シリラの推理──あの人は今
僕の名前は、シルラ。探偵を任されている。誰かが死んだことから、僕は検察に呼ばれる。今回は、事件と診ていいだろうとのことで、やはり、犯人捜しを任された。今回の事件は、図書館殺人事件と題され、係員の女性が図書館で謎の死に方をしたとのことだった。検察はこの29歳の女性の死を自殺ではなく他殺と視ていた。僕はこういう事件から、今も生きているかどうかから考えるようにしている。もしかしたら、霊界なんて世界があって、そこに転じてしまったのかもしれないし、幽霊として、肉体が持てずに困っているかもしれない。今回は、あいにくこの女性の死後の存在は見当たらなかった。検察は、死んだら終わり、という考え方からなかなか抜け出さないものである。死んだら次の生命というふうに、生まれ変わる可能性もあることを気にもかけないのである。僕は、この係員が生まれ変わるような気がしたもので、誰に生まれ変わるか、どこに生まれ変わるかを気にしていた。午後3時25分。彼女の死体を見た検察官は、特に外傷はみられない、と報告していた。死因は何ですか、とその検察官に尋ねると、死因は判明せず、しかし、舌を強烈な勢いで噛んだ、ということが気がかりであると教えられた。彼女はなぜ舌を強烈な勢いで噛んだのだろうか。それがこの死とどう関係があるのだろうか。
—―3時45分。死因が分からず。誰のせいで死んだのか、そういうことも念頭に置いていた。私は、係員がどの本を読んでいたのか、気になったので死があった現場近くの本をぱらぱらと捲っていた。――『人間失格』という本を読んでいたことに気づいた僕は、人間失格を少し読んでみようかと思った。特にこの事件と関係はないのかもしれない。それでも何かしなくてはいられない僕は、人間失格を読むことにした。1ページ目に「自殺とは・・」と文字が記入されている。彼女の執筆に間違いない。「自殺とは・・」と書いたのはなぜなのだろう。彼女は自分を人間失格と視ていたのか。人間失格というタイトルを見て、自分も人間失格であると考える人は意外にもいる、僕の先輩である高氏(たかうじ)さんがいっていたのを思い出す。彼女は、どこが人間失格だったのだろうか。兄弟はいないと検察官は述べていたが、父親はすでに他界し、母親はまだ悲しみにくれているとも教えてくれた。僕は彼女の母親に事情を聞くことにした。──4時15分。焦るな、僕……──
母親は意外にも大らかに迎えてくれた。母親は、瑞穂(みずほ)という。今回の事件の第一関係者は誰ですか、と瑞穂さんに聞いてみた。
瑞穂は「うちの娘の名前から、あと、ピアノをやりたかったこととかもお話させてください」といった。私は、ええ、かまいません、といった。
瑞穂は「娘は黒子と申します。黒い白いとかの黒に子どもの子です。ピアノが家にひとつありまして、たまに弾いていたのを覚えています」といった。
僕は、悲しいのにはきはき話す瑞穂が努力家であるようにも感じた。図書館の係員の母親も、よく本を読んでいたのだろうか。僕は思い切って、「瑞穂さん自身、本はよく読みましたか」と訊ねた。瑞穂さんは、「一か月に二、三冊」のペースで読んでいます、あと、小説ばかりですけどね」といった。黒子さんの読んでいた本を持ってきました。この『人間失格』という本はご存じですか、と訊ねた。瑞穂は、「太宰治の本ですね、私はまだそれくらいしか知りません、読んでみようと思ったこともありません」といった。
時計は午後5時を回った。黒子さんの死体は、目立った外傷なし。図書室の本に囲まれて亡くなった。争った形跡もなし。死体から特に臭いがすることもなく、左の腕に頭を付けて横たわっていたという。眼鏡もかけていた。
黒子さん……なんで死んだのかな。誰かの超能力で殺された線も僕は考えるのだったが、超能力で殺すなんて、そんな目立った事件は経験したことがない。もう少し黒子さんが読んでいたと思われる本を調査してみようか。
午後6時。あのとき黒子さんが、強烈な勢いで舌を噛んだ、という事実が気になってきた。舌を噛んだ理由は何だろうか。いいや、舌を噛んだのではない、舌を噛まされていたのではないか。とすれば、洗脳によって噛まされていたということが浮かび上がる。──誰、一体だれ、のせいで──
午後7時。事件は進展を迎える。舌を噛まされたということを捜査官に報告したが、そんなことはない、と否定された。しかし、黒子さんの寿命が尽きることによる自然死であると捜査官は見解を述べた。ほう、自然死であって他殺ではない、ということであろう、と思った。それでも僕は、事件性があるとまだ疑っていた。……分かった。この『人間失格』という本に糸がかかっていたことがやっと見え、分かった。毒蜘蛛のせいではないか。毒蜘蛛が黒子さんの身体の一部を刺し、致命傷に至ったのである。このことを捜査官に話してみた。捜査官は、たしかに毒蜘蛛なら殺害することはできる、これは、虫の攻撃であって、われわれ人間の攻撃ではない……可能性はある、とのことだった。午後8時。毒蜘蛛がどこを刺したか、捜査官は原因を突き止めた。首の右側に蜘蛛が刺した痕が発見された。これによる致命傷であるとも判明した。捜査官は、図書館のどこに蜘蛛が生息しているか、調べた方がいいだろう、と対策案を講じた。──もしかしたら、本を読んでいるときに、僕も蜘蛛に刺されていたのかもしれない。蜘蛛が図書室に生息していることも気を付けて生きていかなくてはならない。もしかしたら、毒蜘蛛に襲われていたのかもしれない。僕は背筋が凍る思いをした。
午後9時半。事件は収束を迎えた。図書館に毒蜘蛛は四匹、ふつうの蜘蛛は八匹生息していたことが明らかになった。糸が絡むこの事件、僕が糸を見つけて、そして蜘蛛のせいだと考えなかったら、事件は収束しなかったのかもしれない。僕の活躍は捜査官には語られることはなかったが、誰かに褒めてもらいたい、そんな欲にかられた。瑞穂さんは「事件を収束させたのは、シルラさんの活躍もあってのことだと思います、ありがとうございます」と涙ながらに褒めてくれた。今宵もまた、事件は解決されたのだった。


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