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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十五章 王都の冒険者

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水面下の準備

 翌日、バスラはまたクランの制服を着ていた。法務担当と共に、宗教団体に申し入れをしに行くという。

 玄関を出ていく背中を見つめながら、疑問が俺の口からこぼれた。

「え? なんで? 何を言いに?」


 顔見知りになったベテランの冒険者が教えてくれた。

「先日、うちのクランを宗教団体が襲撃してきただろ? それの抗議だよ」

「その襲撃って少し前の話だよな? オンが魔力制御の訓練を始めた日だろ。抗議するのが遅くないか?」

 あの日は大勢で冒険者ギルドに行った隙を狙われたんだ。

 その見学会を企画したのは俺だから、少し罪悪感を覚えている。フォンを危険に晒してまで、やることじゃなかった。


「警備兵の尋問で判明したって言えば、いいだろ。新聞記者にも声をかけて、『苦情を言った』という事実を作るんだよ」

「それで?」

 その事実がどんな役目を果たすのか? 大きなクランのやり方には、まだついていけない。知らないことは、訊いて覚えていけばいい。


「俺たちが一方的に宗教団体をぶちのめすんじゃなくて、抗議しても改善されなかったからって大義名分ができるだろ。

 それと、岩モグラが来て迎撃に成功したら、第二陣だから準備万端だったって説明できるしさ」

 華々しく勝ちすぎると、邪推を生むことがあるそうだ。

「オンのすごい能力で、事前に察知していたっていうのを隠すんだな。あくまで、こっちは被害者という話に持っていくため――ってことか」

「そういうことだ」

 このクランでは、政治的な駆け引きが普通に行われているんだな。貴族のエリオットに引けを取らないかもしれない。



 昼食の時間になって、ルナはサァラの食事を部屋に運んでいった。自分の分も運んで、一緒に食べるという。

 サァラが寝ているのは女子部屋だから、「俺も一緒に」とは言えない。こういうときは、クランに所属しないで俺たちパーティーだけの生活が懐かしくなるな。



 昼食後に、一緒に旅をした鳥獣人たちに話を聞くことにした。食堂で見かけた二人に声をかけて、談話室に移動する。

「サァラの体調が戻らないみたいで心配なんです。いつ頃から調子悪かったんでしょう?」

「ん~、初日からへばってる感じはあったけどな」

「飛行訓練もしないでいきなり長距離ってのは、シンドイだろ」

 確かに行く前から不安そうだったし、ぐったりもするか。


 鳥獣人の二人は視線を交わして、何か言うかどうか迷っている様子だ。

「他に、何かありましたか?」

「山に着いたあと、俺たちはサァラの家で待機してたんだ。オンと二人で出かけていった後は知らない」

「サァラの幼なじみが案内人でついていったから、三人だろ」

「ああ、そうだったな。相手の動物使いにバレないように近づくって言って、徒歩で一泊二日で出ていったな」

「それが思ったよりハードだったのかもしれない」

 彼らからは体調不良の原因になりそうな話がなかなか出てこない。俺がしてやれることは何だろう。寒さと疲労ってことなら、滋養のある飲み物とか――?


 そこに、もう一人の鳥獣人の女性が通りかかった。

「彼女、初日から寒さと飛行高度に目を回していたじゃない。あの山脈に詳しい人は他にいないのかって、ちょっと可哀想だったわ」

「山羊のオッサンが詳しいんだけどな」

「ちょっと前に長期依頼に出発したのよ。タイミングが悪かったわね。もし彼だったら筋骨隆々で重たいから、私は運べないけど」

「軽い猫ちゃんでよかったよな」


 そっか。俺は空を飛んだことがないから、どれくらい体に負担がかかるかわかってない。あとでホットミルクに蜂蜜を入れたのを作って差し入れるかな。ハーブも一種類くらいなら入れても大丈夫か?


「運ばれる訓練って、このクランの人はしているんですか?」

 次に機会があったら参加しておきたいな。

「ああ、たまにやるぞ。特攻する前衛部隊とか、隠密行動をする盗賊や斥候スキル持ちとかがメインだけどな」

「あなたたち花猫風月だったら、剣士の女の子とかね」

「でも、ビキニアーマーも耐寒性ゼロだろ」

 ははと軽く笑いが起きる。


「ルナの装備は防寒の魔法がかかっているので、ある程度なら大丈夫ですよ」

「え? 装備に付与をするなら、まずは防御魔法でしょ?」

「防御もついてますよ。他にもいくつか……」

 同じクランでも、手の内を明かしすぎない方がいいだろう。基本の防御と防寒以外は言葉を濁す。


「防御と防寒、その他って……贅沢ねぇ。よくそんな装備を揃えられたわ。

 付与の多重がけ、それに耐えられる武具って、冒険者の憧れだけど、高価なのよね」

 あー、そっか。ルナの師匠って、規格外なんだな。一角ウサギを狩りまくって、トゥルメル支部のギルドマスターに説教されていた、あのばあさん……。


 鳥獣人が集まった談話室には、色鮮やかな羽毛が舞っていた。サァラは数日間こんな環境で過ごしていたんだな。

 ――ふわりと舞った小さな羽根が鼻に入って、くしゃみが出た。


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