃焼不完全、空気過多、及び熱の輻射等により 2000ないし 2500度にして 1800度と相去ること遠からず。故に燃炭上少しく注意を怠るときは「ファイア・ボックス」内の温度を下げて 1800度以下に至らしむべく、左すれば貴重なる石炭ガスをして有用なる燃焼作用を行はしめずしてそのまま大気中に放散せしむべし。

 これ非常なる損失をもって「ファイア・ボックス」内の温度は常に出来得る限り充分に高くこれを維持すべく、一時に多量の石炭を投入して急に温度を低減せしむべからず。必ず入用だけの石炭を一度に少量ずつしばしば投入散布し、もって常に「ファイア・ボックス」内に石炭の分解に要する熱度を保ち、石炭ガスが「チューブ」に入る前に早くこれを分解し燃焼せしめざるべからず。多量に炭化水素を含有する我国の石炭を使用するには殊にこの心掛を必要とす。

 

 

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2025年3月 3日 (月)

機関車工学:下巻(その169)汽缶取扱:燃炭の方法/交叉燃炭法

燃炭の方法/交叉燃炭法

【 交叉燃炭法 】

 炭火は「グレート」全面において平等によく燃焼せしむべし。燃へつくして薄き部分を生じそれより冷気を進入せしむべからず。また黒き厚き部分を作りて石炭を蒸し焼きすべからず。

 英国式の深き「ファイア・ボックス」にあっては炭火は「グレート」の後部においてよく燃焼し、米国式の浅き「ファイア・ボックス」においては前部においてよく燃焼するをもって、よく燃焼する部分にはそれ相当に多量の石炭を給せざるべからず。また「ファイア・ボックス」の隅と側とよりは冷気を進入するが故に、これを防ぐために常にそこに炭火の層を深くするを要す。要するに炭火は「グレート」上においてやや凹形をなすをもって得策とし、「ファイア・ボックス」内の温度を出来得る限り高く保つためには、石炭はなるべく「グレート」の前後左右に交互に投入するを要す。

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 第 1538図は交叉燃炭法(cross firing method)と称せられ、以上の目的を達するに適当なる方法なりとす。すなわち矢の示せる数字の順序により一杯ずつ石炭を投入するものにして、第一に前部左隅に投入し、第二に後部右隅に投入し、順次8個処を経て元へ戻るものなり。この方法によるときは、炭火は「グレート」上においてほとんど水平に保ち四側においてやや高し。また一方における烈火は、よく他方に投入したる石炭より発生するガスを捉へて燃焼せしめ、燃炭法として理想のものに近しとし近来米国において盛んに賞励せらる。

 

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2025年3月 2日 (日)

機関車工学:下巻(その168)汽缶取扱:燃炭の方法/経済的燃焼

燃炭の方法/経済的燃焼

【 経済的燃焼 】

 「ファイア・ボックス」内に有すべき火力は、機関車の速度及び牽引力に関し加減すべきものなれども、最も経済的の燃焼を得るには石炭をしてよく燃焼せしめ、かなり多量の熱度を発生せしむる事をもって主眼とせざるべからず。しかしてこれを理論及び実際に徴するに、石炭は少量づつしばしば投入するをもって最も利益とし、最も理想とする所は蒸気の使用高に応じて間断なく相当の石炭を投入するにあり。

 ただし「ショベル」及び人力をもってしては、石炭を水流のごとく間断なく供給することは難事なるをもって、少量の石炭をかなりしばしば投入するをもって利益となすべく、現時我国において行はるるいわゆる一「ショベル」法または片手「ショベル」法は、この理論の実行に就て有効のものにして殊に切込炭を使用する場合においていっそう有効なること疑を容れず。

 

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2025年3月 1日 (土)

機関車工学:下巻(その167)汽缶取扱:燃炭の方法/火夫の姿勢

燃炭の方法/火夫の姿勢

【 火夫の姿勢 】

 石炭を投入せんとするときは、火夫はまず「コール・バンカー」と「ファイア・ホール」の間において適宜の位置を選定し、両足を適宜に開きて身体を支へその位置を移動せざる様にすべし。しかして全身に力を込め、両手は単に「ショベル」を支ふる心持にて両足の踵を少しく廻はし、石炭を盛るや否や直に「ファイア・ボックス」内に投入し得べき姿勢を取るべし。しかして体力を利用して充分に運動力を与へ所要の個所に投入すべし。

 姿勢乱るる時は機関車の動揺に因り身体の平均を失して転倒することあるのみならず、「ショベル」を「ファイア・ホール」あるいは「バッフル・プレート」に付き当て迅速且つ適当に投入する事あたわざるべし。総てこれらの動作は最も敏捷にして「ファイア・ドア」の開放は出来得る限り短時間なるを要す。火夫が石炭を投入するに当りその動作遅鈍なる者は、外観上見苦しきのみならず好良に職務をつくす事あたわざるものなりと知るべし。

 

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