2.仮想勾配の意義とその求め方
列車が上り勾配に差し掛かった場合、その勾配の麓(ふもと)における速度が高く、勾配を上る間にその速度を低下して差し支えない場合は、速度低下のために放出するエネルギーが機関車の牽引力を助ける事になり、勾配を容易に上ることができる。
例えば実際勾配は12パーミル(‰)でも、速度低下のために生じた惰性によって、2パーミルの勾配に相当する力が補助されたとすれば、列車は10パーミルの上り勾配を一定速度で上ったと同じ事になる。かように考えた場合の勾配を、仮想勾配と称しているのである。
仮想勾配を計算するには、勾配の麓における速度の惰性、すなわち速度の有するエネルギーを利用するものであるから、まずエネルギーに付いて考えなければならない。
いま勾配の麓における速度を V₁(メートル/秒)、頂上における速度を V₂(メートル/秒)とすれば、速度低下のために放出されるエネルギーは、速度 V₁ に対するエネルギーと、速度 V₂ に対するエネルギーとの差であるから、次の様になる。
列車には車輪および車軸の様な回転部分があり、減速する時はこれらの回転部分も同時に減速するので、これがためさらにエネルギーを放出する。その程度は一般に、直進部分のエネルギーの6%位であると考えられているから、Ek の値を6%増加し、且つ質量 m の代わりに
を代入すれば
となる。
このエネルギーによって、列車は全然蒸気を使用しなくても、速度が V₁ から V₂ に低下するまでには、相当の距離を進行することができる。
この場合、列車重量 w(キログラム)が、勾配の高さを h(メートル)だけ上ったとすれば、これに要したエネルギーは w×h(キログラムメートル)であって、これは速度が低下したために放出したエネルギー Ek と等しいはずで、これによって運動エネルギーが位置のエネルギーに変化したことがわかる。
故に
従って
この式は速度の単位が メートル/秒 であるが、実用上 キロメートル/時 単位が便利であるから、V₁ および V₂ をキロメートル/時の単位に変え、これを V₁ および V₂ とすれば
となるから、これを前式に代入して
第60図において、実際勾配 AB を運転する場合を考えると、列車は高さ H(メートル)だけ上らなければならないのであるが、麓の速度の高い場合はこの速度の惰性のため、h(メートル)すなわち AA' だけを助けられる事となるから、結局列車は H と h との差 H-h(メートル)だけ上れば良いことになり、これはちょうど A'B の勾配を上るのと同じ結果となる。この緩やかになった勾配が、すなわち仮想勾配となるのである。
今この仮想勾配を千分率で表わし、これを iv とすれば、第60図によって知られる様に
しかして上式の h に第181式を代入すれば
このうち
は実際勾配を千分率で示したもので、これを i で表わせば、仮想勾配は次の様に表わされる。
もし勾配の麓における速度 V₁ と、頂上における速度 V₂ が等しい時には、
となるから、仮想勾配は実際勾配と一致する事となり、この場合は速度の惰性は全然得られない事となるのである。
上式は速度低下のためにできたエネルギーを勾配を上る間、常に平均に利用するという仮定の式であるから、実際運転に当たっては、最も優れた技量を発揮しなければ、これと一致することはなかなか困難である。
なお仮想勾配は重量の多い列車ほど、放出する速度のエネルギーは大であるが、このエネルギーをもって勾配を上るにも、また大なる力を要する理由から、列車重量には無関係であると言い得られるのである。
【 例 】
25パーミル上り勾配線の長さが1500メートルある箇所を、ある列車がその麓において55キロメートル/時の速度をもって上り始め、勾配の頂上において15キロメートル/時に減速したりと言う。
この場合の仮想勾配はいくばくとなるか。
【 解 】
の式を用いる。
しかるに
なる故
すなわち実際勾配は25パーミルであるが、速度の惰性を利用するため、ちょど17.2パーミルの勾配を上るに等しくなる。
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